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庭を想う

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「ぼくたちのつくる庭は、除草剤は使いません。農薬も全く使わない。植物をよく見ていると、どんな場所が心地いいのかわかります。その植生にそって庭をつくると、年々自然な状態に近づいていく。自然も自分たちも、できるだけ無理をしないのがいいですよね」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA そう話すのは、軽井沢で庭づくりをする永楽屋gardenの岡田さん。

永楽屋gardenのつくる庭は、もともと生えていた山野草をはじめ、その場所に生きているものを生かす庭。

だから自然な森の中のようでいて、人がより自然に近づける、庭が好きな人のための空間になっている。

今は岡田さんともう一人のスタッフの、2人でつくっています。けれど、スタッフが年内で卒業することに。そこで、岡田さんと一緒に庭づくりする人を探しています。

経験がなくてもよいそう。小さな植物も愛らしいと感じる人に、ぜひ知ってほしい仕事です。



東京から新幹線で1時間半。軽井沢駅を降りると、山の澄んだ空気がひんやりと心地いい。

永楽屋gardenは、ふだん庭作業が多いため事務所をもたないそう。外で作業できない日や冬の間は、自宅で事務仕事や作庭プランを考えているという。

この日は、いくつかお庭を見せてくれるとのことで、代表の岡田さんが駅に迎えに来てくれた。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 穏やかに、たくさんお話しする方。一つ一つの考え方に理由があるから、聞いていると納得してしまう。

岡田さんの生まれは岐阜県の各務原(かかみがはら)市。昔はのどかな田園風景が広がり、野山を駆け回っていたんだとか。

「軽井沢に来たのは、ガーデナーとして独立した10年前です。もともとは名古屋の大手素材メーカーで、アルミ合金の研究開発をしていました」

14年間勤めたものの、だんだん無機質なものに触れ続けることに限界を感じるように。自分で何かをつくりたいという気持ちもあった。

「そんなとき、実家を新築することになって。土地も広かったので、週末に自分で庭をつくってみたんです」

当時はイングリッシュガーデンが流行っていたころ。教科書通りメインのバラをきれいに咲かせるため、肥料をやり、虫がつかないよう農薬と除草剤をせっせと撒いた。

「でも、無理に咲かせているようなやり方に、なんか違うなと思いはじめて。農薬をやめました」

「そうしたら、バラは虫にやられちゃうけど、その虫を求めて鳥が来た。そのうち鳥が害虫を駆除してくれるから、無理せずに咲くものだけがのこっていって…。だんだん、自然な庭のほうが気持ちがいいって感じるようになったんです」

本格的に庭づくりがおもしろくなり、会社をやめてイギリス人作庭家・ポールスミザーの園芸教室で学ぶことに。その後、ご縁のあった軽井沢へやってきた。



お話を聞いている間に、車はどんどん雑木林の中へ入っていく。

路地を曲がると、T邸の庭が現れた。ここの植物は植えて1年目なのだそう。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「植物たちも、まだ連れてこられた感があるでしょう(笑)」と岡田さん。

「僕らは設計するとき、頭の中に3年後、5年後の庭を思い描いてつくるんですね。それぞれの植物がどのくらいの大きさになるかイメージがあるので、このくらいの間隔になるんです」

ふつうの造園は、ヒアリングから2、3ヶ月でつくってしまうことが多いそう。けれど、岡田さんの庭づくりは、お施主さんとじっくり丁寧に、長く付き合う。

このお庭も、関わって3年目になる。

「お庭をつくるとき、1年目は、お施主さんがどういう人かを知りたいんです。どうやって植物を楽しむのか、どう庭を使うのか、どのくらい植物が好きか。それによってお庭のコンセプトも、植える植物も変わってくる。できるだけ、お施主さんの好みに合うようにつくりたいです」

お施主さんとの会話と同時に、お庭の環境や植生も見ていく。

たとえば、雨が降ったときにどこに一番水が溜まるのか。そこに生えている植物はどんなものがあって、どういう条件でどのくらい生えているのか。

もともとの様子を知ることで、ここに生きているものを自然なかたちで生かすことができる。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「何度も通って、草取りをしながらそれを見ないとわからないんです」

草取り、ですか?

「草取りが一番大事です」

「草って、要は見せたくないものじゃないですか。その見せたくないものを取り除いてやれば、見せたいものって自ずと現れますよね」

ガーデナーというと、お花をつまんだり、きれいに整えたりというイメージをもっていたけれど、全体の8割は草取りだそう。

「草取りは、同時にいろんなことが学べます。たくさん生えているところは、その植物にとってその環境が居心地がいいということだし、定期的に同じ場所に来れば、双葉だった植物がどのくらいの大きさに成長するかも見られる」

やがて、双葉の段階で見せたいもの・見せたくないものが分かるようになると、抜くときも手間がない。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 数多ある植物の名前はもちろん、性質や成長過程まで覚えているんですね。

「それがぼくらの財産だし、それで初めて庭の設計ができると思います。本当に植物が住みたいところに配置されていること。そうすると、年数を重ねたとき、草がぼうぼうになったり、形が崩れたりしない、ほんとうに自然な庭に育っていくんです」



