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こんぴらさんのお膝元に
せんべい香る
あたたかな非日常は続く

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

「お店はこんぴらさん参道の52段目、左側にあります!気をつけて来てくださいね」

取材前日の電話で、そんなふうに案内されました。少しワクワクしながら向かったのは、香川県の琴平町(ことひらちょう)にある金刀比羅宮(ことひらぐう)。通称、こんぴらさんです。

約800段もの長い参道沿いに、明治15年から続く老舗のおみやげ屋さん、紀の國屋本店はあります。

名物は、素材にこだわり素朴な味わいに仕上げられた舟々せんべいと石松まんじゅう。職人さんが仕込んだ生地を、店内で一つひとつ丁寧に焼き上げています。

今回は、紀の國屋本店で働く店舗スタッフを募集します。接客をしながら、せんべいなどの商品を包装するのが基本の仕事。希望すれば、せんべいやまんじゅうの製造を担う職人になる道もあるとのこと。

古くから愛されてきたこんぴらさん。その足元のお店では、あたたかい人たちが働いていました。



こんぴらさん最寄りの琴平駅までは、東京から新幹線と特急を乗り継いで4時間半ほど。駅からさらに10分ほど歩くと、参道の入口に到着する。

見上げるほど長い階段を、1、2、3…と頭の中で数えながらゆっくりと登っていく。そろそろ50段くらいかな、と思ったところで、“紀の國屋本店”の文字が目に入った。

お店に近づくと、せんべいの甘い香りがふんわりと漂ってくる。

お店の人に声をかけると、奥から紀の國屋の4代目である前田沙織さんが迎えてくれた。8年前、地元の大学を卒業と同時に結婚。ご主人と一緒に家業である紀の國屋を継ぐことにしたそう。

現在は紀の國屋の支店“YOHAKu26”の運営や新商品の企画をしつつ、本店のシフトづくりや在庫管理などを手伝っている。

「今日はよろしくお願いします。まずはお店の中を見てもらおうかな」

店内をぐるっと見渡すと、最初に目についたのはせんべいを焼く機械。自動で焼き台に注がれた生地を、機械の中で焼いているみたい。

焼きあがったせんべいには、一枚一枚人の手で焼印が押される。ポンポンと軽快に押していく手つきは、リズミカルでなんだか楽しい。

「焼いている様子が参道からよく見えるので、お客さんからの評判も良いんですよね。香りもするし、ふらっと店内に入ってきてくれる方が多いんです」

「どうぞ食べてみてください」と、一枚いただいた。

焼きたてでほんのりあたたかく、食べてみると素朴な甘さが口に広がる。もう一枚、もう一枚…と、食べる手が止まらなくなりそうなおいしさ。

紀の國屋の名物にもなっているこの舟々せんべいは、沙織さんのひいおじいさんが考案したものだそう。お店を始めるにあたって、旅籠(はたご)だった建物の屋号をそのまま使ったことから、紀の國屋という名前になったという。

ひいおじいさんからおばあさん、お母さんとつながり、沙織さんで4代目。

「3年前にお店をリニューアルしたんです。もともとは、キーホルダーとか招き猫とか木彫りの大黒さまみたいな、どこでも見かけるようなおみやげが大量に置いてあるお店で」

「お客さんもせっかく琴平に来てくれているんだから、ここでしか買えないようなものを売りたいと思って。商品の数を少なくしたぶん、自分たちでデザインしたものや、こだわって選んだ商品を置いています。香川や瀬戸内の特産品もありますね」

なかには、こんぴらさんの参道ならではのおみやげも。

「最近だと、『福来旗(ふらいき)トトと』っていう新しいブランドを立ち上げたんです。その最初の商品として、ドレッシングを手づくりできるキットを発売しました」

「福来旗」は大漁旗、「トト」は魚という意味だそう。いりこと鷹の爪やにんにくが入った瓶で、そこに好みの醤油、お酢、油を入れると、オリジナルのドレッシングができあがる。

