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春には苺、初夏には新茶。久留米かすりの工房のそばを通れば、織機を動かす音が聞こえる。
福岡県南部の、久留米と八女に挟まれた小さな町、広川町。
この町で今、町の“いいもの”を磨き直して発信する、「ひろかわ新編集」というプロジェクトがはじまっています。
ただ町の特産をPRするのではなく、町のものや人の魅力を生かしたワークショップやイベントを通じて、この町に新しいコミュニティをつくっていくための活動です。
その中心になっているのは、町役場と広川町の地域おこし協力隊。
そんな地域おこし協力隊を支える、役場の一般行政職員を募集します。役場の仕事なので、町そのものを一緒につくっていく、という意識のある人がいいかもしれません。
このプロジェクトに関わる人は、地域づくりに携わった経験があるほうが良さそう。同時に募集する一般事務などの職種は、未経験でも大丈夫。
この町で過ごす生活を想像しながら読んでみてください。
福岡県八女郡・広川町。
飛行機と車を使えば、羽田から3時間ほどでこの町まで来られる。
「天神までは車で1時間もかからないし、町の中心部から10分ほどで、空気の美味しい山の中にも来られる。本当に“ちょうどいい”町なんですよ」
町を案内してくれたのは、役場の地方創生担当係長の氷室さん。
「ひろかわ新編集」の活動を統括しながら、協力隊や町民と役場の橋渡しをしている。今回応募する人の働き方のモデルともいえる。
氷室さんがこのプロジェクトに関わるようになったのは、3年前。
「地方創生や人口減少対策って、住んだら補助金とか産んだら助成金とか、そんな単純な話じゃないと思うんです。うちにはそんな予算もないし」
「一度に人をたくさん呼ぶより、一緒に町をつくっていく仲間をじわじわ広げていきたいんです」
子育てをしながら働ける環境や、みんなが集まれるコミュニティをつくりたい。
そんな思いではじまったのが、この「ひろかわ新編集」。プロジェクトの名付け親は、大分を中心に活動するプロデューサー、bunboの江副直樹さん。
「江副さんと話して、ないものをつくるんじゃなくて、もともと町にあるものを磨いて町を新しく“編集”し直すプロジェクトになりました」
クリエイターとして活動する人を協力隊として募ったのも、新しい視点で町を見直す必要があったから。
「かすりや苺だけじゃなくて、空き家も畑も、町の人にとっては当たり前のもの。それを、協力隊のメンバーはすごく楽しそうに見てくれて、そういうワクワクするフィルターで町を見直すっていうことが大切だったんです」
町で採れた苺を発酵させてサイダーをつくるワークショップをしたり、アーティストを呼んで町の施設でファッションの公開制作をしたり。
協力隊主催のイベントは、町外の人が広川町へ訪れるきっかけにもなっている。
ものづくりの土壌を生かした試みは、少しずつ町の内外で人のつながりを生み出してきた。
最近は、もっと継続的なつながりを目指して、いろんな“部活”がはじまっている。
実際にはどんな活動をしているんだろう。
「4人の協力隊はそれぞれ、ファッションとか美術とか、特技があるんです。だから、デッサンのワークショップみたいなものもあれば、自分たちがやってみたいことをみんなでやってみる、っていうものもあります。たとえば、畑仕事をしてみたかったので“畑部”をつくったんですよ」
自分がやってみたいことに打ち込む時間。それを共有しながら、つくった仲間。
そういえば、学生のころは“部活”って、生活の中でとても大切なものだと感じていたのに、いつの間にか仕事や、休息の時間ばかりを優先するようになっていたかもしれない。
仕事でも、勉強のためでもない。かといって、遊びでもない。そんな時間を一緒に過ごせる人の輪って、純粋にいいなと思う。
今回募集する人は、そんな部活を支えるマネージャーのような役割。
予算管理や行政手続きなど、事務的な仕事も担当しながら、現場に出て部員として一緒に活動もできる。
部活の拠点の一つが、町の集会所をリノベーションした”kibiru(キビル)”という施設。
ここでは、予約をすれば誰でもシルクスクリーンや、ミシンを使って創作活動ができる。刺繍用のミシンや、デザインソフトの使えるパソコンなど、かなり専門的な道具もある。
協力隊の山本千聖さんは、もともと東京でファッションデザイナーのアシスタントとして働いていた。最近は“仕立部”を発足して、町の人と一緒に服づくりの活動をはじめたところ。
「東京にいると、お金を出せば布が手に入ることが当たり前でした。もっと素材のことを知りたいなという思いがあって、織物の産地であるこの町を選びました」
近くにある久留米かすりの工房を訪ねたり、町で織られた生地を使って“もんぺ”をつくってみたり。
「今まで、流行っていう視点でファッションと向き合っていたんですけど、こっちに来てから、自分が本当につくりたいものを見つめ直すことができました」
織物の町、広川でできることを探ろうと、町の畑で綿花の栽培にも取り組んでいる。
「最初は、育てた綿花で生地を織って服をつくろうと思っていたんです。ただ、実際に収穫できたのはほんの少し。素材って尊いなあ、って実感できました」
