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リノベーションやDIYなど、新築に限らず住まいの選び方や楽しみ方が多様化してきたなか、「住む人に寄り添った家づくり」という言葉をよく聞くようになった気がします。でも、寄り添うって具体的にはどういうことだろう?
空間社のみなさんのお話を聞いて、それは暮らす人がここで何をするのか、どんな風景を目にするのか、思い描ける家づくりなんじゃないかと感じました。
たとえば、ダイニングからも見えるように、ゆるくつながりを持たせた独立キッチンで、気兼ねなく趣味の料理に没頭する奥さん。緑と光がいっぱい入るリビングで好きなコーヒーを飲みながらくつろぐ旦那さん。
てまひまをかけて、暮らす人の視点に立った家づくりをしているのが空間社だと思います。
今回募集するデザイナーは、リノベーションの相談受付から物件探し、設計、施工、アフターサービスまで一貫して関わることになる。
デザインや技術力だけでなく、お客さんの希望や考えを汲み取りながら形にしていくコミュニケーション力が要となります。ぜひ読んでみてください。
自由が丘駅からバスで10分ほど。住宅街の中に佇む一軒家が、空間社のオフィスです。
スタッフは現在7名。30代が中心で、若い人が多い印象だ。
「会社をすごく大きくしようとか、どんどん変化していきたいと思っているわけではないんです。大きくなりすぎて、誰が何をやっているかわからなくなると怖いので」
「自分が関わっていない物件も、竣工検査を兼ねてみんなで見に行ったりもしますし。これくらいの規模感で仕事をしたほうが、お互い良い刺激にもなると思います」
そう話すのは、代表の朝倉さん(写真右)。空間社は、朝倉さんと統括マネージャーの宮本さん(写真左)が一緒に立ち上げたところからはじまった。
朝倉さんは文学部出身。住まいや暮らしに関わることがしたいと、大学卒業後はゼネコンに入社し、事務員として働いていたそう。
「小さいころから人が生活する場にすごく興味があって。でも自分の仕事にしていきたいって思ったのは、本当に社会人になってからなんですよね」
「大きな会社だったので、自分が歯車の一つのように感じられて。建築を学んでいないから突っ込んだこともできなかったんです」
独学で勉強をしながら転職を決め、リノベーションの世界で宮本さんと知り合う。
宮本さんは、設計だけでなく営業から施工管理までを経験し、高校卒業後から今まで建築の世界で生きてきた人。
お互いに歩んできた道も環境もまったく違う。だからこそ一緒に仕事をすれば相乗効果が生まれるのではと、起業を決めたという。
10年目の今でも、設立当初から大事にしている想いは揺らがない。それはお客さんとのコミュニケーションを密にとり、暮らしをよくしていく、ということ。
ここからは宮本さんが教えてくれた。
「たとえば、クローゼットの服のしまい方や、コートは玄関で脱ぐのか、部屋に入って脱ぐのかというところも人それぞれ違う。みんなが普通だと思っていることが、意外と普通じゃないこともあるんですよね。そのあたりをいかに掘り下げられるかだと思います」
掘り下げるほど、必然的にお客さんとの打ち合わせ時間は長くなっていく。
それぞれの希望にあった家をつくりたいから、既成のパッケージはつくらない。物件探しの段階から同行するサービスも、家づくりの不安や疑問をなるべくその場で解消したいという思いからはじめた。
さらに特徴的なのが、物件が決まったあとの打ち合わせから、デザイナーと施工管理担当が一緒にプランをつくっていくこと。
「お互いに尊重しあいながら、施工サイドからも意見を言います。施工管理だから、デザイナーだからこれをしちゃいけないっていう役割の線引きははないです」
2人一緒にプランを考えることで、図面通りにいかないことも多い中古物件を扱う現場で柔軟に対応できたり、施工側からよりコストがかからないつくり方を提案したり。
なにより、設計段階でデザイナーと話していたことと実際に出来上がったものが違った、というギャップも生まれない。
どれもお客さんにとってはうれしいだろうし、知識がない人でも安心して家づくりができる仕組み。けれども、ここまで細やかに相手のことを考えながら向き合うのは、かなりてまひまがかかることだろうなと想像する。
「打ち合わせの数も多いほうだろうし、スタッフの労力も結構かかっていると思います。でもあえて手間をかけているっていう感じですかね」
「デザイン性だけでなく、より暮らしやすい家をご提案したいなと思うんです。正解がないので、ある人には満足できるものでも、違う人から見るとなんでこんなふうにしたの?って思うかもしれない。そこには、それぞれ意味や考えがある。すべて言われるがままにつくるんじゃなくて、そこを汲み取りながら+αの提案をしていきたいですね」
デザイナーとして働く羽室さんにもお話を伺います。日本仕事百貨を見て空間社に入社した方です。
学生時代は建築を学んでいたものの、卒業後就職したのはオフィスビルの管理会社だった。
「人の暮らしに密接に関わることがいいなって思って。オフィスビルってそこで働く人にとって毎日行く場所で、家よりも長く過ごす場所。そこが快適なら、その人たちの暮らしが満足できるようになるのかなと思って入ったんです」
