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都市部へのアクセスが良く、住みやすい。
郊外のいわゆるベッドタウンは、そんなふうに人気を集めてきました。
ただ、子育て世代を中心に人口が増える一方で、進学や就職を機に近隣の都市へと出ていってしまう人も多い。若い世代が力を発揮できる場をどうつくっていくかは、これからのベッドタウンの大きな課題かもしれません。
水戸市や日立市、ひたちなか市といったまちに隣接する茨城県那珂市(なかし)も、この課題に直面してきました。
「このまちでチャレンジする人を増やしたい」
そんな想いから、那珂市は来年の4月にシェアスペースを開設します。
今回は、このシェアスペースに常駐するコミュニティマネージャーを募集します。
子ども向けのIT体験イベントを企画したり、ママさん向けのテレワーク講座を運営したり。このまちに住む人たちの、小さな「やってみたい」を応援する仕事です。
経験は問いません。人と接するのが好きな人に読んでほしいと思います。
(取材はオンラインで行いました。写真はご提供いただいたものを使用しています。)
那珂市を地図で探すと、県央より少し北に位置していることがわかる。
東京駅からは電車で1時間半。大きな公園やひまわり畑などのレジャースポットもあって、休日にちょっと足を伸ばしても楽しそう。
「1時間半なんてあっという間です。ガンガン遊びに来てください」
そう話すのは那珂市政策企画課の古茂田(こもた)さん。スタートから明るく、“おしゃべりで気さくなお兄さん”という感じの方。
古茂田さんは昨年から、市の地域おこし協力隊に関わる事業を担当している。今回募集するコミュニティマネージャーも協力隊としての雇用になるため、古茂田さんが直接の上司となる。
「なんでもどうぞ!」という古茂田さんに、まずはこのまちについて教えてもらった。
「那珂市は、ベッドタウンとして栄えています。県庁所在地の水戸市、HITACHIで知られる日立市、ロッキンジャパンで有名なひたちなか市。県内人口1位、3位、4位のまちのお隣にあるんですよ」
へえ、大きなまちに囲まれているんですね。
「そうなんです。都市部に行きやすいけど、ちょっと車で走ればのんびりとした田園風景が広がっている。都会と田舎どちらも味わえるまちとして『いぃ那珂暮らし』というキャッチコピーをつけています」
交通の便がよく、住環境もいい。近隣のまちに勤める人たちが市内に家を構えることが多く、子育て世代は増え続けている。
若い世代の減少に悩む自治体も少なくないなかで、那珂市は順調なんですね。
「いえ、必ずしもそうではなくて。うちも10代から20代前半の転出超過は顕著なんですよ」
「僕自身もそうだったんですけど、このあたりの若者は高校卒業後に東京に行く人が多くて。進学や就職などいろんな理由があるなかで見逃せなかったのが『那珂市ではやりたい仕事ができないから』というものでした」
そんな背景から、場所にとらわれない仕事がまちのなかでできるように、貸しオフィスやコワーキング施設をつくる計画が進んでいるそう。
「ただ、単純に場所をひらいても、どれくらい活用してもらえるかなという気持ちがあって。コワーキングスペースは、周りのまちに人気の場所がすでにありますから」
「たとえば『創業を支援します』といっても、がっつり起業したい人は隣の都市や、それこそ東京にいく。そちらのほうがチャンスの絶対数が多いのは事実です」
ならば、那珂市にはどんな場所が求められているんだろう。
何度も話し合うなかで、方向性が見えてきた。
「起業したいという気持ちはなくても、ちょっと何かを始めてみたい人って、どこにでもいると思っていて。スキルアップしたい子育て中のママさんとか、小さなチャレンジをしたい子どもたち、休日に本業とは別のことに取り組みたい人も。自分のペースでチャレンジしてみたいっていう需要は、たくさんあると思うんです」
「いきなり創業や起業につなげるんじゃなくて、まずは地域の人の小さな挑戦をサポートする。それを続けていくうちに、自分の得意なことで小さく商売を始めたり、好きなことで食べていけるような人が増えていくんじゃないかと思っています」
今回の舞台となる施設『いぃ那珂オフィス』は、そんなふうに前向きな地域住民が出会って、お互いに影響を与え合うような場所に育てていきたい。
施設には、コワーキングスペースや貸しオフィスのほか、子どもたちの遊び場も用意されている。フリーランスやリモートワーカーの仕事場であり、地域の人たちの交流の場にもなる。
オープンは来年4月。今回募集するコミュニティマネージャーは、定期的なイベントの企画運営や、ふらっと訪れたくなるような場所づくりに取り組んでいくことになる。
まずは、どんなことから始めたらいいんでしょう?
