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一般的な婚活では、趣味を尋ねられても、本当のことを答えるべきではない場合があるのだそう。たとえば、アニメは映画鑑賞、漫画好きは読書、と言い換えたり。少なからず嘘をつくことも。
でも、人生を共にする相手に本当のことを言えないのは、なんだか悲しい。嘘を重ねていくうちに、自分の好きなものに自信がなくなる人もいるんじゃないか。
今回紹介するのは、本当に好きなものを通じて幸せな結婚をサポートする仕事です。
アニメや漫画・ゲーム・創作活動などをこよなく愛するオタクのお客さん向けに、出会いづくりから結婚までを支援するサービス「とら婚」で婚活アドバイザーとして働く人を募集します。
東京・秋葉原。
「ぜひ朝礼から見てください」と声をかけてもらい、まずは末広町駅からユメノソラホールディングス株式会社本社に向かう。
ユメノソラホールディングスは、同人誌を中心とした漫画関連商品の専門ショップ「とらのあな」を経営している。
約20年前、即売会やコミケに参加する以外、作品を発表する機会がほとんどなかったクリエイターに、少しでも多くマーケットを提供したいという思いから、1年中作品を取り扱えるプラットフォームをつくってきた。
現在では、50,000名を超える作家や造形・CGクリエイターが創作した作品を扱う。
ミッションとして掲げているのは「クリエイターのファミリーになる」こと。
そこで一緒に歩んできたお客さんの幸せに貢献する新たなサービスとして立ち上げたのが、趣味と結婚を両立する「とら婚」だ。
朝礼が始まると、連絡事項などを共有し、全員で社是を読み上げる。
組織というより、もっとフランクな雰囲気を想像していたから、正直少し驚いた。けれども、社員が自分の考えを話すときに好きなアニメのキャラクターや漫画内のエピソードを例に話すのは、なんだか「とらのあな」らしい。
朝礼を終えたら、5分ほど歩いてとら婚のオフィスへ移動。同じビル内には会員さんとの相談スペースなども設けられている。
ここで、婚活アドバイザーの小谷中さんにお話を伺う。
そもそも婚活アドバイザーって、どんな仕事なのでしょうか。
「まずは無料カウンセリングを行います。ここで行うのは、大きく分けて2つ。一つがご趣味診断といって、趣味の方向性や好きなジャンルを教えてもらいます。二つ目が婚活診断。その人が考える結婚観や希望が、我々の提供するサービスに合っているかを確認しあうという感じです」
とら婚は趣味を絶対に否定しないし、全力で応援する。だけど、結婚を考えるなら、パートナーのことも尊重して趣味にかける時間や予算を自粛することも必要だ。
変えなければいけない部分があると感じたり、とら婚では成婚が難しいと感じた場合は正直に伝えて、他の結婚相談所を紹介することもあるのだそう。
「努力すれば必ず振り向いてくれますよ、ということは言いたくないんです。結婚相談所は婚活アプリや婚活パーティなどに比べるとお金がかかるものですし、うちで活動するメリットもデメリットもきちんとお伝えしないと、信頼関係は築けないと思っています」
「入会後は、一緒にプロフィールなどをつくって活動を開始します。お見合いを申し込んで、お互いOKならまずお友達から。最終的に交際からだいたい3ヶ月でプロポーズまで進みます」
会員さんの年齢層は20代から40代。3ヶ月という短い期間で成婚を目指すからこそ、さまざまなサポートが行われる。
「たとえば、プロフィール文の添削からお見合いの練習相手。オプションになりますが、洋服の買い物や、美容院に同行して髪型のオーダーをすることもあります」
「成婚するために、その人にとって足りないものや苦手なものを、私たちが一緒になって考えていく。そのためにはなんでもやるという感じですね」
さらにとら婚の大きな特徴は、小谷中さんたちアドバイザー自身もオタクを公言していること。
ということは、新しく入る人もアニメや漫画に関して深い知識がないと、働くのは難しいのでしょうか。
「一口にオタクと言っても、好きな作品やジャンルはバラバラで。だから、お客さまが話している作品について知らないということも実は結構あります」
「でも、何かすごく熱中するものがあって、心奪われる気持ちみたいなものはよくわかるんです。だから相手のことを理解しようという気持ちや、知らなくても興味を持つことが重要ですね」
個人の結婚観や恋愛観はとてもデリケートなもの。それを他人に曝け出すのは、とても勇気がいることだと思う。そんなときに好きなものの話で盛り上がり、互いに理解が深まると心を開いてくれる人が多いのだそう。
もちろん、信頼されるアドバイザーでいるためには日々の勉強も欠かせない。
「たとえば、デートをする際におすすめのお店を聞かれたときに、ぱっと答えられないと『大丈夫なの?』って思われちゃいますからね。…そう考えると、なんだか自分の人生を試されている感じがしますよね(笑)。自分の中から出てくるものだけで戦っていくしかないので」
とてもわかりやすく、丁寧にとら婚の仕組みや考えを話してくれた小谷中さん。
前職では、商業施設の企画の仕事をしていた。
「入社のきっかけは、企画だけじゃなくて運営まで携わりたいと思ったこと、もう少し自分で裁量を持った仕事をやりたいなと思ったことですね。あとはアニメや漫画も好きだったので」
