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生きた味
生きやすくなる里

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

「宿って泊まってリフレッシュして、明日からまた頑張ろうって思える役割がありますよね。それに加えて、なんか、その人が生きやすくなればいいなって思うんです。1泊だけなんだけど、来る前と後で、少し楽になったらって。宿にはそういう力があるんじゃないかな」

これは、長野・池田町にあるカミツレの宿「八寿恵荘」で働く松澤さんが話してくれたこと。

山のなかに佇む八寿恵荘は、日本初のビオホテルに認定された宿。肌に触れるもの、食べるもの、滞在する空間はすべて、訪れる人の健康と安心、環境へ配慮したものが用意されています。

自然に触れ、ここでゆっくりと過ごしてほしい。そんな想いで運営されているこの宿で、この場所らしい食を考え、日々料理をつくっていく人を募集します。

相手のことを考えて、ついやりすぎてしまう。そんな人に似合う場所だと思います。

 

最寄り駅は、東京から在来線を乗り継いで3時間ほどの明科駅。そこから車で20分ほどの道中、山を登るにつれ、ちらちらと雪が降ってきた。

細い山道を曲がったところで、八寿恵荘が見えてくる。

「今は雪景色ですが、この下にはカモミールが眠っています。春になると、一面に白い花が咲くんですよ」

出迎えてくれたのは、八寿恵荘全体のマネジメントを担当している松澤さん。

敷地のなかには、カモミールを使ったカミツレエキスを抽出する工場を併設。国産カミツレエキス100%の入浴剤など、オーガニックのスキンケア製品を製造している。

八寿恵荘はもともとこの工場とともに、社員がリフレッシュできる保養所としてつくられた。地元を交えた花祭りを開催しているうちに、一般開放してほしいという声が届くようになりリノベーション。2015年から現在のかたちで運営している。

「僕は兵庫県のアスファルト育ちです。最初はウェブの仕事をしていたんですけどね。ずっと座りっぱなしだったのが身体に合わなくて、アトピーがひどくなってしまって。外で働く仕事をしたいと思って、3年間、北海道の牧場で住み込みで働きました」

がらっと環境を変えた松澤さん。牛の世話をしながら過ごす日々は目まぐるしかったものの、とても楽しかったそう。

「土のある生活がはじめてで、時間を見つけては牧場の片隅に植物の種を撒いていました。なかでもカモミールがとてもきれいに咲いたんです」

「人参の葉っぱが集まったような苗が6月くらいにニューっと伸びて、花火みたいにパッと咲いて。カモミールの成長を見守ることで、自然に対する尊敬みたいな感覚が芽生えました。僕にとってカモミールは、植物の力を教えてくれた特別な花なんです」

結婚を機に長野にやってきたとき、偶然見つけたのがこの仕事。しばらく農業担当として働いたあと、今は運営から料理の配膳、宿泊者が自然を体感できるアクティビティまで、宿にまつわる仕事を幅広く担当している。

「このあたりを30分ほど、一緒に散歩します。植物って名前を知るだけで愛着がわいたりするんですよね。野生動物に会うこともあれば、いかにも食べられなさそうなキノコを見つけたり。ちょっとでも自然に入り込めるように、ご案内しています」

「人間だけのなかで生活していると、人のでこぼこが気になったりしますよね。だけど圧倒的な自然に触れると、小さなことだと気づくというか、気が楽になったりするんです。自然の大きな流れのなかに自分もいるんだってことが感じられると、生きていくのが楽になるんじゃないかなって、僕は思うんですよね」

松澤さんは窓の外の雪景色を眺めながら、なんだかうれしそうに話をしてくれる。

「ここでリラックスして過ごしたり、自然に触れたり。そうしているなかで、今まで通りすぎていたものも『こんなに美しかったんだ』って、気がつけるようになったらいいなって思うわけですよ。そんな時間を過ごしていただけるようにするのが、僕らの仕事です」

八寿恵荘では、カミツレエキスをたっぷり使った「華密恋の湯」で身体を温めることができる。建材や家具には地元の無垢材や自然素材、寝具にはオーガニックコットンを使い、安心してゆっくりと過ごせる時間を用意している。

「食事は基本的にシンプルですが、すごく手をかけています。玉ねぎひとつでも、どういう種で、どういう土で育ったかを知る。そうやって選んだものの一番おいしいところを引き出すために、時間をかけてつくるんです」

  

今、宿全体の料理を任されているのが益城さん。ここから30分ほど離れたリトリート施設で5年ほど働いたあと、八寿恵荘にやってきた。

「大学生のころ、母が体調を崩して。体を休めるためにそのリトリート施設に行ったんです。そこで食事して、感動しました。すごく時間をかけて、丁寧につくられていて。愛情みたいなものを感じて、自分も身体に優しい料理をつくりたいと思いました」

丁寧に話をしてくれる益城さん。リトリート施設で働きながらマクロビオティックをベースにした玄米菜食について学び、1年ほど前にここへやってきた。

「オーガニックや無農薬の食材を使った食事が、人の身体にどう作用するかっていうことに興味があって、ここで料理をしてみたいと思いました。食生活を見直すきっかけになるような料理を提供することで、来る人の癒やしや健康につながっていくんじゃないかと考えているんです」

今は3人のスタッフが交代しながら、朝晩、野菜を中心にした料理をつくっている。

「かつおぶしや肉、卵など、動物性のものを使わないお食事をご用意しています。旬の野菜ってやっぱりすごくおいしくて。野菜本来のうまみを感じていただけるような味付けをしています。野菜は消化にいいので、食べると身体がすっきりするような感覚があるんです」

