東アジア最大の米軍基地「嘉手納飛行場」や歓楽街「コザ」があり、日米の文化が入り混じる沖縄本島の中部。
その喧騒から少しはずれた小高い丘のうえに、SPICE MOTEL OKINAWAはあります。

モーテルは「自動車(Motor)」と「ホテル(Hotel)」を組み合わせた言葉。車社会のアメリカで、1920年代以降に普及した宿泊施設です。
この場所も、アメリカ統治下の1970年に建てられたモーテルでした。
閉業後、廃墟のようになっていた建物を、建築デザインオフィス「Arts & Crafts(A&C)」がリノベーション。2015年にオープンし、現在に至るまで自社で運営しています。
ここでお客さんを迎えるフロント部門のマネージャーを募集します。
もともと設計・施工に関わってきた会社が母体なので、「こうしたい」というアイデアやお客さんのニーズを、自分たちで空間に反映できるのが強み。
オープンからの10年間もアップデートを重ね、まるでロードムービーのなかに入り込んだかのような世界観をつくってきました。
今回募集する人は、興味があれば建築部門の仕事にも関わっていけるそうです。フリーマーケットや、映画の上映会、音楽イベントなども月1回ペースで開催しているので、「この環境を活かしていろいろやってみたい!」という、好奇心のある人が向いているんじゃないかと思います。
2月の終わり、もう半袖でいい陽気の沖縄へ。
那覇空港から車で45分。高速道路の高架をくぐり、マップが示すままに進んでいく。
住宅街を見下ろすなだらかな丘から、奥まった細い道に導かれる。少し不安になりつつさらに進むと、送電塔の足元にSPICE MOTELの看板が見えた。

スカイブルーの屋根が爽やかなフロント棟は、15時から22時までカフェ・バーとしてオープン。旅人だけでなく、地元の人も気軽に立ち寄れる。
ここで迎えてくれたのが、A&C沖縄事務所マネージャーの森岡さん。大きな笑顔が印象的な方。
「明日の朝ごはんに沖縄のドーナツをどうぞ」と、サーターアンダギーをひとつ包んで渡してくれた。

後ろにある「自動車」のネオンは、もともと屋上に掲げられていたもの。
ほかにも、壁にペイントされた料金表が残っていたり、1970年代を再現した客室があったり。過ごしやすいようにリノベーションされながらも、かつてのモーテルの雰囲気をそこかしこに感じる。
宿泊棟2階のテラスに出てみると、風がすーっと吹き抜けた。
「ここは周りに高い建物がないので、朝陽から夕陽まできれいに見えるんです。気持ちいいですよね」

本場のモーテルを知る人も、そうでない人も、特別な体験ができそう。
この場所はどんなふうに生まれたのだろう?
立ち上げ期の話を聞かせてもらうため、大阪本社にいるA&C代表の西川さんとオンラインでつなぐ。

A&Cは、元代表の中谷ノボルさんが1994年に大阪で立ち上げた会社。
リノベーションという言葉がまだ一般に知られていなかった時代、大阪都心のマンションの一室を、ドアの取っ手ひとつまでこだわって再生。「クラフトアパートメント®」として発表したのを皮切りに、リノベーションの設計・施工、さらには不動産業へと事業領域を広げてきた。
のちにSPICE MOTELとなる物件に出会ったのは、2013年9月のこと。
一部の天井は崩れ、空が見えるほどに朽ち果てた状態。観光立地でもないし、直すには相当なお金がかかる。
それでも、この場所の可能性を信じることにした。
「アメリカ統治下の1970年につくられた建物があって、沖縄本島中部には、日米のカルチャーがミックスした独自の文化が発展している。日本でモーテルを再生するなら、ここでしかできないんじゃないの?って」
A&Cが大事にしてきたのは、局所的で、私的で、人間的な個別解をつくること。
この場所にしかない、新たにつくりたくてもつくれない。そんな物件との出会いを経て、再生に至るストーリーやまちに存在する意味まで考え、自分たちがほしいと思える場をつくってきた。

2015年12月、SPICE MOTELがオープン。
まるでロードムービーに溶け込んだような世界観が注目を集め、雑誌やメディアに次々取り上げられた。
地元出身グループのORANGE RANGEをはじめ、アーティストのMVや写真集、ブランドカタログの撮影ロケ地として使われる機会も多い。
「数字的には開業2年目が一番よかったんです。その後は政治問題で韓国からのゲストが一時激減したり、コロナ禍があったり。いろいろな波を経て、また過去最高に近づいている現状です」
「やっぱりゲストがいると雰囲気も明るくなるし、稼働率ももっと上げていきたい。そのためにも新しいスタッフに入ってもらって、体勢を整えていきたいんですよね」
現在、SPICE MOTELに関わるスタッフは8名。そのうち2名が正社員とのこと。
アルバイトメンバーは、平日に別の仕事をしていて土日だけ働く人や、子育てのため日中のシフトに限定される人など、部分的に関わっている人が大半。繁忙期には、A&Cの建築スタッフにも手伝ってもらいながら、なんとか切り盛りしている。
A&C沖縄事務所のマネージャーとして、建築と宿泊の両部門をとりまとめている森岡さんにあらためて話を聞く。
「写真をたくさん撮ってくれるゲストが多いので、施設を美しく保つためのお仕事は大事にしていて。草木の剪定をしてくれるスタッフもいます」

