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金属でありながらまるで焼き物のようなたたずまい。重厚な見た目からは想像がつかないほど、持ってみるとその軽さに驚く。
江戸時代から歴史を紡いできた新潟・燕の金属加工技術と、チタンという先端素材が融合して、美しさと機能性を兼ねそなえた製品が生まれました。
つくりだしたのは、株式会社セブン・セブン。
ステンレス製器物や魔法瓶を中心に製造・販売を手がけ、2001年からチタン製真空二重構造のタンブラーの開発をスタート。その後自社ブランド『SUSgallery』を立ち上げ、金属の新しい表現や可能性を発信しています。
今回は、ステンレスやチタン製品を磨き上げる研磨職人と、職人たちによってつくられたものの魅力を伝えていく人を募集します。
ものづくりの現場と、SUSgalleryの直営店を訪ねました。
セブン・セブンの本社と工場があるのは、新潟県燕市。
東京駅から燕三条駅まで新幹線で約2時間。前日から冷え込み、雪が残る景色を眺めながら向かう。
燕三条駅から本社までは車で10分ほどで到着した。
ここでは、数百種類あるという商品の製造から出荷までをすべて一貫しておこなっている。
まさにMade in Japanのものづくり。
製造に関わる50人ほどの職人が、チームとなってつくっていく。
なかでも研磨は、美しい光沢を生みだす重要な仕事。
今、歳を重ねた研磨職人たちが、地域全体としてどんどん引退してしまっている状況なのだそう。
そんななか、仕事に誇りをもつ若い職人さんたちに出会いました。
いきいきと仕事の話をしてくれたのは、川上徹さん。3年前からこちらで働いている。
出身は新潟。以前は東京のゲーム制作会社で、朝から晩までパソコン相手にデザインの仕事をしていたそう。
転職を考えているときにセブン・セブンの求人を見つけた。
「小学校のときからプラモデルをつくるのが好きで。プラモデルって、やすりで表面処理をして下地をつくり、塗装するというもの。基本的な考え方は研磨の仕事に近いんです。もしかしたら、昔から続けてきたことを活かせるかもしれないと思って」
「ただやってみると、プラスチックと金属では全然違いましたね。はじめからトライアンドエラーでした」
一体どんな仕事なのだろう。
まず必要となる道具が、バフという円板状のやすりと、摩擦によって生じる熱で金属が焼けるのを防ぐ研磨剤。
研磨剤を塗ったバフを機械で回転させ、そこに商品を押し当てて磨いていく。
磨き方は、下地づくりと仕上げの大きく2つの手順に分けられる。
さらに仕上げにも、「ヘアーライン仕上げ」や「ミラー仕上げ」といった種類があるそう。
工程や素材に合わせて、バフや研磨剤の組み合わせを決める。
次は機械を稼働し、磨いていく。そのとき気遣う点はたくさんある。
「バフの回転速度はこのぐらいにして、商品はどのぐらいの角度で当てて、力のいれ方はこのぐらいで…とか」
「本当に微妙な違いなんです。最適なやり方を試行錯誤して見つけていきます」
商品の種類はたくさんあるから、次に同じ仕事をするまでに1ヶ月の間が空くこともある。毎日同じことを繰り返すというより、感覚を研ぎ澄ませてモノと向き合う仕事のよう。
「僕の場合はうまくいったときの感覚を忘れないために、メモを残しておきます。次にやったときに前回よりもきれいに早く仕事が終わると、うれしいですね」
そう言って、最近あったエピソードを教えてくれた。
「パーツとパーツの溶接部分を研磨して、接ぎ目が見えなくなるまで平滑にする作業があって。目の粗いバフで削るんですけど、接ぎ目の溝が深くてなかなか難しい」
どうすれば早くきれいに仕上げられるか。少しずつ方法を変えながら調整していった。
「そうしたら、品物をバフに思いっきり押しつけたほうがよさそうに思えて、意外と違ったんです。バフについた研磨剤を商品全体にまんべんなくつくようにして、次にちょっと力を入れて商品を回しながら押し当てると、溝の線が消えたんですね。『おっ、これだな』と思って」
「手の感覚が大事な仕事。奥が深いです」
まだまだ修行中だという川上さん。目標は、この道60年のベテラン職人より早く美しく仕上げること。
「プラスαのこだわりがあると、より高いレベルまでいけると思うんです。お客さんが商品を手にとったとき、つっこみどころがないくらい『きれいだな』と思えるようなものに仕上げたい。それは常に心がけています」
もう一人紹介したいのが、藤﨑孝則さん。未経験からはじめて、もう10年が経つ。
川上さん曰く、藤﨑さんはメモを取らなくても、やり方が頭の中にたたき込まれているんだとか。
けれどもそれは、地道な積み重ねによって染みついたもの。
「頭で考えるよりも体でやることだと思うから。うまくいかないなぁと思いながら、仕事の合間をぬってよく練習しています」
チタンを研磨するときには火の粉が飛ぶこともあるし、夏場は汗がにじんだ顔に、鉄の粉がついて黒くなったりするという。
ふと藤﨑さんの手元を見ると、爪の間には日々の仕事の痕跡が残っていた。
現在藤﨑さんは、5人いるチームをまとめる存在。
自分の部署だけではなく、最近はほかの部署の新入社員にも声をかけているそう。ものづくりの輪に入りやすいように、まわりの人のことまで考えている様子が感じられた。
