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奈良県吉野郡・川上村。地域おこし協力隊や村営ホテル「杉の湯」のスタッフ募集など、これまでにも何度か日本仕事百貨で取材してきた地域です。
林業で栄え、ピーク時は8,000人以上いたという人口も、昨年10月時点で1320人にまで減少。現在も過疎・高齢化が進んでいます。
そんな川上村において、地域住民同士の交流を生んでいる「ヨシスト号」。
月〜土曜に村内各集落を回り、生鮮食品や日用雑貨を販売する移動スーパーです。

今回は、この移動スーパー「ヨシスト号」の運営スタッフを募集します。
地域を見回り、暮らしを支える。商品とともに「ふれあい」も運ぶ仕事です。
京都駅から橿原神宮前駅までは、近鉄特急で1時間弱。そこから車に乗り、川上村役場を目指す。
しばらくすると、道沿いに見えてくるのが吉野川。川上村は、この川の源流にある。

しかし、木材需要の低下に伴って林業従事者が減少し、村全体の過疎化も急速に進んだ。
これに対して村は、森林資源の調査やPRなどを行う「かわかみ社中」を設立し、吉野林業の再生に向けて取り組んでいる。
では、過疎の問題に対してはどうなのだろうか。
役場を訪ねて、定住促進課の竹内さんにお話を伺った。
ご自身でも「公務員ぽくないかも」と話す通り、とても気さくな方。

「川上ing」は、“川上村は動いている”という意味と、「おいで!」という呼びかけの意味を込めたcomingを掛け合わせた名前だという。
「ただ、村民の生活実態や仕事について、職員が把握できていない部分も多かった。恥ずかしい話だけど、あらためて自分らの足元を見つめ直そうってところからはじまりました」

プロジェクトチームは当初、高校進学時の転出が多いのだと考えていた。
けれども、実際には65歳以上の高齢者の転出割合がとても高かったという。
「近くの町に住んでいる息子さんや娘さんが、『買い物も心配やし、火の始末も心配。近所の人に迷惑かけるから、出ておいで』という感じで引っ張っていることがわかったんですよ」
続いて注目したのが仕事。村内の事業者をすべてリストアップし、一軒一軒話を聞いて回った。
すると、過疎地域では仕事がないと言われるなか、村内の就業者率は7割を超えていて、求人を希望している企業もあったという。
働き口はまだ十分にある。だからこそ、現存する事業者を一軒も減らしてはならないと感じたそう。

「特産品とか、何百年と続く伝統産業だけを大事にするんじゃなくて、クリーニング店やガソリンスタンドなど、村民の日々の暮らしを支える仕事も大切ですよね」
これらの調査結果をうけて、従来は木工や林業関係の事業のみに出ていた事業補助金を、あらゆる職種に適用した。
また、人手を必要としている事業者には移住者向けサイトなどにその情報を掲載し、役場がハローワークの役割を担った。
「あとは川上の集落のことや、暮らしについても調べて。移住者にとって、知らない土地での一人暮らしほど寂しいものはないだろうし、もっと家を選べたほうがええんちゃう?ということで、全国的にも珍しい村営のシェアハウスを建設しました」
最近は移住に関心のある人に向けて、村内を案内し、仕事と住まいを具体的にイメージしてもらうための「川上ingツアー」を行っている。

若い世代も多く、今年はちょっとしたベビーブームにもなっているそう。
今後もこうした移住定住促進の取り組みを続けつつ、あらためて今、村内の暮らしに目を向けているところだという。

「たとえば、コミュニティカフェ。150円でコーヒーとパンを買い、朝はみんなで食べてから畑仕事しようとか、カラオケ行こうとか。普段から集まる習慣がついていれば、災害時にそこが避難所になって、自然と自主防災ができあがる。そんな場所をつくっていきたいんです」

