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ヤサイはうれしい

※この仕事は募集終了いたしました。ご応募どうもありがとうございました。

地方での取材に行くと、お話によく出てくるエピソードに「野菜をどっさりもらった」というものがあります。

しかもみなさん、食べきれなくて大変ですよ、なんて言いながらもどこかうれしそうにその話をしてくださる。

なぜうれしいのだろう?と考えてみると、その答えはきっとシンプルで、つくった人の顔が見えるからだろうなと思います。

都会で暮らしながら、その喜びを直接的に得ることは難しいかもしれません。

でも、販売する人の話を通じて背景のストーリーを知ったり、つくった人の想いを間接的に受け取ることはできる。今回は、つくり手の想いやストーリーを丁寧に伝えながら野菜や果物を販売する人を募集します。

舞台は東京・銀座。

松屋銀座内に店舗を構えるりょくけん東京で働く人たちを訪ねました。

高級ブランドショップが立ち並ぶ銀座の街を歩き、松屋銀座の地下1階へ。

あちこちからいいにおいが漂ってくる食品フロアの真ん中に、りょくけんのお店があった。

色とりどりの野菜や果物が並び、「いらっしゃいませー!」と元気な声が響く。デパートにありながら、商店街の八百屋さんのような雰囲気。

並んでいるのは青果だけではなくて、野菜を使ったお惣菜のコーナーもある。お子さん連れの家族やかっちりとした格好の方、海外からのお客さんなど、短時間にいろんな人が足を止め、野菜や果物を手にとりながらスタッフさんと話をしていた。

客足が落ち着いたところで近くのカフェに移動し、トマト柄のバンダナがよく似合う販売スタッフの今井さんに話を聞いた。

2011年からアルバイトスタッフとして働いている今井さん。

「何か面白い仕事ないかなって探してるときに、ネットでたまたま見つけて応募したんです。そしたら、扱っている商品の質がすごいよくて、うまかった。これはいいなと思って」

りょくけんの野菜は、すべて契約農家さんのもとでつくられたもの。

北海道から沖縄まで、全国600以上の農家さんとのネットワークをもとに、旬に合わせた一番おいしい青果を販売している。

たとえばジャガイモは一年中同じ産地で供給することも可能だけれど、気候の変化に応じて沖永良部島、長崎、浜松、石川県の能登島、北海道と、少しずつ仕入れ先を北上させていく。

仕入れ量は少ないものの、一軒ずつ畑まで足を運んで丁寧に関係を築いていく姿勢に共感してもらえるからこそ、いい農家さんとのお付き合いが続いているという。

昨年6月には、松屋銀座の館内メンテナンスに合わせて、スタッフ全員で生産者さんのもとを回るツアーをしたそうだ。

「山梨県に、お世話になってる農家さんがたまたま集まっている地域があったので、そこをバスで巡って。直接話を聞けるから、より自分たちの言葉で伝えやすくなりました」

また、つくり方にもりょくけんならではの特徴がある。

トマトであれば、肥料や水を極力やらず、雨に当たらないようにハウスのなかで育てる。原生地である南米のアンデス高原の環境に近づけることで、野菜が本来持つ力を最大限に引き出すことができるんだとか。

店頭では、こうした背景とともに青果やお惣菜を販売している。

「ちゃんとしたものを、ちゃんと人に伝えて、理解したうえで買ってもらう。そういった意味で嘘はない仕事ですね」

今井さんは、食育バンド「山菜ロッケンローラーワラビーズ」としても活動しており、りょくけんで学んだことがそちらにも活きているという。

「野菜も自然と食べるようになりましたね。お金はないのに舌だけ肥えていくっていう、ろくでもない状況。どうしてくれるんだ!って(笑)」

社員割引の制度を利用し、実際に買ってみていろんな調理法を試したり、シェアしたりしながら野菜を好きになっていくスタッフも多い。

「お客さまに対しては、コンサルティングセールス力が求められますね。家族構成や味の好みを聞いて、おいしい調理法までトータルで提案していきます」

松屋銀座内というだけあって、食や接客に関して高いレベルを求めるお客さんも多いという。

その一方で、ご近所さんがふらっとやってくることもある。店頭での今井さんの姿を見ていると、商店街の八百屋さんのようなフランクさもありながら、押さえるところは押さえる、そのバランスが絶妙だなと感じた。

できれば接客経験はあったほうがいいかもしれない。

「最初の1年間が大変ですよね。同じ野菜でも入荷日や生産者さんによって味が違うので、覚えることが本当にたくさんある。体力と精神力が必要です」

「1年のサイクルを覚えてしまえば、だいぶ楽になりますよ。青果の8割は変わりませんし、だんだんと通年での味や流通の傾向が見えてくるのも面白い。社長との距離も近いですし、やる気さえあれば一気に右腕になれるんじゃないかな」

代表の大森さんと販売スタッフの距離感は本当に近い。なぜなら、大森さんも店頭に立って販売しているから。

今は人が足りていないこともあり、販売以外にも商品企画や経理・人事など、多岐にわたる仕事を大森さんが一手に担っているという。

ブログ「りょくけんだより」を毎日更新しているのも大森さん。一つひとつの記事に読み応えがあってどんどん読みたくなるのだけど、そんなに全部やっていて大変じゃないかな?と少し心配にもなる。

