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人としての関わりを大事にする。
アンシェントホテルの皆さんの姿勢を一言で表すなら、こんな言葉になると思う。
シンプルだけど、とことん。
気付いて行動し、お客さんからの信頼を得る。そんな積み重ねが、このホテルの文化をつくってきました。
今回は、アンシェントホテル浅間軽井沢で働くサービススタッフの募集です。経験の有無は問いません。人を喜ばせることが好きな人は、その気持ちを充分に発揮できる仕事だと思います。
北陸新幹線を降り立つと、ツンと鼻が痛くなる寒さ。信州・軽井沢の1月は、氷点下10度を下回ることもある。
軽井沢駅から車で15分。駅前の賑やかさから離れ、別荘地を抜けると山道が続く。
上信越高原国立公園内、観光名所「白糸の滝」へと続く道路沿いに、アンシェントホテルを見つけた。ナビで検索しなければ通り過ぎてしまいそうな、ひっそりとした佇まいだ。
少し早く着いてしまったので、外から写真を撮っていると、女将の三ツ井さんが迎えに来てくれた。
明るい笑顔が印象的な方。
温かいコーヒーをいただきながら、まずはこのホテルのこれまでについて聞いた。
「もともとは小瀬パークホテルという家族経営の旅館だったんです。このあたりが国立公園になる前から、50年以上続いていて。常連さんに愛されていました」
ただ、時代の流れとともに経営状況は悪化。宿を畳む直前で待ったをかけたのが、今の親会社のカクイチだった。
カクイチにとって宿泊業は未知の領域だったものの、先代の社長が家族で定宿として利用していた縁から、引き継ぐことになったのだとか。
そして2011年、「心の再生、リフレッシュ」をコンセプトに施設を一新。全13部屋の小規模ホテルとしてリニューアルオープンした。
それまで結婚式場やホテルで経験を積んできた三ツ井さんが、オープニングスタッフとして加わったのもこのタイミングだという。
「当時の支配人やデザイナーは、みんなホテル業界未経験で。わたしも立ち上げの経験はなかったので、不安はありましたね」
「一方で、やりたいことができるワクワクもありました。前職はハイシーズンだと一日に1000人以上訪れるホテルで、どうしてもお客さまをさばくような感覚があって。それに比べてここは、当時は9部屋と今よりも小規模で、手厚く接客できるのがうれしかったですね」
おもてなしの心や、人とのご縁を絶やさないこと。それは、小瀬パークホテルの時代から大切にしてきたことだった。
形を変えながらも、こんなふうに受け継がれていくものがある。
その後も三ツ井さんたちスタッフは、「ホテルはこうあるべき」という既成概念にとらわれることなく、お客さんのためになると思うことをひとつずつ形にしてきた。
たとえばアンシェントホテルでは、いわゆる「フロント」や「ウェイター」といった肩書きが存在しない。すべてのスタッフがオールラウンドに業務を行う。
フロント周りの対応から食事の準備、清掃。ほかにも、野鳥に餌をやったり、暖炉の薪の補充をしたり。この土地ならではの仕事もあって、並べてみると本当に幅広い。
さらには、お客さんごとのカルテを作成するという仕事も。
「カルテの作成は最も時間をかける業務のひとつです。チェックインや夕食など、お客さまと接するタイミングでお話した内容は、事細かに記入していきます」
交わした会話や、どの料理を残していたか、はたまた靴を脱いだときに見えた靴下の色まで。
些細な気付きも書き留めて、共有し、お客さんとの心の距離を縮めていく。さりげない配慮が安心感につながるし、スタッフにとってはリピートしてもらうための工夫材料にもなる。
アットホームな雰囲気だけではなくて、さまざまな業務を通じてお客さんとの接点を持つことで、切れ目のないおもてなしができているのだと感じる。
「マニュアルがない、というのも特徴ですね。今この瞬間、お客さまが何を求めているのか観察して、行動する。何かして差し上げる。それはアンシェントだからこその部分だと思います」
最近スタッフ向けにつくったという『おもてなし読本』には、茶の湯の思想が反映されている。ルールやマニュアルはないけれど、共通の心構えみたいなものをみなさん持っているのかもしれない。
続いて話を聞いたのは、新卒でアンシェントホテルに入社し、今年で7年目になる高野さん。
今回入る人にとっては、一番身近な先輩になると思う。
大学時のアルバイト経験から、接客業を視野に入れ就職活動を行っていたという高野さん。神奈川県出身で、ここで働くまでは、軽井沢には旅行で数回来たことがあるくらいだったそう。
「合同会社説明会のブースで、たまたまカクイチにホテル事業があることを知って。大きなホテルもいくつか受けていたのですが、どこも転勤がネックで。ここなら転勤なく働けるという下心も少しありました(笑)」
「いざ入社したら、お客さまに愛されているホテルなんだなということがわかって。お客さまごとに担当がつくんですけど、次の予約のときに指名をいただいたりとか、各地のお土産を持ってきてくださる方もいらっしゃるんです」
アンシェントホテルのリピーターは、40代からシニアにかけての世代が多い。
常連さんから見ると高野さんは、ちょうど子どもや孫と同じ年齢。我が子のように接してもらえることがうれしいと言う。
「楽しくてつい、お客さまと長く話し込んでしまうことも多くて。後ろから女将の視線を感じることもあります(笑)」と高野さん。
その表情から楽しみながら働いているのが伝わってくる。
とはいえ、未経験でマニュアルもないなかで、最初は大変だったのでは?
