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帰りたくなる場所

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「帰りたいと思ったときに、戻れる場所を残したいんです」

「この大江地区が青ネギでいっぱいになって、村の人の心も田んぼも荒れてないところになったらいい。そのためには一人だけが栽培していてもいかんと思うんですよ。多くの方がやることによって村が残っていく」

みんなが帰りたいと思うようなふるさとを残す。

そんな思いで青ネギの栽培に取り組むみなさんを取材したのは、去年の夏のこと。青ネギ栽培は着実に地域に根付き、今後は教育や高齢者福祉の分野でも、新たな取り組みがはじまろうとしています。

minamiise01 今回は地域おこし協力隊として、ここで暮らしをつくっていく人を募集します。

舞台は、三重県南伊勢町。

南伊勢町でいまなにが起こっているのか。どんな人たちが行動を起こしているのか。

まずはこの町のことを、もっと知ってほしいです。


名古屋駅から、特急電車で1時間半ほど。宇治山田駅は伊勢神宮への参拝者で賑わっていました。南伊勢町を含むこのエリアで、5月には伊勢志摩サミットが開催されます。

minamiise02 迎えてくれたのは、若者定住係の山本さんと羽根さん。お二人とも南伊勢町が地元だそう。「東京は雪が降ったんだって?こっちはあたたかいでしょう」と気さくに声をかけてくれる。

お二人と話しながら、海沿いの道を走ること約1時間。大江地区に到着。

ここで青ネギの栽培に力を入れているのが、区長の木下さん。その取り組みを水産農林課の柳原課長が全面的にバックアップしている。

minamiise03 大江地区には90人ほどが暮らし、14の農家がある。伊勢市や名古屋に働きに出る人が多く、村には空き家や耕作放棄地が目立っていたという。

どうやってこの地域を守っていこうかと考えていたときに、町から戦略作物として青ネギの栽培をしないかという話が舞い込んできた。

柳原課長がこれまでの経緯を教えてくれる。

「伊勢市から北に広がる伊勢平野では、60ヘクタールの土地を使ってネギをブランド化して出荷してるんです。ただ冬は寒くなって収穫量が減るので、その時期に温暖な南伊勢町でネギをつくれば需要もあるし、単価も上げられるのではないかと思ったんです」

「まずは10アールの土地でネギ栽培をはじめました。収穫量も多かったし、単価も通常300円のところを500円で売ることができた。利益も60万円ほど出たので、来年以降はもう少し栽培地を増やして、若者の就業にもつなげていきたいと思っています」

隣で聞いていた木下さんが続ける。

「去年よかったから今年もよく採れるとか、そういうもんじゃないんでな。天候とかにもずいぶん左右されますけど、ただ机上で話すのではなくて、まず行動に移すなかで数字がついてくるというふうに自分は考えています」

minamiise04 まずは自分が手本をみせること。誰よりも率先して動くその姿勢が、まわりの人の心を動かしている。

「本当は私も心が折れやすいタイプなんですわ。でもこうやってみなさんがいろいろ応援してくれるなかで、頑張らなと勇気をもらうわけですわな。一人では何もできませんから」

みんなが暮らしていくために、収益を出すことも大切。でもなによりも、村に帰ってくる人に取り組んでもらえるような産業を残して、村が残っていくための起爆剤になればと思っている。

木下さんの取り組みは、次第にまわりの地域からも注目を集め、来年は隣の道方地区でもネギの栽培がはじまるそう。洗浄機も導入したので、これからは出荷前の洗浄も地域の人たちと行うという。ネギ栽培は、新たな雇用にもつながっている。

「誰かに言われてやるんじゃなくて、地域から盛り上がっていかんと」

「青ネギだけにこだわらなくても、南伊勢町のいろんなことをやってほしいと思うんです。相談してくれたら、喜んでどこへでもいきますから」


地域に根付いた取り組みがある一方で、南伊勢町では新しい取り組みもはじまっている。

教えてくれたのは、まちづくり政策監の松田さん。地方創生のために国から南伊勢町に派遣されていて、これからのまちづくりを一緒に考えていく方。

minamiise05 三重県にUターンするまでは、都内で地域活性化や地域政策の研究をしていたとのこと。南伊勢町はどんなところですか。

「38ある集落がおもしろいんです。『浦』がつく集落では漁業、平家落人のムラといわれる『竈』(かま)がつく集落では、海と山を利用した塩づくり、それ以外の集落では農業というように。すごい特色があるでしょう?」

minamiise06 「問題は、県内で人口減少率と高齢化率が最も高いこと。漁獲高は県下一なのに、生かしきれていないところがありますね」

今回、松田さんが町の人たちと一緒に考えた政策の柱は、大きくわけて2つある。

1つ目は、若者定住を目的とした、町内唯一の高校である南伊勢高校の魅力化プロジェクト。

「地域で活躍する人材を育成するコースを、平成29年度から新設させるんですよ」

南伊勢高校では3年前から地域課題をビジネスの手法で解決したいと、高校生たちが地域資源を活かしたソーシャルビジネスを考え、町のためにいろいろな活動を行ってきた。

minamiise07 たとえば南伊勢町の特産品を詰め合わせたセレクトギフトを販売したり、ゆるキャラの「たいみー」をモチーフにした「たいみー焼き」を開発したり。

「今後は活動をさらに活発化させて、地域の事業者さんや行政、三重大学とも連携しながらより魅力的な高校にしていきたいです。それに絡めて、卒業後もこの町で働いてもらえるよう『みなみいせ商会(仮称)』の設立まで持っていこうと考えているんですよ」

