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森と海と明日に生きる

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

「なんで火がつかないと思う?」

普段なら目の前に用意されるだけのお昼ごはんも、ここでは自分でお米を炊くことからしなければならない。

「葉っぱが多いから?」「違う!」「じゃあ、火の入れる場所がわるいから?」「違う!さあ、考えろ!」

教えてもらうばかりが学びじゃない。やがて子どもたちは青い葉に火がつきにくいことを知る。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 空いた時間になると、子どもたちは自由奔放に野山や校庭を駆け巡る。

いつも大人気なのは、2匹の子どもを産んだばかりのヤギのベリンダ。

ニワトリを抱きたくても怖くてできなかった女の子。気付けばすっかり仲良しになっていた。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA ここは宮城県石巻市雄勝町(おがつちょう)にある旧桑浜小学校。

1923年の開校以来、地元の人たちからずっと愛されてきたこの校舎は、2013〜2015年にかけて約5000人の手によって改修されました。

いまや国内外から子どもや大人が集い、学び・交流する場「モリウミアス」へと生まれ変わっています。

運営する公益社団法人MORIUMIUSが新たにスタッフを募集します。

 
仙台駅から石巻市の中心市街地へは、車で約1時間。

そこから雄勝町へ行くには半島の山々を越えるために、同じ市内にも関わらずまた1時間を要する。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA まさに陸の孤島。山や海の恵みを得て生きてきたこの町は、2011年3月11日に起きた地震と津波によって大きな被害を被りました。

かつての目抜き通りだった場所は更地になり、いまは仮設のお店が数軒。山のほうでは、住宅を新設するための高台の整備が予定を遅れて進んでいる。

MORIUMIUS理事の油井元太郎さんは、震災直後からこの町に関わり続けてきました。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「MORIUMIUS代表理事の立花のご家族が被災して、避難所に入ったのがきっかけで。友人として何か手伝えることはないかと。もっと言えば、ニューヨークに住んでいたときに9.11を経験していて。大変な思いをしている人にできることがあればと、友人を通じて炊き出しに来ました」

石巻や女川、気仙沼、南三陸…. 宮城県各地を支援に巡り、最後にたまたまたどり着いたのが雄勝だった。

再開される中学校のために給食代わりのお弁当を毎日運んだり、仮設の集会所で放課後の塾を開いたり。やがて学校側への支援活動にシフトしていき、遠い避難先から地元の子どもたちを連れてきて、漁師さんの船に乗って魚を一緒に料理するような活動もしていた。

「きっかけは炊き出しだったんですけど、地元の子どもたちにそういう機会を提供するようになって、だんだんと雄勝との縁が深くなって。そのなかで最終的に、この学校と出会ったんです」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 少子化の影響で2002年に廃校となった旧桑浜小学校。卒業生たちが市から買い取り、11年間ずっと地元の方々に大切に守られていた。

それ以前も、PTAでお金を積み立て、学校の滑り台を寄贈したことがあったという。地元のお母さんたちは先生のごはんをつくるために毎日学校へ通っていたそうだ。雄勝の人に話を聞くと、地域との結びつきを色濃く感じさせるエピソードが次々と出てきた。

そして校舎が建つのは、目の前に海が広がり後ろに裏山があるという、独特で豊かな自然環境。

あらゆる要素から油井さんの頭に思い浮かんできたのが、前職で子どもたちに向けた1次産業を体験するプログラムを全国各地で開催したときのこと。

「僕らは高台に住宅をつくれるわけじゃないし、移住を促すのもそんな簡単じゃない。できるのは外に雄勝の魅力を発信して人を呼び寄せ、交流人口を増やすこと。雄勝は森と海がとても近い豊かな自然環境があり、住む人たちには自然と共生する知恵がある」