野菜は自社の畑で育てたものに加えて、近隣の農家さんから届く無農薬野菜を中心に使っている。その時期手元に届く野菜を中心に、どうしたらおいしく食べてもらえるか、献立を考えていくそうだ。

「畑から野菜が届いて、どうするとおいしいかなって野菜を見つめているときがすごく楽しいです。季節によって味もぜんぜん違うから、お客さまにもそれを知ってもらいたいと思って調理しています」

今はほうれん草がおいしい季節。雪の下で寒さを耐えたほうれん草は、ぎゅっとした甘みがあるんだそう。

さっと茹でたほうれん草を、丁寧に扇いで熱をとっていく益城さん。冷水で冷やすわけではないんですね。

「このほうが、そのままの味がするんです。新鮮で甘みがあるので、なるべくそのままの味で食べていただけきたくて。効率を考えたら、茹でて冷蔵保存しておくとか、もっと違う方法もあるんですけどね」

「野菜って鮮度が命で。凍らせてしまうと、生きた味がしないんですよ。畑から採ってきたものをできるだけそのままおいしく食べていただけるのが、この場所で料理をつくることの価値だと思うんです」

一つひとつ丁寧に、野菜のおいしさを感じてもらえるよう、時間をかけてつくっていく。

とはいえ、スタッフは益城さんを入れて3名。シフトを組みながら、朝晩15から20名分の食事を時間通りに用意するのは、簡単なことではない。仕込みをしたり献立を考えるのに精一杯で、うまく休みをとることができなかった時期もあるそうだ。

「本当はもっと生産者さんと話したり、自分でも野菜を育てたり、コンポストもつくりたい。やりたいことはたくさんあるけれど、なかなか時間がつくれなくて。一緒に考えて、動いていける人が来てくれたらうれしいです」

探しているのは益城さんとともに、八寿恵荘の食を担う人。自分の知識や経験と地の食材、八寿恵荘のライフスタイルをかけ合わせ、厨房から、この場所らしい食を探求してもらいたい。

  

「食事をご自宅でも召し上がっていただけるように、あたらしい製品開発や通販のプロジェクトもはじめようとしています。ここで体感したライフスタイルを、ご自宅でも続けていただける方法を考えていて」

そう話してくれたのは、以前の取材で、カミツレとの出合いや宿をはじめるまでの経緯を丁寧に話してくれた代表の北條さん。

最近はどうですか。

「八寿恵荘をはじめた当初は宿業の経験のある人が誰もいなくて、試行錯誤しながらここまでやってきました。みんなと模索しながら、いい形に変わりはじめているんじゃないかと思います」

八寿恵荘では、アトピーのある方や乳がん患者がゆっくりと過ごせるツアーを企画するなど、この場所を必要としてくれる方を積極的に受け入れてきた。

「スキンケアで肌を痛めてしまったり、食で具合が悪くなってしまったり。そういう人を目の当たりにしているから、少しでもよいライフスタイルに変えていただきたいという想いが根底にあります。できることは、まだまだあると思うんです」

北條さんの働きかけもあって、最近、八寿恵荘のある池田町はオーガニックタウンを宣言。学校給食で有機栽培のお米が使われるなど、有機農家を積極的に応援している。

来る人のストレスを町ぐるみでリセットできるよう、お寺での座禅体験など、周辺の施設との連携も進んでいるそうだ。

「無添加の調味料を使った食事や、ここで体験できるようなライフスタイルを求めている人は、年々増えているように感じます。新しい人が来たら、日々、八寿恵荘の厨房に入ってもらうことに加えて、この場所の食について、若い益城くんと一緒に考えていきたいですね。よい方と出会えるのを、たのしみにお待ちしています」

  

取材を終えてひとやすみしたころには、すっかり日が落ちていた。

かまどでごはんを炊く体験ができると聞いて行ってみると、松澤さんが、薪の割り方や竹筒を使った空気の送り方などを丁寧に教えてくれる。

パチパチと音を立てている羽釜からいい匂いが漂ってきたら、そろそろごはんが炊けた合図。

ラウンジに行くと各テーブルに食事が並んでいて、益城さんが使っている素材や調理方法を一つひとつ紹介してくれた。

この日は洋風のメニューの日。リンゴとゴボウのアグロドルチェ、米粉のグラタンなど、メニューを見ただけでも、益城さんが料理を楽しんでいることが伝わってくる。

丁寧に熱をとったほうれん草は、バルサミコソースとともに豆腐のローフに添えられていた。

茎の部分から食べてみると、しっかりとした歯ごたえと、ふんわりとした甘さが感じられる。

周りには友人同士で来ている方や家族連れ、1人でゆっくりと食事を楽しむ人も。

お腹がいっぱいになったら、カモミールの香りに包まれながら温かいお風呂につかる。

この日はいつのまにか、ぐっすりと眠っていた。

翌朝はすっかり晴れていて、少し散歩をしてみると、動物の足跡らしきものをいくつも見つけた。

ダイニングに用意されていたお味噌汁とカブの混ぜ込みごはんがおいしくて、思わずおかわり。

たっぷりと深呼吸するような時間を過ごし、八寿恵荘を後にした帰り道、松澤さんが言っていた言葉を思い出す。

「宿の仕事って、やりはじめたら終わりがないというか。丁寧にやろうとすればするほど、きりのない仕事だと思います。それでも人を幸せにしたいと思える。そんな、愛のある人と一緒に働きたいですね」

はじまって5年経ったとはいえ、まだまだ変化し続ける八寿恵荘。

自分の経験を活かしてやっていきたいことと、この場所が重なるような気がしたら、ぜひ足を運んでみてください。

(2020/12/25 取材 中嶋希実)

※撮影時はマスクを外していただきました。

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