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「かさは あめのおとが よくきこえる きかいです」
本を読んでいて、ふと見つけた言葉。たしかに、ぽつぽつと落ちる雨音はやさしい。
考えかたひとつで、傘をさすことはもっと楽しくなるんだと思います。
山梨県の東部、富士山の麓に広がる郡内地域。1000年以上も前から織物業が営まれている歴史ある産地です。
この地で1866年に創業した槙田商店は、傘や服に使う生地の生産をしている会社。自社のオリジナルブランドで傘づくりもしています。
今回募集するのは、企画営業。傘の生地の卸営業に加えて、 生産管理や納期調整などを担うポジションです。
商品の企画から携わることができるので、自分のアイデアが傘のデザインになることも。
経験やスキルは求めません。ものづくりの現場を回り、見て聞いて話して。一つひとつ、覚えていく。
雨の日も晴れの日も。傘をさすことをもっと楽しんでもらうには、どんなものがあればいいだろう?
そんなふうに好奇心を持って考えられる人には、きっと楽しい環境だと思います。
朝、バスタ新宿に着くと、観光客を含め大勢の人で賑わっている。
山中湖へ向かうバスの、最後のひと席をなんとかゲット。
高井戸ICから中央道に入り、高尾を超えて山間に入る。富士山をはじめ、八ヶ岳や木曽駒ヶ岳など、雄大な山々が見えてくる。
富士急ハイランドの二つ手前、中央道西桂のバス停を降りると、のんびりしたまち並みが広がっている。
歩くこと10分少々。槙田商店の事務所を見つけた。
入り口の隣には、ファクトリーショップが。「いらっしゃませ!」と、社員の方々に元気よく声をかけられる。
奥から迎えてくれた代表の 槇田さんに、まずは話を聞かせてもらう。
「槙田商店は、江戸末期からの歴史をもつ、傘と服の生地を扱う会社です。それぞれの生地のOEMと、傘の自社ブランドという3本柱を事業としています」
「それぞれの割合は、ちょうど3割ずつくらい。自社ブランドは、全国の セレクトショップさんでの扱いも増えてきましたが、もう少し広げていきたいところです」
槙田商店の傘の特徴は、製品ができるまでの生地の企画、糸の手配、織りから裁断、縫製、金具の取付けまで、すべての工程を一気通貫で行っていること。
さっそく事務所の2階の作業場で、傘がつくられる工程を見せてもらう。
傘は、小間(コマ)と呼ばれる三角形の生地を複数縫い合わせてつくられる。まず、傘の骨の数やサイズ、生地に合わせた木型をあててコマを裁断する。
裁断されたコマに、織りキズや汚れが無いか、下から光を当てて透かしながら1枚1枚検品。特殊なミシンを使って縫い合わせていく。
このミシンを使うことで縫い目に伸縮性がでるため、傘を開くときに美しいシルエットが表れるそう。
次は、ミシンで縫い合わせた生地と傘の骨とを一体化させる作業。1カ所ずつ丁寧に生地を縫い付けていく。
傘の内側にアイロンをかけ、シワを取り除き、開いたときのかたちを整える。最後に、持ち手や付属の金具などを取り付けて、完成。
それぞれの工程を担当する職人さんが、バトンをパスするように働いているのは、見ていて気持ちがいい。
一連の工程を見学してから、あらためて槙田商店の傘づくりについて聞くことに。現代表の 槇田さんで、6代目。
「もともとこの地域は、着物地や羽織の裏地に用いられる、高級な絹織物の産地として発展してきました。裏地は擦れに耐えるため細い糸を詰めて織っていたので、軽い上に耐久性に優れているんですね」
「時代とともに和装から洋装への移り変わりがあって、洋傘の需要も高まっていったんです。昭和29年、耐久性に優れた織物の技術を活かして、先々代が裏地につかう生地を傘に転用したのが、槙田商店の傘づくりのはじまりです」
以来、 純日本製の高級傘 生地メーカーとして、主に百貨店で展開されるライセンスブランドのプライベートブランドでつくられる傘生地など、取扱い先を広げていく。
傘生地の細部には、長く織物産業を支える歴史のなか培った、槙田商品ならではの技術が見える。
たとえば、ジャカード織り。織で柄を表現するのが特徴の織り方。
無地の布地に文字やイラストを印刷するプリント柄とは異なり、生地そのものに表現されることで表面に凹凸ができる。
その凹凸が絶妙な陰影を生み出し、美しい生地となる。
「織物の製造から、傘の組み立てまで一貫して行う工場は、世界にも一つだけだと思います。うちの傘づくりにおいて、1番の強みだと思っています」
今回募集する企画営業は、これから新しくつくるポジション。「自社オリジナルの傘生地や傘をつくりたい」という企業と、社内の各チームをつなげる役割になる。
百貨店傘メーカーや雑貨屋などから問い合わせがあれば、まずはヒアリングから。要望をデザインチームに相談して、柄や織り方を決める。
その後、製造管理チームと協力しながら、糸などの素材の準備。染色する職人さんや、機屋さんの手配もする。
生産が始まれば、製造の進捗を確認しつつ、品質管理、卸先への納期調整など、細やかなコミュニケーションを重ねていく。
月に2回ほど、展示会や卸先への営業で東京へ行くこともある。
「今はデザインを考える企画、製造管理、営業がそれぞれ縦割りになってしまっていて。新しく入る人には、それらを横断的に関わる役割を担ってほしい」
「これから話してもらう二人を合体したような働き方になるのかな」
まず紹介してもらったのが、デザインチームの井上さん。ファクトリーショップで、傘を見せてもらいながら話を聞く。