高松市に住む発酵食品専門のフードアドバイザーに協力してもらい、2年ほどかけて開発したという。

「こんぴらさんって、海の神様をまつっている場所なんです。漁業関係者とか、仕事で船を使う人たちが昔からお参りに来ていて。でも一般のお客さんは、海の神様だっていうことを知らない人も多いんですよ。それってもったいないなって」

「どうして山なのに魚を使ったおみやげがあるんだろう?って思ってもらえれば、こんぴらさんのことをもっと深く知ってもらうきっかけになる。受け継いできたおせんべいは大事にしつつ、こんぴらさんの参道で買っていただくからこそ価値があるものもつくっていけたらいいなって思ってます」

今回募集する人も、新しいアイデアがあればぜひ提案してほしいとのこと。とはいえ、まずは接客や商品の包装作業など、基本的な業務がしっかりできるようになることが前提になる。



ふだんはどんなふうに働いているのか、沙織さんのご両親である美紀子さんと進さんにも話を聞いてみる。

美紀子さんは接客や商品の包装、経理など担当し、進さんはせんべいやまんじゅうの製造、配達を担当している。

「わたしは紀の國屋で生まれ育って。小さいときから『みきちゃんはおせんべい屋さんの跡取りさんやけんな』って言われてここまできたんですよね」

「でも娘には、私の代でせんべい屋も終わっても構わん、好きなことしてええよって言ってたんです。けど、娘もやっぱりこんぴらが好きで、残ってお店を守っていきたいって言ってくれて。こうして一緒にできるのはありがたいなって思います」

3代目としてお店を切り盛りしてきた美紀子さん。こんぴらさんの参道で商売をする面白さを日々感じているそう。

「毎日、全国各地から人が来てくれるんですよ。どこからですか?って聞くと、北海道から沖縄までいろいろ。最近は海外の人も多いので、身振り手振りしながら話したりして」

「ほとんどの人が旅の途中で、非日常を楽しんでいて。楽しんでる人と話すと、こっちまで楽しくなっちゃう感覚がある。それはここで働く面白さかもしれないです」

すると、となりで聞いていた進さんもうなずく。

「毎年来て、やっぱりここのおせんべいでないとあかんのやって言ってくれる人もおってね。そういうのはすごく張り合いになりますよね」

「働いてくれる人も、明るい人やったら大丈夫やと思うんです。せんべいの包装とかの作業は、やっていくうちに慣れていくと思うので。楽しい気持ちで来てくれてる人に、さらに楽しい気持ちで帰ってもらうのが大事やと思いますね」

基本となる業務は、商品の包装と接客。

まずは包装。焼きあがったせんべいの向きを揃えて、端っこのバリをとったら、機械でパッキングしたり、容器に入れて紐をつけたりする。

「単純な作業なんやけど、お客さんが来たら手を止めてレジの対応や商品の説明をする必要があって。一個のことを集中してやりたいって人には合わないかもしれないですが、逆に接客も作業も両方できるのが楽しさかもしれないですね」

現在は前田さんご家族のほかに、パートさんなど常時3、4人が店頭で働いているそう。スタッフはまず、接客と包装などの作業をしっかりとできるようになることが肝心とのこと。

その後せんべいの焼き手や、希望があれば生地をつくる職人の仕事にも挑戦してほしい。

「今は僕ともう一人の職人で生地をつくってます。たとえば舟々せんべいやと、原料は小麦と砂糖と卵だけ。小麦はさぬきの夢っていう香川県産のもので、砂糖には香川県産の和三盆も使ってます」

「もちろん原価は高くなるんですけど、良いものを使うと必ず味に返ってくるので。材料費をケチったらおいしくなくなる。だから原料にはこだわってますね」

気温や湿度によって生地の水分量を変えたり、焼きの温度を微調整したり。その塩梅は代々感覚で伝えられてきたので、職人として安定したものをつくるには3年以上かかるらしい。

職人希望の人でも、まずは基本の仕事をきっちりできるようになってほしいと話す進さん。

「うちの接客って、一個でも多く買ってもらおうとか、そういう接客じゃなくて。お客さんがほしいものを、ほしい数だけ買ってもらいたい。だから明るくハキハキ話してくれるのが大事やと思うんです。あとはお客さんに喜ばれる接客かな」

喜ばれる接客って、どんなものでしょう?