「ここで子どもたちがいろいろな体験をできたら絶対よろこぶだろうな。みんなから愛される校舎が甦えってまた子どもたちが集まるのも、住民の方々にとってすごくポジティブなことだろうなと思ったんですよね」

moriumius06 実は校舎の老朽化はかなり進んでいて、新築で建てたほうが早いし安いくらいだったそう。

国内外から資金的な支援を得て、建築家の隈研吾さんをはじめ、ボランティアや職人、地元の方々など総勢5000人と一緒に校舎を改修。

時間も手間もかかった分、新たな出会いもたくさんあり、そこからさまざまなアイディアが取り入れられた。

パーマカルチャーデザイナーの四井真治さんと一緒につくった、割った瓦を使って校舎から出た排水をろ過するシステム「バイオジオフィルター」。浄化された栄養豊富な水は校舎前の水田に流れ、田植えと稲刈りを子どもたちは体験する。

ほかにも、養鶏所でいじめられていたニワトリを譲り受けて堆肥小屋で飼ったり、地元の方の意見から裏山の竹を使って土壁の露天風呂をつくったり。いまもモリウミアスは進化の途中。

ここで体現するのは「自然と共に生きること」。持続可能で無理のない、生活の知恵を活かした昔ながらの暮らし。

それは多くの子どもたちにとってはじめての世界になる。プログラムを通じて、ときにはそこで知り合った友だちと一緒に自由に駆け巡り、あらゆることを学んでいく。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「自然には簡単に分からせてくれない難しさがある。考えちゃいけないんだなって。そこで子どもたちは『いただきます』の意味をやっと理解したりする」

「突き詰めていくと教育にはムダなことなんてなくて、どんなことでも子どもたちの刺激や学びになる。いろいろと考え準備してプログラムを実施しても、子どもはまったく違う視点を学んだりする。それを見て大人は逆に学ぶんですよね。上から目線で教育するんじゃなくて、大人も子どもも学び合うスタンスは大事だと思っています」

最近は、大人が宿泊できる施設が校舎の隣に完成し、これまでボランティアや企業研修などで来ていた人たちが再訪しやすくなった。

また海外の若手アーティスト向けにアーティスト・イン・レジデンスも実施。毎月入れ替わりで世界中からアーティストが集まり、校舎内は作品で溢れている。

年齢も国籍も背景もバラバラで多様な人たちがここへ集い、愛着を持って自分ごとのようにモリウミアスに関わり続けている。

取材の日に行われた味噌づくり。はじめは慣れない雰囲気でも、地元のお母さんが踊り出せば途端に打ち解け合っていった。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「身近に動物がいる、壊れたら直して使う、普段から歌を歌う。こういう豊かさは都会ではあまり見られないないこと。でも、それが本来の日本人の暮らし方だったんですよね」

「世の中が便利になり自然とかけ離れていくほど、その価値はより高まっていく。我々のやっていることは50年後にはもっと貴重なものとなり、世界中から子どもたちがやってくると思います。そこに身を置くのはチャレンジではあるけど、僕はモリウミアスと雄勝に将来の可能性をすごく感じています」

同じように、ここに何か可能性を感じる人に応募してもらいたい。

今回募集するのは、体験プログラムの企画から実施を担当する「学ぶチーム」スタッフと、宿泊者の予約管理や施設管理などを担当する「泊まるチーム」スタッフ。

いずれにしても少ない人数の団体だから、薪割りから新施設の立ち上げまで、担当に関係なくありとあらゆる仕事が降りかかってくる。

「私はいまでこそ日々楽しいですけど、転職したばかりのころは正直ツラかったんですよ。いろんな仕事が四方八方からやってくるし、中身も前職とは180度違ってなかなか慣れなくて。こういう環境だから休日もオンオフがないし」

そう話すのは、泊まるチームの引地奈美さん。スタッフや子どもたちからは「ピッキー」の愛称で呼ばれている。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA MORIUMIUSに加わったのは2015年の8月。以前は、静岡で無添加食品をつくる株式会社フルーツバスケットに6年間勤めていた。

