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日々、腕を磨く

※この仕事は募集終了いたしました。ご応募どうもありがとうございました。

東京で「和牛」というと、必ず挙がる名店。

その一つが、株式会社日山です。

大正元年に誕生した日山は、今年で創業106年を迎える老舗精肉店。都内を中心に、小売店9店舗とすき焼割烹1店舗も展開しています。

今回募集するのは、総合職と販売職。とくに総合職は、各店舗での精肉処理や接客を経験したのち、ゆくゆくは会社運営を担う本部で働く可能性もあるとのことです。

一世紀にわたって暖簾を守り続けてきた老舗。ここには、その看板に求められる質に応えるため、日々自分の技を磨く人たちがいました。

東京・日本橋人形町。

かつて歌舞伎や浄瑠璃、人形芝居で賑わったこの土地は、今でも老舗の飲食店が軒を連ね、都心ながら下町情緒が色濃く残る。

そんな街の中心、人形町駅を降りてすぐに、日山本店はある。

向かって左側はすき焼割烹、右側は店舗となっているこの店。店頭には100g4千円ほどの高級肉を筆頭に、ハムやソーセージといった加工品まで幅広く並んでいる。

近くで眺めると、どれも色鮮やかでつるりとしている。まるで絹のような滑らかさ。

「きれいなお肉でしょう。一枚一枚、目にも舌にもおいしくなるよう見極めながら切っているんですよ」

そう話しかけてくれたのは、社長の村上宗郎(むねお)さん。

さっそく隣のすき焼割烹に場所を移して、話を聞くことに。

日山は、宗郎さんのひいおじいさんが1912(大正元)年に創業した会社。

「曽祖父は、もともと広島県内の旅館の跡取りでした。ただ『これから日本は肉食中心になる』という確信があったようで、いてもたってもいられず牛を買い、広島で肉屋をはじめたと聞いています」

この地に移ったのは、1927(昭和2)年のこと。「消費の中心地は東京だ」と、広島の店舗を当時の店長にすべて譲り渡して上京する。

商品のラインナップは、A5・A4ランクの黒毛和牛が中心。国産牛以下は扱わないという姿勢は、創業から変わらない。

「店頭に並ぶ牛肉はすべて、グループ会社の日山畜産から仕入れています。肉色、肉質、脂質、光沢にハリ。これらを総合的に判断して、熟練の目利きが厳選して競り落とすんです」

それらの牛肉は、各店舗で精肉処理されて並べられ、販売スタッフの手を経てお客さんに届ける。

買い付けから販売まで一貫して自社で担う会社は珍しく、「お肉といえば日山」と昔馴染みの常連さんも多いのだそう。

「うちのお肉で育った方が、今度はお子さんのためにお肉を買っていかれたり、親子代々通ってくださったり。その流れを繋げていかなきゃなと思います」

とはいえ、これまで何もかも順風満帆だったというわけではない。

牛肉が一般的になるにつれて、大手量販店が廉価な欧米牛の取り扱いを開始。不景気の煽りも受け、消費者はより安い国産牛や欧米牛へとシフトした。

さらに追い討ちをかけたのが、2001年の狂牛病。数多くの牛が殺処分されたことで、和牛はより高値となった。

「最近は健康に関心を持つ方も増えて、再び軌道に乗っています。でもそんな今だからこそ、価格に見合う理由をしっかり伝えていかなければと思っていて」

それは相場が高いから、ということでしょうか。

「もちろんそれもあるんですが、それだけではお客さまに納得していただけないとも思うんです」

「これまで同様、自分たちがおいしいと太鼓判を推せるお肉を仕入れて、自信を持ってご提供する。その上で、ただ売るのではなく、和牛の価値を掘り下げて伝える必要があると思っていて」

和牛の価値。

「はい。和牛って、ものではなく命なんです。生きものだから、味はもちろん性格や体格も一頭一頭すべて違う」

店頭に並ぶ肉の後ろには、一頭一頭を大切に育てる生産者がいる。その努力があってはじめて、おいしい和牛は生まれる。

「その命のバトンをお客さんまでしっかり届けるのが、自分たちの役割だと思うんです」

その言葉のとおり、日山で働く皆さんは、研修で必ず生産者を訪ねて直接話を聞いている。

さらに最近では、独自の個体評価を自社グループで開始。仕入れた和牛を全頭テイスティングし、香り・脂質・味わいといった牛肉の味の特徴を評価している。

「生産者の皆さんには、おいしく食べてもらいたいという思いがあります。私たちは、精肉、販売という立場で、そのおいしさをお客さまの食卓までしっかりと届けたい」

「お肉は言葉を発せませんから。自分たちが手にしているのはただのものではない。一頭一頭、物語を持った和牛だということを忘れないでいたいです」

そんな日山を支える一人が、総合職の村上亘士(わたる)さん。

宗郎さんとは偶然同じ苗字とのこと。とても穏やかな方で、5年ほど店舗で働いたのち、現在は総務部で人事を担当している。

「農業高校を卒業して、大学では食品流通を学んでいました。食に携われて、体を動かす仕事がしたいなと思っていたところで日山を知って」

最初の配属は、小売店での精肉処理。理想に近い仕事内容だったものの、はじめは仕事を覚えるので精一杯だったそう。

「知識は何もなかったので、現場で飛び交う部位の名前すらわからなくて。それに精肉の処理の仕方、筋や脂の取り方といった技術も覚えないといけなくて。がむしゃらに働いていたのを覚えています」

