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書く人のとなりで
手書きの文字へ
のせる想いに寄り添って

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

「いろいろな挑戦をしてきましたが、やっぱり僕らがやりたいことは『書く』ことの楽しさを知るきっかけをつくり、その価値を伝えること。それをこの蔵前のまちでやっていきたいんです」

カキモリは東京・蔵前にある文具店。

訪れた人は、すべての商品に触れて、その手触りや書き味を体験することができます。

たとえば表紙や中身、留め具を自由に選んでオーダーノートをつくることができたり、万年筆の試し書きができたり。色を混ぜ合わせて好みのインクをつくるインクスタンドも運営しています。

「やっぱり手書きっていいよね」と思えるような工夫がたくさんちりばめられている。

今回は、そんなカキモリとインクスタンドで一緒に働く仲間を募集します。

スタッフにはどちらの店でも働いてもらう予定。さまざまな経験を積みながら、一緒にお店をつくっていくことになりそうです。


蔵前は、手工芸や革製品などものづくりの職人が多く集うまち。

最近では古い倉庫をリノベーションしたカフェやホステルも増えていて、“東京のブルックリン”なんて呼ばれることもある。

そんな賑わいの中心になっている大通り沿いに店舗を構えていたカキモリ。昨年、そこから歩いて10分ほどの住宅街に移転した。

「最近は移転したことが周知されて、お客さまもこちら側まで歩いてきてくれるようになりました。広くなったぶん、ゆっくり見られるようになったとか、スタッフとも話せるようになったという前向きな声が多いですね」

開店前のお店でそう話してくれたのは、代表の広瀬さん。

お店は以前の店舗の約3倍の広さに。

店内にはセレクトされた文房具のほかに、オーダーノートをつくるための用紙や金具、カキモリオリジナルの万年筆なども並ぶ。

イベントスペースも併設していて、アーティストを招いたオープンアトリエや、自分でノートの製本ができるイベントも企画しているそう。

世界を広げて、より新しい感覚に出会える場所へと進化した。

チャレンジを続ける姿勢は、創業当初から変わらない。

広瀬さんの実家は群馬県高崎市の文具店。デジタル化が進み文房具を使う人が減るなか、書くことの価値を伝えたいという思いから8年前にこの蔵前でカキモリをはじめた。

「文房具の専門店がどんどん衰退していくなかで、若い人たちに文房具を大切にする気持ちや、文房具が好きという気持ちを育んでもらいたいと考えていました」

オーダーノートをはじめとするカキモリの取り組みは、次第にメディアなどでも取り上げられるようになり、多くの人が集まる場所になる。

その後、蔵前を飛び出して表参道や高崎への出店に挑戦。しかしどちらも結果的にはうまくいかず、早期撤退を余儀なくされた。

「一時は各地に店舗を増やしていこうと意気込んでいたのですが、売上を伸ばすことが目的になりすぎていたと気づいたんです。今は原点に返って、これまで蔵前でやってきたことを深堀りしていきたいと考えています」

これまでカキモリが取り組んできたこと。

それは一人ひとりのお客さんと向き合いながら、『楽しく書く人』を増やしていくこと。

「私自身もやっぱり手書きで書く時間は減ってきていて。キーボードを打つ時間のほうが長くなったし、社内の情報共有もデジタルのツールを使っています」

「それでも書くっていうことは、 人にしかできないことをやっていくためのツールなのかなと思うんです。その感覚を残していきたいと思っていて」

たとえば日記を読み返すと、行間やインクのにじみ具合からもそのときの自分が思い出される。
時間をかけて書いた文字からは、書いた人の思いや雰囲気も伝わってくる手書きでさっと描いたイラストが、アイデアの源になることも。

デジタルが当たり前になった時代だからこそ、書くことの価値はもっと高まっていくはず。そこでカキモリでは新たな試みもはじまろうとしている。

「まずは旧カキモリのあった場所にインクスタンドの増床を考えています。今は予約が取れない状態で。いろんな方に、もっと気軽に来てもらえるようにしたいんです」

「それから、手紙を切り口にしたお店も新たにオープンしようと思っていて」

手紙のお店、ですか。

「うん。手紙と言っても全てが郵送である必要はなくて、たとえば贈りものに一緒に添えるカードとか、家族との連絡用に冷蔵庫に貼るメモとか。そういうものでもいいんです」

手書きで気持ちをしたためて、相手に伝える。そんな機会がもっと身近になって、文化として根付いていってほしい。

「書きたいという気持ちはあっても、実行に移せない人がたくさんいるんじゃないかな。そういう気持ちを後押しするお店にしたいし、それはカキモリのやるべき仕事だなと思っています」

収益だけを考えれば、きっと激減するだろうと笑う広瀬さん。それでも大切にしていきたいことなのだと話してくれた。


カキモリで働くというのはどういうことなんだろう。

教えてくれたのは、販売スタッフとして働く中谷さん。

「私はもともとお客さんとしても来ていました。スタッフは相手がお客さまでもスタッフでも同じ接し方なんです。丁寧に教えてくれたり、自分のペースでやらせてくれたり。つくられていない感じがすごくいいなと思っています」

