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頼まれた通りにしっかりやる。仕事の基本ってそういうものかもしれないけど、できあがったものが本当に相手のためになるかどうかは別の話だったりします。
もっと近い距離で「そもそも、こうしたほうがいいんじゃないか」と一緒に考える。すると、もっといいものができるような気がします。

一風変わった社名ですが、その名の通り、生産者の商品を直売している会社です。
具体的には、美味しいものをつくっていてもなかなか自分たちではうまく売ることができないという全国の様々な中小食品メーカーとつながり、その人たちに代わって販路開拓から店舗設営、その後の運営までを自社で行っています。
最近はそこから派生して、地域の特産品を販売・PRしたいという自治体と別地域の食品メーカーをつなげ、新たなブランドをつくることも。
今回は、そのブランドづくりを担当するディレクターとデザイナーの募集です。
浅草駅から歩いて3分ほど。雷門からも近い場所に、生産者直売のれん会のオフィスがある。
もともと倉庫だった場所をリノベーションしたという大きな空間。中二階にある会議室で、まずは代表の黒川さんに話を伺う。

そんな黒川さんのことを、もしかしたらテレビや新聞などで一度見かけたことのある人がいるかもしれない。
『カンブリア宮殿』や『ガイヤの夜明け』をはじめとした様々なメディアに登場し、自分たちの商品も売ってくれないかという地方の食品メーカーからの問い合わせが年々増えている。
なぜそこまで反響が大きいのかというと、生産者直売のれん会は倒産寸前だったメーカーを救うほどの販売力があるからだ。
たとえば、“冷やして食べるクリームパン”をつくる八天堂という広島のメーカー。生産者直売のれん会が駅構内にある「一坪ショップ」に販路を開拓した結果、黒川さんと出会ったころは1億円台だった年商が現在では16億円までに成長した。
「クリームパンって普通、クリームを入れたあとに焼くので、中身も焼き込まれて固くなります。けど、八天堂さんはフレッシュなクリームにこだわってパンを焼いた後にクリームを入れるから、中身がとろとろですごく美味しいんです」
「経済合理性からいったらすごく手間かもしれないけど、やっぱりそうしたほうが美味いから彼らはつくっているわけです。そういうメーカーさんって八天堂さんに限らず、日本中にいっぱいいるんですよ。ただ、うまく売らなければ、ものはよくても売れないんです」

黒川さんがいうには、「その商品に一番適した場所で売ること」が、ひとつのポイントだという。
たとえば、生産者直売のれん会が年間約3000万円を売り上げている和歌山の農家さん手づくりの梅干し。1袋1500円の商品。
「駅って人の数がすごく多いので一見魅力的です。クリームパンを何個か詰めて1000円ならいいけど、梅干し1袋で1500円じゃ衝動買いするには高すぎるんですね。それに梅干しは重いんですよ」
たしかに首都圏に住む人は電車を使う人が多く、持ち歩くには重そうだと思ったら断念するかも。
そう考えると、車で出かけたタイミングのほうがいいのかもしれない。
「ゴルフ場なら基本的に車で来ているし、男の人が多い。日曜日に家族をほったらかしといて悪いなと思っているのだから、何かお土産を買おうとするじゃないですか。それに男の人って食べものの値段をあまり気にしないし、お土産なら余計にいいものを買おうとしますよね」
「だからこの梅干しは駅ナカではなく全国のゴルフ場で売っていて。これがけっこう好評なんですよ」

その商品にとって最適な場が見つかったら、こんどは売り場づくりだ。
「売り場=商品の舞台」だと、黒川さんはいう。どんなに主役が魅力的でも、ちゃんと光が当たらなかったら伝わらない。
売り場の見せ方からPOPデザインまで自社で手がけ、もしメーカーから提供された商品写真がイマイチなら自分たちで撮り直すことまでする。商品パッケージをリニューアルすることもあるし、商品の味自体についてもアドバイスすることがあるそうだ。
売り場は駅ナカをはじめ、百貨店や商店街、スーパー銭湯など様々。店舗の場合は直営店として生産者直売のれん会が自ら運営している。
ここで気になるのが、商品のよさやこだわりはメーカー自身が一番よくわかっているのでは?ということ。そもそもメーカーに代わってお店を開くには手間も費用もかかって大変だろうし、黒川さんたちはどうしてお店までやるのだろう。
「人からよく言われるのが、『そんなに自分たちでやってるんだったら商品もつくったほうがいいよ』って。うん、たしかにそのほうが利益率は全然高い。でも、それがやりたいわけじゃないんですよね」

