求人 NEW

日常を離れて
自分と向き合う
自然と生きる宿からの提案

※この仕事は募集終了いたしました。ご応募どうもありがとうございました。

古くからあるものを大切にすること。自然のなかで、自然とともに生きること。

山形県米沢市の山奥に佇む滑川温泉・福島屋は、250年、そんなあり方をつないできた温泉旅館です。

電気もガスも、水道も通っていない山の奥。

電気は、旅館の前を流れる川の水力で発電。生活水は川の上流からひき、ガスは町からプロパンを運びます。

すべてを自分たちで調達する生活は、厳しくもシンプルで力強い、町中では味わえないものです。

「日本人が昔から続けてきた『自然と共生する』生き方は、今この時代に世界的に必要とされるものになってきているんじゃないか」

そんな思いから福島屋は、秘境の湯治場から、自然との共生を体感できるサステナブルな宿へのリブランディングをスタート。

今回は、旅館の運営業務に携わりつつ、このエリア一帯のリブランディングをともに進めていく仲間を募集します。

米沢市は一晩で1メートル以上も雪の積もる豪雪地帯のため、冬は休業。その間はスキー場など近隣の施設で働くこともできるし、プロスキーヤーやプロスノーボーダーなど、冬季に別の仕事を持っている方でも歓迎だそうです。



東京駅から新幹線に乗って、1時間半で福島駅に到着。ここからJR奥羽本線に乗り替える。

賑やかな駅前を過ぎ、いくつかのトンネルを通り抜けると、たちまち山深い景色に。

30分ほどで、旅館の最寄りである峠駅に到着。古い鉄骨組の駅舎が現れた。

この駅舎は、汽車が急な山を登るための「スイッチバック」という鉄道設備の一部。明治32年に導入され、幕末から戦前にかけて、日本の近代化を支えた建造物として、近代化産業遺産に認定されている。

タイムスリップしたような気持ちになりながら、宿泊者用の送迎バスに乗って宿へ向かう。勢いよく伸びる新緑の間を縫うように、細い道が走っている。

15分ほどで宿に到着。山合いの少しひらけたところに趣のある建物が建ち、すぐそばを川が流れている。

フロントで迎えてくれたのは、福島屋専務の笹木さん。まずはさっそく、築250年という館内を回ることに。

「順当に行けば、私が14代目ということになります。この建物も、250年のうちに何度か改修していますけど、北側は当初の骨組みが残っています。豪雪地帯なんで、建物は少し傾いたりしていますね。そこもまた趣と言えるかもしれません」

福島屋は、全25室の宿。内風呂と増設した客室のある地階、受付と客室のある1階、湯治で長期滞在する人向けの自炊棟を備えた2階からなる。

北側の廊下を進むと、天井からギッと人の歩く音がする。昔の造りで、床板が一枚なのだそう。

すすで黒くなった太い梁。ランプの暖かい光に照らされた壁や柱はきれいに磨かれていて、積み重ねた年月とともに、今も大事に手入れされ続けていることを感じさせる。

「露天風呂に行ってみましょうか」と、外へ。

石畳を川に沿って歩いていくと、気持ちのいい景色がひらけた。

「源泉が50度近くあるので、ひいてくる間にちょうどいい温度になります。温めなおすには電気が要りますので、これは本当にありがたいです」

電気が要る?

「ここには、電気、ガス、水道が通っていないんです。なので、電気は川の水で水力発電していますし、ガスはプロパンを運んできます。水は、ここから3時間ぐらい歩いた山の上からひいていて。年に数回はつまりがないか見に行くんですけど、道なき道を行くので、ちょっと大変です。今年もそろそろ行かないと」

ごく当たり前のことのように淡々と話されるのが印象的。すごいことだと思うけれど…。

「私は、生まれも育ちもここでして。まあ、生まれたところに電気がなかったという(笑)。だから慣れてしまっているんですけど、なかなかない環境ですよね」

そう話す笹木さんも、大学時代は東京に住んでいたそう。

「卒業と同時に戻ってきて、今と変わらずフロントや調理を手伝っていたんですけど。外に出て帰ってきたら、この宿やべえなと思って(笑)。当時はテレビがなかったし、電話もなかった。当然ネットも繋がらない。もうちょっとまともに営業できる形にしようよ、ということで、自力で整備しました」

麓からアンテナ線を引っ張ってきてテレビを映したり、山のなかを歩き回って電波が入るところを探したり。いろんな方の協力を得ながら、向かいの山のてっぺんにアンテナを立て、インターネットを繋いだという。

「非常に厳しい環境ではありますが、やっぱり愛着を持っているので。この古めかしい建物だったり、苦労してつくる電気だったり」

川のすぐそばにある小型の水力発電機は、落ち葉が詰まると発電が止まってしまう。

「子どものとき、ファミコンやるじゃないですか。途中で雨が降ると、セーブする前に消えるんですよ(笑)。でもなんかこう、気配を感じるんですよね。『やばい、ちょっと雨降ってきたからそろそろ消えそう』みたいな。うちの親父なんかもそうですよ。寝てても、やばいって思うとハッと起きるみたいです」

「その不便さを楽しむのもありなんじゃないか、って思うんですよね。あるものを味わうといいますか。世間とはかけ離れた時間が流れている、とでも言いましょうかね。私は非常に落ち着きますし、旅人にとっては、自分を見つめ直すいい場所なのかなと思います」