「今は社長業というより、マルチになんでもやっているような状態で。正直、手が回っていないこともたくさんあります」

お店は、大森さんのほか2人の正社員スタッフ、そしてパート・アルバイトスタッフがシフトを組み、常時3人体制で運営。

厨房との行き来があったり、お惣菜に使うパックなどの資材管理や入荷した青果の運び入れ、事務経理など接客以外の仕事にも柔軟に対応していかなければならない。

これまでもスタッフを募集することで対応してきたものの、なかなか定着してこなかった経緯があるという。

いいものを丁寧に扱っているし、お話ししていてもみなさん誠実に仕事と向き合っているように感じる。離れていってしまう人が多いのはなぜだろう。

もう少しじっくりと、話を聞いていく。

「ぼくはどうも、組織づくりとか役割分担というのかな…そういうのが下手みたいですね。自分でなんでもやってしまうところはあると思います」

大学時代は外国語を専攻し、10ヶ国語を履修。新卒で入社したファーストリテイリング社で鍛え上げられ、1年で店長に。

子会社のFRフーズで青果店「SKIP」を立ち上げるも1年足らずで解散、諦めきれずりょくけんの松屋銀座店立ち上げに再チャレンジし、紆余曲折を経験しながらここまで会社を引っ張ってきた。

そんな経歴や野菜への想いを聞くうちに、大森さんはとてもストイックな方なんだな、ということが伝わってきた。

ほかのスタッフさんに対して押し付けることは決してなさそうだけれど、もしかしたら、その想いに圧倒されてしまうこともあるかもしれない。

「コミュニケーションが足りていなかったんです。昨年の6月から店長になった赤星に対しても、店長の役割として売り上げの確保とスタッフの育成という2つだけを伝えるのみになってしまっていました」

赤星さんが店長になってから、たしかに売り上げはアップしたし、作業効率も上がってきた。

けれども、新しく働きはじめる人はなかなか定着しないままだった。

そんな事態を打開するため、昨年10月には外部の研修に赤星さんに参加してもらい、社内の役割分担を見直すミーティングも実施。少しずつではあるけれど、コミュニケーションの機会を増やして前に進もうと取り組んでいるところだという。

「わたしも、コミュニケーションが足りなかったなって。研修を終えて一番に思ったのはそのことでした」

そう話すのは、店長の赤星さん。

「もともと、自分の好きなことだけに向き合っていたい、という気持ちがあって」

好きなこと?

「おいしいものを食べること。わたしの原動力は基本的にそれなんです」

でも、食べるだけならお客さんでもいいような気がする。

なぜこのお店で働き続けているのだろう?しかも、店長として。

「なぜでしょう……。うーん…」

しばらくの沈黙のあと、赤星さんはこう口にした。

「…たぶん、おいしいものを伝えたいんだと思います」

伝えたい。

「野菜の味って、産地によって決まると思ってらっしゃる方が多いと思います。でも実は、つくる人によってこんなに違うんだよっていうことを伝えたい」

同じ野菜、同じ産地でも異なるんですか。

「そうなんですよ!季節によっても当然変わりますし。たとえば、秋田の女性農家さんがつくるシイタケ。いつもおいしいんですけど、冬限定の今の時期しかないシイタケがすっごくおいしくて。味が3倍ぐらい濃いんです」

その方は絵を描くアーティストでもあり、東京で展示があるタイミングには店頭の販売にも顔を出してくれるんだそう。

おいしい食べ方を教わり、赤星さんは自宅でトマトや白子と合わせてアヒージョに。

そんなつくり手の人柄や、食べたときの感動まで伝えると、お客さんの反応も変わってくる。

「うちのお店はお得意さまが多いんですが、基本的にいつも同じ野菜を買っていかれるんです。だからこそ、何か新しい野菜をオススメしたときに『ファンになりました』と言っていただけると、すごくうれしくて」

「新しく入荷した野菜は必ず買って食べるようにしています。自分で食べたものは、心からの言葉で伝えられると思うので」

みなさん、野菜について語っているときが何よりうれしそう。

大森さんも赤星さんも、「おいしくて健康にいいものを食べてもらいたい」という軸をぶれずに持っている。こだわりが強いからこそ、ときにはぶつかることもあるけれど、根っこには同じ気持ちを抱えながらこの店を支え続けているんだなと感じた。

最後に、おふたりにどんな方と働きたいかお聞きする。

まずは赤星さん。

「ちょっとしたことでもメモをとれる人、ですかね。販売のことでも野菜のことでも、いろんなことを自分から吸収したい人」

続いて大森さん。

「ぼくも、自分から商品に興味を持って知ろうとすることは大事だと思います。売ろう、売ろうとするんじゃなくて、自分が好きになった商品を、その背景のストーリーとともに紹介したい人がいいですね」

帰りに買った野菜たちは、後日グラタンとおひたしに。

静岡県の農家さんが独自に開発したフルーツトマトと、赤星さん一押しの農家さんがつくった小松菜。

いろいろなお話を聞かせてもらったあとだからか、より味も濃く、想いがぎゅっとそこに詰まっているように感じられました。

応募しようか迷っている方は、一度お店を訪ねてみてください。実際に話して、食べて、わかることもあると思います。

(2018/2/27 取材 中川晃輔)