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どんな作物にも原生地があります。
それぞれの原生地に近い環境で育てることで、その作物が本来持つ力を最大限に引き出す緑健農法。
株式会社りょくけん東京の扱う作物は、どれもこの考えのもとに育てられた野菜や果物ばかりです。
「日本が原産の作物って、何があるかわかります?」と、代表の大森さん。
うーん…。米は、違いますよね?
「違うんです。平たく言えば、ほとんどないんですよ。わらびとか、山菜系ぐらいのもので」
では、日本で今食べられている野菜はどこからきたんでしょう?
「たとえば、トマトは南米アンデスの高原。肥沃でないカラカラな土地が原生地です。ほかの作物も原生地を見ていくと、その多くは厳しい環境にあります。種を守り、子孫を残すために立派な実がなるんですね」
「りょくけんでは、トマトならトマト本来の力を引き出すために、水や肥料を極力やらず、雨に当たらないようハウスのなかで育てていくんです」
なんとなくかわいそうな気もするし、それでちゃんと育つのか心配な面もある。
たしかに収穫量は減るものの、厳しい環境によって本来の持ち味を引き出された野菜たちは、日持ちもよく、何よりおいしいんだそう。
そんなりょくけん東京の青果は、松屋銀座内の店舗で購入することができます。
30年以上前から通販も行っているそうで、顧客として著名な方も名を連ねているのだとか。
今回募集するのは、松屋銀座店の販売スタッフ。りょくけん東京全体の売り上げの3分の2をこの店舗が占めるだけに、重要なポジションといえます。
接客の経験や、野菜・果物に関する知識はあるとうれしいけれど、なくても心配はいらないそう。大森さんをはじめ、スタッフは野菜と果物が好きな人ばかりだし、教わるうちにその奥深い世界へどんどん引き込まれていくはずです。
東京・銀座の一等地。松屋銀座の地下一階を訪ねました。
青果をずらりと並べたコーナーと、それらを使ったお惣菜のコーナー。りょくけんの四角い売り場は、デパ地下にありながら八百屋さんのような、独特な存在感を放っている。
色とりどりの野菜や果物を前に、大森さんはいろんな話をしてくれる。
「昔から『稲は主人の足音を聞いて育つ』と言うように、農家さんがどれだけ足を運んで面倒を見るかによって、農作物の出来は変わってきます。畑を見れば一目瞭然です」
「りょくけんでは、生産者さんのもとを直接訪ね、自分の目で畑を見る、ということを一軒ずつ行っています。創設者の永田さんは放浪が好きで。旅先でいい畑を見つけると『この畑の持ち主は誰?』とヒアリングし、農家さんとのつながりを広げていったみたいです」
冒頭に出てきた農法は、りょくけん創設者の永田照喜治(てるきち)さんによるもの。
原生地を知り、日本の四季や風土を知り、つくり手を知る。
永田さんが大切にしてきたことは、現在まで脈々と受け継がれてきている。
「どうぞ、飲んでみてください」
そう言って大森さんが手渡してくれたのは、無添加の特選トマトジュースだ。
口に含んだ瞬間、濃厚な旨味と甘味が一気に広がる。調味料は一切入れておらず、まぎれもなくトマトだけの味なのだけど、今までにこんなトマトジュースは味わったことがない。
「ジュースに使っているトマトは、北海道の中野さんという方がつくってくれています。中野さんはもともと、さくらんぼ農家でした」
え、さくらんぼ農家ですか?
「トマトをつくってほしいということで、説得して。なんでかっていうと…野菜のお値段って、何で決まると思います?」
収穫量、ですかね。
「そうです。豊作貧乏と言って、たくさんとれる年は質もいいんですけど、安くなっちゃうんですよ。逆に凶作だと、値段はばーんと跳ね上がります。つまり、質にはあまり左右されないことが多い」
「果物の場合、それがちょっと違っていて。基本的においしければ単価がとれるんです。りょくけんとしては『質の高いトマトをつくりたい』という想いがあったので、その部分で中野さんと合致したのが大きかったですね」
もちろん、北海道の気候や土地などの条件がよかったのも理由のひとつ。ただ、最終的には、農家さんと想いを共有できるかどうかが鍵になる。
「たとえばジャガイモは、年間通じて一箇所で供給することも可能なんですけど、うちでは常に一番おいしい時期のものを扱いたい。今の季節に沖永良部島でつくりはじめて、長崎、浜松、石川県の能登島、北海道というふうに、季節に合わせて仕入先もだんだん北上していくんです」
適切な時期に、適した土地で、最適な作物を、大事に育ててくれる人のもとで。
付き合いが続く農家さんは、こうした考え方に共感してくれる方ばかりだそう。
いい顧客といい農家さんに囲まれて、順調に業績を伸ばしているようにも見えるりょくけん東京。
その一方で、うまくいかないこともたくさん経験してきたと、大森さんは振り返る。
新卒当時、まさに伸び盛りのファーストリテイリング社に入社した大森さん。厳しい環境で鍛え上げられ、1年で店長に。店舗経営の基礎は、そこで培ったという。
「あるとき、社内公募がかかって、食品をやろうと。こだわりの農法でつくった野菜や果物を販売しようという話になって、すぐに手を挙げました」
