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「大工の技術を残したいし、人も育てていきたい。その想いでずっとやっているんです。面倒くさくて手間のかかるようなことでも、続けていくからこそ価値があるんじゃないかなって」そう話してくれたのは、福富建設の代表である後藤正弘さん。
有限会社福富建設は、岡山県岡山市にある注文住宅専門の工務店。1947年の創業以来、自社で大工を育て続け、その技術を生かした自然素材の家づくりにこだわっています。
今回は、そんな福富建設の家づくりにかける想いを伝える広報スタッフを募集します。
広報物の作成やSNSでの発信、家づくりや暮らしのイベントの企画運営、お客さんへの対応など。大工や設計者とコミュニケーションをとりながら、“福富らしさ”を考え、伝えていく仕事です。
あわせて設計者も募集します。
人を育て、大工の技術を残していく。そんな想いが真ん中を貫いている、まっすぐな会社だと思います。
東京駅から新幹線に乗り、岡山駅へ。この日は雲ひとつない秋晴れで、適度にひんやりした空気も気持ちいい。
まず向かったのは、昨年完成したばかりの福富建設のモデルハウス「高屋の家」。宿泊体験もできるのだそう。
片流れの屋根に、広々とした軒下。そして、木のやわらかな質感が感じられる外観。住宅街のなかから突然現れたその姿に、思わず目を奪われる。
中に入ると、ふわっと木の香りに包まれた。杉の床を踏みしめると、柔らかな感触が足の裏にかえってくる。窓からの光もあたたかくて、のんびり昼寝でもしたい気持ちになる。
「完成して1年経ちましたが、今でも木の香りがしますよね。これは壁の裏の下地材まで自然素材を使っているからなんです。集成材や合板を使ったら、ここまで木の香りはしないと思いますよ」
そう教えてくれたのは、福富建設の代表である後藤正弘さん。
福富建設の手がける家は、材料すべてが自然素材。国産のヒノキや松、杉の無垢材にこだわり、塗料や断熱材などにも調湿効果のある天然の素材を使用している。
材料の加工も、伝統的な大工の技術である墨付け・手刻みにこだわっているそう。
木材に手書きで印をつけ、ノコギリやカンナ、ノミを使って加工する。その後の施工も、伝統的な技術を多く取り入れている。
たとえば、このモデルハウスの床。
木材同士の継ぎ目を滑らかにし、かつ強度が一定になるように。板の配置も、木目の向きや節の状態を見ながら一つひとつ決めているのだそう。
「たとえば構造用合板っていう材料を使えば、床なんてあっという間にできるんです。でもうちは、その10倍くらいの手間をかけて床を張る。お客さまに家の説明をするときも、『すごく面倒くさい家ですよ』って話すんです」
「これだけ手間のかかることができるのも、社内に大工がいてこそ。大工を抱えているっていう強みを活かした家づくりは、ずっと追求していますね」
福富建設は、正弘さんのおじいさんとお父さんが立ち上げた会社。
創業時から自社で大工を育ててきて、現在は73歳のベテランから20歳の見習いまで、現在は計13人の社員大工がいる。
一般的に大工作業は外注する工務店が多く、福富建設のように大工を自社で抱えている工務店は、全国的に見ても珍しいのだそう。
「もともとは、腕のいい大工の多くが戦争で亡くなってしまったことから始まっていて。戦争から戻ってきた先代が、大工がいないなら自分で育てるしかないと、当時訓練校にいた子を引き取って教えていったんです」
「僕が小さかった頃は、住み込みの大工が20人ほどいたんですよ。僕の母が全員の夜のまかないをつくっていて。だから先代も母も、大工とは家族のような感覚で接していたんだと思います」
22年前に会社を引き継いでからは、正弘さんが大工を育てていく立場に。
「最初はとてもじゃないけど先代と同じことはやりたくないって思ってたんです。面倒くさいし、手間もかかる。でもいざ自分が同じ立場に立ってみるとよくわかったんですよ。なるほどなって」
「家族同然の気持ちで本気で向き合っていくことでしか、人を育てることはできないんだって思った。たとえば今の時代、人間関係なんてドライでいいじゃないかとか、育成プログラムをつくればいいとかって言われるけど、たぶん間違ってるんですよ。それで技術の伝承ができるかっていうと、僕は無理だと思っていて」
無理、ですか。
「大工として一人前になるまで、10年間は辛抱しなさいって言ってるんです。簡単にできるようにはならない。でも一度手についたら、技術って一生その人から離れないんですよ。会社として、ちゃんとした大工の技術を伝えていく存在になりたい。その想いが一番ですね」
若手が育っていき、教える側に回っていく様を見守ってきた正弘さん。人を育てるのは、先輩の大工だけではないと感じているそう。
福富建設は、先代まで下請けを中心とした工務店だった。跡を継いだ正弘さんは、元請けとして自分たちで家を建てるやり方に大きく方向を変えていったという。
「やっぱりお客さまの顔が見えて、直接ありがとうって言ってもらえることって、やりがいになるんですよね。お客さまには、施工中も見にきてくださいって話してるんです。大工も何回か会っているうちに、お子さんの相手をして遊んであげるようになったりして」