フロント業務は、チェックイン・アウトの対応や予約管理、電話対応など。
A&Cが設計・施工で関わった一部の宿泊施設は運営サポートもしていて、オンラインでチェックイン対応することもある。
近年は欧米からのお客さんも増えているので、英会話に抵抗がない人だといい。流暢に話せなくても、身振り手振りを交え、伝えたい!という気持ちさえあれば大丈夫。
「いわゆる高級リゾートホテルと違って、人との距離感はすごく近いです。長期滞在のゲストから差し入れをいただいたり、スタッフ同士もプライベートで遊びに行ったり。そういうフレンドリーな距離感を楽しめる方が合うのかなと思います」
今回求めているのは、マネージャー。
現場の仕事に加えて、アルバイトメンバーのシフト管理やマネジメント、請求書発行などの事務作業、SNSを使った広報やマーケティング戦略の立案・実行など。施設管理を中心に担うキーパー部門のマネージャーと協力しながら、幅広く関わることになる。
大事にしたいのは「思いやり」だという。
「ほかのスタッフのためにどこまでしてあげられるか。小さい話でいうと、コップの補充とか、アルバイトの子の急な欠勤の対応とか。どうしたらみんなが困らず、楽しんで仕事をしてもらえるかな?って考えることは大事にしていますね」

フレンドリーだからといって、甘えない。お互いを尊重するからこそ、心地よい関係性は続いていく。
そんな土壌をつくっていくために、接客業以外でもいいので、リーダーとしてチームと向き合った経験のある人を求めている。
「誰だってやりたいこと、やりたくないこと、得意不得意もあると思うんですよ。やりたいことから任せていけたらなって思っています」
なんといっても森岡さん自身、やりたいことを貪欲に追い求めてきた人。
大阪の堺市出身で、大学では法律系の学部へ。まわりは公務員や法律関係の道を志すなか、「学業そっちのけで一生接客のアルバイトをしていた」そう。
新卒でA&Cに入社し、当時大阪で運営していたホテルのフロントスタッフとして1年勤務。SPICE MOTELの立ち上げに伴って沖縄に移り、1年半住み込みで働いたあと、今度は大阪のリノベーション部門で営業を担当することに。
「でも沖縄が好きすぎて、戻りたいですと話したら『宅建がとれたらいいよ』と言われて。無事に資格をとって、7年前に晴れて沖縄に戻ってこれました。宅建で民法のことが出てきたときは、法律を学んでてよかったなと思いましたね(笑)」
それ以来、宿泊と建築部門の両方に関わり続けている。
「飽き性なので。いろんなことをやるのにはまったく抵抗なくて、むしろ好きです。なんでもやってみたいんですよ」

A&Cの沖縄事務所は、SPICE MOTELの一室にある。これから入る人も、関心があれば建築部門の仕事にも関われるそう。
森岡さんが特別なのではなくて、宿泊から不動産に移ったメンバーがいたり、設計専任だった人が営業もしたり。領域を横断している人も少なくない。
建築部門との距離が近いと、宿を運営していて「もっとこうしたい」と思ったこともすぐに反映しやすい。
たとえば、部屋タイプ。もともとはダブルベッドか、2段ベッドとソファの部屋しかなかった。
「2段ベッドは違うけど、ダブルベッドっていう関係性でもない、みたいな2人が泊まるシーンってあるじゃないですか。今どきはそういう距離感を大事にする子も増えてるなっていう実感もあって、ツインベッドルームを去年新設したんです」
内装をアップデートするときも、インテリアコーディネーターの資格を持ったスタッフに意見を聞きながら進められる。
「宿部門で全部動かしているわけじゃなくて、建築部門と協力しながらやっています。自分たちでホテルを運営しているおかげで、宿の設計・施工のお声かけもいただきやすい。相乗効果があるんですよね」

フリーマーケット「SPICE CLOSET」や、テラスでの映画の上映会、車庫を使ったガレージセールなど。
月に1回のペースで開催しているイベントも、スタッフの好奇心を表現する場になっている。
「自分たちでやりたい企画を実現できるのは、めちゃくちゃ楽しいです」
「でもそれも、ただ『やりたい』ってだけじゃなく、ゲストや出店の声かけ、そのための関係性づくりだったり、この場所でやる意味だったり。いろんなことを考えて、実際の形にするところまで、責任を持ってやり切ることが大事だと思っています」

昨年迎えた10周年の節目には、音楽イベント「SOUND MOTEL」を開催。施設全体を使ってDJブースやフードトラックも出店し、遠方からも多くの人が集まった。
日米のカルチャーが混ざり合う、沖縄本島中部エリア。
その一角で場を運営するからには、さまざまな人が集い、新たなカルチャーシーンが生まれるような場所を目指していきたい。
建築も世界観をつくるけれど、それ以上に大切なのが、人。
SPICE MOTELの10周年にあたって、OBOG会をひらいたときのこと。県外に出ていった人も含めて30人以上が集まった。その2年前の会社の30周年行事は、施工で関わる職人さんなども集まって総勢200名の規模に。
なかには、イベントきっかけでもう一度入社したスタッフも。
気のいい人たちが集まると、場も心地よく育っていくように思う。
「この場所のことも、沖縄という土地も大好きなメンバーが揃っているので。じっくり腰を据えて、この環境を一緒に楽しんでくれる人に来てもらいたいですね」

働き方は、週3日から相談可能とのこと。
副業をしながら、暮らしを楽しみながら。長い目でこの場所との関係性を育んでいくのもありだと思います。
もうだいぶ暖かい沖縄。重ね着を一枚脱いで、身も心も軽やかに働けそうです。
(2026/02/27 取材 中川晃輔)


