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商業施設やオフィスビルを彩る装飾。最近では凝ったデザインのものも多く、その場所のランドマークとして親しまれたり、訪れた人が写真を撮ってSNSにアップしたり。
空間のアクセントとして、場所と人を結びつける存在になっているように思います。
今回紹介するのも、空間に新たな価値を生み出す仕事。
生花ウェディングフラワーを手掛ける株式会社ジェックのAFD(エイ・エフ・ディー/アートフラワーデコレーション)事業部です。
造花や人工樹木を使って、ホテルや商業施設などの空間装飾を手がけるAFD。
半年前に立ち上がったばかりのこの新しい部署で、空間デザインの企画提案を担う人を募集します。
東京・三田。
地下鉄の駅を降りて5分ほど歩く。東京タワーのふもとのビルにジェックの名前を見つけ、エレベーターで6階へ。
まず話を伺ったのは、代表の名倉さん。
ジェックは、名倉さんが18年前に創業した会社。それまではまったくの異業種で働いていたそう。
転機となったのは20代のある日のこと。友人が働く花屋に足を運んだところ、店の前に行列ができているのを見かけて、ふとした疑問を抱く。
「どうして人は行列をつくってまで花を求めるんだろう。その光景をきっかけに、花の持つ力について考えるようになりました」
調べてみると、日本では千年以上も前から花を飾る習慣があることがわかった。
お客さんをもてなすため、感謝の気持ちを伝えるため。
「花は気持ちを伝える手段でもあったんです。素材としてもすごく素敵だし、なにより素晴らしいコミュニケーションツールだと思いました」
その面白さに惹かれ、2000年にジェックを創業。
花に関わる色々な仕事をする中で、結婚式場を彩る生花ウェディングフラワーが主な事業となる。
現在では全国7つの拠点で、年間約4000組のウェディングフラワーを手がけている。
ビジョンとして掲げているのは「flower communication!」。
「花を飾っておしまいではない。人が集まる場所を、花や植物といった素材でデコレーションすることで、広く空間の価値を高めていきたいと考えています」
今回募集するAFD事業部も、ウェディングフラワーの仕事から生まれてきたもの。
「各式場さんから、ブライダルフェアや撮影などの際に素敵な装飾をしてほしいとお声がけいただくことがあって。各アトリエで、造花をつかったディスプレイをお受けしていたんです」
造花や人工樹木ならば、生花に比べてランニングコストが抑えられて、きれいな状態で長く装飾できる。
生花で培った技術をもとに造花ディスプレイを提案したところ、クオリティも評判がよかったそう。
「社内メンバーの間でも、すごくいいサービスだよねって声が上がっていて。ニーズもあったので、新規事業として立ち上げることになりました」
そうして半年前に立ち上がったのが、このAFD事業部。
造花や人工樹木を使って空間を装飾する部署として、ホテルや商業施設など30件ほどを手がけてきた。
その一例として、とあるパーティー会場の壁面装飾について教えてもらう。
クライアントからの依頼は、空間のアクセントになるような衝立がほしい、というものだった。
「まずはその空間の課題を見極めます。造花と人工樹木をどう組み合わせれば、空間の価値を高められるかを考えていくんです」
会場を見渡すと、木目調の床が特徴的なことに気がつく。
そこで、華やかさがあり、色合いや雰囲気もマッチするグリーンウォールを提案・施工することに。
面積が広いぶん、平坦な印象にならないよう造花やグリーンを何種類も入れて立体感を出し、質感も本物に近いものを一つひとつ選んだ。
今では会場のフォトスポットとしても人気なのだそう。
「やはりデザインが変われば、空間に新たな価値が生まれるんだと思っています。いいアウトプットを連続的に生み出したいですね」
現在は、素材の一部を信頼するパートナーにつくってもらっているところ。将来的には、こうした制作もすべて内製化していきたいそう。
「フラワーデコレーターの教育とキャリアパスにも非常に重点を置いていて。造花はやり直しがきくので新人デコレーターの練習の場にもなるし、ベテランになれば企画やデザインに携わることもできます」
「とはいえ事業は始まったばかりなので。今後増えていく案件を効率的に進めていくことで、事業に必要な骨格をつくるというのが今の段階ですね」
立ち上がったばかりのAFD事業部。現在は数名のスタッフが中心となって働いている。そのため今回募集する人は、事業のコアメンバーになる。
名倉さんは、どんな人に来てもらいたいですか。
「一言でいえば空間を見る力がある方。言われた通りにつくるのではなく、何もないところから空間をつくりあげていく仕事なので。お客さまの話を伺って、こんな空間はどうだろうかとアイディアが浮かぶことが大事ですね」
そのためには、何か一つでも強みになる空間デザインのキャリアやスキルを持っている人がいい。
「スキルやキャリアでのとっかかりがあれば、最初からすべて完璧にこなせなくても大丈夫です。造花や人工樹木の知識も含めて実践しながら覚えていけばいいので」
「花や植物といった素材で、空間の価値を高める。そのためのアイディアをお客さまと一緒に考え、形づくっていける人に出会いたいですね」
