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「うちの社長は、従業員のことを社員って呼ぶのが嫌いで、『多田屋の家族』って呼んでいます。はたらく人たちの仲がいいのは、お客さんにも伝わるんですよ」そう話すのは、多田屋の若女将の弥生さん。

羽田空港から能登空港へは、あっと言う間。空港で待ってくれている乗合タクシーに乗って、多田屋へ。
「能登半島」と聞くと少し遠く感じるけれど、能登空港に加えて、東京-金沢間の新幹線が開通したこともあり、昔よりはずいぶん近くなりました。お客さんも、1.5倍に増えているそう。
まずは、6代目である多田健太郎(ただ・けんたろう)さんにお話を伺いました。

現在、旅館全体では60人弱がはたらいている。20代から70代まで年齢層も幅広いが、最近は少しずつ若いスタッフが増えてきた。
「会社に戻ってきたときは、親の世代のスタッフばっかりだったんです。自分が旅館の仕事を覚え、若い子が入って根付いてくような風土にしていくのに5年。フロントや予約課、総務課がずいぶん若返りました。客室係にも若いスタッフに入ってもらって多田屋全体として活性化していきたいんです」

「『能登はやさしや土までも』という言葉があるように、持ちつ持たれつ助け合っていく文化が色濃く残っていて、人と人のつながりが深い」
「たとえば、能登沖地震では全壊した家も多かったのですが、死者は1人だけでした。隣の人がどこの部屋で寝ているか、家の間取りまで近所の人たちがわかっていたから、すぐ助けにいけたんですよね」
そんな助け合う文化があるからか、よその地域から地震の支援で来てくれた人たちに、能登の人たちは逆におもてなしをしたそう。
多田屋でも、ボランティアの人にお風呂に入っていってもらって、感激されたのだとか。
「人柄だけじゃなくて、四季がはっきりしていて春夏秋冬の変わり目が美しかったり、お祭りが年に400回以上あったり、いいところがたくさんあります。なんにもないと思っている地元の人たちもいるけれど、全然そんなことない。自分も海外や東京に出て能登の良さがわかったので、それをもっと発信していきたいと思っています」

そして、従業員にも能登の地域そのものを好きになってもらえたら嬉しいと話す。
「どんなに接客が上手で経験があっても、能登を好きじゃないという方は、少し違うのかもしれません。『能登が好きですけど、接客にはまだ自信ありません』くらいのほうがいいですね。今回をきっかけに、能登をはじめて知ったという人でもいいんです。客室係以外にも、その人にあった仕事があるかもしれないから、興味を持ったら来てみてほしいですね」
多田屋の若女将である多田弥生(ただ・やよい)さんにもお話を聞いてみる。
弥生さんは、元看護士。結婚するまで、健太郎さんが旅館をやっていることを知らなかったそうだ。

「来てみたら大きな旅館で、若女将になることになって。想像もしていなかったですね」
若女将としての仕事は、どうやって覚えていったんですか。
「女将から一通りのことは見せてもらいましたけど、マニュアルがあるわけじゃないから、最初はわからないことだらけでしたよ。『自分たちで工夫して、あなたたちの多田屋をつくっていってね』という感じだったので、夫ともども苦労しました」
「今もどういうおもてなしがいいかは試行錯誤を続けていて、新しく来てくれる人にもアイデアをもらえるとうれしいです」
和倉温泉にはほかにも旅館がたくさんあるけれど、多田屋がつくろうとしているのは、アットホームなおもてなし。
「昔は、団体客をお迎えしてばーっと料理を並べてという感じでした。今は、個人客を丁寧にお迎えするかたちにシフトしています」
「あたたかいおもてなしを求めていらしてくださる方も多いですし、お客さまと接する濃度も濃くなっている。だから接客も、東京みたいなスマートなものを求めているのとは少し違いますね」
ほっこりした空気をつくりだすために、まずは、はたらく自分たちの関係性をよくすることを心がけている。
「お嫁に来て最初に女将に教わったのが、『まず家族が仲良くないと、社員が仲良くなれない』ということでした。嫁姑みたいな争いをしてたり、口も聞かないような夫婦仲になってたら、社員がやっぱり萎縮しちゃう」
「家族が仲良くなると、社員も仲良くなる。『なんだか安心する、ほっこりする』って言ってくださるお客さまもいるんですが、そういう空気が伝わっているのかなと思います」