子会社のFRフーズに移り、満を持して青果の販売店「SKIP」をオープン。しかし、実働1年足らずで解散することになってしまった。
途方に暮れる大森さんは、妹の留学先であるチュニジアへ。
得意の外国語を活かして海外で働く道も考えたものの、ラクダを引きながら炉端で懸命に商売する現地の人たちの姿に、「このまま負けていていいのか」と再び火がついたそう。
「帰国したら、FRフーズの社長から『りょくけんが松屋銀座に出店を依頼されているみたいだぞ』と聞かされて、それは俺がやりたいと。すぐに浜松のりょくけん本社まで行き、当時の社長と会って、6時間しゃべり続けましたね」
かつてSKIPの一号店を出したのも松屋銀座。一度失敗したからこそ、次こそはその苦い経験を活かしたいという想いがあった。
周囲を説得し、りょくけんに入社した大森さんは、さっそく松屋銀座店の立ち上げに取りかかる。
「SKIPでは青果のみを扱っていたこともあり、客層が限定的でした。その一方で当時伸びていたのは、RF1さんのようなお惣菜。多くは肉やエビが主役です。だったら、野菜だけを使って本当のサラダ惣菜をやろうということで、1から開発して」
当初、店舗売り上げの3分の1もいかなかった惣菜は、いつしか売り上げの半分以上を支える存在になっていった。
勢いに乗ったりょくけん。横浜のたまプラーザや渋谷ヒカリエにも次々と新店舗をオープンし、さらには自社農場も構えることに。
ところが、この選択が仇となる。
「出店に加えて自社農場を構えたことで、人件費や維持費など、コスト高の状態になってしまって。一時は100名近くいたスタッフも、やむを得ず大幅に解雇した過去があります」
その後、通販部門と松屋銀座店の小売部門のみが切り離され、りょくけん東京として独立。3年前に大森さんが代表となってからも、紆余曲折を経て今に至るという。
「この2、3年、苦しい時期を一緒に乗り越えてきたスタッフがいます。ぜひ話を聞いてあげてください」
そんなふうに大森さんから紹介されたのが、販売スタッフの赤星さん。
どんな経緯でりょくけんに?
「もともとりょくけんの日替わり弁当を買ってたんですよ。近くでバイトしていたので、その帰り道に。いつもメニューが違って、一度として同じものがないんです。それが毎日の楽しみだったんですね」
バイト先が閉店したのをきっかけに、りょくけんで働きはじめた赤星さん。家庭の事情もあって一度退職したものの、大森さんに声をかけられ、再びこの松屋銀座店に戻ってきた。
「基本は接客ですね。立ち仕事ですし、重い荷物を運んだりすることもあるので、体力はいるかなと思います」
「あとは、こういう商品を仕入れませんか?とか、こういうパッケージにしませんか?という提案は通りやすい職場かなと。社長との距離感も近いですし」
週に3、4日は大森さんも店舗に出ているそうなので、直接やりとりもしやすいと思う。
店頭で一緒に働く仲間も、ロックバンドのボーカルや舞台人など、個性豊かな人たち。キッチンスタッフもみな経験豊富で、頼りになる方ばかりだそう。
「吸収力がある人だと楽しいかな。あとはやっぱり前向きな人。わたしも話すのが得意ではなかったんですが、どうやら接客は好きみたいで。自分でも驚いてるんです(笑)」
「お客さまもおおらかで、待ってくださる方が多いですね。あたたかい雰囲気を感じられると思います」
常連さんもいらっしゃるんですか?
「そうですね。毎日のように来てくださる方もいらっしゃいますし、野菜や果物を気に入ってくださった方は、旬の季節になると『そろそろだよね?』と連絡をくださったりもします」
「うちではちょっと変わった野菜も扱っていますが、『こうやって食べるとおいしいですよ』とレシピをお伝えすることで、購入いただくきっかけになることもあります。口でいろいろ説明するのも大切ですけど、食べると一番印象が変わりますから」
赤星さん自身、普段からなるべくりょくけんの野菜を食べることにしているそう。「自分が食べたものは、心から出た言葉で伝えられるから」だという。
「細かいことを言うと、入荷日によっても味が違いますし。同じ野菜でも、いまひとつな時期は正直に言いますよ。『あなたたち、正直なのね』と言われることもあったり。いつでも一番おいしいものを食べていただきたいですからね」
大森さんも赤星さんも、熱烈に語りはしないけれど、言葉の端々に野菜や果物を好きな気持ちが感じられて素敵だなあ。
新しく入る人も、知りたいという気持ちさえあれば、知識は自然とついてくるはず。
というより、ここにいたら知りたくなってしまうと思う。
最後に、大森さんから一言。
「みなさんに、いいものを食べてもらいたい。なんでかというと、心と体は食べるものでできると思うからです。うちは肉魚は扱わないですけど、野菜と果物で表現できたらなと思っています。そこに共感してくださる方に扉を叩いていただけたらうれしいですね」
帰りがけにお惣菜を買ったら、「パイナップルは好きですか?」とおまけをつけてくれた大森さん。
こんなやりとりが生まれるのも、地域の八百屋さんのようでなんだかうれしい。
野菜が好きな方。心と体にいいものを届けたい方。
りょくけん東京で、その想いを発信しませんか。
大森さんの綴るブログ「りょくけんだより」もとても面白いので、よければあわせて読んでみてください。
(2017/5/22 中川晃輔)