ほかには、近郊でつくられるスニーカー用の生地を使って、農家のおかあさんたちがイベントで着るエプロンをつくることも。
この土地の素材だけでなく、世代を超えた関わりも、千聖さんにとっては新鮮な体験だった。
「自分のおばあちゃんと一緒に暮らしたこともないから、世代の違う方とちゃんとお付き合いするのは、はじめてでした」
「町の人は、いつも見守ってくださっていて」
畑を貸してくれたり、農機具持参でアドバイスをくれたり。農家の人だけでなく、役場の人と一緒に畑づくりをすることもあった。
「役場って、ちょっとカタいイメージがあるかもしれないですが、氷室係長をはじめ本当に柔軟に対応してもらっています」
「新しく入る方も、役場の中だけじゃなくて、町の人との関わりを楽しめるといいんじゃないかな」
もうひとり、協力隊の山本誠さんにも話を聞きました。今は、町のゲストハウス“Orige(オリゲ)”の運営スタッフとして移住相談にも対応しているそう。
ジュエリーデザイナーである誠さんは、ここに来る前は京都で仕事をしていた。
「40歳を目前に独立を考えたとき、子どもを地方で育てたいという思いもあって、家族で移住してきたんです」
町内に夜遅くまで開いているドラッグストアもあるし、久留米や八女には、地元で使っていたお店もたくさんある。都市から移住してきても、急に生活が変わってしまうことはなかった。
一方で、心境の変化は大きかった。
「前から、“モバイルピザ窯”っていうのに興味があって。別にピザを焼くのが仕事とか専門とかではないんですが、こっちに来てからイベントでちょっとずつやらせてもらうようになりました」
「都会だと、煙とかの問題もあるし、仕事でも遊びでもないことをやる心の余裕もなかったです。今は子どもより、親のほうがこっちの生活を楽しんでいるかもしれないですね」
誠さんは「ひろかわ新編集」の活動や、情報発信、イベントなどを通じた場づくりをしている。
「ウェブやSNSで情報は発信しているんですが、本当に届けたい人に情報が届いているかなっていう迷いもあって。新しく入る人にも、意見を聞いて一緒に広報をしていきたいです」
ゆくゆくは、広川町と他の都市を行き来しながら、つながりをつくっていきたいと考えている。
他の都市で働いた経験もある誠さんから見て、この町の役場で働くって、どんな感じだと思いますか?
「大きい市町村に比べると、自分の仕事が目に見えて形になるし、やりがいはあると思います。それに小さい町だから、すぐ顔を覚えてもらえますよ」
「最初は僕たちが、新しく来た人と町の人をつなぐお手伝いもしようと思っています」
同じように、誠さんたち協力隊が広川町に来たとき、手助けをしてくれたのが、このOrigeで定住支援員として働いている、中村ヤヨヒさん。
もともと、農協に勤めていたヤヨヒさんのネットワークはかなり広い。
親しみを込めて“ヤヨヒちゃん”と呼んでいる人もいる。
「最初の1年は、協力隊の方をあちこち連れて行って、いろんな人たちに紹介して回ったんです」
「ここの畑を使いたいならあの人ね」とか、「このスペースを使うならあの人よ」とか、ヤヨヒさんの引き合わせで実現できたことがたくさんある。
協力隊のサポート以外にも、普段から仲人として人を引き合わせたり、農家のおかあさんたちと牛蒡コロッケを販売したり。ヤヨヒさんはとにかく、忙しく、楽しそう。
「周りから『もっとゆっくりしとけばいいやんね』って言われるけど、人と人を会わせるのが好きなんです。今日は、夏に町に来る人に『農業のアルバイトないですか』って聞かれているから、それを探しに行かないと」
ヤヨヒさんは取材をしている間も、お茶を入れてくれたり、周りに気を配ったり、いつも人のために動き回っている。
「私、『お世話をしすぎる』って言われるけど、やっぱり人が見えるとすぐに、おにぎりのひとつでもっていう気になるんです。みんな“おせっかいおばさん”って、思っちゃるかもしれん(笑)」
仕事だからではなく、自然と人への気遣いのために手が動く。ヤヨヒさんを見ていると、協力隊のメンバーがここを「第2のふるさと」だと話していた理由がわかる気がする。
自身もかつては農協で働いていたヤヨヒさん。町の人のために働く仕事で大切なことってなんでしょう。
「やっぱり愛嬌じゃないですか」
「いつも人に優しく接していれば、役場に行った時も『あの人に聞いてみよう』って、顔を覚えてもらえるし、自分もそのほうが仕事もしやすくなると思いますよ」
ヤヨヒさんにうなずきながら、話を聞いていた氷室さん。
温かい人が多い町だからこそ、役場で働いていると、行政と町民の間で心を砕くことも多いのではないでしょうか。
「ときには板挟みもあるけど、助けてくれるのも町の人たちなんですよね。そういう関係であるために、まず自分から町や人のことを好きにならないと」
「部活っていう言葉のとおり、本当に必要なのは仲間として加わってくれる人なんです」
町づくりの活動は、まだはじまったばかりだけど、人と人が好きなものでつながるこの町は、とても明るく感じました。
(2018/7/20 取材 高橋佑香子)
※広川町では、今回の受験者の中から希望者を対象に、9/1(土)〜9/2(日)の両日で、下見ツアーを行います。申し込み・詳細は以下の「問い合わせ・応募する」からご確認ください。