「今の時代は、買い物なんてネットで出来る。だけど、空気や自然はネットでは買えない。毎日食べるものや肌に感じるものは、きれいでおいしいものが1番いいと思います。私は千葉の海側に住んでましたけど、こっちに来てみたら海が臭くなくて透明度も高いし、お魚もおいしい。これからの時代は、田舎に住んでたまに東京に行くのが、生活として豊かなんじゃないかなって」
「今回募集する人も、1年だけやってみるというのでも、いいんです。定住とか、こっちで結婚しなきゃとか、あまり固く考えなくて大丈夫。人生を豊かにするものの1つとして、能登に留学するみたいな気持ちで来てくれたら。女性だったら、襖の開け閉めやお茶の出し方の所作を旅館で学んだらどこに行っても恥ずかしくないですしね」
たしかに、定住と言われるとハードルが高く感じるけれど、留学と捉えたら、ちょっと飛び込んでみたくなる。
「長くいてくれるのもうれしいけれど、能登を好きになって別の地域で能登の宣伝マンになってくれるのも、うれしいですから。辞めていった子たちに対しても、何か辛い事があったら戻っておいでねって思っているんですよ。この宿は、私たちが頑張っている限り、この土地から移動しないから、いつでも帰っておいでねって」
現在客室係を担当している、伊藤(いとう)さんにもお話を聞いてみた。

それまで能登には来た事がなく、面接のときにはじめて能登の地を踏んだそう。
「客室係の仕事は男がするものじゃないと最初は思っていたので、フロント業務をイメージして面接に来たんです。でも専務や総支配人と話してみて、お客さまに密に接する仕事が合っているんじゃないかということで、客室係になりました」
最初は、先輩のもとで、仕事を覚えるところから始まる。
チェックインの時間前には出社して、お客様をお出迎え。夕食の準備をして、食事をお出しして、片付けたら寮に帰って睡眠。
朝は遅くとも5時半に起きて、朝食の準備をする。チェックアウト後は客室の整理をして、次に来るお客様のために浴衣やタオルを出して、いったんお昼休憩を取って休む。こんな感じで1日が過ぎていく。

料理を出すのが主な仕事だけれど、お客さまに声をかけられてコミュニケーションする時間も結構多い。
いろいろお話ししたいお客さまにつかまってしまったときは、他のスタッフが料理を運ぶのをサポートしてくれる。
とても話しやすく、相手にすっと入っていける雰囲気を持った伊藤さん。今ではお客さまからお褒めの言葉をたくさんいただいているそう。
「家庭のご事情や深い話を話してくださるお客さまがいて、ウンウンと聞いてるうちに、感動してくださって半泣きになられたお客様がいました。『今日は良かったわ、楽しかったわ』って最後にお礼の言葉をくださって、それはうれしかったですね」
「逆に、お料理をゆっくりお出ししてしまっていて、早く持ってきてくれよって怒鳴られたこともあります。酔っぱらっていらっしゃったので、次の日にはケロっとされていたのですが、ちゃんとお客様の表情を観察して、ひと声かけたりすることが大事だなと思った出来事でした」
暮らしの面では、どうですか?
「朝も早い仕事なので、生活リズムをちゃんとしておくことが大事です。必ず夜にお風呂に入って、ちゃんと寝るようにしていますね。休みの日には、街中に繰り出して、おいしいお店をちょっとずつ開拓したり、水族館や美術館などの観光施設も巡ってみています。最近やっと車が手に入ったので、遠出もできそうです。次のお休みにどこでどんな物を食べようかなって、考えるのが楽しみです」
最後に、どんな人とはたらきたいかをたずねてみました。
「女性ももちろん歓迎ですが、男性の客室係が増えてくれると、僕はうれしいです。一緒に能登のあちこちを巡ったり、休日に遊びに行けたらいいですね」

でも、留学するみたいに、まずは1年はたらいてみる。もし向いていたら、もう少し続けてみる。そんなふうにして、能登にホストファミリーができたら、きっと楽しい。
興味を持ったら、まずは一度訪れてみてください。笑顔で出迎えてくれると思います。
(2016/9/7 田村真菜)