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「私たちは世の中の流行や値段に合わせるのではなくて、自分たちの着たい服をつくっています。さりげなく、心地よく。一方で、日本でものづくりを続けていくことの厳しさも知っている。その両面があってのevam evaなのだと思います」
今回は、ショップ、レストラン、ギャラリーから成るevam eva山梨店のスタッフ、そして本社や全国の直営店で働く人を募集します。
evam evaで働く人たちに会いに、山梨店を訪ねました。
東京から電車で甲府駅へ。2両編成の身延線に乗り換えて、30分ほどで東花輪駅に到着。
そこからさらに車で15分ほど走ると、空と山がすぐ目の前に広がる。

思わず深呼吸すると、澄んだ空気が心地いい。
evam eva yamanashiの看板を見つけ車を降りた先には、大きな長屋門があった。

まるで日常から切り離されたような、落ち着いた雰囲気。

「もともとは竹藪でした。たまたまそばを通りかかったときにパッと目に入って。その瞬間『お店はここで開きたい』と思いました。緑が元気で、今は草刈りが大変ですね(笑)」
そう笑いかけてくれるのは、社長の近藤和也さんとデザイナーの尚子さん。
近藤ニットは、昭和20年に尚子さんのお祖父さんが山梨で創業したニット会社。以来、OEMによるニットの生産を中心に経営していた。
お二人が入社した20年ほど前は、ニット製造業の転換期だったと和也さんは話す。

その流れは止まることを知らず、やがてニットの売値は急激に下がっていった。
気がつくと、国内にはロットの小さいものや、納期が極端に短いものしか残っていなかったという。
「2ヶ月先に会社が残っているかどうかも、まったく分からなかった。けれど今つくっている商品は3週間後、いやもっと早くに納品しないといけない。息切れして去っていく同業者もたくさん見てきました」
このままでは、日本でものづくりは続けられない。どうするべきか、何度も思い悩んだという。
「選択肢は2つ。1つは、自分たちも海外に工場を移して海外製として生産を続ける。そしてもう1つは、日本に残って価格ではないところに価値をつくり出す」
近藤ニットが選んだのは、後者だった。
「工場も技術も人も、すべて日本にあったから、どうしても日本でつくり続けたかった。そのために立ち上げたブランドが、evam evaでした」
和也さんも尚子さんも、それまでファッション業界は未経験。すべてが手探りのなか始まった。
生地に使う糸はすべて自分たちで選ぶ。丁寧な縫製が必要なパーツの継ぎ目は、手作業で縫い合わせていく。検品も一品ずつ手作業で行い、風合いを出す洗濯も工場で行う。
商品はもちろん、空間にもこだわった。全国に16店舗ある直営店は、なんと一つとして同じデザインはないのだという。

原点である、自分たちでつくり、自分たちの手で届けるという想いは今も変わらない。
「evam evaはものづくりを続けていくためのブランドです。日本でものをつくるということは厳しいことだけれど、それでもつくり続けていく。一見柔らかなevam evaはそんな思いも秘めています」
続いて、デザイナーの尚子さんにも話を聞いてみる。
evam evaの服は、どのように生み出されているのでしょうか。
「わたしたちは流行や値段といった、いわゆるファッションブランドらしさとは異なる立場をとっていて。自分たちが思うもののなかで、ものをつくっているのです」

「そう。自分たちが着たいとか、気持ちいいと感じられるもの。反対に、それしかつくれない」
「ここ山梨で生活するなかで、ふと目にする山の景色や、吹き抜ける風を気持ちいいと感じる。そういった感覚を、服に反映しているような気がしています」
山梨店は、そんな感覚をかたちにした場所だという。

服を扱うショップだけでなく、ギャラリーとレストランを設けて自分たちが好きなもの、お勧めしたいものを置いたのも、“evam evaらしさ”を伝える手段の一つなのだろう。
「evam evaの服を着るように、食事や空間を楽しんでもらいたいと思っています。気負わずに、さりげなく、心地よく。スタッフは、そのために頑張ってくれています」
山梨店で働く人たちは、どのように感じているんだろう。
まず紹介したいのが、レストラン「味」のホールスタッフとして働く渡邊さん。
何気なくはじめたアルバイトをきっかけに、飲食業の面白さにのめり込んでいったのだそう。

