※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。
東京の東側、東葛西に事務所を構えるシステムリバースは、公共施設の補修・改修工事をメインにする会社です。毎日朝から夕方まで、その日の現場に最適な工法を試行錯誤しています。前回記事(「公園の魔術師たち」)に引き続き、今回は勤務地を東京本社に限定した募集を行います。
首都圏のある公立小学校。
学校の希望で平日の工事となったこの日、朝9時すぎにシステムリバースのライトバンが到着した。
取締役の郷間(ごうま)大輔さんから「今回は現場をぜひ見てください」という声があった。
ふだんは営業職として走り回る郷間さんだが、現在も月に5日以上は現場作業へ出る。
「現場で仕事をするのが好きなタイプか、営業など積極的にするタイプか、人それぞれだと思います。でも、1年以内で私たちの仕事を覚えてもらう必要があるんですね」
今回の依頼は、漏水の補修工事。窓枠まわりのクラック(ひび割れ)から、雨が染み入ってきてしまうという相談だった。
教室から離れた階段の踊り場。休み時間になると、興味を持った児童たちが集まってきた。
遠巻きに観察しながら「なにしてるのー?」と質問をしてくる。
「学校の工事をやってると、こんなふうに話しかけられますね」
機材を準備しながら、仕事の流れを聞いた。
「最初に現場を見に行き、どんな状態か確認したら、見積もりを作成します。それを役所に持っていきながら『こういう状態だと思われます』と報告するんです」
なんだか、歯医者に似ていると思う。
「診断に基づき『こういう症状だから、こんな工法がいいのでは?』と提案させていただくんです。もうちょっと値段を下げたいときには、今回はここまでにしときましょうか、といった具合に。ゴーサインが出たら着工です」
現場に持ってくる機材はそれほど多くはなく、ライトバンの荷台に収まる程度だ。
窓枠のまわりにH型のラインが引かれる。
そこへ「このあたり」という推理と長年のカンで、ドリルで穴を空ける。
その場所へ注入用のピンを埋め込んでいく。その後、土木工事にも使われる特殊な溶剤を調合して、ピンから壁の内部に注ぎ込んでいった。
「この注入剤は、水に向かって進んでいくのが特徴です。水分を含ませると一気に膨らむんですよ。2年前にお客さんに喜んでもらえるだろうと使ってみたら、やっぱり評判がよくて」
今日の工事は、どちらかというと難しい部類だという。順調にみえた工事に予期せぬ事態が発生したようだ。
スタッフが集まって注入装置をのぞきこむ。どうやら注入時の圧力が低いままの個所があるという。
「圧が高ければ、注入剤が細かいヒビにまで入っていきます。圧が低いということは、どこかへ抜けちゃっているんですね」
見えない場所の工事には想定外のこともままあるが、たいていの現場は1日で終わる。
「いつもやりながら、こうやってみようか、ああやってみようかというのが自分たちの仕事です。決まったことだけしかできなかったり、『言われたんでこれだけやっておきました』というタイプには向かないかもしれません」
入社12年の加藤さんに、どんな人が会社に向いているか聞いてみた。
「仕事へのやりがいを見つけられるパワーがある人でしょうか。あとはうちの社風に合う方ですよね」
システムリバースのムードーメーカーは、社長の後藤 悟さんだ。事務所に戻って話をうかがう。
前回の取材から10カ月ほど開いたが、ずいぶん体型がスリムになっていた。特に病気をした感じでもない。
「あんときは、みんなでバカバカ食って、飲んでたからね。これからは健康ですよ、健康!」
ずいぶん、社風が変わったなと思う。
「酒も飽きてきたね。いや、社員のみんなには飲んでもらってるよ。でも目標ができちゃって。常々、言ってる『ウチの工法を全国に広めたい』という夢が具体的に動き出しそうだから。いま、いろんなところから問い合わせがあるんです」
代官山の有名なビル建築、文化遺産の旧庭園、都心の人気公園にある噴水池、依頼はひっきりなしだ。先日は3泊4日で大阪方面への出張工事もこなした。
「ウチは技術を持ってますから。たとえば『開かずのマンホール』というのがあって、ジャッキを持っていってもダメだし、クレーン車でも壊れてしまうというマンホールを空けるカンタンな方法があるんです。さてどうやるか。このクイズに当たった人は、まずいないね」
問い合わせが多いオリジナル工法だが、それを全国に広めたいという。
「地方の都市公園がみんなボロボロになってます。地方ほど修繕費もないから、劣化したベンチやすべり台は全部撤去なんですよ。新しくつくってもメンテナンスできないから、公園のトイレだってほとんどないです」
大金をかけなくても修繕できる工法が広まれば、みんなが喜ぶはず、と後藤さん。
「お客さんも儲かって、ウチも儲かって、自治体も助かって、子どもたちも喜んで。それで、皆様からありがとうと言われるのが目標だね(笑)」