「僕らもこういう施設の運営ははじめてで、わからないことも多いです。なので今回は、外部のプロフェッショナルの方に施設の運営をサポートしてもらうことになっています」
それが、那珂市の事業パートナーである株式会社あわえの吉田さん。
コミュニティマネージャーの仕事についてわからないことがあれば、吉田さんに相談することが多くなると思う。
「僕は普段東京にいることが多いのですが、那珂市さんやコミュニティマネージャーとは、電話やメールでこまめに連絡を取り合いたいと思っています。離れた場所にいるアドバイザーのような存在ですね」
あわえは、徳島県美波町に20社のサテライトオフィスを誘致したり、宮城県富谷市や福岡県八女市で地域のコミュニティづくりをサポートしたりと、全国でおよそ100の自治体の地域振興に取り組んできた会社。
吉田さんはそれらの事業責任者として、各自治体のサポートをしている。
「コミュニティマネージャーの一年目の目標は、地域の人に施設の存在を知ってもらうこと。だんだん人が集まってくる仕組みを一緒につくっていきます」
具体的には、まず1〜2ヶ月に一度のペースでイベントをひらいていく予定だそう。
「那珂市がこれからとくに力を入れていきたいことは何だろうねと、古茂田さんたちとワークショップをして。そこであがったのは、まず基幹産業である農業の振興。そして子育て世代の多いまちとして、子どもの教育とママさん方のサポート」
「一年目はこれらに関連するイベントを開催して、施設に足を運んでもらいたいと思っています。イベントをきっかけに、新しいことにチャレンジする人を増やそうという考えです」
たとえば、あわえとつながりのあるIT企業と連携して、地元の農家さんの抱える課題解決を一緒に考えるイベントや、ママさん向けのテレワーカー育成講座も予定しているそう。
コミュニティマネージャーはまず、吉田さんたちが企画したイベントの集客や運営補助をしながら、ノウハウを吸収していくことになる。
未経験でも大丈夫とのことですが、コミュニティマネージャーに求められるものって何でしょうか?
「親しみやすさですかね。何かあったらあの施設に行ってみよう、あの人に話してみようと思ってもらえる雰囲気を持っていること。そんな人が一人いるだけで、施設も大きく変わってくるものなんですよ」
「イベントは、その後の関係づくりのきっかけでもあります。テレワーク講座を受けていたママさんが相談に来るとか、子どもたちがパソコンをさわりに来るとか。こんなことやってみたいっていう話が来る、そんな流れが生まれることを期待しています」
イベントで出会った人たちと会話したり、地域の人に「施設に遊びに来てください」と誘ってみたり。まずは施設の顔として、まちの人たちとたくさん話してほしい。
そこからチャレンジのきっかけが見つかることもあるかもしれない。
「2年目以降は、自分でもイベントやプログラムの企画を立てていくことになります。こんなイベントをしたらあの人が喜びそうだなとか、こういう講演会を開いたらあの人のヒントになるんじゃないかとか。地域の人の声をヒントにアクションしてほしいですね」
コミュニティが育っていけば、今度は市外の企業のサテライトオフィスを誘致することにも繋がっていく。
「内部のコミュニティが活性化していくと、企業からの関心も高まっていくんです。まちの中の人と外の企業が混ざり合うことで、地域課題の解決に繋がることもあって」
たとえば徳島県美波町では、サテライトオフィスを構える企業が地域のトレイルランニングイベントにITを導入。それまで人力だったタイム集計などの手間が減ったことで、ぐっと運営しやすくなったのだそう。
「地域の人の話を聞くなかで、『こんな企業がまちにあったらいいな』って思い浮かぶこともあると思うんです。そんなときは僕らに相談してくれたら、じゃああの企業を繋げてみようかという話もできます」
あわえでは、定期的に自治体と企業のマッチングイベントを開催しているとのこと。
コミュニティマネージャーも、そこへ地域代表として登壇して那珂市をPRしたり、視察にきた企業にまちを案内したりする機会もある。
「中の人と外の企業が混ざり合ったら、もっと面白くなる。そこで思ってもみなかった挑戦が生まれたりするんです。みんなが交わる仕掛けを一緒につくっていきたいと思っています」
施設は、協力隊やそのOBの拠点にもなる。
協力隊の一人である入江さんは、農業専門新聞社に10年間勤めたのち、今年4月に着任。農産物の流通促進や、毎月農業マルシェを企画運営している。
「農業分野とコミュニティ育成はちょっと遠いかなと思っていたんですけど、いま吉田さんたちの話を聞いていたら、一緒にできそうなことがいくつか浮かんできました」
たとえばどんなことができそうでしょうか?
「那珂市の農家さんって、流通網をつくりたいとか、積極的に外に出てアピールしたいっていう方たちがたくさんいるんです。そういう方たちだからこそ、あわえさんとつながりのあるIT企業と一緒にテクノロジーを取り入れた農業に挑戦したいという声があがるかもしれないし、異業種の人と何かはじめるきっかけがつくれるかもしれない。きっと面白いだろうなと想像しています」
「何か困ったことがあれば相談に乗ります。古茂田さんはLINEの返信がすごく早いので、頼りになりますよ(笑)。なにより住みよいまちなので、そこは心配せずに来てほしいですね」
自分の心のなかにある小さな「やってみたい」を声に出してみる。
その声を受け止めてくれる人がいるだけで新しい一歩を踏み出すことができる人は、きっと少なくないはずです。
小さなチャレンジの積み重ねが、やがてまちそのものへの愛着にも繋がるのかもしれません。
(2020/10/30 取材 遠藤真利奈)