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「こうなりたい!」という自分の意思で進んでいく道もあれば、まわりの人を思って動くことで、そしてまわりから刺激をもらって、新しい道が拓けてくることもある。埼玉県戸田市。ベットタウンとして今も人口が増え続けるこのまちに、平和建設株式会社という不動産屋があります。

いつしか、“昔ながらの不動産屋”を抜け出して、なんだか面白そうな不動産屋に。
築年数の経った物件を補強しつつ、時代に合ったデザイン性の高い部屋に改修したり、入居者やまちの人たちをつなぐ場をつくったり、マルシェなどイベントを開いたり。不動産屋さんの枠を少しはみ出しているような感じもします。
ここで、賃貸仲介や物件管理を中心に担う人を募集します。
池袋駅から埼京線に乗ること15分。最寄りの戸田公園駅に着く。
駅東口から通りをまっすぐ進んでいくと、5分も経たずに平和建設株式会社の看板が見つかった。
まず目に飛び込んできたのは「アイスキャンデー」の旗。

入り口右手には、アイスボックス。

それもOKなんて!自由だなぁ。
白が基調の壁面には、グリーンのほかにいろんなものが飾ってある。

この地域に根差して、40年前から不動産業を営んできた平和建設株式会社。
事務所を2015年に改修するまでは、“典型的な”まちの不動産屋という雰囲気だったとか。
どんな経緯で今に至るのか。場所を移動して話を聞くことに。
もともとアパレルの仕事をしていた河邉さんが、お父さんの始めたこの会社に入社したのは1996年のこと。

お客さんが来たら、条件に合いそうなものは全部見てもらう勢いで、1日がかりで案内した。そのうち、街中で「あそこの物件は?」と尋ねられたら、家賃や広さ、間取りなど、その場で説明できるほどに。
何年もそれを続けていくと、入社間もないころに対応したお客さんから、住み替えや購入の相談ももらうようになっていった。
2010年に代表就任。その翌年、東日本大震災が起きる。
戸田市でも古い物件の賃料は下落しはじめ、空室が目立つように。大手ハウスメーカーの新築物件が市場を占め、古くて耐久性が心配な物件は空いていくばかり。
これから、古くなった物件をどうあつかっていけばいいものか。
そこで河邉さんは、JSHI公認ホームインスペクターの資格をとることにした。ホームインスペクターとは、住宅の劣化状態を調査し、中立な立場でアドバイスする専門家のこと。
「不動産屋で自分の専門分野以外のことを答えられる人って少なくて。だけど自分は、お客さんから建物について相談を受けたら、曖昧にせず全部答えられるようになりたいと思って、勉強してました」
古い建物を安全・安心なものに直していくことに加えて、時代に合ったデザイン性も必要。
2015年からは、建築やデザイン、ITなど多分野の専門家が集まるNPO法人モクチン企画の力を借りて、物件の改修にも力を入れ始めた。

まずは自社の事務所を改修。訪れたお客さんや用事で立ち寄ったオーナーさんにも見てもらえるようにした。
すると、興味をもったオーナーや通りがかりの人たちから、想像以上の反応が返ってきた。
今度は、自分たちで購入した物件を改修。築58年の平屋物件で、見つけたときは住みたいと思えるような状態ではなかったそう。ただ、住宅診断の結果、建物としてはまだまだ使えることがわかった。
「モクチンさんたちにデザイン面のアドバイスをもらいながら、工務店さんとすり合わせて改修していって。そしたら、こんなに変わるのかってほど、人が住む家らしくなったわけです」

手探りしながら形にしてみたら、届く人にはちゃんと届いた。
その後も自社で物件を購入・改修し、管理物件に暮らす入居者さんたちが気軽に使えるフリースペースもつくった。
直接の知り合いから、その知り合い、そのまた知り合いの…と縁がつながり、理容師やバリスタ、弁護士や会計士、カメラマンやシナリオライターなど、いろんな人が集うように。

集まった人たちの活動を発表したり、ワークショップをひらいたり。同じまちに暮らす人たちのあいだで、面白い”コト”が起きていった。
活動を通じて紹介や相談も増え、仕事にもつながっている。
「特にまちづくりをしているという意識はなくって。少なくとも自分の関わる人らの暮らしが、ちょっとずつ楽しくなればいいなと思ってやっています。新しいことも実験しながら、こっちかなと思う方向に進んできた感じです」
今取材しているこの場所も、新しいプロジェクトとして、昨年4月にモクチン企画とタッグを組んで新築した賃貸物件。
2階建てで、1階部分にはアトリエスペースがあり、住む人の個性が道行く人から見える開放的なつくりになっている。コモンスペースも設けて、そこは平和建設株式会社が運営している。