「うーん、なんやろね…(笑)。あっ、そういえばさっき食べてもらってたせんべいに“七八五”って焼印が押してあったでしょう」

そういえば、書いてあった気がする。あれはどういう意味なんですか?

「参道の一番下から御本宮まで、全部数えると七八六段あるんですよ。七八五よりひとつ多い。でも七八六だと『なやむ』で語呂がわるいってことで、途中に一段下がる階段をつくって、七八五段にしてるんですよ」

「下がった一段でなやみを落としてお参りしてくださいねって。せんべいひとつでこういうコミュニケーションができるのも、この場所の面白さやと思うんです。そういうことを楽しめる人やったらええのかな」

「すぐ意味を答えずに、ちょっと間を置くのがコツですね」と言って笑う進さん。

美紀子さんはどうでしょう。

「たとえば、昔こんぴらさんに行きたくても行けなかった人が、犬にお守り代を託して向かわせたっていう話があって。そんな歴史的な逸話が好きとか、単純に神社が好きっていう人でもいいかもしれないですね。今までは近くから働きに来てくれる人が多かったけど、琴平に来たことがないような人でもいいなと思っていて」

「昔から琴平は、こんぴらさん目指していろんな人がやってくる町なんです。受け入れる土壌がある場所なので、ぜひいろんな人に来てほしいですね」



最後に話を聞いたのは、沙織さんと結婚して紀の國屋にやってきた直希さん。せんべいの配達や通販サイトの管理などをしつつ、沙織さんと一緒に支店の運営や商品の企画などに携わっている。

「もともと岡山出身なんです。琴平には結婚してから来たので、すごく新鮮でしたね。こんぴらさんの参道で働くのって、なんていうのかな…常にお祭りのなかにいる感じなんですよ」

「縁日でお店を出してるみたいな感じ。小さいときに憧れてたお店屋さんごっこを、大人になってしてる、そんな楽しさはありますね」

琴平の住み心地はどうですか?

「うーん…参道に住んでいると車で自宅の横まで行けないので、それは不便ですね(笑)。僕自身も結婚したから来たっていうのが大きいし、ハードルが高い土地やなとは思っていて」

「でもこんぴらさんの参道っていう、非日常的な空間で働くって、なかなかできないと思うんです。こんぴらさんが好きとか、琴平が好きとか。人と接するのが好きでもいい。なにかしらの好きをきっかけに来てくれたらいいですね。あっ、家探しももちろん僕たちがお手伝いしますよ」



翌朝、金刀比羅宮へお参りに行くことに。

100段以上続く急勾配のエリアを登りきり、その後もひたすら階段を登っていく。

まわりにはカップルや家族連れ、スーツ姿の会社員の人たちなど、いろんな人が息を荒くしながら一段ずつ進んでいる。

参道を歩いて40分ほど。ようやく御本宮に到着。

登っている途中はしんどそうにしていた人も、ここまで来ると自然と笑顔になって手を合わせている。

52段目にある紀の國屋は、この参道のエントランスのような場所かもしれない。登る人は英気を養って、下る人は最後に一息ついて。

そこにあのせんべいのいい匂いと朗らかなみなさんが待っているものだから、それはふらりと立ち寄りたくなるよなあ。

興味のある方は、ぜひ一度自分の足で登ってみてください。

(2019/11/29 取材 稲本琢仙)

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