みなみいせ商会では、特産品の開発や町内の仕事マッチングなどもおこなうので、まち全体の総合プロデューサーになってくれるような人が必要だという。

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2つ目は、伝統文化を守っていくことや、高齢者に寄り添っていくまちづくり。

「廃れてしまった塩づくりや村の伝統行事を復活させて、地域の産業や魅力ある観光につなげていきたいんです」

高齢化が進むと、口頭で伝わってきた文化がなくなってしまう。地域の人たちにじっくり話を聞き、それらを次世代に繋がる形で残していく。

minamiise09 「小さな拠点」と呼ばれる施設を、地域の人たちが交流できるスペースや高齢者福祉に利用するだけでなく、竈方文化の情報発信にも活用していきたいと考えている。

「いろいろな活躍の場を用意しています。私たちも全力でサポートしていきますよ」

農業をしながら、コミュニティビジネスを興していくのもよし。伝統文化の聞きとりをしながら、高齢者支援や塩づくりプロジェクトに挑戦してもよし。自分にあった働き方を見つけていけると思います。


翌日、すでに「小さな拠点」づくりに取り組んでいる、岡田さんにもお話を聞きにいきました。

minamiise10 向かったのは、棚橋竈という集落。隣の新桑竈(さらくわがま)の高齢化率は、南伊勢町の中で最も高く、なんと90%を超えるそうだ。

「東京から?遠かったやろ!」と笑顔で迎えてくれた岡田さんは、神戸出身。大阪で自分のお店を持ち、ずっとバーテンダーをやっていたそうです。

minamiise11 50年ほど前から祖父母が住んでいたこの集落に、お母さんと一緒に生活をするため6年半前にやってきた。

こどものころ、夏休みに遊びにきていた場所だそう。でもそれほど地縁があるわけでもないこの場所で、小さな拠点づくりをはじめたのはどうしてなんだろう。

「ここはもともと、農協だったんです。自販機もあって、そこで毎日ジュースを買って、このあたりの家を一軒ずつ『元気か』『大丈夫か』ってまわっているおばあちゃんがいたんですよ」

「でも農協が撤退して、自販機も全部撤去してしまって。そしたらおばあちゃんはだんだん家に篭るようになって、いっぺんにボケてしまったんです。それを見たときに、やっぱりどこかみんなが集まる場所や家から出るきっかけがないと、家で孤独死しとっても誰もわからないよ、と思ってね」

「いまここで、なんとかせんといかん」という切実な思いに共感してくれたのは、集落の外からやってきた人たちだったという。

伊勢からやってきて、ロッジを経営している人。定年退職後にUターンで戻ってきたお医者さん。京都から移ってきた人もいる。

みんなでどんな場所が必要なのか話し合い、簡単な飲食の提供と日用品の販売をはじめた。

「出てこれないときは、電話してもろうてお惣菜を家に届けたりとかね。そういうかたちでなるべく顔を見るようにはしてるんですけど」

今は岡田さんが一人で運営しているから、出かけるときにはその都度店を閉めなければならない。一人ではとても手がまわらないので、人と人をつなぐパイプ役になりながら一緒に手伝ってくれる人に来てほしい。

minamiise12 お話を聞いている間にも、地元のおばあちゃんがやってくる。「なんや病院行ったんか」「そうそう」と楽しそうに話している姿は、買い物というより岡田さんと話しにきているよう。

打ち解けているように見えるけれど、馴染むまでは苦労したといいます。

「たとえば集まりがあって回覧板がまわってきても、集合場所がわからない。細かいところを教えてくれないんです。地元の人は知ってて当たり前みたいに思っていて、僕らは知らなくて当たり前と思っている。ちょっとした溝はありましたよね」

どこか遠巻きでみているような感じを受けた一方で、一度懐に入ってしまうととても熱い付き合いができるのが魅力でもある。

「方座浦の漁師さんたちと知り合ってね。しょっちゅう店にきてくれるし、お客さんがくるとなったらとれたての魚を持ってきてくれる。本当にありがたいですよ。都会でいくら高いお金を出しても、ここらの魚よりも美味しいものは食べられないです」

新鮮な魚に、無農薬の野菜。きれいな海と空。地元の人たちには当たり前のものが、外から来た自分には宝の山に見える、と目を輝かせながら教えてくれる。

「次の世代の人に『また来たいな』と思ってもらえるような場所にしないと。ここは自由に使っていいんで、どんどん入り込んでもらいたい。このままやとね、集落がなくなってしまう。寂しいですよ」

たとえば豊かな自然を活かしてボルダリングをしたり、滞在型農園をやってもいい。岡田さんには、新しいアイディアが次々に湧いてくる。

アイディアをかたちにしていくには大変なこともあるけれど、岡田さんと一緒なら心強いと思います。

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南伊勢町をまわりながらいろいろな人に出会って、帰りたくなる場所は「また会いたい」と思うような人たちがいる場所なのだと思いました。

人も仕事も、きっと人についてくるもの。南伊勢町にはあたたかな心意気を持った、心強い仲間がたくさんいます。

ここで一緒にふるさとづくりをはじめませんか。ぜひ一度、南伊勢町を訪れてみてください。

(2016/3/18 並木仁美)