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家族に買ってもらったあの日から、思い出を積み重ねてきたランドセル。社会人になった自分へ、プレゼントに買った鞄。
日々使い込むことで深みある質感に変化し、持ち主の生活に馴染んでいく。
そんなふうに長く使っていきたいと思うモノとの出会いや、その先に続いていく時間に寄り添っているのが、土屋鞄製造所。

ここで、店頭に立ち、想いを広げていく人を募集します。
平日の午前10時前。日暮里舎人ライナー・西新井大師西駅を出て階段を降りると、のんびりとした空気が漂う。
歩いて数分のところに土屋鞄製造所・西新井本店はあった。

オフィスにおじゃまして、レンガづくりの壁をした会議室に案内してもらう。
話を伺ったのは、店舗全体をまとめる役割である、店舗運営部・課長の酒井昌史さん。

子どもたちが6年間をともにするランドセルだから、丈夫で、ずっとお気に入りのままでいられる上質なものを使ってほしい。
150以上のパーツから300以上の工程を踏んで一つひとつ手づくりするランドセルには、職人たちのそんな想いが込められている。

品質のいい丈夫なもの、飽きのこないシンプルなデザインという手仕事へのこだわりは一貫している。
日常のシーンに合わせた製品を紹介していることもあり、大人用の革製品を愛用するお客さまも少しずつ増えていった。
10年前は3店舗だったお店も、今ではランドセル専門店である童具(どうぐ)店と大人向けの革製品をあつかうKABAN店と合わせて、全国21箇所に展開している。

温度感、というと?
「職人が手仕事に込める気持ちや技。そういう人の温かみというか。お客さまに愛着をもって製品を使っていただくためにも、そういうところまで含めてお渡ししたい」
「もっといえば、選ぶそのときの時間も、楽しい思い出として残してもらえたらと考えています。自信をもってお渡ししている製品だからこそ、お客さまには心地いいと感じられる空間でじっくり見ていただきたいんです」
そんな想いはお店づくりにも表れている。
たとえば童具店は、駅から徒歩10分以上かかる立地のお店が多い。それは、ベビーカーを押したり、お子さまと手をつないで歩いたりしても安全なように、道幅が確保される通りを選んでいるから。
あるお客さまは、「おじいちゃんと手をつなぎながら桜並木沿いを歩いて行ったのが思い出です」と、大きくなって来店したときに話してくれたそう。
足を運んでもらうお店は、空気感を大事にする。
店内は、木やレンガなどの素材で内装されていて、長く使えるモノのイメージを表現している。
会計カウンターは、加工をほとんど施していないヌメ革製で、よく手が触れる部分の色が変化していくのがわかる。

さりげなくも心遣いがゆき届いているのが感じられる。
さらに、工房が併設されている西新井本店と軽井澤工房店では、職人がランドセルをつくる姿を実際に見ることができる。それを目的に、遠方からわざわざ見学に訪れるご家族もいるそう。

体験を含めた、モノの周辺にあるコトまで届けているよう。
店頭に立つスタッフも、お店の空気感をつくるのに欠かせない存在だ。
製造から販売まで自分たちで一貫して行なっているうえに、新入社員は全員が工房で研修を行い、自らものづくりを体感する。
「職人たちの想いやつくられるまでの過程、できあがった製品の質のよさを知ったうえで、お客さまといちばん身近に接するのが販売スタッフ。自分の言葉や立ち振る舞いをもってお客さまにお伝えできるからこそ、重要な役割になります」
実際に、お客さまとはどんなふうに接していくのだろう。
西新井本店で店長を務める小田俊之さんに話を伺う。

革はそれぞれに違う表情があるから、たとえ同じ製品でも、より気に入ったものを選んでもらえるように複数の製品を紹介することもあるそう。
会話のやり取りのなかで、つくり手のこだわりのポイントや、手入れの仕方なども話していく。
それができるのは、勉強して知識を身につけているだけでなく、自分自身が製品を愛用して使い心地を知っているから。
「持ち主の使い方によって味わいにも個性が出て、自分だけの相棒みたいになっていくんです。自分が惹かれたところを素直に伝えることで、お客さまにも製品を使ってみたいと思ってもらえるのかなと感じています。自分が好きじゃないと伝えられないですね」
自分ごとのように接していくと、「今日は小田さんいますか?」「小田さんはどう思う?」と、頼りにしてもらう場面も生まれていくそう。
ランドセルを使っていたお客さまが社会人になって名刺入れを買いに訪れたり。鞄を買ったお客さまが、お子さまが生まれてから、おじいさまおばあさまと一緒にランドセルを見に来てくれたりすることもある。
ここにはモノだけでなく、人とも長く付き合っていける関わり方があるようです。
続いて、童具店・横浜に勤める對馬(つしま)かおりさんにも、お店での接客の様子を聞かせてもらいました。

