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手を拭いたり、汗を吸ったり、ときに涙を拭ったり。普段そんなに意識することはないけれど、タオルはわたしたちの生活に寄り添ってくれるものだと思います。
今回ご紹介する今治タオルの取扱店『伊織』。長く愛されるタオルを多くの人に届けてきました。

募集するのは、全国にある直営店の販売スタッフと、愛媛県松山市内の本社で働くディレクターや商品企画アシスタント、出荷担当など、伊織を裏方として支える人。販売スタッフについては、経験やスキルは問いません。
取材を通して出会ったのは、柔らかで芯のある人たちでした。
松山空港を出て、市街地へと向かうリムジンバスに乗る。40分ほど揺られたところで、大街道(おおかいどう)というにぎやかな商店街についた。
松山城のお膝元でもあるこのエリア。オレンジジュースや鯛めしなど、愛媛の特産品を扱うお店が続く道を、観光客の人たちが楽しそうに歩いている。
しばらく歩くと、伊織の松山店が見えてきた。広々とした店内には、あたり一面にタオルが並べられている。

「どうぞお手にとってみてください」と声をかけてくれたのは、代表取締役の村上雄二さん。
「一口にタオルといっても、本当にいろんな種類があって。お風呂上がりはもちろん、スポーツなどいろんなシーンに使えますし、サイズも手触りもさまざまですよ」

今治タオルの特徴は、高い吸水性と柔らかさ。
伊織で取り扱っている数百種類のタオルには、厳しい品質検査をクリアした証である共通のブランドマークがつけられている。
「いろいろなタオルに触れて、表情や心地よさを体感してもらいながら、ご自身にぴったりな一枚を選んでもらう。お店では、気持ちが高ぶるような楽しいタオル選びをしてほしいと思っています」

道後温泉にホテルをつくる事業から始まったエイトワンは、愛媛を拠点に「使う」「食べる」「旅する」の視点で、7つの事業を展開している。
伊織が生まれたきっかけは、ホテルのお客さんから「今治タオルはどこで買えるの?」と尋ねられたことだったそう。
「ちょうど、今治タオルが全国に知られるようになったタイミングでした。でも当時は、松山や道後温泉のような一大観光地でも売っていなかった」
「じゃあ自分たちでタオルを届けようと思ったんです。お客さまに喜んでもらいたいという気持ちと、『地方にはこんなにいいものがあるんだ』って、興味を持ってもらうきっかけをつくりたいと思いました」
そうして今治タオルのセレクトショップとして伊織が生まれた。
道後温泉の商店街から始まったお店は、10年かけて少しずつ輪を広げ、全国に20店舗をかまえるまでに。
自社企画の商品開発にも取り組みを広げ、現在ではお店に並ぶタオルの7割ほどは、伊織オリジナルのタオルなのだそう。

「今治タオルが世の中に浸透したいま、“伊織=今治タオルだけのブランド”と考えていては、どこかで頭打ちになると思ったんです」
現在、30社以上のタオル工場と関わりのある伊織。
もし自分たちの成長が止まってしまえば、産地にも影響が出てしまう。そんな危機感もあった。
「タオルは、伊織の核です。自信を持って紹介できるものを、背景と一緒にご案内する。その原点はこれからも大切に守っていきたい」
「そのうえで、これからは今まで培った技術や販売力を生かして、いろんなものづくりにチャレンジしていきたいと思っていて。その延長線上で、愛媛はもちろん、地方の魅力を発信したいと考えているんです」
たとえばここ松山店も、愛媛メイドの食品や、砥部焼(とべやき)作家さんのうつわ、さらに香川県でつくられた手袋など、四国各地からセレクトしてきたアイテムを紹介している。

あたらしい目標に向かって歩みはじめた伊織。タオルを核に、いろんな可能性が広がっていきそうな予感がする。
一方で、タオル以外に扱うものの幅が広がっていくと、お店としての“わかりやすさ”も変わってくる。だからこそ、お客さんと商品をつなぐ販売スタッフの存在は、ますます大切になってくる。
「経験やスキルがなくても大丈夫です。一所懸命で誠実で、タオルや伊織のものづくりを楽しんでくれる。そんな方に出会いたいと思っています」
お店では、どんな人たちが働いているんだろう。
紹介してもらったのは、マネージャーの宮下昌展(まさひろ)さん。