まちの人たちへのお披露目を兼ねて、入居者たちとマルシェをひらいたときには、たくさんの人が訪れた。
「てんやわんやだったけど、楽しかったね」と話すのは、奥さまの典子さん。

取材の途中おふたりが、窓の外に向かって笑顔で手を振る場面があった。向こう側を見ると、にこっと手を振り返す人がいる。
「ここの3号室の入居者さん。きっとお昼ごはんを買いに行ってたんだな」
仕事とプライベートが分かれているというより、垣根なくつながっているんだと思う。
今回募集する人は、入居者を決めるところから退居するまで、賃貸不動産の仲介営業や管理全般を担う。
ふたたび河邉さん。
「管理の仕事でいえば、ものが壊れたとか隣の部屋がうるさいとか、クレームの電話もかかってきます。相手の方のストレスが溜まっていて、立腹されていることも多いです」
まず、相手の話を受け止めたうえで、自分たちに対応できることとできないことを見極める。
「これから来てくれる人にも、ゆくゆくは対応を任せたいと思います。もちろん最初からは難しいので、相手の話を咀嚼したうえで、こっちにパスしてくれてかまわないです。冷静な人だといいかな」
「何かあったときの矢面に立つ大変さはあります。でも、僕らだからできることがある。まわりの人たちにとって、通訳者みたいな存在になれたら、なんて思いながらやっていますね」
通訳者みたいな存在。
「たとえば以前、入居者さんから水栓が水漏れして困っていると問い合わせがありました。だいぶ古くて、今みたいなシングルレバーじゃなく、お湯と水を別々に調整しなきゃいけないタイプで」
入居者のことを思えば、より使いやすいものに新調したほうがいい。一方でオーナーは、費用を抑えたいと思うもの。
向いている方向がちがうなかで、どうしたらより良く解決できるか。
ホームインスペクターでもある河邉さんは、建物全体の状態も念頭に置きつつ、住まい手たちのニーズも踏まえながら、総合的な視点で考えていく。
「建物がまだまだ健康なら、いま多少お金をかけてでも入居者さんの生活が快適になる選択をしたほうが、この先も住み続けてもらいやすい。入居者さんも喜んでくれるし、オーナーさんにもメリットがある。みんながハッピーになれる投資の仕方だと、オーナーさんには提案しました」
「入居者さんに対しても、『オーナーにも予算の上限があるなかで、できる限り協力してもらえるように相談してみますので』と、正直に話します」
伝え方ひとつで、歩み寄っていけることもある。専門知識は必要だけど、まず大切なのは、一人ひとりにそれぞれの暮らしがあることを想像しながら、人と接する姿勢だと思う。
これから入る人の先輩となる、幸坂さんにも話を聞かせてもらった。以前は郵便配達員の仕事をしていたそう。

入社して3年。今はさまざまな仕事を任されている。
来店したお客さんの応対。入居時の契約書の作成。家賃管理や督促。更新や退去に関する業務。
ホームステージングと言って、部屋のレイアウトをイメージしやすいように家具やグリーンを設置し、写真を撮影することもある。日々いろんな問い合わせも寄せられる。
「物件のまわりの雑草とりや掃除、電球交換まで。できる限り、出向いて対応することも多いです。クレームの電話を受けることもありますし、オーナーさんや入居者さんと話してたら1時間経ってた、なんてこともあります」
暮らしにまつわることはなんでもやる。その分きっと、自分の身になることも多いはず。
「柔軟にいろいろできる人のほうが馴染みやすいかな。少人数だけど、それぞれ自分たちでできるところはやる意識で動けていると思います」

それぞれが自分の仕事を実直に続けている。まちの人たちとコミュニケーションできる余白もある。
人と関わりながらコツコツと。きっと地道な仕事も多いけど、一つひとつの積み重ねは、顔の見える人たちとのいい関係性にもつながっているように感じます。
(2020/12/17 取材、2021/06/22 再編集 後藤響子)
※撮影時はマスクを外していただきました。