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ご縁を紡ぐ
着物のリトリートホテル

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山形県の中部に位置する白鷹町(しらたかまち)。

古くから養蚕が盛んな地域であるとともに、その良質な絹を使った白鷹紬は全国的にも有名。

紅花をはじめとする豊富な染料を使い、白鷹独特の技法で染められた紬は、緻密な文様とやさしい色合いで、江戸時代ごろから盛んにつくられてきました。

このまちで来年の春、歴史ある古民家をリノベーションした宿がオープンします。

運営母体となるのは、まちづくり会社ukitam。ちょっと変わった社名は、この一帯の地名である置賜がアイヌ語の「ウキタム」という言葉に由来していることからついたそう。

今回は、この宿のマネージャーとシェフ、そして体験コンテンツづくりをする地域プロデューサーを募集します。

創業400年を超える老舗の呉服屋さんや温泉旅館の経営者など、多様な地域プレイヤーと一緒に進めていくプロジェクトです。


東京から新幹線で約2時間半、米沢と山形のあいだに位置する赤湯駅へ。そこから車を30分ほど走らせ、白鷹町へと向かう。

朝日連峰に囲まれた盆地。まちの中心には最上川が流れている。

一面の田んぼの先に、山が連なっている。しばらくぼーっと眺めていたくなるような景色だなあ。

国道から横道へと入り、進んでいくと、林に隠れるように並ぶ建物が見えてきた。ここが今回宿になる予定の「旧奥山邸」。

一番大きな母屋のほかに5つの蔵が建ち並んでいて、とても広い。

旧奥山邸は、江戸時代の米沢藩藩主、上杉鷹山とゆかりのある場所。代々奥山家が継いできたものの、維持管理が困難になり20年ほど前に売却することに。その後は地元のお蕎麦屋さんが所有していたけれど、5年前にお店をたたむタイミングでふたたび手放されたそう。

これを買い取ったのが、山形で老舗の呉服屋を営む株式会社とみひろだった。

23代目の冨田浩志さんは、ukitamの代表も務めている。どうして呉服屋さんが古民家を買い取り、宿を運営するに至ったのだろう。

「30年ほど前から、会社のビジョンに養蚕と染織事業を掲げていたんです。それで6年前に白鷹町に工房をつくったんですが、そのときにこんな場所もありますよって紹介されたのが、旧奥山邸だったんですよ」

財政難で苦しむ米沢藩を立て直し、現代までその功績が語り継がれる上杉鷹山。その藩主時代の養蚕事業拡大に携わり、藩の経済再生に貢献したのが奥山家だった。

母屋と5つの蔵、約8千平米の広大な敷地。養蚕の歴史や上杉鷹山との結びつき。着物に関わり、養蚕事業にも力を入れはじめていた冨田さんは、何かの縁を感じたという。

「買い取ったはいいものの、どう活用したらいいだろうかって、いろんな人に相談してね。ある人が、宿泊施設にするのがいいんじゃないかって言ってくれて。国の補助金があるから、申請が通ったらやってみましょうっていうことにしたんです」

「そしたら受かっちゃったんだね(笑)。呉服屋だから宿泊業の経験はなかったけど、息子のつながりで温泉旅館の方にも加わってもらったり、古民家活用のノウハウがあるNOTEさんに協力してもらったり。いろんなご縁をつないでもらって、ここまでくることができました」

今回の事業で大きな役割を担っているのが、古民家再生の専門家である株式会社NOTE。

全国各地に展開する古民家ホテルブランドの「NIPPONIA」では、空間に手を加えすぎず、その家が積み重ねてきた歴史を生かすことで、唯一無二の体験価値を提供している。

冨田さんも実際にNIPPONIAに足を運び、その雰囲気に感銘を受けたそう。

旧奥山邸では、そのノウハウを生かしながら、古民家改修に長けた地元の建築士やデザイナーとタッグを組む。館内の家具や備品には、山形ならではの素材を取り入れていくという。

たとえばユニフォームは、山形市の縫製会社に依頼。さくらんぼやびわ、養蚕にちなんだ桑などを使い、伝統の染織でやさしい色合いに仕上げた。

「あらゆる物事は縁によって生じているんだなって、今回の事業を進めるなかですごく実感したんですよね」

縁、ですか。

「旧奥山邸を引き継いだのも、宿の事業がはじまったのも、言ってしまえば偶然なんです。これだけぴったりなメンバーが地元の人で揃うことも、そうないんじゃないかな。こうしていくつもの偶然が積み重なって、地域を元気にしたいっていう想いでみんなが集まってくれたのは、すごいご縁だと思うんですよ」

「本当にいいメンバーが揃っているので。地方が好きで自然が好きで、古民家を生かすことに魅力を感じてくれる人がいたら、一緒にこのプロジェクトを築きあげていってほしいなって思います」

本人の預かり知らないところでつながっていくような縁も、たしかにあると思う。でもなんとなく、お話を聞いていると、冨田さんの熱意や人柄がその縁を引き寄せているようにも感じられる。

プロジェクトメンバーのみなさんは、この縁をどんなふうに感じているのだろう。


続いて話を聞いたのは、ukitamの財政面を主に担当している梅津さん。地元が白鷹町の近くで、冨田さんに宿の事業を提案した張本人でもある。

投資会社で働きながら、今回のプロジェクトに参画しているそう。

「大学時代は新潟にいて、卒業後は12年間、東京で投資の仕事をしていました。そこで感じたのが、ほかの地域と比べると、東北ってお金が投資される案件が少ないんだなっていうことで」

「もともと地元に帰りたいという思いがあったので、山形で面白い事業ができたらいいなと考えていたんです。そんなときにちょうど、知り合いから山形の投資事業を開拓しないかって誘われて、2年前に山形へ帰ってきました」