「入社直後は清掃などのバック業務からのスタートなので、いきなり接客を任されることはなくて。清掃をしながら先輩の接客を見させていただいたのが、よい勉強になりました。お客さまとの距離感の掴み方やイメージが、自然と身についたのかもしれません」
こうしなさい、という指示はない。その代わり、裏方の業務ひとつとっても“なぜそうするのか?”を、互いに言葉にして伝え合うようにしているという。
背景や理由を理解することが、納得感を持って働くことにもつながっている。
「型があれば、型通りにするのが普通ですけど、ないから自分で考えるし、そのぶん一歩距離が縮まるというか。人間対人間で関われるのは、やっぱりアンシェントのおもてなしの強みであり醍醐味だなと思います」
そんなサービススタッフのみなさんのマネジメントを担当しているのが、支配人の布川さん。
布川さんも三ツ井さん同様、ホテルスタッフとしてのキャリアを積んできた人。以前は長野市に130年続く老舗ホテルで、新卒から約20年働いていた。
「もともと、接客ではなくマネジメントをしたくてホテル業界を志しました。前のホテルには『俺は総支配人になるんだ』と言い切って入ったほど。野心家だったんです(笑)。だけど思ったよりもその道は甘くなくて」
いくつかの役職を経験した後、縁あってアンシェントホテルへ。
ここで働くようになって、気づくことがあったという。
「20年近くホテルで働いてからここに来ましたけど、経験はなくても、こんなにお客さまを喜ばせることができるんだなって。スキルは役に立たないとはいいませんけど、本当に大事なのは人として相手を慮ることなんだなっていうのは、すごく思いましたね」
「だからこれから入る人も、今までどんな仕事をしてきたかは関係ないと思っていて。唯一あるとすれば、気配りができる人でしょうか」
気配り。それはどんなところに表れますか?
「たとえば、朝挨拶をするときに顔を見て、『調子悪いのかな?』とか、『なにかいいことがあったのかな?』と想像を巡らせられるような。そんな人はこのホテルで力を発揮できると思います。あとは気合と根性がある人も!」
「本当にいいメンバーが揃っているし、空間や設備にも自信があるんです」と布川さん。
館内をひと通り案内していただいた。
客室は「蛍石」や「柘榴石」など天然石をモチーフにしていて、一室ごとにつくりが異なっている。なかには暖炉を備えた部屋も。
ほかにも、天然石を全面に用いた大浴場や、クラシックカーの並ぶガレージ、レコードをかけたり、ゆっくり本を読んだりできるライブラリースペースなど。案内してもらうあいだ、布川さんは「自分が泊まりたくなりますよ」とうれしそうに話してくれた。
働く人自身が、そこに愛着や誇りを持っている場所って、なんだかいいなあと思う。
昨年は、世界最大の旅行クチコミサイト「トリップアドバイザー」のアワードで、全国の小規模ホテルで1位に選ばれるなど、評価も得ている。ただ布川さんは、現状にはまだまだ満足していないみたい。より高いレベルで、このホテルの魅力を一緒に伝えていきたいという志を持った人を求めている。
そこへ、仕込みを終えた料理長の伊藤さんが合流。「うちでは料理長すらオールラウンダーだから」と、三ツ井さんが紹介してくれた。
「スタッフの感性は、このホテルのサービスの根っこの部分です。だからそれを大切にしたい。自分が仕事を手伝うことで、結果的にほかのスタッフがお客さまと接する時間を増やせるのであれば、持ち場を越えて動いたほうがいいなって」
薪割りや雪かきは、伊藤さんの得意分野。
「極端に言うと、自分は料理以外何もできないんです。接客も苦手だし、パソコンもできない。だからこそホテル内でできそうなことを見つけたら、なるべく手伝うよう心がけています。薪割りや雪かき、掃除など、裏方の仕事ならなんでも」
料理人は表には立たないという、和食の世界の考え方を守り、裏方に徹している伊藤さん。そう言いつつも、伊藤さんが輪に加わると、一段と場が明るくなったような感じがした。
皆さんと一緒に働くのは、どんな人が理想なのでしょう。
「失敗を恐れず行動する人」と三ツ井さん。
「失敗は成功のもとだと思ってください。散々失敗して、『もっとこうしてみよう』と工夫やチャレンジをすること。そして次のお客さまに繋げることが大切です」
ここには、年齢もキャリアもさまざまな人たちがいる。家族という感じとはまたちょっと違うけれど、不思議な一体感があって、みなさん揃うと安心感が増すような。
それは根っこの部分で、「人としての関わりを大事にしたい」という感覚を共有しているからなんじゃないかと思いました。お客さんに対してはもちろん、一緒に働く人とも。
取材を終え、外に出ようと靴を履く。あったかい!
いつの間にか、靴がほかほかに温められていました。こういう小さな心遣いって、じわじわうれしいもの。
常連さんが、手土産を持って「ただいま」と帰ってきたくなる理由が、少しわかったような気がします。
(2021/1/6 取材 ナカノヒトミ)
※撮影時はマスクを外していただきました。