求人 NEW

うきはらしさを活かし
水の恵みを
いとなみのなかで伝える

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水が綺麗な土地は、いろいろなものの巡りがいいような気がします。

古くは水路が人や物資を運び、生活を支えました。豊富な水は飲用のほか、農業にも不可欠。豆腐や日本酒などの加工品は、水によってその質が大きく左右されます。

いい水を、どうやって活かすか。そのことをずっと考え続けてきたのが、福岡県うきは市というまちです。

うきは市は、三方を山に囲まれ、古くから交通の要衝として栄えてきました。

来年の初め、このまちに残る古民家を活用して、新たに宿とレストランがオープンします。今回募集するのは、この宿の支配人とレストランのシェフ。どちらの職種も、オープン前の準備段階から関わることになります。

支配人については、経験は問いません。シェフは、フレンチか日本料理を経験した人に来てほしいとのこと。

料理やサービス、どちらを考えるにしても、「水」がキーワードになる場所だと思います。


福岡空港から南東へ、車で40分ほど。

うきは市は三方を山に囲まれた盆地で、遠くに見える山以外はひたすら平地が広がっている。道の両側には果樹園があり、手を伸ばせば届きそうなくらいの距離に、たくさんのぶどうがなっていた。

「今の時期はマスカットや巨峰、桃が実り始めているところですね。柑橘類や梨など、一年を通していろんな果物が実る地域なんです」

そう教えてくれたのは、うきはを中心に活動するまちづくり会社tsumugiの竹熊さん。今回の古民家プロジェクトの中心メンバーだ。

まちなかの駐車場に車を停めて、歩きながら話を聞かせてもらう。

「うきはは今でこそフルーツで有名ですが、歴史的な建物が残っているまちでもあって。この先にある筑後吉井というエリアは、国の伝統的建造物群保存地区にも選定されているんですよ」

竹熊さんとともに歩いていくと、両脇に白壁の町家や土蔵が次々と見えてきた。道沿いには水路が流れていて、水の音を聞きながら歩いているだけでも気持ちいい。

喫茶店や作家のアトリエなど、古い建物の雰囲気をうまく活かしつつ改修しているところも多い。

今回のプロジェクトの舞台となる宿は、このまち並みに点在する3つの古民家と1つのお屋敷を活用してつくるそう。

「古民家2軒は改修が終わっていて、もう1軒も今年度中には工事に入る予定です。1泊3万円くらいの価格帯で、一棟貸し用の古民家もあります」

「大幅に手を加えるんじゃなく、できるだけ古民家の歴史や雰囲気を活かしたものにしていて。全体のキーワードは、“水”なんです」

水、ですか。

「うきはの水には、ふたつの良さがあるんですよ。ひとつが、湧き出る地下水の水質の良さです」

周囲の山々に降った雨が、長い月日を経て地下に染みこみ、湧き出る。市内の水道には、その豊富な地下水が引かれているそう。

水道からそのままミネラルウォーターが出てくるようなものですね。

「そうなんですよ!ここに住んでから、水の違いがわかるようになりました。やわらかい、すっきりした感じ、っていうのかな」

「そしてもうひとつのポイントが、水と上手に生きてきた人々の知恵なんです」

江戸時代ごろまでは、うきは地域は水利がわるく、干ばつが多発していたそう。そこに5人の庄屋が立ち上がり、筑後川から水を引く計画を藩に提案。

反対もあったものの、「万一損害があれば、極刑に処されても異存無し」という強い決意で藩を動かし、村民と力を合わせ灌漑工事を実施して水路と堰が完成した。

これを機に複数の大工事が行われ水利が良くなったことで、うきはは一大穀倉地帯に。その後果樹栽培などの農業と同時に、製麺や豆腐づくりなど、水を使った加工品づくりも発展。

「県内ではとくに、うきはといえば果物、っていうイメージが強いんです。でもそれだけじゃなくて、背景には、豊かな水とともに生きてきた人の歴史がある。それをもっと知ってほしいし、伝えていきたいと思っています」

今回の宿も、まちの歴史や文化を知るきっかけになるような場所にしていきたいという。

「たとえば宿泊する人に、マイボトルと湧き水が汲める場所のマップをまち歩きセットとして渡すとか。あとは、うきははお茶の栽培も盛んなので、いろんな地域の水で淹れたお茶を飲み比べてもらうとか」

「いいものはたくさんあるので、それをどうやって宿に取り入れるか、まだまだ検討しているところです。今考えているものだけが正解じゃないし、たぶんもっとよくできる。新しく入る人の力も借りたいです」

竹熊さんは、地域おこし協力隊としてうきはに来たことが、プロジェクトに関わるきっかけだったそう。新しく来る人も、まずは新鮮な視点でうきはを体験しながら、その魅力をどのようにコンテンツに落とし込むか考えてほしい、とのこと。

こうやってまちを歩いたり、地域の人と話したりするなかでも、いろんなアイデアが浮かんできそうですね。

「うきはの人、とくに自分で商売や事業をされている人たちと話していて思うのは、自分たちが取り組んでいることに理念と誇りを持っていらっしゃるなって。だからこそ、ただ人が増えればいいんじゃなくて、地域の歴史文化や、自分たちが大切にしたいと感じているものに共感してくれる人に来てほしい、っていう意識があるように感じるんです」

「これから始まる宿は、まちの人も誇れるようなものにしていきたいと思っています。私も気づいていない良さやアイデアがまだまだあると思うので、積極的にまちに入って発掘してほしいですね」