「たとえば、活発に遊ぶお子さんだと伺ったら、表面に凹凸加工していて傷が目立ちにくい牛革のものを提案します。通学に時間がかかるから負担を減らしたいとおっしゃっていれば、軽くて柔らかい素材のクラリーノ®をおすすめします」
それぞれのお客さまが重視することに沿って提案していくのは、KABAN店と共通しているよう。
それから、仕事のなかで難しく感じる点として共通していることもある。
それは、お客さまからの期待が大きい分、ときには在庫がなかったり、注文が間に合わない状況が出てしまうこと。手づくりだから、ランドセルも革製品も大量生産できるわけではない。そのことを理解してもらうことが必要だという。

「お住まいが横浜店のすぐ近くで、土屋鞄の製品を親子で愛用してくださっている方がいらっしゃって。お子さま向けのワークショップに何度も通ってくださるんです」
「先日はその方が、来年小学校にあがる下の妹さんのランドセルを選びに来店されて。お姉ちゃんも一緒で、『柔らかくなって使いやすくなったよ』と変化の様子を話してくれました。土屋鞄を生活の一部にしてくれる方がいることが、すごくうれしいですね」

「最初は高級なお店なのかなと思っていたんですけど、入ってみたら、穏やかな空気感があってリラックスできました。工房からミシンのダダダダダッという音や木槌でトントンと叩く音が聞こえてきたりして」
「ものづくりが好きだったこともあって、こんな空間にいられたら素敵だな、自分もその雰囲気をつくる人になりたいなと思いました」
大学生だった3年前からアルバイトをはじめ、大学卒業後も本店と自由が丘店で約2年間経験を積んだ。
昨年6月に契約社員となり、今年4月には正社員へとステップアップした。
その過程で、だんだんと働く環境にも視野が広がっていったという對馬さん。
「今働いているお店では、店長と私のほかに、7名のアルバイトさんやパートさんたちとお店を回しています。みなさんそれぞれ顔を合わせない日もあって、ご案内の仕方にちょっとしたズレも出ていたんです」
「そこで、どんなお客さまが来店して、それに対して自分がどう振る舞い、結果がどうだったかということを共有できるように、みんなのやり方や意見を気軽に書き込めるノートをつくりました」
一緒に働く人たちが働きやすいようにするにはどうしたらいいかを考え、自分から仕事の幅を広げているのが伝わってくる。
最後に、どんな人と働きたいか尋ねると、店舗運営部・主任の伊藤ゆい子さんが答えてくれた。

接客のあり方をもっと向上させようと、これまでマニュアルをつくらず口頭で伝えてきたところから、最近は文章化して1冊にまとめてみたという。
「お客さまがまた来たいと思えるような、心地いい空間を体現することを私たちは大切にしています。全国にお店ができていくなかで、パートさんやアルバイトさんを含め、離れていても同じ方向を向いて働きたいという気持ちから、かたちにしました」
とはいえ効率化を図るのが目的ではないから、これが絶対だというやり方は決めていないそう。
大事にしていることを共有したうえで、一人ひとりが考えて、柔軟に行動する。そうやって店舗全体をみんなでよくしていく。
販売スタッフが将来的に全国転勤する可能性があるのも、そうした考えからきている。
ここでふたたび店長の小田さん。
「環境がガラっと変わるという意味では大変です。でも、他地域の店舗で働くことによって得られることがあって。それぞれのお客さまに合ったご案内の仕方に正解がないなかで、自分の引き出しを増やしていけたことは自分にとって重要でした」
モノに込められた気持ちや、使う人の気持ちに寄り添っていける環境がここにはあると思います。

(2017/09/01 後藤響子)