現在運営しているのは、村外のスーパー「吉野ストア」。「かわかみらいふ」が吉野ストアから委託される形で事業を引き継ぐことになっている。
「この事業は単なる物売りじゃないです。『ヨシスト号』での買い物を通して、コミュニティが生まれる。『いつも買いにきてるおばあちゃんが来ない。どうしてんやろ?』っていう声かけも大切やと思ってます」
とここで、「あ、今何時?」と竹内さん。
時計は14時を指している。
「ちょうどええ。もうすぐ『ヨシスト号』が近くにくるから、ぜひ見に行ってみてください」
そう言われ、今年4月から定住促進課に配属された田原さんとともに車に乗り込んだ。
村営のシェアハウスがある人知(ひとじ)集落までは、役場から車で10分ほど。「ヨシスト号」はまだ来ていないようだ。
待っている間、先にシェアハウスのなかを見せてもらうことに。
一歩踏み入れると、木の香りにふわっと包まれる。システムキッチンや冷蔵庫、テレビなどの設備も充実している。

今回募集する方も、年齢等の要件はあるものの、ここに入居することができるそうだ。
とそこへ、聞き馴染みのある音楽とともに「ヨシスト号」がやってきた。
「しあわせは〜 歩いてこない〜 だ〜から歩いてゆくんだね〜」


ただ、村外のスーパーに買い物に行くことはかなり困難だ。
「車持っとる人はええけどな、うちらみたいなのはこうやって来てくれるのをほんまに頼りにしてる。今まで一度も逃したことあれへんねん」
そんな声を受けて、岸本さんはこう話す。
「『今度これ持ってきてよ』という声をもらいます。それが一番大事ですよね。この車のなかには限られたものしか入れられないですから」
「何年も経てば、『この人にはこれがいるな』っていうのはつかめてきますね。おばあちゃんの味の好みやこの地域での売れ筋商品など、だいたいのことは把握しています」

どういう瞬間が一番うれしいですか。
「そりゃあ、『おおきに』ってよろこんでもらえたときが一番ですよね。採算はなんとかとれたらええかなっていう感じです」
全村民のうち、移動スーパーを利用しているのはおよそ3割ほど。決して収益率も高いわけではない。
竹内さんはこんなことを言っていた。
「3割しか利用していないと捉えるのか、3割の人が必要としていると捉えるか。ぼくは後者のほうやと思うんです。少額でも移動スーパーを利用してもらうことが、地域に小さなお金の循環を生んで、コミュニティの醸成と見守りにもつながる。たとえ赤字になったとしても、村民の暮らしを支える必要な経費だと思ってます」
人口や利用者の数。その数字だけを見たら、この村は厳しい状況に見えるかもしれない。
けれども、実際に会ってお話をうかがってみると、このサービスを必要としている人は確かにいることがよくわかるし、過疎化しつつあるという現実のなかで、それぞれの楽しみ方を見出しているように思う。
最後にもうひとり紹介したいのが、役場から通りを挟んだ向かいにある「中平商店」のおばちゃん。
地元の名物“柿の葉寿司”をつくるのが上手で、このときも作業中の手を止めてお話を聞かせてくれた。

3年ほど前にケガをしてから足の調子がよくないけれど、移動スーパーが来る場所まで歩くことがいいリハビリにもなっているそうだ。
「出歩かなあかん。いくら近所でも家のなかにおったら会えへんやん。よく一緒に話す人はカラオケ好きな人やから、『今晩どう?』って誘ってくれたりするし、『この前はおおきに。楽しかったよ』って、次も話ができる。それで元気もらえるねん」
役場に歩いて戻り、竹内さんと1日を振り返る。
「村長がよく言うんですけど」と竹内さん。
「人恋しいからこういうことに取り組むんですよね」
人恋しい?
「ぼくらももっといろんな人に来てもらいたいし、村の人たちも、かまってほしいんですよ。『おっちゃんちょっとこれ教えてよ』って言ったら、面倒な顔しながらでも『そうか?』って。『おばあちゃん、この野菜おいしいけどどうやってつくってんの?』って聞いたら、『ほんじゃあ教えようか』とかね。人って頼りにされたり、かまってくれたらうれしいんですよね」
「この仕事はそういう関わりが楽しい。人に必要とされてるっていうことは、その人自身にとって生きがいにもなる。でも、これはボランティアじゃない。これを仕事として地域に住み続けてほしいし、ここで自分の将来も描いてほしいっていうことなんですよ」

モノと一緒に「ふれあい」を運ぶ仕事。興味を持った方は応募してみてください。
(2016/6/13 中川晃輔)