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世の中にないものをつくりたい。
そう強く思うほど、変わったアイデアや自分の色を取り入れたくなり、結果的になんだかよくわからないものができあがってしまう。
そうではなくて。
素材と向き合い、余計な要素をそぎ落としていくなかで、最後に個性をにじませる。
そんなスタンスで“ロゴがなくても伝わる”革製品のブランドをつくってきたのが、yuhakuのみなさんです。
手作業で円を描くように染料をなじませ、生まれるグラデーション。それを活かしつつ、財布やカバンといった立体を形づくっていくのが、今回募集する製作部門のスタッフです。まったくの未経験からでも挑戦できるアシスタントと、経験者のカバン職人を求めています。
シンプルだからこそ、ちょっとした厚みや素材の扱いの違いが印象をガラリと変えてしまう。とても繊細な仕事です。
加えて、企画部門のスタッフも募集中。代表の仲垣さんのラフスケッチを図面に落とし込んだり、革屋さんとやりとりしたり。商品企画や生産管理の仕事に携わるなかで、新しい企画の提案もどんどんしていけるような人に来てもらいたいそう。
どの役割も、まずはyuhakuらしさを感じるところからはじまります。
横浜駅から歩いて10分弱。
表通りから一本入った静かな路地沿いに、yuhakuの事務所と横浜本店、工房がある。
ショールーム兼ショップのスペースで、まずは製作部門のおふたりに話を聞いた。
栗原さんは、代表の仲垣さんが「yuhaku」という屋号を掲げる前から一緒にものづくりをしてきた方。
「当時全盛期だったmixiを見ていたら、『誰か手伝ってくれませんか』っていう情報を見つけて。行ってみると、仲垣がひとりでオーダーメイドの革製品をつくっていました。エアコンのない、真夏は温度計が45℃を指すようなプレハブ小屋で。今は見る影もないですよ」
それまでは着物の着付け師や個人クリニックの受付など、ものづくりとは無縁の仕事をしていた栗原さん。手に職をつけたいと、この世界に飛び込んだ。
「オーダーメイドで、こだわりの強いお客さまも多くて。無理難題もたくさんありました。でも、当時の経験が今につながっているように感じます。わたしはやっぱり、ほかにないものをつくるのが楽しいので」
yuhakuとしてレディメイドの商品をつくるようになってからも、栗原さんはクロコダイル革を使った財布など、高い技術が求められる小ロットのものづくりを担当してきた。
ほかにないものをつくる、と言っても、自分の色を出すのとは別。あくまで“yuhakuらしさ”を第一に考えるという。
「つくりたいものがあるなら、自分でブランドを立ち上げればいい話なので。仲垣の頭のなかにある、yuhakuらしさをものに落とし込むのがわたしの仕事です。明確なイメージを共有されることもあれば、ラフスケッチをもとに形をつくっていくこともあります」
yuhakuの代名詞とも言えるのが、独特のグラデーションだ。
一般的には革を染めるとき、染色液に浸すことが多いのだけど、yuhakuでは染料をつけた布で、円を描くように色を重ねていく。これによって、革のもつ有機的な表情と、シンプルで無機的な質感を併せ持った色が生まれる。染色液の無駄がないので、環境負荷も最小限に抑えられるのだとか。
栗原さんたち製作部門のスタッフは、そうして再び命を吹き込まれた革を組み合わせたり縫ったりして、財布やカバンといった立体物に仕立てていく役割を担っている。
まずグラデーションそのものがyuhakuらしさとも言えるのだけど、形にしていく過程にも“らしさ”が表れるという。
「たとえば革の財布ひとつとっても、裏地に布を使うブランドは多くて。yuhakuは全部に革を使っているんですね」
布を使うのは、コストを下げるだけでなく、厚みを抑える意味もある。革だけで財布をつくると、どうしてもゴテっとした無骨さやクラフト感が出てしまい、きれいに仕上げるのはむずかしいという。
そこにあえてyuhakuは挑戦する。
「重なる部分をすっきりさせつつ強度を保つために、機械で薄くしたり、ナイフを使って削いだり。ほんのわずかな違いで、印象もガラッと変わるんですよね」
「yuhakuらしさって、感覚的なもので。これはもう、やりながら身につけていってもらうしかないんじゃないかな」
まずはyuhakuの商品が好きだなと思えるかどうかが大事、と栗原さん。直感を働かせ、あとはとにかく、手を動かすなかでわかっていくものだという。
「経験はなくてもいいです。むしろまっさらなほうが吸収しやすいかもしれません」
そう話すのは、同じく製作部門の籠谷さん。今回募集するアシスタントスタッフは、籠谷さんのもとで働くことになる。
革小物のメーカーでサンプル製作や営業を経験したあと、知り合いのつてで新ブランドを立ち上げ。ただ思うように売り上げが伸びず、廃業を決めたタイミングでyuhakuの募集を見つけ、1年前に加わった。
「小中学校のときから家庭科の時間が好きで。ポーチをつくる課題で、勝手に裏地をつけて怒られたことがあります。内側が見えないから評価できないって(笑)」
前職の時代に工場長を務めていたので、まったくの未経験からでも技術を身につけてもらえるよう教えられるとのこと。取材中も、機械や道具の扱い、作業の進め方など丁寧に説明してくれた。
マニュアルはないんですか?