梅津さんは、地方に眠る古民家を活用してなにかできないかと考えた。そのタイミングで出会ったのが、ちょうど旧奥山邸の活用方法を探していた冨田さん。

「ここどうしたらいいと思う?って、最初に旧奥山邸を見せてもらったとき、これだけ大きい建物でちゃんと投資を回収するには、宿泊施設にするしかないだろうなと思ったんです」

「まわりは田園地帯で、お店などはないので、ふらっと散策できるような環境ではなくて。だから宿泊施設にするなら、敷地内でいろいろ体験できるようにする必要がある。幸いここには養蚕に関わっていた歴史と、上杉鷹山とのつながり。そしてなにより、とみひろさんの着物という要素を備えていたので、それらを生かしていけばいいんじゃないかと思いました」

宿のコンセプトは、上杉の歴史や白鷹町の育んできた文化とともに着物の世界を体験できる、着物のリトリートホテル。

たとえばお昼にチェックインしたら、母屋で着付け体験をする。日常で着物を着ることがない人も、着付けをする間のゆったりとした時間や、着物を纏うことですっと背筋が伸びるような感覚を体験できる。

使われている絹や染めの話も聞くなかで、白鷹の歴史文化を纏うような時間。単純に見た目の装いを変える以上に、お客さんにとって心地いい体験を提供していきたい。

ゆくゆくは、とみひろが運営する養蚕施設の見学や、田植えや稲刈りなど、地域の人と協働する体験プログラムも考えているそう。

どうすれば、お客さんは楽しんでくれるか。白鷹町に暮らし、その歴史や文化を知るなかで体験プログラムに落とし込んでいくのも、マネージャーや地域プロデューサーの仕事のひとつになる。

「地域を元気にしたいっていう思いを持って帰ってきましたが、地域活性化って言葉はいいけど、簡単なものじゃないんですよね。けれど冨田社長と出会って、旧奥山邸という場所があって。面白いことができそうだなって走りはじめたことが、ようやくここまでくることができた」

「おなじように面白がって、一緒にチャレンジしてみたいなって思ってくれる人が来てくれたらいいのかなと思ってるんです。まだまだ面白いことがつくれる地域だと思うので、これから先を一緒に築いていってくれたらうれしいですね」


最後に紹介したいのが、蔵王温泉で老舗の温泉旅館を営んでいる岡崎さん。ukitamでは、ホテルのオペレーション面などのプロデュースに関わっている。

「冨田社長の息子さんが、大学の先輩で。そのご縁で声をかけてもらったんです。温泉がない施設に関わるのは初めてだったんですが、冨田社長や梅津くんをはじめ、地域のメンバーがすごくいい状態でそろっていて、ぼくもぜひ加わりたいなと思って参加させてもらいました」

今回オープンする宿には、全部で8つの客室があり、部屋単価は6万円ほど。お客さんを迎えるスタッフのおもてなしにも高いクオリティを求めたい。

基本的な接客はもちろん、旧奥山邸や地域の歴史を知り、お客さんに伝えることも重要な役割になってくる。

地域に溶け込む宿になるため、「ご近所さんとのコミュニケーションも大事にしていきたい」と岡崎さん。

「10年くらい前までは、年に1回、奥山邸に近所の人を招いてお蕎麦を振る舞う習わしがあったらしくて」

「たとえばそれを復活させて、地域の人とお蕎麦を食べる会をやってみてもいいかもしれないですよね。この場所で積み重ねられてきた歴史文化を今にどうやって生かすか。そんなふうに発想してもらえたらいいなと思います」

土地の歴史文化を生かすのは、シェフもおなじ。レストランは味噌蔵を改修してつくる予定で、ひとり6千円から8千円ほどの価格でコースを提供していきたい。

料理のコンセプトとして、いま考えているのが、上杉鷹山の時代につくられたと言われる“かてもの文化”。当初は藩も貧しく、飢饉などで食料がなくなっても民衆が生き延びられるよう、自生する草木を調理して食べる文化があった。

「地域で手に入る山菜とか、地のものを食べたりするんですよ。植物以外に、鯉を食べる習慣もこのあたりでは残っていて。料理の一部にそういった文化を取り入れられたら、お客さんも面白がってくれると思うんです」

「たとえば雑草だと思っていたものが、フレンチや和食の技法を使うことでおいしい料理として出てきたら、かてもの文化に興味を持ってくれるかもしれない。つくり手のシェフも、型にはまっていないことが重要だと思うので、想像を膨らませながらチャレンジしてくれる人だといいですね」

かてもの文化ができた背景を知ることで、藩を立て直した上杉鷹山の話や、産業をつくるために力を入れた養蚕の話、そしてそれに尽力したのが奥山家…。料理を通して、歴史文化を紐解いていくのは、すごく面白そうだ。

ほかにも、山形には伝統野菜が豊富にあるため、それらを使ったメニューを考えるのもいいかもしれない。梅津さんや岡崎さんと相談しながら、旧奥山邸ならではの体験を届けていきたい。

「マネージャーもシェフも、型にとらわれずに、この場所ではなにをするのが面白いのか、柔軟に発想することが大事だと思うんです」

「白鷹はすごくいいメンバーが集まって、みんながおなじ方向を見て進められているので。地方を元気にしたいっていう思いや、この場所の歴史文化。それらに共感して、一緒にがんばりたいなって思ってくれる人が来てくれたらうれしいですね」


不思議な縁ではじまり、その輪が広がってひとつのかたちになりつつある白鷹町。

なんだか面白そう。そう感じた人にも、その縁はつながっているのかもしれません。

(2020/8/6 取材 稲本琢仙)
※撮影時にはマスクを外していただいております。
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