毎日お客さんの生の声を聞く販売スタッフ。だからこそ、表面的な言葉ではなくより本音に触れられるような接し方を常に模索している。

それがより良いお店づくりや、商品づくりにもつながっていく。

「本音って結構ぽろっと出てくるものだと思います。たとえばノートを選んでいるときの『これ、もうちょっと大きいサイズないんだな』という呟きとか。そういう小さな声を聞き逃さないように注意しています」

スタッフが日々集めた声は付箋に書き出して保管し、すべて朝の朝礼で共有しているのだとか。

そのほかにも、お店のオープン1時間前には全員でお店と事務所の掃除をする。海外のお客さんにもしっかりと対応したいから、英語の勉強会も毎日行っているそうだ。

一見効率が悪く思えることも、スタッフ間の情報共有やコミュニケーションにつながるから疎かにはしない。

この居心地の良い空間は、スタッフ一人ひとりの努力によって生まれているんだなとあらためて感じる。

「お客さまの悩みをどうしたら解決できるのか、喜んでもらえるのかということは常に考えます。先日は、アメリカから来た男性とお母さんのお誕生日プレゼントを一緒に選びました」

贈る相手の好きなものや雰囲気を聞きながら。ときには自分の意見もしっかりと伝える。

「オリジナルノートの中身から、添えるカードまで一緒に考えて。気づいたらあっという間に1時間くらい経っていましたね。ラッピングは飛行機で運ぶので、ずれたりしないように丁寧にお包みしました」

「贈る相手にいちばん喜んでもらえる方法をお客さまと一緒に考えることができたかなって。やりがいがありましたし、お客さまにも喜んでもらえて良かったなと思います」

マニュアルはないカキモリの接客。相手を想える人なら、それぞれのやり方で良いそう。

裏を返せば、自分で考えて動くことがとても大事になってくると思う。


インクスタンドを担当する杉田さんは、まさにそれを実践している人。

日本仕事百貨の記事でカキモリを知ったときのことを、こんなふうに話してくれた。

「ここで働く人たちは、できないことがあったとしても別の方法を考えて提案してあげたい、という気持ちを当たり前に持っているんだなと感じていて。それってすごいことだし、そういう人たちと一緒に働けるのっていいなと思ったんです」

今回募集する販売スタッフは、1つのお店にとどまらず働くことになる。

カキモリとインクスタンドで、お客さんとの接し方に違いはあるのでしょうか?

「基本的には変わりませんが、インクスタンドのほうがお客さまのお話を伺う時間は長いです。とくに色の話は、その人の考え方や好きなものを受け取りながらでないとイメージを共有できないので」

「持っている鞄を見てみたり、趣味の話から印象を得たりして提案する色を考えています」

オリジナルインクをつくることができるインクスタンドでは、毎日さまざまなオーダーが入る。あるときは、年配の女性から「夏の色がつくりたい」というオーダーを受けた。

「夏の色ってどんな色だろうと考えて。お客さまは水色や青のイメージをお持ちでしたけど、たとえば爽やかな緑とか、太陽をイメージしたオレンジも夏の色になるなと思って」

お客さんの希望に沿った色を見つけることももちろん大切。一方で、あえてこれまでお客さんが思い描いていなかった緑色も提案した。

その瞬間、ぱっとお客さんの表情が変わったのだそう。

「その方は、提案した色をオーダーしてくださって。お客さまの色の選択肢が広がる瞬間に立ち会えるのはすごくうれしいですね。その感覚が楽しくて、何度も通ってきてくださる方もいるので」

自分には想像もつかなかった色の組み合わせを、お客さんに教えてもらうこともある。毎日自分の引き出しが増えて、提案できる色幅も広がっているそう。

それは杉田さんがただインクを売るのではなく、お客さんと一緒につくろうと考えを巡らせているからこそ、実現していることだと思う。

とはいえ、最初から今のように自然とお客さんに寄り添えたわけではないのだとか。

「私自身が、お店で店員さんに話しかけられるのがあまり好きじゃなかったので。最初は声をかけるタイミングがなかなかつかめなくて悩みました」

たしかに、最初のきっかけが難しそうですね。

「声をかけなきゃ!って意識すると、自分はそのつもりがなくても緊張が相手に伝わって、お客さまも構えちゃう。でもその枠を一旦外して、目の前のお客さまの様子を感じ取るようにしています」

「あたりを見回していたら声をかけるし、立ち止まってじっくりと見ている人からは少し離れる。まわりのスタッフの接し方にも刺激を受けながら、だんだんと声をかけられるようになって。今では大変だと思わなくなりました」

カキモリは、接客に限らず変化のスピードがとても早い会社。スタッフのこれまでの経験も人それぞれ。

今あるやり方にとらわれず、お店をより良くするため、柔軟に変化していく仲間が集まっている。

一緒に新しい発見や変化を楽しめる人だと、きっとすぐに馴染めるんじゃないかな。


そんな話をしているうちに開店時刻。店内はすぐにお客さんでいっぱいになり、あちこちでスタッフとゆるやかな会話がはじまる。

一人ひとりのお客さんのとなりにそっと寄り添うカキモリの接客は、お金を払う・受け取るという一方通行の関係性ではないのだと思う。

手で書くからこそ伝わるものがあるように、この場所も目の前に人がいることが感じられる。そんな空気がこのお店にはありました。

(2018/10/4 取材 並木仁美)
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