「そうですね。マニュアルをつくるとそのレベルで止まってしまいます。正解はないので、自分の頭で、よりよい方法を常に考えていくことが大事です」
栗原さんが小ロットの商品をつくるのに対して、籠谷さんは中ロットのものづくりを主に担当している。一定の量をつくりつつ、品質も保つのは簡単なことではない。
「作業としては、単調な繰り返しも多いです。『ここはコンマ1ミリ薄くしよう』というふうに、地道に品質を上げていくことができる人に来てもらいたいですね」
技術を向上するヒントは、工房の外にも。
「自社以外の商品を見ていろいろ勉強するとか、電車で周りに立っている人のバッグを見て、『あれはどんな型紙でつくれるかな』って想像するとか。上を目指そうと思ったら、そういう時間も必要になってくると思います」
いずれにしても、受け身の姿勢では務まらない。
yuhakuでは、役割にかかわらず「想像し、創造する」という言葉を共有している。自分から貪欲に知識や技術を身につけていける人がいいと思う。
続いて企画部門の仕事について、代表の仲垣さんとともに話を聞かせてくれたのは、スタッフの池野さん。
大学でデザインを学び、家具メーカーで5年ほど家具の設計やデザインをしていたそう。
並行して、プライベートではカバンづくりの教室に通っていた。より技術を磨きたいと考えるなかでyuhakuの製作スタッフ募集の情報を見つけたという。
「レベル高そうだなと思いつつ、ダメ元で応募して。面接で自分のつくった財布やカバンを見てもらって、製作としてはちょっと…という感じになったんですが、デザインとか企画のほうでやってみないか、と提案をいただいたんです」
もともとの経験もあったし、将来的に自分でデザインや設計をしたいという気持ちもあり、企画部門のスタッフとして入社を決めた。
はじめの仕事は、仲垣さんのアシスタント。すべて手描きだったものをデータ化したり、図面に落とし込んだり。仲垣さんのイメージを製作部が形にしやすいよう、サポートすることだった。
「そのあと、生産管理の仕事を1年ほど経験して。タンナーさんに行ったり、金具を集めたり。ものがつくられる手前の業務を勉強して、また企画に戻ってきました」
素材や加工のバリエーション、つくり手のこと。
ものづくりの上流を知ることは、企画の仕事にも活かされる。今回募集する企画部のスタッフも、まずは仲垣さんのアシスタントと並行して生産管理に携わってほしい。
「アシスタントであっても、いいアイデアはちゃんと採用してもらえる環境だと思います。実際に、2019年の秋冬は革小物のシリーズ企画を全部任せてもらって。今は職人発信のセミオーダーのショップも企画しています」
それが「ARTOCU-アルトカ」プロジェクト。
職人一人ひとりの個性を活かした商品づくりやセミオーダー品の開発、工房見学など、さまざまな形で職人とお客さんとの接点を増やしていく取り組みだ。
池野さんは、クラウドファンディングでの資金調達やPRを中心となって進め、現在はオンラインショップの立ち上げに向けて準備中だという。
そもそも、ARTOCUのアイデアはどんなふうに生まれたんですか。
「今のyuhakuの商品って、基本的には社長が色を決め、それに沿って職人が染めていくという進め方なんですが、週に一回、研究時間というものがあって。職人が自分の好きな色をつくって勉強する時間なんです。そのサンプルを見せてもらったら、きれいな色がたくさんあったので、なんとか商品化できないかなと思ったのがきっかけですね」
企画の仕事というと、自分の力で新しいアイデアを次々に生み出すイメージもあるけれど、ARTOCUのように他部門の人たちとのやりとりからヒントが見つかることも多い。
自分の殻に閉じこもらずに、どんどんコミュニケーションをとっていける人が向いているのかもしれない。
「あとは会社として、新しい事業の立ち上げもやらせてもらっていて。サステナブル事業に力を入れていきたいんです」
サステナブル事業?
「もともと革は動物の形をしているので、裁断するとどうしても端材が出てしまうんです。それをゴミとして焼却処分せずに、集めて繊維にして、地中で分解されて自然に還るような商品、ないしは仕組みをつくれたらいいなと思っています」
革製品に使われるなかで、天然の革と人工的につくられた革の割合はおおよそ3:7ほど。自然由来の素材の割合を増やしていくことにもつながれば、と池野さんは考えているそうだ。
製作において地道な作業が多いのと同じく、企画でも自分の提案がすぐ取り入れられるかというと、そんなことはない。「最初のうちは年に1、2個通るかどうかですし、ダメなときは率直に言います」と、仲垣さんも話す。
ただ、yuhakuの取り組みを俯瞰的に捉えて、商品企画以外でもさまざまな「企画」に携われるのがこの仕事のおもしろみだと思う。
「もともと命のあった革という素材を使い切る。その視点で考えてもらえれば、いろんなことが実現できると思います。はじめは思うように形にならなくても、めげずにどんどん提案してもらいたいですね」
ものづくりと、ことづくり。製作と企画が互いに影響を与えながら、ひとつの循環をつくっていくような仕事だと感じました。
(2021/3/1 取材 中川晃輔)
※撮影時はマスクを外していただきました。