転職のもともとのきっかけは3.11だった。実家は仙台。通っていた大学も福島にあり、いずれは家族や大切な人たちに手の届く範囲内で仕事をしたいと思うようになったという。

「クラウドファンディングを担当したときはギフトの設定から文章でつたえることまでしたし、大人向けの宿泊施設ができるときは家具家電を選んだりもした。日々進み続けるなかで発生する仕事は本当にいっぱいあって、そのごちゃ混ぜでカオスな感じを楽しいと思える人だったら、ここでの仕事も暮らしも楽しめると思います」

きっと、ほどよく手放せるような人だといいのだと思う。自然や子どもを相手にした仕事にはいろんなハプニングが付き物。それに抗ってカッカしたり、あれこれ考えて気が滅入ってもしょうがない。

引地さんはすっかり仕事にも慣れ、休日になるとご近所のおばあちゃん家へ行って、一緒にお茶を飲んだりするらしい。この日はミヤコおばちゃんにちゃんちゃんこをプレゼントされていた。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 引地さんは、新たにリノベーションした建物でカフェをはじめる予定だという。

もともとコーヒーが好きで、いつかはじめたいと相談したら、その建物の担当になった。ほかにも前職の経験を活かして、果樹園ができたらジャムづくりをはじめるかもしれない。

「そういう自由さとか、やらせてくれる環境がここにはあって。12月から2月までの閑散期はチャレンジの期間になっていて、自分が勉強したいことや気になるところがあれば、そこへ行くことができるんです」

油井さんは、MORIUMIUSを踏み台にして自分で事業をはじめるのは大歓迎なのだとか。地方で暮らすには大儲けする必要もないから、ここで働きながらひとりでやれる仕事をはじめてもらってもいいという。

「地元のおいしい鮭を鮭フレークにして商品化した料理担当のホヤは、それで自分の給料を稼ごうとするくらい。いずれMORIUMIUSの通販サイトをつくっても面白いと思いますよ」と油井さん。

ここで展開される多様な働き方は、子どもたちにとってもいい刺激になると思う。

学ぶチームの安田健司さんは、副業で漁師をはじめるそうだ。

moriumius11 安田さんは大学生のときに雄勝町に災害ボランティアで入り、2012年からは油井さんと活動を共にしてきた。

いまはMORIUMIUSに加えて、雄勝に対しての思い入れが強くなっているそう。

以前の活動で勉強を教えていた子どもたちは、そろそろ成人を迎える。いつか帰ってきたいと言ってくれた子どもたちのために、ここで暮らし生きていくための選択肢を探りたいという。

「モリウミアスで山村留学ができたらいいなと個人的に思っていて。雄勝の小中学校が今年の4月から統合されてスタートするのだけど、9学年で40人くらいしかいないらしく、町内の未就学児も数えるほど。だから数年以内に閉校する可能性があって。学校のないところに若い世代は住めないので、外から来た子どもたちがうちから通えるようになったらいいなって」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 一方で、まだまだ課題も多いという。

語り部や漁業体験、民泊などさまざまプログラムを行っているけれど、いま以上に子どもたちが漁村の暮らしの知恵や豊かさを感じられるようして、地域の人たちと子どもたちがより深く付き合える機会もつくっていきたい。

また、春休みには児童擁護施設の子どもたちとのプログラムがはじまったり、統合する地元の小中学校と連携し総合学習を行ったりと、モリウミアスを取り巻く環境は日々広がりを見せている。新しいつながりを丁寧に紡ぎながら、これまで培ってきたものと融合し昇華させていけるかが、これからは問われる。

ほかにも、まちの再生・発展に継続的に寄与するために、持続可能な事業を目指さなければならない。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA これからは一度立ち上がったものをブラッシュアップする期間が続くと思う。それは一見地味で、地道なことの繰り返しかもしれない。

だけど、そんな一つひとつの積み重ねが、雄勝や子どもたちの明日をつくっていく。

震災の傷はまだ残るけれど、ここは未来の可能性に溢れています。

(2017/3/17 森田曜光)