小売店での基本的な仕事は、精肉の処理・盛り付けと販売。

まず開店前に在庫チェックをして、足りないものや特売品を確めながら切り込み作業をして品物の数を揃えていく。

開店後は欠品しないよう売り場を確認しながらストックをつくり、不足したら盛り付けて店頭に並べる。同時に肉塊の処理も行い、各部位ごとに分割する。それが閉店まで続く。

「何か特別なことが起こったり、華やかな日々が待っているわけではありません。ただ僕はこの仕事を非常に職人に近い仕事だと思っていて」

そう言って、新人のころの思い出を教えてくれた。

「そのお店の店長は本当に仕事が丁寧で。ただ肉を切って盛るのではなく、どう切ったらおいしく見えて、おいしく食べられるのかをいつも考えて仕事をする人でした」

手取り足取り教えてもらうことはなかった。そのぶんひと言の重みがあり、亘士さんも背中を見て学んだ。

「すごく簡単に見えるんです。ところがいざ自分で包丁を持つと、肉の厚さはバラバラだし、感触も少しずつ違う。すごく難しいんですよ」

たとえば、と教えてくれたのがサシの入った肉の切り方。

サシに対して平行に切ってしまうと脂だらけの見た目になってしまい、さらに噛み応えも悪くなってしまうそう。

「でもサシに対して垂直に切り分けると、繊維が細かくなっているので噛んだ時にすごく柔らかい。断面も鮮やかでおいしく見えます」

見た目にも気を遣っているのですね。

「もちろんです。ただ並べるだけでは、おいしそうに見えません。部位によって見せるところも変わってくるので、盛り付けにもすごくこだわりがあるんですよ」

ロースの場合は、もっとも食欲のそそるサシの多い芯が中心になるよう切り、盛り付ける。サシの入り具合によっては包丁を入れる角度を変え、いちばん美しい色合いを探す。

かといって、肉を何十分も触り続けてしまっては不衛生。素早く、美しく切り、盛り付けていく。

「一頭一頭、サシの入り方や肉質が違うので、同じ仕事は二度ないんです。手触りや見た目で判断して、うまくいかなかったら理由を考える。常にその繰り返しです」

大切なのは、経験によって培われるセンス。はじめのうちは、周囲のスピードや技術についていくことで手一杯になるかもしれない。

「それでも一年勤めたらある程度の力量はつくし、周りにも認めてもらえます。すると今度は、スピードはもちろん、よりおいしく切る方法を考えるようになる」

そうして腕を磨くうちに「あのお肉を切ってくれた人は誰?」とお客さんから指名されることもあるのだそう。

「この仕事は、どこかで満足して立ち止まってはいけないので。上を上を目指していきます」

今は総務部で働く亘士さん。新しく入る人も、販売店で経験を積んだのち、希望や適性によって本部配属となる可能性もある。

「大切なのは販売店も本部も変わらず、常にどうしたらより良くなるかを考えること。これからも愛され続けるお肉を届けるため、日々を重ねていくんだと思います」

最後にもう一度店舗へ戻り、販売スタッフにも話を聞くことに。

紹介してもらったのは、原田さん。1年前から働くスタッフだ。

「すごく緊張しています」と言いながら、とても丁寧に質問に答えてくれた。

出身は、三大和牛で知られる山形県米沢市。日山でも扱っている地元産の肉を販売できる仕事は面白そうだったし、見学で訪れた店舗の明るい雰囲気も背中を押した。

「歴史のある会社で、かつ高級なお肉を扱うお店です。お客さまの抱くブランドを壊さないよう、いつも笑顔で選んでいただけたらと思って働いています」

主な仕事は、接客に掃除、品出し、電話注文や配送伝票の受付など。

販売職は、言うなれば日山の顔。接客には特に心を配っている。

「言葉遣いや対応など、丁寧さはすごく意識していて。でも常連さんだったら少しフランクに話しかけたり、その人に合わせることも大切です」

ときには「どのお肉がいちばんおいしい?」と尋ねられることもあるのだとか。

「どのお肉も美味しいので、難しいなって(笑)でも日や牛によって味が全然違ってくるので、サシの入りかたなどを確認してご提案します」

「ベテランの方は一目でその日いちばんおいしいお肉が分かるそうです。私はまだすぐに判断できずに、精肉担当の方に聞くこともあって。ちゃんとお客さまにお肉の説明をできるようになりたいです」

経験を重ねるうちに、お客さんも顔を覚えてくれる。お店が混んでいても、顔なじみの販売員との接点を求めて「あの人に接客してもらいたい」とお客さんが列をなして待っていることもあるのだそう。

「すごいなあ、私も早くそうなりたいなって。中には『やっぱり日山さんは違うわ』『ごちそうさま』って言ってくださるお客さまもいます。そんな言葉を聞けるのは、すごくうれしいです」

そんなやり取りが生まれるのは、品質が高いのはもちろん、スタッフの日々の接客の積み重ねでもあると思う。

最後に原田さんが、仕事で大切にしていることを教えてくれた。

「やっぱり、どんなに忙しくてもお客さまにいらっしゃいませ、ありがとうございますとしっかり伝えることです」

「当然のことかもしれないですけど、ずっと忘れずにいたいなって」

100年間、変わらず愛され続けてきた味と接客。

その後ろには、いつの時代も日々腕を磨き続ける人たちがいたのだと思います。

(2018/04/16 取材 遠藤真利奈)

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