「そうすると、完成した家を引き渡すときに、お子さんが大工から泣いて離れないこともあるんです。そんな経験をしていくと、誰でもいいっていうことではなく、自分じゃなきゃダメなんだって自覚が生まれる。お客さまと顔を合わせて仕事をすることで、お客さまが大工を育ててくれるんですよ」
素材へのこだわりや大工がいる誇り、家づくりにかける想い。
正弘さんたちが培ってきた福富建設の仕事をより多くの人に伝えようと奮闘しているのが、広報を担っている後藤蓉子(ようこ)さん。
正弘さんの娘さんで、東京で就職したのち、3年前に福富建設に戻ってきた。
「子どものころから父の仕事や大工の家づくりを見てきました。福富建設は家守り(いえもり)と言って、大工が定期的にお客さまの家を点検しに行くんです。そういった伝統もあって、うちを選んで家を建ててくださったお客さまのためにも、なくしたらいけない会社だなっていう思いはずっと持っていて」
戻ろうと思ったきっかけは、福富建設の創業40周年のイベントだったそう。
当日は蓉子さんも帰省して運営を手伝った。イベントに集まったオーナーさんや、福富に興味を持ってくれている人の多さに驚くとともに、自分も企画から関わりたかったと、悔しさを感じたという。
「いつかは帰ると決めていたんですが、その“いつか”は今だろうなって思ったんです。でも帰省中は父親に言い出せなくて、帰りの新幹線の中から電話でそのことを伝えたら、ああ、わかったって」
広報担当として福富建設に入社してからは、ホームページのデザイン案を考えたり、SNSでの発信に力を入れたり。お客さんに送るDMも、Illustratorを使い自分たちでつくっているという。
「モデルハウスでのイベントや、子ども向け木工教室の企画・運営も、大工と協力しながら取り組んでいます。やっぱり自社で大工を抱えていることが私たちの強みであり、お客さまにとっても一番の安心の元。もっと多くの人に知ってもらいたくて」
大切にしている想いや魅力を、どうしたら伝えていくことができるだろう。そうやって試行錯誤しながら考えていくのは、きっと楽しいと思う。
普段蓉子さんは、社内外のいろんなところに顔を出しながら働いているそう。
たとえば正弘さんとコミュニケーションしながら会社として発信すべきことを考えたり、大工や設計者に建築知識を尋ねながらSNSの文章を作成したり。ひとりではなく、周りも一緒に巻き込みながら、試行錯誤している。
ほかにも、同じように工務店で広報として働いている人たちで集まって、さまざまな情報交換をすることもあるそう。
「数年前までは、地方の工務店って広報担当がいないのが普通だったんです。でも今は自分たちから発信していかないと、お客さまが家を建てるときの選択肢にも入らないという現実があって」
「だからうちのような地方の工務店こそ、ちゃんとお客さまに伝えていく努力をしないといけない。福富建設にはずっと大切にしてきた芯が明確にあるので、それをうまく表現していければいいなと思ってるんです」
大工を育て続けていること。ベテランから中堅、そして若手の大工へ、大工としての在り方や技術が引き継がれていること。
「これってすごいことだと思うんですよ。20歳くらいの若い大工もいるんですが、お客さまへの接し方や仕事への向き合い方もすごく良くて」
「組織として大工を育ててきたからこそ、良い家づくりができる。福富で家を建てる意味ってそこにあると思うので、もっとたくさんの人に知ってもらいたいんです」
一息ついたところで、モデルハウスから車で20分ほど離れた場所にある事務所へと案内してもらうことに。
もともとは、正弘さんのお母さんが営む喫茶店だったというこの建物。事務所に改修するとき、当時の名残を感じられるようにと外壁部分のレンガをそのまま残したそう。
1階は打ち合わせスペースとして使いつつ、イベントスペースとして貸出も行っている。
事務所スペースは2階。床や柱はもちろん、机や椅子もすべて木製。モデルハウスで感じた空気と同じような空間で仕事できるって、なんだかうらやましい。
「福富での仕事って、広報や設計、大工って名前はついているけど、共通してやるべきことはお客さまと接することなんですよ。職種によって、お客さまとの関わりを分断すべきではないと思っているので」
蓉子さんも、相談に来てくれたお客さんへの最初の対応や、モデルハウスの見学や宿泊体験の対応など、営業や総務のような役割も担っているそう。
「明るくて人と話すのが好きっていうのが一番かな。ひとりでコツコツ広報するというよりは、みんなでお客さまのことを考えて、どうやって次にアプローチしていったらいいか考える。それを一緒に楽しんでくれる人がいいなと思います」
すると、隣で聞いていた正弘さん。
「大工を自分たちで育てたり、自然素材にこだわったり。僕らがしていることって、工務店の常識からすると異質なことなんですよ。想いと覚悟を持ってやっているからこそ、福富建設の家ってこんなに気持ちいいんだ、ってことをいろんな人に知ってほしくて」
「『良い家をつくってます』というアピールだけでは、なかなか伝わらない。広報って、これをしたらいいっていう正解がないものだと思うので、いろんなことにチャレンジしてほしくて。良い家をつくる、その先を一緒に切り拓いていってくれるような。そんな人が来てくれたらうれしいですね」
伝えたい想いは、たくさんある。
おふたりを見ていると、その温度がじんわりと伝わってくるように感じました。
(2019/10/16 取材 稲本琢仙)