井上さんが持っているのが、「絵おり」というシリーズ。季節の花々を、ジャカード織りの技術を使って傘いっぱいに織り描いたもの。
「経糸がベージュ。緯糸には黄色、茶色、黄緑とさまざまな色の糸をミックスして、陰影を出しています」
「織物って、糸の素材と織り方と柄、3つの組み合わせで全く違うものが生まれる。どれか一つでも変わると、結果が全然違う。毎回実験みたいで、おもしろいんですよ」
井上さんが槙田商店を知ったのは、美大でテキスタイルについて学んでいたころのこと。
地域の機屋さんが学生を受け入れて、一緒に商品開発をする教育プログラムに参加。受け入れ先の一つが槙田商店だった。
「大学の制作では、自分で手を動かす部分がどうしても多くて。初めて、機械や職人さんの力を借りて、一緒にプロダクトをつくれることに感動しましたね」
そのご縁からデザインチームに新卒で入社し、今年で11年目。
入社後、学生時代のアイデアをブラッシュアップして企画したのが、「菜(さい)」という野菜をモチーフにした日傘のシリーズ。
とうもろこしをイメージしたという傘を見せてもらう。
つぶつぶしていて、かわいい。
「かわいいですよね。傘をさしているときだけでなく、閉じて持ち運ぶときの楽しさもあっていいなと思って」
伸縮性の高い生地を使っているので、閉じたときにこの凹凸ができるという。
その陰影や、やさしい色合いのグラデーションでとうもろこしの粒の質感を表現している。
「ほかにも、にんじんや紫おくらとか。縦長の野菜で、どんな色味やデザインであれば傘として面白いかなって、想像しながらつくるのは、楽しかったですよ」
テキスタイルを勉強していたとはいえ、傘については未経験だった井上さん。
これから入る人にとっては、「こんな傘がつくりたい」というお客さんが持つイメージを具体的なかたちにしていくうえで、日々コミュニケーションをとる存在になる。
「会社としては、傘の固定概念にとらわれないというか…。突拍子もないようなことを考えられるような人が必要だと思いますね」
「こういう傘って無いんですか?とか、この絵柄ってつくれるかな?とか。素朴な疑問から、日々学んだことや槙田商店の技術を活かして、新しいものを生み出せないかって好奇心を持っていると、楽しい仕事だと思いますよ」
最初は傘づくりに携わるけれど、だんだんと服地についても関わっていくこともある。
「傘も服でも、生地を扱うということは一緒。私はデザインチームとして入社しましたが、ミラノで行われた、服の生地の展示会に立つこともありました」
「たとえば、服の生地を傘に使ってみるっていう発想も面白いかも。傘にも使えそうな服の生地があれば、多めに織って傘に使ってみたり。そんなふうに、アイデアを出してくれるのは大歓迎ですよ」
「なにかつくるとなったらまずやってみようという社風なので、ありがたいですね」と続けるのが、製造管理チームの藤江さん。
普段の仕事は、近くの機屋さんや加工所さん、糸の染色屋さんなどを車でまわり、製造の進捗と品質の管理をしている。最近は営業の仕事も兼任するようになってきているそう。
新しく入る人も、日々、たくさんの職人さんの生産を管理することになる。
「自分よりも相手の経験値がどうしても上回るので、意見を押し付けて言わないように。『できますかね?』とまずは相手に伺ってみる。相手の話をよく聞くことは意識していますね」
「それに、いざつくる段階になっても、現場で実際に取り掛ってみると思い通りにいかないことが多いんです。新しいデザインや柄を織る場合はとくにそうで。基本、やっては直しての繰り返しです」
これまでに、「失敗した!」と思ったことってありますか。
「そりゃ、何度かありますよ。新しい生地をつくる ときは、機屋さんに頼んで 本格的に織りだす前の見本をもらうんですけど。見本が出たから確認してほしいっていう連絡をすっかり忘れてしまって、行かなかったんです」
「タイミングが悪いことに、その次の日が祝日で。2日間も機屋さんを待たせてしまい、休み明けにこっぴどく怒られましたね。職人さんは家業なので、祝日が休みなわけではないんですよ」
休みの日に働く、みたいなことが起きたりはしないんですか?
「ここ数年は起きていないですね。休みの日に確認が重ならないよう段取りをして、機屋さんにも迷惑が掛からないよう気を付けています」
「私のまわりだけかもしれませんが、機屋さんってお話好きな人が多くて、仕事とは関係ない話をすることもあります。午前中はお茶飲んで終わった、なんて日もありましたよ(笑)」
地域に根付いた会社だからこそ、関係づくりも大事な仕事のひとつ。
「まずはものづくりの現場を見ないとわからないことばかりなので。一緒に回って、職人さんのお話を聞いたり、織物を触れたりしながら時間をかけて覚えていければいいと思っています」
「知ったふりとか全然必要なくて。わからないことを聞ける素直さは、かわいがられると思います。聞かれてうれしがる職人さん、多いですよ」
工場を見させていただいているとき、井上さんと藤江さんが、自社の職人さんに生地やつくりのことについて質問している姿が印象的でした。
アイデアの数だけ、表現の可能性がある織物の世界。
まずは自分自身が楽しもうとする遊び心が大切なんだと感じました。
見て、聞いて、触れながら。「こうしたらおもしろいだろうな」という気持ちが、ものづくりに活かされる場所だと思います。
(2024/06/13 取材 田辺宏太)