うきはのいいものを、丁寧に伝えていく。そのためには、表面をなぞるようなことではなくて、一つひとつ自分ごととして捉えて面白がるような姿勢が大事なのだと思う。


続いて話を聞いた玉垣さんは、今まさにうきはのことを学んでいる方。

九州各地で古民家活用事業をサポートしている株式会社つぎとに所属しており、うきはでは竹熊さんと一緒にプロジェクトを進めている。

「オープンに向けて、地域の人に宿のことを知ってもらう企画をいろいろ考えていて。さっきも道を歩きながら、分散型バーのイベントをするのはどうだろうって想像してたんですけど、めっちゃいいな…って(笑)」

「都会で仕事が少なくなっているバーテンダーさんを呼んで、まちの数カ所に設置したバーで、うきはの水を使ったカクテルとかフルーツを提供してもらうっていうイベントです。楽しそうじゃないですか? こんなふうに、一緒に楽しみながら想像を膨らませてくれる人が来てくれたらうれしいですね」

今年の1月からうきはのプロジェクトに関わっている玉垣さん。

うきは以外にも、九州の複数の地域で古民家活用プロジェクトをサポートしていて、他地域の事例にも詳しいので、良い相談相手になると思う。

「宿の支配人に関しては、経験の有無は重要じゃないと思っていて。『このまちのひとりになるんだ』っていう意識のほうが大事だと思うんです」

このまちのひとりになる。まずは地域に馴染んでいくことが大事、ということでしょうか。

「そうですね。道で会った人に挨拶したり、すきま時間にコーヒー飲みながら地域の方としゃべったり。なんて言ったらいいかな…働きに来るっていうより、暮らしに来る、っていう感覚のほうが近いんじゃないかな」

「古民家活用って、建物を改修するだけじゃないんです。地域の新しい生業をつくって、暮らしや歴史文化をたくさんの人に伝え、継いでいくことが目的で。そのためには、地域の人を巻き込んで、一緒に取り組んでいくプロジェクトにすることが大切なんです」

地域の人と話すなかで、宿に活かせるアイデアが生まれたり、近くのお店と一緒にイベントを企画することになったり。

宿のなかのことを考えるだけでなく、地域に飛び出してうきはを開拓していくことが、翻って宿の仕事につながるような環境だと思う。

「自分がこのまちとつながるフックを、宿を通して見つけてほしいなって。来てくれる人自身が面白がって動き回ることが、ここで楽しく生きていく秘訣のような気がするんですよね」

支配人と同時に募集するシェフについても、開拓する気持ちを大切にしてほしい、と玉垣さん。

メニューに関しては、フレンチか日本料理の8千円ほどのディナーコースに加え、朝食とランチも提供したいと考えているそう。

宿と連携し、宿泊したお客さんに食べてもらうのはもちろん、地域の人が食事にだけ来れるような場所にしていきたい。スタッフも、地域の人を雇用していく予定だ。

「地域の食材をふんだんに使ってもらいたい、という希望はありますが、それ以外のことについては、来てくれた人と一緒に考えていきたいと思っています」

ぶどうや桃といったフルーツをはじめ、野菜やお米、良質な水を使ったお豆腐に麺、そして馬肉など。

食材のバリエーションが豊富で、生産者とも距離が近い環境なので、食材からこだわって料理をつくりたいという人にはうってつけの環境だと思う。

「地域のみなさんが歴史や文化に誇りを持っているまちだからこそ、新しく来た人に対しては、『一緒にやっていける人なのかな』って、ちょっと距離を置いて話す人が多いように思うんです」

「けれど、腹を割って話せばちゃんと向き合ってくれる人ばかり。地道なコミュニケーションを重ねていける人が来てくれたらうれしいですね」


最後に話を聞いたのは、地域おこし協力隊の神谷さん。今年の4月から協力隊になり、古民家活用のプロジェクトに加わることになったそう。

うきはでの暮らしは、どうですか。

「私は、まちで管理している古いお屋敷の運営も担当しているんですが、普段掃除とかで関わってくれている地域の人と、雇う・雇われるっていう関係じゃないように感じて。それがすごく新鮮でした」

「なんていうのかな…。なにか困ったことがあったら言ってくれるし、こっちも困ってることを相談してやってもらっている、仲間みたいな感じ。お金だけの関係じゃないっていうのかな。それは都会と違う関係性なのかなって思います」

オープン後、掃除や朝食の提供などのオペレーションは、地域の人にも入ってもらいながら進めていくことになる。

地元の人が誇れるような場所にしたい。そんな想いを実現するには、まずはここで一緒に働く人たちにとって働きやすい、心地いい環境をつくっていくことが第一歩になるのかもしれない。

「ちょっと立ち話をしたときに、『レタスいる?』って、急に言われたりするんですよ。そういうあたたかさが人間っぽくって、うれしいんですよね。『なんか孫みたい』っていう感じ(笑)」

「ちゃんと挨拶をするとか、おすそわけをありがたく頂戴するとか。地域の輪に入りたいっていう気持ちを持っている人だったら、あたたかく迎えてくれる環境だと思います」

取材を終えて、なんとなく思ったのは、水のような人に馴染む仕事なんじゃないかということ。

自分の色を主張するというよりも、土地が積み重ねてきたもの、いま住んでいる人たちの営みをまず受け入れて、新しい流れをつくっていくような。

まちも人も、似たもの同士が近づいていくのは自然なことのように思いました。

(2021/6/4 取材 稲本琢仙)
※撮影時はマスクを外していただきました。
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