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まちづくりってなんだろう。全国各地で取り組まれているけれど、本当の成功と言えるものは少なかったりする。
大きな建物をつくったはいいけどその後の運営がうまくいかないとか、想いがあっても補助金が打ち切られて途中で終わってしまったりとか。
お金のことも、継続することも、暮らす人が笑顔になることも。ちゃんとできる、まちづくりがしたい。そう思っている人に知ってほしい募集です。
まち・不動産・ビズネス、3つの領域からまちづくりをプロデュースする株式会社POD。
小さな店舗開発から大規模再開発、エリアマネジメントまで、様々なまちのプロジェクトの企画・制作・運営に携わっている会社です。
今回募集するのは「現代版家守」となって運営に携わる人。ゆくゆくは企画や不動産開発を行なうプロデューサー業も目指すことができます。
どんな仕事をするのか、続けて読んでみてください。
東京・中野駅の北口から歩いて3分ほど。
中野区役所を過ぎたところに、中野セントラルパークが見えてきます。
敷地の真ん中には、都心の駅近くにあるとは想像できないくらい広い芝生の公園が。周りを囲うようにオフィスビル・大学のキャンパス・集合住宅が建っている。
時間はちょうどお昼時。桜が満開の時期ということもあって、家族連れの人からスーツ姿の人まで、大勢の人たちがシートを広げて花見を楽しんでいました。
大学がはじまれば、公園には学生の姿も見えるようになるそう。
大学生もサラリーマンも、赤ちゃんもおじいさんも。いろんな職業や年齢の人たちが交ざっていて、なんだか不思議な場所。
中野セントラルパークは、中野の地域を活性化するために、警察大学校跡地の再開発によってできたオフィスビルです。隣には、防災公園や大学のキャンパスなどもあり、キリングループをはじめ日本を代表する企業が入居しています。
ただ、単にオフィスビルとして機能するだけではなく、テナント同士の交流を図った取り組みが行なわれたり、地域と連携したイベントが開催されたり。さまざまな取り組みがここで企画・運営されています。
そういったまちづくりの全体や、個別の活動づくりにPODは携わってきました。
「まちづくりと施設運営をクロスさせているのが我々の取り組みです。小さいイベントやネットワークづくりをして日々運営業務を行なう一方、開発に関わるときは都市計画を提案したり収支計画をつくっていたりするんですよ」
代表の神河さんです。
PODは中野セントラルパークのほかにも「REN BASE(神田)」「シモキタテラス」「大宮酒場140」「二子玉川ライズ」「横浜・関内エリア」など、さまざまな土地やエリアでプロデュースや運営を手がけてきました。
どれも“まち” “不動産” “ビジネス”の3つの視点を掛け合わせたワンストップの提案。軸には「地域と連携して運営の価値を上げることで、施設の価値が高まる」という考えがあるといいます。
「まちづくりって難しい部分があると思っていまして。この言葉はすごく同床異夢なんですよね。人それぞれによって捉え方が違うので、結果うまくいかないことのほうが圧倒的に多いんです」
「我々はまちづくりが意味するところ全部をやろうと思っていない。まちづくりにちゃんと関わりながら施設運営をしていくことが、大きなミッションのひとつです」
そんなPODの運営方法は「現代版家守」だといいます。
家守とは、江戸時代に江戸のまちで地主や家主に代わって長屋を管理していた人のこと。
管理と聞くと、いまの賃貸物件の管理会社を想像するかもしれません。けど、家守は店子の悩み事の相談を受けたり、井戸など共同部分のちょっとした掃除をしたり、地域や人のありとあらゆることに対応する、いわば小規模のタウンマネージャーのような仕事でした。
幕府からの給金ではなく、ちゃんと給料をもらえる職業であり、地域の人からとても信頼される存在だったそうです。
「江戸時代後期、江戸のまちには家守が2万人いたという説があります。それだけの人がテナントの相談に乗って、エリアの面倒を見ていた。結果として不動産の資産価値を守り高めることをやっていたんです」
「それが現代に合ったカタチで必要なんじゃないかって。つまり、現代版家守です」
現代の家守も、テナントやまちの人の困りごとの相談に応えるのが基本。いわば何でも屋さんのような仕事。
たとえば地域の人の「イベントをやりたい」という声や入居テナントの「新製品のPRをしたい」という声を拾って、PODがサポートや製作会社の紹介・調整、施設利用の手続きなどを行ない、当日の運営も手伝う。
「我々はそれらをビルの管理・運営を統括する東京建物のサービスの一貫として実施します。賃料の中にインクルードされているので、そのぶん面倒見ますと。面白いところだと、忘年会の企画もつくったりします」
「ただ、ビル全体からすれば『それをやることの意味があるのか?』『ただのイベントになっていないか?』という疑問があったかもしれない。だけど、やればやったぶん情報が発信されて、『地域活動や店子の商売を手伝うことで、結果的にビルのブランド価値が高まっていく』ということが今だいぶ認識されつつあって。そのマーケットをつくるのが大変でしたね」
中野セントラルパークがはじまったのは2012年。すぐにイベントや活動が生まれて、うまく回っていったかというと、決してそうではなかったそう。
イベントをやってもなかなか収益を上げられない。銀座や表参道などの地域とは違って、舞台は中野。予算も少ないなか、まずは流れを生むためにPOD側から積極的に仕掛けることもしていました。
「たとえば地域団体がここでまちのアンテナショップイベントをやりたいと。定期的にやりませんかとこちらから提案して、今では毎月第一土曜日の定番イベントとして地域の人にも定着してきました。それをさらに大きく育てようと、ゴールデンウィークにはキッズフリマという子どものフリーマーケットをくっつけたんです」