ものをつくることが好きで夢中になれる人だったら、静かに熱く日々の仕事に向き合う人たちのなかに馴染んでいけると思います。
職人さんたちがつくりだす商品をお客さまへと発信する場のひとつが、SUSgalleryの直営店。
ステンレス箔が押された壁面と、再利用した木材でつくられたディスプレイの棚。やわらかな眩しさと懐かしさに包まれるよう。
そんな空間にたたずんでいるのが、チタン製真空二重構造のテーブルウェアシリーズ。
写真に写っているのはボトルキーパー。中を覗くと、水や氷は入っていない。
不思議に思って見ていると、販売スタッフの髙橋りほさんが声をかけてくれた。
「チタンの真空二重構造になっているので、保冷性に優れています。4時間ほど前に冷蔵庫から出してボトルを入れておいただけですが、結露もなくこのままお楽しみいただけます」
「冬場は鍋が近くにあっても、1時間程度であれば冷やした日本酒も楽しめますよ」
内側の熱を外に伝えないから、冷たいものだけでなく熱い飲み物を注いでも、手にやさしい温度で持つことができる。
「また、チタンは錆びにくく耐久性にも優れているので、長く愛用できます。不思議な発色方法も魅力の一つで、着色しているのではなく、表面の酸化被膜と光の屈折によって色の見え方が変わるんです」
「高価ではありますが、それだけの価値を秘めていると思います」
髙橋さんが最初にSUSgalleryを知ったのは日本仕事百貨の記事だった。
なにより惹かれたのは、質感やフォルムの美しさと機能性を備えた商品の存在。
「こんなに美しいものを伝えていく仕事に、自分も関わりたい!と思いました」
新潟出身だったことに加え、大学時代に金属作品をつくっていたこともあり、その想いは強かった。
ただ、当時は採用につながらなかった。その後2年間、美術館で学芸員を務めるなかで、働き方に疑問をいだくようになっていった。
そんなときに思い出したのが、SUSgalleryだった。
もう一度アタックした結果、昨年9月から店頭に立っている。
普段どんなふうにお客さんに接しているのだろう。
「プレゼント用に購入されるお客さまが多くいらっしゃるんですね。そういうときはまず、贈る相手がどんな方なのかをお聞きします」
たとえば、手の大きさや好みの色。サイズやカラーバリエーションが豊富にあるなかから、相手に合うものを見つけていく。
「それから、好きな飲み物はお茶なのか、コーヒーなのか、それともお酒なのか。一度にたくさん召し上がるのか、少しずつ飲まれるのか。一つひとつ確認しながら、おすすめのものを紹介しております」
高価なものだからこそ、疑問や不信感がない状態で買ってほしい。
説明だけではなく、実際に氷の入ったグラスを手に取ってもらったり、ときには熱いお茶を注いだグラスで試飲してもらったりするのだそう。
「実際に見ていただいたり、触っていただく機会をいかに多くつくるかということを大事にしています。それは、お客さま自身で魅力に気づいてほしいから。どなたに対しても精一杯の手を尽くします」
お客さんへの丁寧な受け応えが、思わぬ出来事を生むことも。
髙橋さんが、ある女性のお客さんとの話を教えてくれた。
「あまり興味がなかったのか終始クールなリアクションでしたが、普段と同じようにご紹介しました。そのときは購入されずにお帰りになったけれど、1ヶ月後、そのお客さまがふたたびお店にいらして」
初回と違ってじっくり商品を見ている様子だった。声をかけると、実は恋人へのプレゼントを探しに来たという。
髙橋さんが、贈る相手について話を聞きくなかでおすすめしたのは、ビアタンブラー。裾がすぼまっていて持ちやすく、高さがあるのでビールの泡立ちも良い。
「質感の違う3種類を実際に触ってもらって。お客さまが選んだのはマットという種類。マットは表面の表情に個体差があるので、在庫のものとも見比べながらいちばん気に入ったものに決めていただきました」
会計の直前、あらためてお客さんから声をかけられたそう。前にも一度来たことがあったけれど、そのときはまったく買うつもりはなかったんだ、と。
「『でも、お姉さんのあまりに楽しそうな姿は印象に残っていて、紹介してくれた製品なら、プレゼントにいいかもしれない。そう思った』と、おっしゃったんです」
「その言葉を聞いたときは、『はぁ、よかったぁ』と、すごくうれしい気持ちになりました」
いろんなお客さんが訪れるなか、一人ひとりに対してどういう言葉やアクションが響くのだろうかと、日々考えながら接していく。それが、難しくもあり面白いところでもあると話す髙橋さん。
どんな人が向いていると思いますか?
「やっぱりSUSgalleryの製品を好きでいてくれるというのは、外せないのかな。好きだからこそ、嘘いつわりなくお勧めできるんだと思います」
一人ひとりのお客さんと向き合い、お客さん自身にものの魅力を体感してもらいながら魅力を伝えていくこと。
ものの違いを繊細に感じ取りながら、美しく磨き上げていくこと。
どちらの仕事も、肌感覚を通して、ものや人と関わっていくことが大切にされていると思いました。
気になった方は、まずは自分が見て触れて、感触をたしかめてみてほしいです。
(2017/04/20 後藤響子)