「伊織は、エイトワンに勤めていた友人をきっかけに知って。ただぼくは地元なのもあって、正直、最初は今治タオルにあまり興味を惹かれませんでした」
「でも伊織の本店に行ったとき、こんなにデザインがよくて質もいいタオルがあるんだっていうのを肌で感じて。深掘りしてみたら面白いんだろうなと興味をもったんです」
同じようなタオルでも、どうして手触りに差があるのか。この商品はどうやって織っているんだろう。入社後は、ふとした疑問を自分なりに調べたり、メーカーに尋ねたりして、知識を蓄えていった。
「たとえば…」と棚からストールをとって広げる宮下さん。

100年も前の機械で! すごいですね。
「ただ、大型織機が普及してからは、次々と処分されてしまったみたいで。修理に出すこともできないので、今はストール工房さんが全国に眠っている織機を集めて、使える部品をかき集めて独自に改良しているんです」
「この風合いは、この機械でしか出せない。だから『今治の宝』とも呼ばれているんです。知れば知るほど面白いし、お客さまに話すと共感してもらえます。スタッフはどんどんマニアックになっていくんですよ(笑)」

素人目には同じタオルやストールに見えても、スタッフの皆さんの言葉をきっかけに、それぞれの個性が浮かび上がってくる。
そうやって一緒にお気に入りの商品を見つけていくのは、きっと楽しいだろうなあ。
「今はわざわざお店に行かなくても、ネットで簡単に商品が買えます。それにタオルも、産地の技術が上がってきていて、品質の差は小さくなってきているんです」
「じゃあ伊織のお店でものを買う意味ってなんだろうと考えたときに、やっぱりスタッフ一人ひとりがものの背景にあるストーリーや想いを伝えて、共感してもらうことだと思うんですよね」
そんな言葉を体現するように、お店の中心で明るく接客していたのは、店長の呂敏(りょびん)さん。
大学時代に中国から松山にやってきて、そのまま伊織のオープニングスタッフとして入社。10年間、伊織を支えてきた。

そう笑って話す呂さん。
ただ、働きはじめたばかりの頃は苦労することも多かったそう。
「本当に覚えることが多いんです。商品の繊維や織り方まで覚えないといけませんし、次々に新しい商品が入ってくるので」
商品の入った段ボールを運んだり、脚立にのぼって配置したり。接客だけでなく、裏方の仕事も多い。繁忙期には多くのお客さんがお店に訪れるので、体力も必要だ。
「思っていたよりも大変だからと、すぐにお店を辞めてしまう人もいました」
「今回来てくれる人も、スタートはやっぱり苦労すると思うんです。でも、その期間も一緒に頑張りましょうと伝えたい。長く働くほど、いろんなチャンスを楽しめる環境だと思うので」
チャンスって、どんなものだろう?
呂さんが紹介してくれたのは、松山店限定の“めで鯛はんかち”。

「そうなんです! お店のスタッフみんなで考えたんですよ。観光の方が多いので、松山らしい鯛と椿を入れたいねって。じゃあどんな鯛にする? 色やバランスは? パッケージは? って、悩みながら考えました」
本社のデザイナーとも相談し、時間をかけてつくったハンカチ。呂さんは「本当に愛おしくって」と話す。
「こんなふうに、現場スタッフの声を反映した商品がつくられることも増えていて。自分たちの愛情が詰まった商品なので、より想いを込めてお客さまにお伝えできる。接客がもっと楽しくなります」

「そのスタッフが『じゃあ次は何を探そう!』って喜んでいるのを見て、ほかのスタッフも『自分も何か言ってみよう』って空気になって。そんないい循環が生まれると、店長としてもすごくうれしいんです」
「わたしや副店長だけで決めるんじゃなくて、なるべくみんなの意見を聞きたくて。けっこう細かく『どう思う?』って聞くようにしています」
自分の声でお店をつくっていく。そんな主体的な雰囲気があるから、お店の人たちも自分ごととして楽しく働けているんだろうな。
取材が一段落したところで、呂さんおすすめの商品を聞いてみる。するとwaffleというタオルを紹介してくれた。
「このタオルは、洗濯して干す前にちょっと振ってあげると、今の倍くらいふんわりします。私もはじめて干したときに感動しちゃって…!」

商品はもちろん、こうやって選ぶ時間を心地よくしてくれるスタッフの存在も、伊織の大きな魅力なんだと思います。
気になった方は、近くのお店を訪ねてみてください。
(2019/12/24 取材 遠藤 真利奈)