「子どもがフリーマーケットもできるし、アンテナショップの売り子体験もできる。そうしたらテレビ取材が入って、中野セントラルパークが拡まっていったんですね」
ほかにもテナント同士の垣根を越えた飲み会をつくって、交流を図ったり。何回か開催するうちに、参加者たちの中からクラブ活動が誕生したそう。
「話が出てきたときに、『それやります?ビル側からのサポートも引き出せると思いますよ』って。実際に園芸部ができて、種と場所が提供されると、自主的に活動が進んでいきました」
PODでは自主的な活動になることを大切にしているといいます。何から何まで手厚く関わるのではなくて、いずれは自力で継続してもらえるようにサポートする。
「補助金をもらっていろいろやるけど、補助金が切れて途中で終わったっていうのが、全国で起きているまちづくりの実態です。そうじゃなくて自主活動で継続していけるように、そのための企画力や遂行力などの足りない部分を、地道にじわじわと我々が手伝う。企画して1〜2年回まわしてから、ようやく形になってくるものなんです」
神河さんは「まちづくりとは本来商売にすることではない」と話します。
本来できていないといけないこと。それができるように、PODがまちづくりを手掛け、まちを元に戻す。
「まちづくりって本来は特別に何かしなきゃいけないことじゃなくて、人それぞれが本業をしっかりやったり、自分にできることをやることなんじゃないかって思うんです」
たとえばまちの印刷屋さんにイベントのチラシを印刷してもらって、もちろんしっかりお金は払うけど、他の地域の競合他社に負けないよう、値段や地域ならではの協力についてもお願いする。
一見負担を強いているように思うかもしれないけれど、その活動を必ず誰かが見ていて、いつか優先的に印刷の依頼をしてくれる。実際にそういうことが様々なエリアで起きていて、地域に貢献する企業のほうが売上が伸びているというデータも出ているそうです。
「そういうのを見ていると思うんですよね。まちがまともに、リアルになってきたのかなって」
現代社会のまちに血を通わせるのも家守の役割かもしれません。
「必要なのは能力の高さというよりも、人柄なんですよ。それは後から教えられるものではないので、ちゃんと真剣に相手のことを考えられることがすごく重要ですね」
こんどは実際に家守として運営を担当している岩崎さんに話をうかがいます。
岩崎さんは2012年の日本仕事百貨の募集を通じて入社された方です。
前職では、環境系のコンサルティング会社に務めていました。現場を知らないまま企画することにシレンマを感じ、家守として実際に顔の見える距離感で働けるPODに応募したといいます。
テナントのさまざまな声を拾い上げるため、自身もイベントや飲み会に参加するのも家守の仕事なのだそう。応募条件に「飲酒可能なこと」と書いてあるのはそのため。
実際に飲み会に付き合い、そこで『会社の合唱団が歌える場所を探している』といった相談を直接聞いたりする。合唱団の方とは一緒にロビーでのコンサートを企画することになり、これまでに3回開催したそうです。
「最初は手探りで『こんなことできる?』の問い合わせにひたすら応えていました。4回開催しても結局うまくいかなかったイベントもありましたけど、何がこの場所に合うかっていうのは、やってみないと本当に分からない。トライ&エラーしながらやってきて、顔も覚えていただいて歩いていると『こんにちは』って言っていただけるようになりましたね」
ここにいる人すべてがお客さんであり、地域の人でもあり、場を一緒に盛り上げる仲間でもある。密な関係で仕事ができるのは、この仕事のやりがいでもあるといいます。
そしてなんと岩崎さんは、テナントの会社に勤める方とご結婚されて、中野に移り住んだそう。そういうのが起こりえるのも、ここがちゃんと「リアルなまち」だからなのだと思う。
今回募集するのは、中野セントラルパークを中心に岩崎さんと一緒に家守を担当してくれる人。
だんだんとやることは通年で決まってきたため、今あるイベントや活動を充実させるとともに、さらに幅を拡げていくことを考えています。
ふたたび代表の神河さん。
「『POD』は『繭』の意味もあるんですけど、イルカの群れとかの少数の群れのこともpodと言うんです。我々が目指しているのはそれで、20人くらいのプロデューサーの集まりがいれば、いろんなクリエイティブな仕事が受けられるだろうと」
これから加わる人も、ゆくゆくはプロデューサーを目指してほしい。たとえば、将来自分の故郷に帰りまちづくりをしたいという人が仲間になることもPODのヴィジョンの1つなのだそう。
これからPODが展開できる範囲はぐっと広がっていくといいます。
「最近の都内の再開発では、地域活性化がコンペ要項になっていることが多いんですよ。一方で大手不動産デベロッパーでは、専門的な人材は外部連携などで補強したいという方針やニーズがあったりします。そこでうちに話がきて、実際にコンペで勝ったりしているんです。数年後には、中野でつけてもらったチカラを活かす機会や仕事が増えると思いますよ」
「まちづくりって何だろうともやもやしている人。都市計画・建築設計・イベント運営などで企画をやってはいるけど、ちゃんとまちづくりに関わりたいという人でもいいです。ゆくゆくはまちづくりのプロデュースができる『家守』になるべく、ちゃんと勉強して濃密な若い時期を過ごしたいという人がいいですね」
少人数の会社なので、神河さんをはじめとする不動産やまちづくりのエージェント経験者に直接教えてもらえるのがとても魅力的だと思う。
家守の仕事とそれを企画する力は、今後どの地域にも求められることだと思います。いまPODで力を付けられるのもいいタイミングだと思いますよ。
(2016/5/9 森田曜光)