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ものや空間を照らす光。その光によって、表情はさまざまに変わります。主に美術館や博物館の照明器具の設計・製造をしている、株式会社キテラス。これまでに著名な美術館や博物館、それに寺社仏閣などの照明を手がけるほか、店舗の照明も手がけています。
キテラスでは、光源からの光を制御するための光学設計から、それを製品として成立させるための機械設計までを手がけています。
そうして開発から製造までの仕事を、社内で一貫しておこなっています。
そこには、照明に対する独自の哲学がありました。
今回は、機械設計をする人を募集します。
一緒に働くのは、思い描く光を実現させるため力を蓄えてきた人たち。
高い技術を自分のものにしたいと思う人にとってはぴったりの環境だと思います。ぜひ最後まで読んでみてください。
埼玉県にある戸田工房を訪ねました。
武蔵浦和駅から車で5分ほど。住宅街のなかにアパートを改装したキテラスの事務所兼工房があります。
2年前に工房を構え、先月改装をしたばかりだそう。
中に入ると、木の壁に取り付けられた棚には、設計にかかわる本や美術全集がずらりと並び、写真が好きだという代表の佐久間茂さんが撮った写真が飾られていました。
佐久間さんが6年前に一人で立ち上げたのが、株式会社キテラスです。
まずはこれまでの経緯についてうかがいました。
「大学を卒業して、写真の現像機をつくる会社やコピー機をつくる会社で機械設計をやってきました。大きな会社に勤めていたんですけど、つくるところから売る先までが全部見える規模の仕事がいいなと思っていたんですね」
そんなときに紹介されたのが、美術館の照明をつくる会社。
高校の頃から美術館が好きで、よく通っていたという佐久間さん。
「面白そうだし、これならできそうだ」と思って、いまの仕事をはじめたといいます。
高い設計技術が身につくまでいろいろな会社に勤め、仕事をこなすだけでなく関連する本を読むなど、10年以上地道な積み重ねをしてきたそう。
「そうして著名な美術館の仕事をしたり、会社役員なども経験したりして。サラリーマンはもういいかなと思って、照明の設計外注先として歩いていこうと一人ではじめたんです」
「ただ、美術館に納めるロットは100〜200台と少なくて、製造してくれるメーカーはなかなかない。しょうがないから、自分で設計から組立、納品までをするようになりました」
「設計」とひと言に言っても、いくつかの工程があります。
まずはどこからどう光を当てるかレイアウトを考える照明設計。
次に、発光部分からレンズやミラーを使って対象物まで光を届けるように、光学部品の配置を考えていく光学設計をする。
そこから、レンズやミラーの位置を保持できるように機械設計をする。
キテラスでは、主に光学設計や機械設計をしています。そこから調達した部品を組み立て、製品になっていく。
ときには照明設計からすることもあれば、現場のライティングまで担当することもあるそう。
一貫して照明器具をつくっていくなかで、どういうところにこだわっているのか聞いてみると、意外な返事が返ってきた。
「基本的に、展示空間に使われる照明器具っていうのは存在悪だと思ってるんです」
存在悪、ですか?
「そう。照明がなくても見えるんだったらそれがいちばん。邪魔じゃないですか」
でも、つくるわけですよね。
「だって他に手段がないから。そのなかで、どういうふうな光にしたら一番価値が高く見えるか?ということをまずはじめに考えます」
「次に、具体的にどう形にしていくかというと、なるべく照明器具があることを意識させないようなものを考えます。だから、すごく我慢した設計をしますね」
我慢した設計。
「設計者に我慢をさせる。存在感を消すために、外側は人様の邪魔にならないようにみせる。メーカーの経営としてはそこまでコストをかけることないじゃんってところまできれいにつくろうとするんです」
「その最たるもの」だという照明器具を見せてもらいました。
写真の左下に見えるのが、キテラスが製造している照明器具の一部分です。
1.5cmほどのコンパクトな円筒型の照明器具が展示ケース内に組み込まれています。
展示台から頭をのぞかせている部分が照明部分になっていて、中には光の角度を調整するためのミラーが入っていたり、光を照らす範囲を広くしたり狭くしたりできる仕組みが備わっているそう。
「なるべく小さくして、でも機能は充実させる。だから部品に無理をして中は三重構造になっています」
下から照らすものを応用して、上から照らすものもつくりました。
お辞儀をするように曲がっている部分は、ネジで留めることもできるけれど接着させているのだといいます。
「接着マニアじゃないとつくり得ないようなものです(笑)。とにかく表側にいらない線を出したくないんですよ。鑑賞する人から見たときに、照明なんて存在悪なので、より目立たないようにしようって」
一般的なメーカーでは、つくりやすさが優先され、そうしたところにコストはかけないものだといいます。
「ツールが揃っていてあとは組み立てるだけというやり方ではなくて、目的に合わせてどういうリソースを集めるかを考えるんです。目的があって、手段を選ぶ」
「照らす対象が好きだから。それが僕が仕事をする一番のモチベーションです」
これから入る人も、そうした佐久間さんの考え方に共感できる人だと仕事も楽しめると思います。
佐久間さんにはほかにもこだわりがあるそう。
「光が当たっていることを意識させないような照明を良しとしていますね」
どういうことですか?