「もちろん食に携われる喜びもあります。けれど飲食店のいちばんの魅力は、お客さまがゆっくりと時間や空間を楽しむお手伝いできることにあると思っていて」
evam evaの考え方に自然と寄り添っている渡邊さん。その背景には、以前働いていたお店での出来事があるようだ。
「以前は、素敵な空間で評判の飲食店で働いていました。わたしもお店でゆっくりしてもらえることがうれしかった。けれど責任のある立場になるにつれて、いつの間にか回転率ばかりを考えるようになっていました」
「気づけば『次のお客さまが待っているのに、誰も席を空けてくれない』と思うようになってしまった。そんな気持ちがお客さまにも伝わってしまう気がして、思い悩んで退職したのです」
ちょうどそのころ、山梨店のレストランスタッフの募集を知る。
「ああいう服をつくるブランドが運営するレストランはどういうものなのかと気になって。迷ったけれど、もう一度飲食店に立ちたかった。思い切って応募することに決めました」
実際に働きはじめて、自らの心境の変化に驚いたのだそう。
「ここでは、お客さまに空間を楽しんでもらうことをいちばん大切にしているのですね。わたしも、お客さまが食事を済ませてすぐに帰られると『長居されずに帰ってしまった、何か悪いことをしてしまったかな』って思うようになって」
そんなふうに思っているなんて。今までとは正反対ですね。
「そうですね。この間は、『お茶を楽しんでいたら知らない間に3時間も経っていました』とお客さまがおっしゃっていたのが印象的で。思わず嬉しい気持ちになりましたね」

「空間を壊さない身のこなし方、というのでしょうか。それにはまだまだ苦労しています。たとえば、お客さまに空間を楽しんでもらうためのサービスと、馴れ馴れしくするのは違いますよね」
「もしわたしが一人のお客さまとずっと話し込んでいたら、他の方はいい気持ちはしないと思います。さっと身を引くように目立たず、けれど心地よいと思ってもらえるサービス。それは今でも勉強中です」
スタッフの行動次第で、空間の印象は変わるのだと思う。
「それはよく他のスタッフとも話しています。お皿の下げ方から食事のご案内まで、もっと居心地のいい空間にするためのアイデアはまだまだあるはず。新しく入ってきてくれる方も、一緒に考えていけるとうれしいです」
最後に話を聞いたのは、ショップ「色」と、ギャラリー「形」の店長の石川さん。
以前は、日本発のファッションブランドで販売スタッフとして働いていたという。evam evaを選んだ理由をたずねると、こう教えてくれた。
「以前働いていたブランドのニットがきっかけです。ほかの商品はすべて日本製だったのですが、ニットだけが海外製で。『こんな素敵なニットも、もう海外でしかつくれないんだな』とショックを受けましたね」

「だんだんと、こだわりの強い服から生活に近い服に惹かれるようになって。evam evaは、日常に溶け込んだ服で、日本でものづくりをという思いもある。これは、とピンときたんですね」
働いてみると、evam evaの服をファッションというよりも生活の一部として捉えるお客さまが多いことに気づいたそう。
「お客さまの生活に対する意識が深くて、evam evaの服も衣食住の延長として共感してくださっているように思います。興味や関心の方向がわたしたちと近い気がしていますね」
「そのぶん、販売以外のことも見えていないといけないのかな、とも思います」
販売以外のこと。
「たとえば、ここは工場から一貫してものづくりをしています。実際に工場まで足を運び、商品の背景を知ったうえで、自分の言葉でお客さまにお伝えすること。これも大事な仕事の一つです」
タグには書かれていない、コットンやリネンの生産地を尋ねられることもあるとか。

ものを売るというより、伝えるというほうが近いのかもしれない。
「かといって思いや知識を押しつけてしまっては、台無しになってしまいます。お客さまと会話をしながら、自分の知識の引き出しを一つひとつ出し入れしているようなイメージですね」
商品の点検も毎日欠かさないのだそう。
「お店に出ている商品は、1点限りのものがほとんどです。よく見ないと気づかないような傷でも、すぐに本社で直してもらいます。自分が気になるものはお客さまも気になるはずです」
「工場でつくったものが、お店や接客で残念なものになってしまわないように。さりげなく、けれど自信を持ってお渡ししたいと思っています」
優しく穏やかな語り口からは、つくる人の思いや熱も背負っているように感じます。
「だからこそお客さまから『また来ます、ありがとう』と言われるのが、いちばん嬉しいのかもしれませんね」
取材を終えて、あらためて山梨店を歩いてみる。
柔らかい雰囲気の中に凛としたものを感じるのは、ここで働く方たちの熱が静かに息づいているからなのかもしれない。

(2017/8/18 遠藤真利奈)