次は、植えて3年目になるN邸のお庭へ向かう。

着いてみると、家の前の雑木林と同化しそうなくらい、緑でいっぱいのお庭が広がっていた。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 手前は小高い苔の丘、そこから庭の奥まで小道が続く。家のリビング前まで来ると、背の低い色んな植物がのびのび植わっている。

岡田さんたちは、こんな風景を思い浮かべて作庭しているんだ。

「少し歩いてみましょう」と誘われ、苔の丘に続く小道を行くと、木の葉でできたトンネルの下で、日陰が好きな野草たちがまったく違う雰囲気をつくっていた。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 表側からチラリと見えていた花も、こちら側からなら近寄って見られる。

「この白い花はオカトラノオです。こうやって植物に触れられると、お施主さんも、それだけで愛情が違ってくるんですよ。『あっかわいい、大事にしよう』って」

まるで山の中のようだけれど、人が近づきやすいよう、たのしめるよう、緻密に考えてつくられている。

「はじめは『岡田さん、これ弱っていませんか?』って言われる方もいらっしゃいます。2、3年経って『こんなに素敵な庭になるんだ』『つくってくれてありがとう』って言われると、やっぱりうれしいです」



そんな岡田さんと4年間一緒に庭づくりをしてきたのが、青木さん。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 以前は、東京の金融会社に勤めていた。すごくハードで、とにかく仕事におわれる毎日だったという。

「もっと一つのことにちゃんと向き合うほうが自分らしく働けるんじゃないかなって思って。自然が好きなこともあって、ガーデンデザインの専門学校に通い直してからここへやってきました」

とはいえ、入ったばかりのころは、目にする植物がまったくわからないところからのスタートだった。

「覚えることが多すぎるので大変でした。最初のうちはほとんど毎日草取りしていたので、そこでかなり鍛えられましたね」

「岡田さんに『これ抜いといて』って言われる植物が、1種類から2種類、2種類から3種類っていうふうにどんどん増えていって。わからないものは写真に撮って、図鑑で調べてました」

eirakuyagarden09-2 2年目くらいになると、見せたくないもの、見せたいものがわかるようになってくる。

3年目には、作庭も手がけたそう。それが1つめに見せてもらったT邸の庭。

「ご夫婦は、軽井沢に来ると、ワンちゃんとの散歩を一番楽しんでいらっしゃったんです。近くにあるハルニレの森を散歩する延長で、お庭も歩いて楽しみたいということだったので、庭中くまなく歩けるにはどうしたらいいかなって考えながら、一つ一つ決めていきました」

土地も斜面になっているから、雨で流れてしまわないように。奥さまがめずらしい植物もお好きだから、ここで生きられる高山植物を植えて特別感がでるように。

絵を描いて、お客さんとすり合わせて、また線を引いて、というふうに設計していく。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 実際の工事がはじまると、まずは土づくりから。

現場の職人さんと一緒に地面を2メーターほど掘り返し、クワを片手に土の山を掻いて、見せたくない植物を一つずつとっていく。T邸の土づくりは、炎天下の中、1ヶ月半かかったそう。

「きれいにつくっていくのって、全体の4割くらいです。植栽は1割くらい。完成すると、こまめにメンテナンスに来て、草取りをしながらお庭の様子を見ています。2、3年経って植物が土を覆い隠すと、雑草の種が入らないので、メンテナンスの頻度は減ってきます」

じっくり丁寧に進めていくから、作庭は年に1つか2つ。

自然のサイクルに合わせて、働き方も季節とともに変わる。

5月から12月は、毎日外に出て、庭づくりやメンテナンス。雪が降り、土が凍ってしまう1月から4月は、自宅でお施主さんへの報告書の作成や、作庭のアイディアを練る。

「そのうち2週間ほどは、岐阜にある岡田さんの実家で、お庭で使う植物の苗づくりをしています。根っこが傷つかないように丁寧に洗って、絡まりをとってあげて…。だんだん、ペットみたいにすごく可愛く見えてきます(笑)わたしはやっぱり、植物に触れている時間が一番好きです」

eirakuyagarden11-2 「どうして手間暇かけてこういうつくり方をするのか、岡田さんはきちんと説明してくれるので、納得するんです。ふたりの会社なので、意見も通りやすいですし、自分に嘘がなく働ける環境だと思います」

「この仕事がすごく好きです」と話す青木さんは、今年いっぱいでここを離れ、家族の会社を手伝うことになった。

どんな人に来てほしいですか?

「わたしもそうだったんですけど、全然知識がなくても、やる気さえあればできるので。植物の季節の変化や生態、いつもその中にいる生活が大好きな人と一緒に働けたら楽しいだろうなと思います」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「作庭に自信がないなと思っても、それはお客さんとよく話をしたり、岡田さんと相談したりすれば、必ず克服できることだと思います。あとは健康で、体力のある人ですかね」

日々の仕事は暑くて虫もいるし、思っているより地味かもしれない。

けれど、本当に植物が好きという人にとっては、たまらない環境だと思う。

その場所に生きているものを生かす。

永楽屋gardenの庭は、苔のむすまで生き続けて、自然と人をつなぐのだと思います。

(2017/10/14 倉島友香)

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