だけど働くうちに、既に出来上がっている空間の中でサービスをつくっていくよりも、やはり空間そのものをつくるところからものづくりに関わりたいという気持ちが強くなる。
そんなときに、空間社でリノベーション工事をしたお客さんのお宅を公開するオープンルームの告知をみつけた。軽い気持ちで行ってみることに。
公開されていたのはマンションの一室。たまたま同時期に解体が予定されていたという青森のおばあさまの家に貼られていた青森ヒバを、内装材に再利用しているのが印象的だった。
「既製品だけを使うんじゃなくて、思い出の詰まったものを引き継いでいて。ほかにもご主人の作業スペースがあったり、本棚が壁一面にあったり。その人たちの暮らしが具体的にイメージできました」
「押し付けがましくなく、お客さまが大切にしているものを使ってみようとか、こういう趣味があるから活かしてみようって積極的に取り入れている感じがしたんです」
印象がよかったんですね。実際に働いてみて、ギャップはありませんでしたか。
「良くも悪くも、最初から一担当者として扱われます。どうしたいの?って聞いてもらえるのがいいところだけど、最初は自分がどうしたいのかもわからなくて」
「わからないなりにも考えて案を出したら、それに対して意見や指摘をもらえる。自分で『やってみよう』と動けないと苦しいかもしれません」
まずは誰かのアシスタントから、ではなく、空間社では入社後すぐに自分で案件を担当することになる。
わからないところは、2人一組で働く施工担当がフォローしながら仕事を進める。決して楽ではないけど、挑戦できる自由さがあるし、自分も大きく成長できるチャンスがあると思います。
なかでも、入社後すぐに担当した戸建てのリノベーションは印象に残っていると羽室さん。
「好きなお店やブランドが、明確にある方だったんです。でもそのテイストに合わせてみても、なかなかうまくはまらなくてヒアリングに苦労しました。聞いていると好きな部分はあるけれど、トータルで全部好きなわけじゃなかったんですよね」
「イメージをすり合わせるために、色はもっと濃いほうがいいですか、もっと滑らかな面がいいですか、とパーツを一つずつ切り取って話を詰めていく感じでした」
じっくり話を聞いていると、相手が求めていることの輪郭がはっきりしてくる。
最終的には、お店で見てかっこいいと思うものと、日常の暮らしのなかにほしいものにはギャップがあることがわかり、当初のデザインからは大きく変更することになった。
「何度もイメージを出し直して、大変だったんですけど。普段から感度が高くて、いろいろなものを見て知っているお客さまだからこそ、これいいですねって言ってもらえたときはすごくうれしかったです」
「最初から最後にお引き渡しをするまでお客さまと一緒にやっていくので、それが苦しくもやりがいにつながるところだと思います」
お客さんの希望を、ただそのまま形にするわけじゃない。深くまで探っていって、本当に必要としているものを提案する姿勢が求められます。
そのためのヒントは、日々の暮らしのなかにもあると羽室さん。
「今はまだ、プランニングの段階ですべてを汲み取れていなくて。着工してから、追加でここに棚がほしいっていう要望をいただくこともあるんです」
「でも自分が暮らしている中でも、洗濯機の洗剤がしまいにくいなとか、キッチンにエプロンをかける場所があったらいいのになと思うことがあって。そういうところから実際に使う人のイメージを膨らませて、要望をいただく前に自分から提案できるようになりたいですね」
休みの日には、さまざまなテイストを知るためにお店をまわって情報収集することも。
「仕事以外の時間も考えちゃうんです。家に帰ってからも、テレビを見ていてあのお客さまが好きそうだなって思ったり」
仕事とプライベートの切り分けは、自然となくなってきている印象でした。暮らしの中で使う人と同じ感覚を共有できたり、イメージを深められると、自ずと自分の引き出しも増えていくように思います。
一方で、思いを汲み取りながら働く姿勢は、お客さんだけでなく、ともに働くスタッフにも向いているよう。
「案件ベースで動いているので、忙しさの波は人によって違うんです。そのなかで互いに気配りができる人が多い気がします。事務所のゴミ捨てとかも、ルールが決まっているんじゃなくて、気づいた人がやっています」
ここで「働き方も柔軟にしていきたい」と朝倉さん。
「仕事がハードなぶん、社内のストレスはなるべくなくしたいんです」
「長い人生なので、いろんなステージがあると思うんです。結婚や出産、体調の変化。気持ちの面でも、今年はすごく働きたいとか、逆に少しお休みして自分の内面を深めたいとか。それぞれの想いに合わせて仕事量を調整していく柔軟性は持っていたいと思います」
社内には朝倉さんを含めて、子育てをしながら働いているスタッフもいる。相談しながら長く、健やかに働き続けることができるんじゃないかな。
空間社では、お客さんの暮らしに向き合いながら、自分の暮らしも豊かに、視野を広げていけるように思います。
ただなんとなく毎日を生きるのではなく、人との関わりや暮らしに興味を持ちながら丁寧に働いていきたいと感じる人へ、ぜひおすすめしたい仕事です。
(2017/3/16 並木仁美)