2007年の創業当時、スタッフはたった数人。八天堂のクリームパンの販売も、最初は小さな商店街の軒先を借りて転々とするところからのスタートだった。
もっとやれることはないかと、店舗デザインやパッケージデザインまで自社で手がけるように。段ボールに手書きでPOPをつくっていた時代から、今や社内に大判の印刷機を持ち、肩書きに関係なくいろんなスタッフがIllustratorを扱っている。
そうやって自分たちにできることを増やしながら、この10年間突っ走るように事業を拡大してきた。
そして最近、また新たな仕事が増えている。
それが、食を通じた地域おこしプロジェクト。
おいしい特産物があるけどなかなかうまくPR・販売できないという地域と、すでに生産者直売のれん会がつながっている全国のメーカーをつないで新たな商品をつくり、地域活性化につなげようというものだ。
3.11以降にイチゴ狩りの観光客が激減して大きなダメージを受けていた千葉県山武市では、イチゴのジェラートとプリンの2商品が誕生。地元への徹底した販路展開やメディア露出も増えたことで、2014年には震災前の観光客数を達成することができた。

ただ、ここで問題が。
生産者直売のれん会は販路開拓やパッケージデザインなどはできても、商品ブランドはつくったことがない。
さらに県からの依頼の場合、複数の産品やメーカーが関わってくる。様々なステークホルダーをひとつにまとめ上げてブランディングしていく人、そしてロゴやパッケージなどをより専門的にデザインできる人が必要だと、黒川さんもつい最近になって気がついた。
いままで社内になかった職種だから、どんな条件の募集にしたらいいのかわからない。今回の募集では、雇用形態や仕事の進め方など、そういったところからも一緒に考えてくれるようなブランディングやデザインの経験者に来てほしいという。
実際にどんな仕事を担当することになるのか。
社内でただひとり、自治体との案件に中心的に関わっているデザイナーの山崎さんに話を伺った。

もともと宮城県石巻市でフリーランスデザイナーとして様々な仕事をしていたことがあり、その経験が今に生きているのだという。
『東京おしょうゆみやげ』では、コンセプトづくりからロゴ制作、展示会や売り場のデザインまで、山崎さんが中心となって手がけた。
「秋田県って食品出荷額が東北で一番低くて、とくに加工品の出荷が少ないんですね。秋田県庁さんから県内の加工品メーカーを強くしたいっていうお話をいただいて」
「それで代表の黒川が、東京に唯一あるお醤油屋さんとのコラボを提案したんです。秋田の和菓子メーカーさんが東京のお醤油で和菓子をつくって、それを東京土産として売り出しましょうって」
秋田ではなく、東京のお土産を?
「黒川は『秋田の色を出したら、ただの物産展になっちゃいますよ』と言っていて。本質的に秋田の加工品メーカーさんの売り上げを伸ばしていくのなら、ちゃんと売れ続けるものにしようって」
「それで東京土産というのが決まって、パッケージをつくってほしいと私に話が来たんですけど、そのときはまだ秋田の色が強くて違和感があったんです。だからパッケージのことをやる前に、そもそもコンセプトづくりとかロゴデザインからやるべきですよねって話をして」
山崎さんはお醤油屋さんの元へ何度も通い、思いや背景を汲み取った上でコンセプトを組み立て、デザインに落とし込んだ。秋田県庁へのプレゼンも行い、こうして『東京おしょうゆみやげ』が誕生した。

「あんまり職種とかにとらわれずチャレンジできる人のほうがいいかなと思ってます。『こっからは任せた!』って、けっこう無茶振りされることが多いので(笑)」
今回募集する人も、できれば山崎さんのように職域を横断するような人に来てほしいという。
ディレクターが営業もやったり、デザイナーがディレクションもやったり。すぐにはできなくても、営業のノウハウは代表の黒川さんが教えてくれるし、これから控えている案件で実践しながら徐々にできるようになっていけばいい。
「主体性の強い人がいいですね」と話すのは、代表の黒川さん。
「うちは自発的に行動するメンバーが非常に多いんです。僕があとになってから『そうなってたんだ!』って知るくらい、勝手にどんどん進めているというか。僕はスタッフに何でも任せます」
それはどうしてですか?
「僕よりも、担当者がその案件のことを一番考えているんだから、その人が決めたらいいんじゃない?と思うんですよ。それで売れなくても、すごく怒るなんてことはないし。そんな簡単に新しいものが売れるとも思っていないので」
「だから、伸びきってる人よりは、今までデザインとか一生懸命にやってきたけど、本当はもっと上流から関わってみたかったという人に入ってきてもらえたら面白いかな。仕事はどんどん増えているので、みんなから歓迎されると思いますよ」

そう提案するとやることも増えて大変だけど、自分にできることが少しずつ増えていったり、相手がもっと喜んでくれたりする。
結果的に自分も楽しく働けるような気がします。
(2017/11/27 森田曜光)