「下請けの協力会社に任せるのは楽なんだけど、人を育てたいんですよ。マイスター制度じゃないけども、オンリーワンの工法でいたいからね」
あらためて、どういう人がいいのだろう。やはり体力だろうか。
「結局、建築関係って知識がものスゴく必要なんです」
後藤さんは顔を引き締めると、戸棚から分厚い本を取ってきた。建築用語辞典とある。
「いろんな名称をひっくるめ、これくらい必要な情報があるんです。つまり、それだけ複雑。これだけの知識を頑張って身につけなければ、お客さんと話はできなかったんです」
デザイナーから建築の世界へ転身した、後藤さんの苦労がしのばれる。
「でも、どの世界も現場を知っているのがいちばんの営業力。どんなに立派なスーツを着て『社長です』と名乗っても、横から『私が現場の責任者です』と出てきたら、絶対にそっちの意見を聞くもの。いまはインターネットもあるから2、3割の知識だっていい。それより現場を知らないと」
必要なのは1年間だという。
「馬力のある人なら、半年でもある程度のことはできるようになります。覚えることは多いけど、これからは技術を持ったほうが絶対に勝ち。手に技術をつければ『下流老人』にはならず、70でも80でも大丈夫だもん。それに手先を動かしてればボケないしね(笑)」
後藤さんは「ウチでいちばんかかっているのは教育費」だと笑う。資格の取得を奨励しているのだ。
「二級施工管理技士など、建設業に必要そうな資格は全部取っていいです。今度、郷間君は一級を受けたけど、まぁ落ちるだろうな(笑)。こうやって2回、3回と受験するからお金はかかりますね」
経理担当で常務の紀子さんが横から補足する。
「請求明細を見ていると、本当に細かい仕事を積み上げて月が終わるんですね。私たちの会社は、普通の建設業と違うと思います」
やる気次第で、男性が中心の職場でも気にならない人なら、女性も歓迎だという。
前回の募集記事を読んで仙台支社に入社した、田中世界さんに話を聞くことができた。
仙台出身の39歳。記事を読んだ印象と、実際に入ってからのギャップはあっただろうか。
「会社の雰囲気は伝わってきた通りでした。ただ、仕事の内容が多岐にわたっていて、こういうこともやるんだというのは入ってみて分かりましたね」
前職はコーヒー豆の販売業。
「ものをつくるとか、身体を動かす仕事をしてみたかったのですが、それだけではない仕事という条件で見つけたんです」
仙台支社では、遊具の補修工事が多いそうだ。
6月に入社し、上京してから3カ月の研修。その後、家族の待つ仙台へ戻った。いまは月1回のペースで東京に出張している。
未経験からの転職。研修はどんな感じで進んだのだろうか。
「実際に施工現場に立ち会い、作業をやらせてもらいながら現場を覚える感じです。道具の名前から始まって、本当にゼロから学ばせていただきました」
「経験のない業界なので大変な部分もありますが、分からないところはちゃんと教えてもらえるし、そういう面でとてもいい環境だなと思います」
どんな人が向いていると思いますか。
「まずはやる気。自分みたいにゼロからでもちゃんと受け入れてくれる会社なので、やる気さえあれば。いちばん大事なのはそこなのかな、と感じているところです」
あらためて郷間さんに、どんな人に来てほしいかを聞く。
「田中さんは、決して現場に向いているタイプには見えませんでした。そういった職人タイプでない方でも、私たちの会社の作業内容や工事に向いている人はいると思います」
「面接を何人かさせていただいたなかで、話し方もしっかりされていて、ご家庭もあって、お子さんもおられる。頑張らなきゃいけない理由があるところも、来ていただきたいと思った理由です」
どの仕事も大変だし、キツいことや嫌なこともある。
「最初のうちは、会社の奥を見られません。『やらされてる』という感情を感じると伸び悩むと思うんですね。でも、この会社には楽しいことがあるし、やりがいも見つけられる。それまで頑張ってほしいです」
郷間さんのやりがいは、なんですか?
「僕の場合は『それまで自分も知らなかったような新しい技術、いいと思った工法をお客さんに薦めて、喜んでもらうこと』にやりがいを感じます」
それから、取締役としてこうも付け加えた。
「あとはこんな小さな会社のオリジナル工法が、大きな公共施設の仕様に入れていただけるようになったことでしょうか」
長年勤めるシステムリバースの社員たちは、定着率も高い。自分たちの仕事が認められ、試行錯誤する毎日に満足している感じが伝わってくる。
未経験でも、入社後にすぐ現場へ飛びこむ環境です。覚えることは多いだろうし、最初はベテランに付いていくのも大変かもしれません。
でも、ここで学べる技術と育てられたという経験は、この先きっと、誰でもこなせる仕事ではなく、真の意味でのキャリアになると気づくはずです。
(2015/12/25 神吉弘邦)