日常を離れるからこそ、それまで無意識に身にまとっていた習慣や常識からも離れて、自分と丁寧に向き合える。

これからもこの場所を大事にしていきたい。

そう思ったとき、宿としての課題が浮かび上がってきた。

「昔から湯治場として来てくださるお客さまはいるんですが、そこからなかなか広がっていかない印象で。それに、調理はうちの母が主にしていますが、いつまでも働けるわけじゃない。この滑川温泉のあり方を変えていかないと、と模索しているところでした」



そんななか出会ったのが、笹木さんが「私にない視点を持っている」と話す、株式会社ナウエルの宮嶌さん。

山形県米沢市を拠点に、冠婚葬祭事業をはじめホテル運営や経営企画などを手掛けるナウエル。宮嶌さん自身はアメリカの大学を卒業後、東京で8年ほど営業の仕事に携わり、3年前に地元に帰ってきた。

「僕自身、こんなにポテンシャルがあるところはなかなかないと思っていますし、米沢の魅力をもっと伝えていきたいと思っていました。そんななかでご縁をいただいて、昨年12月くらいからご一緒しています」

ラフな雰囲気で、ざっくばらんに話してくれる方。あらためて、宮嶌さんから見た福島屋はどんな宿ですか?

「福島屋さんは、日本人の精神性が感じられる宿だと僕は思っています。観念的なことだけじゃなくて、それが具現化されていることが価値なんじゃないかなと思うんです」

日本人の精神性。

「ものを大切にする、自然を大切にする。そういった、自然との共生ですね。たとえば、普段当たり前に電気を使いますけど、その電気がどこからきているかは知らない。この建物も、250年経った今もこんなにきれいに保たれている。実際にそこに立ってみると、受け継いできた人たちの思いをすごく感じるわけです。そういった一つひとつのことを、後世にしっかりと残していくことが大事だと思っています」

笹木さんにとっては当たり前の習慣や光景を、外からの目線であらためて拾い上げる。

宮嶌さんは、世の中とこの宿をつなぐような役割。これから入る人にも、一緒にその役割を担っていってほしい。

「今、世界中でSDGsという言葉が広がっていますよね。あの考え方も実は、日本のおじいちゃんおばあちゃんたちがずっとやってきたことだと思うんです。それが今、世界的にも見直されていると感じていて。これからは、感度の高い人たちに向けた、サステナブルな宿にしていきたいなと考えています」

さらに、宿だけでなく、地域との協力や連携も考えているという。

「滑川温泉だけでももちろん魅力がありますけど、エリアごと良くなることで、相乗効果が生まれていくと思います。特に峠駅のスイッチバックには、高いポテンシャルがあるなって自分たちも感じているところで」

「今秋からは、持続可能な地域づくりを手掛ける株式会社さとゆめさんと組んで、ガストロノミーのツアーを企画したり、トレッキングルートをつくったり、エリアを丸ごと楽しめるようなソフト面の開発にも取り組んでいく予定です」

今回求めているのは、ふたりとともにこれからの福島屋やこのエリア一帯の価値を考え、つくっていく人。宿の業務も担いつつ、リブランディングに携わることになる。

「責任をもってオペレーションを回しつつ、宿としての新しい方向性を模索していくことになります。スタートアップを経験された方だとうれしいですが、価値観を共有できる方であれば未経験でも。この宿、あとは峠駅も含め、地域全体を楽しんでいけるような方がいいかな」

笹木さんは、どうですか?

「やっぱり、この環境や古いものをいいなと思う方ですかね。私はけっこう、面白いことはどんどんやるよ、っていうタイプなので。あとは、宿の仕事は接客が主になるので、明るい方であれば経験がなくても大丈夫だと思います」

宿の仕事としては、接客やフロント業務、配膳、清掃などが中心となる。

朝食や見送り、清掃のある午前中と、チェックインと夕食の時間帯は忙しくなる。夜は主に笹木さんがフロント対応についているので、スタッフはしっかり休めるそうだ。

ところで、冬季はどんな暮らし方ができそうでしょうか?

「そうですね。11月中旬から4月中旬までの冬季休業中は、米沢のスキー場など、冬に人手が必要なところを紹介することも可能です」

プロスキーヤーやプロスノーボーダーなど、冬の仕事がある人はそちらに専念してもらってもいいそう。執筆業や創作活動に取り組むのもいいかもしれない。

「住まいは、ここに住み込みでもいいですし、峠駅の隣にある板谷という無人駅の周りに空き家がたくさんあるので、そこを活用してもいいと思います。もしくは、福島駅や米沢駅周辺に住んで通うこともできると思います。実際に通っているスタッフもいますよ」

笹木さんもご家族は米沢に住んでいて、週に一度家に帰るそう。自分に合うペースとやり方で生活をつくりたい、という人にも合う環境だと思う。



この日の夜は、宿に泊まらせていただいた。

あたたかい露天風呂にちゃぷんと入ると、自然のなかにすっぽりと包まれるよう。夕飯には、鯉の香り揚げ、ウドの味噌煮、山菜やきのこをつかった冷や汁など、地のものがずらりと並んだ。

布団に潜り込むと、ごうごうと流れる水の音以外はなんの音もしない。

体がリセットされていくような時間でした。

余計なものを削ぎ落としていくからこそ、次の一歩を軽やかに踏み出せる。生き方としても、宿としても、ここだからできることがたくさん眠っているように思います。

(2021/5/18取材 倉島友香)
※撮影時はマスクを外していただきました。

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