続いてお話を伺ったのは、ディレクターを務める田中さん。
花屋の法人営業や店舗、企画などの仕事を経てジェックにやってきた。
「現在のところ、生花を扱う事業部だと、表現の場が主にウェディングになりますが、AFD事業部はいろいろな業種の方と一緒に仕事をしていける。これまで学んできた表現方法や、クライアントとの付き合い方が生かされています」
実際に、最近は商業施設などからの依頼も増えはじめているそう。
クライアントも全国にいて、相談内容もさまざまだ。
「お客さまは、こうしたいというイメージはあるけど、どうしたらいいかわからないという方が多いです。お話ししながら方向性を固めていって、実際に形にしていく役割ですね」
たとえば、と教えてもらったのが、とあるチャペルの空間デザイン。
一面ガラス張りとなっていて、周囲の緑豊かな庭が楽しめるユニークな会場だったものの、稼働率が低いのが悩みだったそう。
「ほかの会場は人気なのに、こちらのチャペルはなぜか人気が出ない。もっと人の集まる空間にしたいというご希望でした」
まずはヒアリングを重ねて、クライアントの持つイメージを洗い出していく。
「ときには簡単なラフを何案か出して、好みやイメージを探っていきます。何も浮かばないというお客さまでも、こうしたいという希望は絶対に隠れていると思うんです」
このコミュニケーションが、デザインを形づくる上でなによりも肝となる。
相違が生まれないよう、丁寧にやり取りを重ねていく。
「話し合う中でイメージが見えてくることが多いです。どちらか一方じゃなくて、お互いにアイディアを出し合うイメージですね」
このチャペルの希望は、光を通す素材で統一されたインテリアと、周囲の庭の景観を取り込んだナチュラルな雰囲気、どちらも生かすことだった。
「実際に見てみると、会場の雰囲気と緑が少しバラバラな感じがして。クリスタルとナチュラル、二つのイメージをうまくつなぐ必要があると思いました」
イメージや予算など、方向性が決まれば企画書に落とし込んでいく。
今回は、周囲の庭の緑やインテリアとうまく馴染むように、緑と白を基調とした造花を装飾することに。
こうした造花や装飾アイテムは、一つひとつ自分たちで選んだもの。
「より生花に近いものを探して仕入れたり、花器も海外から輸入したり。少しでも質の高いものを、と常にアンテナを立てています」
さらに人工樹木などは、職人に発注してオリジナルのものをつくってもらう場合もある。
枝や葉っぱの量やつけかたによって印象が変わってくるので、イメージを丁寧に伝えることは欠かせない。
「こういうものをつくってほしい、と写真やイラストなどを交えて具体的にお伝えします。ただ、過去には細かいニュアンスをうまく伝えられず、イメージ通りの仕上がらなかったこともありました」
「大切なのは、お客さまにとって最適な空間をつくること。何度もイメージをすり合わせて一緒につくりあげていきます。私が妥協しては、いいものは絶対にできないと思うので」
そのような積み重ねの先で出来上がったのが、このバージンロード。
白と緑を基調とすることで、透明感ある会場と周囲の緑がうまくつながった。
「お客さまからも好評で、稼働率がすごく上がったと聞きました。それに会場をご案内する営業さんの意識が変わった、って」
意識が変わった?
「そう。以前は売れないチャペルだという苦手意識があったそうなのですが、今は自信を持ってご案内ができるようになったみたいなんです」
「空間が生まれ変わることで、人の気持ちや流れも変わるんだなって。すごくうれしいことですよね」
クライアントや職人さんたちと、一つひとつ丁寧にコミュニケーションをとりながら空間をつくりあげていく仕事。
同じ現場は二つとない。クライアントによって相談も異なるため、試行錯誤することは多い。
思い描いたイメージを実現するためには、デザインやディテールはもちろん、造花や人工樹木一つひとつの高さや幅、会場に対するボリュームなどにも気を配る必要がある。
「慣れないうちは時間がかかってしまうと思います。何より相手がいる仕事だから、どうしても残業せざるを得ないときもあるし、出張が続くこともあります」
「2ヶ月で納品まで進む案件から、1年単位で動く案件までさまざまですが、だいたい15件ほど同時進行しているイメージです。ただオフィスに座って、という仕事ではないですね」
それに華やかな空間をつくるためには、地道な作業も多い。
施工に立ち会うケースでは、みずから手を動かしたり、重いものを運んだりと、力仕事もあるそう。
「最近も、葉の隙間からこぼれる光をつくるために、脚立に上って高さのある人工樹木の葉の向きを調整していたこともありました。これは少し大変だったかな(笑)」
「でも、造花や人工樹木をきれいに飾っておしまい、という仕事じゃないので。私は、やるべきことはいつも一緒だと思うんです」
どういうことでしょう。
「私たちの仕事は、その空間をどう素敵にするかっていうことに尽きると思っていて」
「この造花を置いたらきれいだなとか、ここに1本の木があれば人が集まってくるんじゃないとか。そんな素直な気持ちで、お客さまに向き合う仕事だと思います」
そこに生まれる新たなストーリーを考えながら、空間をつくりあげていく。その先で、人の流れが変わっていく。
自分の手で、場の広がりをつくり出すような仕事かもしれません。
(2018/09/28 取材 遠藤真利奈)