「たとえば、腕が何本も出ているような仏像の場合、一方向からだけ照明を当てると像自体にも影が落ちてしまう。そうしたときは別の角度から光を当てて影を和らげたりするんです」
「嘘をつくというか、ありえない光の当たり方をしているけれど、自然に見える。『自然に見える不自然な照明』ってよく言われるんです。その辺が目標というか基本的な価値感ですね」
自然に見える不自然。
「当て方ひとつで表情がめちゃめちゃ変わるので、クセがないように注意します。僕にはその作品をつくった先人の意図がわからないですからね」
たしかに、つくり手の想いを想像することはできても、深く理解することは難しいかもしれない。
「だから、こう見なきゃいけないという強要をしないような照明にします。見る方に選択肢をいっぱい与えておくというか」
そのためにできることは、とことんやる。
「いい感じに光が当たるポジションを見つけるために展示ケースを模した台を自分でつくったり、照明を設置してから明るさを測定できるカメラで撮影してムラのない光にできているかを確かめたりもしました」
1つの照明器具につき100枚以上図面を書くこともあれば、配線の長さやケースの形がすべて異なる種類のものを1つずつつくるなんてこともあるそう。
とにかく手間がかかるけれど、1から10までの仕事をやっていくほうが面白いといいます。
どんなところが大変ですか?
「大変なのは、小さい会社だと個人の顔が見える仕事になるので、怒られるときはお前さんが怒られまっせということ。入ったばかりの人をいきなり野放しにはしませんが、何かあったときにはダイレクトにクレームが来ますよね」
「でも、それは表裏一体で。評価されるときは、キテラスという会社名じゃなくて個人としてお客さんに知ってもらえる。それができるのが小さい会社のいいところ。ちゃんとした仕事をすれば、見ている人は見ていますから」
もう一人お話をうかがったのが、川辺健太郎さん。
佐久間さんとは8年前に共通の知人を介して一緒に仕事をするようになり、2年前にキテラスに転職しました。
照明の設計・製造の仕事をはじめてから、もう26年ほどになるそう。
この仕事を選んだきっかけは何だったんですか?
「僕の場合は、バーとかの空間が好きだったので。昔、お気に入りだった小さなバーがあって。そこは、見せかけでつくったような空間じゃなくてカウンターの木目もきれいに見えるような自然な暗さで、落ち着く空間でした。そういう照明をやりたいなと思ったんですよね」
以前勤めていた会社では、取締役として売上や稼動を仕切る立場にあった川辺さん。
そのまま勤めることもできたと思うけど、キテラスを選んだのはどうしてなのだろう。
「52歳でこれからずっとやっていくとしたら、佐久間さんと一緒のほうが、お客さんの依頼に対して僕らにしかできないことを提供できるかなと感じたんです」
川辺さんはファッションブランドの店舗などの照明を多く手がけているそう。
同じ会社だけれど、ふたりともお互いの仕事に干渉することなく、それぞれの得意分野を活かしていきいきと仕事をしているよう。
これから入る人も、最初は佐久間さんの手伝いをしながら技術を身につけ経験を積んでいけば、つくりたいものを形にできるといいます。
おふたりに聞いてみます。どんな人と働きたいですか?
「自分の人生に自分で責任を持とうとする人かな」と佐久間さん。
「あとは週末なんかに自分で追いつく努力をする人じゃないとダメかな」
美術館へ行って展示を観てみたり、本を読んでみたり。
「考えて意味を理解する努力をしていかないと先はないですよね。言われたことをやって、それが器用にこなせるようになったとしても本物の力じゃない」
この言葉に反応した川辺さん。
「わたしも同じですね。言われたものだけやってたら、間違ったものでもずっと良しとしちゃうわけでしょ?それじゃあね。どうせやるんだったら、すべて自分でいろいろなことを試してみる。善も悪しも自分で判断して自由を勝ち取っていってくれないと」
しっかりと技術が身につくまでには、早くても5年はかかるだろうといいます。
根性のいることかもしれません。
けれど、ふたりから伝わってくるのは、自分たちが納得できるものをつくることで、結果的にお客さんから信頼を得た仕事ができているということ。
「小さい会社で働く面白さって、愚直にやっていれば、本当の意味での自由を得られることだと思うんです」
努力を積み重ねた人にしか得られない自由。そのための力を身につけていく土壌が、ここにはあると思います。
(2016/07/08 後藤響子)