実際に働いてみてどうですか。
「婚活アドバイザーだけをやっていればいい、という感じではまったくなくて。やる仕事の幅は想像以上に広かったなっていう感じがしますね」
たとえば、婚活パーティの司会進行や、著名な漫画家さんなどをゲストに招いたトークイベントの企画運営。アルバイトスタッフの面接や、名古屋へ出店する際には物件探しと内装工事の推進を担当したこともあるのだとか。
「何もないところから任されることが多いので大変ではあります。だからこそ面白いんですけどね。どんなことにも前向きに挑戦するマインドが必要だと思います」
最近仲間に加わった太田さんは、まさにそんな人。
前職ではテーマパークで接客の仕事をしていた。人と接することは好きだったものの、未経験でこの世界に飛び込んだ。
「実は私も以前、婚活パーティに参加したことがあるんです。でも自分がアニメや漫画が好きだっていうことは一切言えずにいました」
「そうして出会った人とは、結局あんまり話が合わなかったり、中にはアニメや漫画を馬鹿にする方もいらっしゃって。いやな思いをしたこともあるし、オタクであることを隠しながら婚活をするってなんか違うなって思っていたんです」
自分の好きなものをはっきり好きだと言えない。同じような想いを抱える人の役に立ちたいと、とら婚にやってきた。
最初はどんなふうに仕事を覚えていくのでしょうか。
「最初の1ヶ月は社員さんが毎日ついてくださるので、一人になることはありませんでした。覚えることが多いので、ついていくのに必死でしたね」
新しく入った人は、まず一人で無料カウンセリングができるように研修を受ける。
座学でサービスの仕組みを学んだり、先輩社員をお客さんに見立ててカウンセリングの練習をしたり。最低でも150時間以上は研修を実施しているそう。
入社後1ヶ月ほどで、無料カウンセリングを行えるようになったそう。入社して2ヶ月経った今では、すでに会員さんも担当しているのだとか。
「だけど想定通りにはいかないことが多いです。一人一人の会員さまに合わせて、何が必要なのかもっと考えていかないといけないなって身にしみて感じています」
通常、入会後に開始するお見合いは、できるだけ多くの人と出会うことが推奨されている。
太田さんもその考えに従って、担当した女性の会員さんにたくさんお見合いをすることを勧めたという。ところが、実際に活動を開始してみると、その方には想像していた以上に男性からのお見合い依頼が殺到してしまった。
「そんなときに、自分の会員さまに対してどんなアクションを取ればいいのか、わからなくなってしまったんです」
どのタイミングで、どんな言葉をかけるのか。人によって感じ方もさまざまだから、決まった正解は存在しない。
相手が何を求めているのか、細やかに想像を巡らせて実際に行動に移す力が求められる。
「先輩から『様子を聞いてみたほうがいいんじゃない?』と声をかけてもらって連絡したら、会員さまもどうしようかと困っていて、連絡しようと思っていたというお返事がきたんです」
そういうことにも先回りして気づけるように、一つひとつ試行錯誤しながら経験を積んでいるという。
「なんでも話してもらえるアドバイザーになりたい」と話す太田さん。とら婚で働き始めたことで、自身の考え方にも変化が生まれているそう。
「私、スマホの待ち受け画面を隠さなくなりました」
待ち受け画面?
「はい。自分の趣味を知られるのが恥ずかしくて、ちょっとお洒落な人を装っていたんですけど(笑)ここではみんな、絶対に相手の好きなものを否定しないんですよ」
「だから、隠そうと思わなくなって。この作品を好きでよかったなって自信を持って言えるようになりました」
会員さんの人生に深く関わりながら、働く人自身も良い影響を受けていることが感じられる。生き生きとした笑顔がとても印象的だった。
最後に、上司になる成田さんにもお話を伺う。
とらのあなに就職して、店舗の店長やバイヤー職を経験。その後はまだ会員がわずか2名だったころから、とら婚の黎明期を支えてきた一人だ。
プライベートでは2児のお父さんでもあり、会社でもみんなのお父さん的存在なのだそう。
「とらのあなでもとら婚でも、声をあげた人の意見が通りやすいっていう風土があるのがいいところだと思います。もちろん言ったからには責任を持ってやり遂げなければいけない厳しさもありますけど」
売上は右肩上がりで、過去の成婚者は70人以上。
とはいえ、事業はまだ始まったばかり。より良いサービスを提供できるように考えながら、今後は全国に事業を展開していきたいと考えているそう。
そのためには、働いている人自身も楽しみながら仕事ができる環境をつくっていきたいと成田さんは話す。
「漫画やゲームって嗜好品ですし、楽しむもの。だから我々自身も楽しんでないと、共感は生まれないんじゃないかって入社当初から思っています。僕らも仕事と趣味のバランスをとりながら。やってみたいと思ったことはどんどん提案してほしいですね」
とら婚は今、成長段階にあって、正直なところとても忙しいと思います。
それでも、今まで婚活の妨げになると考えていた自分の趣味を、魅力に変えて幸せの一歩を後押しする。
オタクの前向きな門出を応援できる、愛に溢れた仕事だと思いました。
(2018/11/9 取材 並木仁美)