求人 NEW

連綿と流れる金沢の空気
東洋の美や精神世界を感じる
ここは、理想郷

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

“土地の空気感を織り込みながら宿をつくりたいと思っている”

“それも、地域の名産品や伝統工芸品を陳列するのではなく、それまで誰もが表現しえなかった土地に流れる通奏低音を、異物とマッシュアップすることで、訪れた方が五感を通じて鮮烈に感じられるようにしたいと”

「香林居」というタイトルのその本には、宿をつくりあげた龍崎さんの言葉が書かれていた。

石川県金沢市にある「香林居(こうりんきょ)」

もともと、九谷焼や世界の工芸品を取り扱うギャラリーだったビルを改装して生まれたホテルです。

ただ泊まるだけでなく、土地の空気感を五感で味わえるように。ホテルの内装から、提供する料理、シャンプーなどのアメニティ、お客さんへの接し方まで、一つひとつ丁寧につくられています。

今回募集するのは、香林居で働くホテルマネージャー候補とホスピタリティスタッフ。

まずは、香林居の世界観に触れてみてください。

 

新幹線を降りて駅を出ると、木造づくりの大きな門が見える。金沢駅のシンボル鼓門だ。伝統芸能の能楽で使われる鼓をイメージしてつくられたものなのだそう。

この日は七夕。門の前では、小学生の団体が集合写真を撮っている。合間を縫って記念に一枚、門の写真を撮っておく。

兼六園や金沢21世紀美術館など、歴史や文化に触れられる場所が多くある金沢。

街中にもいくつかアート作品が設置されていて、気になった作品は足を止めて鑑賞しつつ進んでいく。

香林居までは、駅から歩いて15分ほど。アーチの窓枠が特徴的な建物に到着した。

中に入ると、代表の龍崎さんとスタッフのみなさんが迎えてくれた。

2階のラウンジに案内してもらい、お茶をいただくことに。

桂花茶と呼ばれる、金木犀のお茶なんだそう。

「実は香林居の名前とも関係していて。香林っていうのは、古来さまざまな漢詩で詠われている中国の地名。広大な金木犀の森が広がっていて、異教徒も異民族も共存して暮らす理想郷のような意味を持っているんですね」

「それと、金沢には“金木犀の匂う道”っていう歌が市民の歌として残されていて。金木犀が、理想郷とこのまちの一つの結節点になりうるんじゃないかと思って、桂花茶をお出ししているんです」

教えてくれたのは、株式会社水星で代表を務めている龍崎さん。香林居の企画・運営を手掛けている。

水星は、龍崎さんが大学生のときに創業した会社。創業時はL&G グローバルビジネスという社名で、今年の6月に改名したばかり。

ブティックホテルブランドの“HOTEL SHE”や、ホテルを貸し切って行われる没入型エンターテイメント“泊まれる演劇”など、宿泊業を軸にさまざまなブランドを企画・運営してきた。

「このあたりは、香林坊と呼ばれるエリアで、昔のお坊さんの名前に由来しています」

「もともとは朝倉義景に仕えていた武士だったんですけど、主君が織田信長に討たれた後、比叡山の仏門に入るんですね。祈祷をしつつ、行商として比叡山からこの辺りまで渡り歩くことを繰り返していて」

その後、朝倉義景の家臣時代の先輩にあたる向田兵衛と金沢で再会。やがて向田家に婿入りし、薬種商を継ぐことになった。

あるとき、向田兵衛の夢に現れた地蔵尊のお告げを受けて、目薬を調合することになった香林坊。その目薬を、眼病を患っていた加賀藩主・前田利家に献上したところ、病気は治ったという。

香林坊家と名乗ることが許され、当時、光林坊橋と呼ばれていた橋は香林坊橋と呼ばれるように。いつしか、まち全体も香林坊と呼ばれるようになっていった。

「この土地の史実を知ったときに、『処方』っていうコンセプトをこの宿の在り方の軸にしようと思ったんです」

処方、ですか。

「史実もそうですし、この近くには兼六園や21世紀美術館もある。香林坊というまち自体が、長年『美の集積地』として機能してきた場所だと思うんです」

「金沢を訪れる人って、美しいものに触れて心の栄養をもらいたいという人も多い。だからこそ、お客さまの状態に寄り添って、美しい宿泊体験や美しい精神世界を感じてもらいたい、処方していきたい。そのためのものを選んだり、サービスを考えたりしてきました」

たとえば、土地の匂いや気配が散りばめられた宿泊体験を楽しんでもらおうと、ホテルの中に蒸留所を設置。

スギ、ヒノキ、クロモジなど、地元の森林素材を毎日蒸留。抽出した精油はアロマオイルとして空間の香りづけ、蒸留水はサウナで使用するロウリュウォーターとしてゲストに提供している。

また、蒸留を繰り返すうちにいつしかその匂いは建物内に染み渡り、訪れた日も、館内は爽やかで気持ちのいい匂いがした。

ラウンジを出て、お部屋を案内してもらう。向かったのは9階にあるスイートルーム。客室の扉を開けると、目の前に透明なカーテンが現れる。

表面にアルミを蒸着しているそうで、メタリックなニュアンスは、入り口と部屋の中から見たときで、表情が変わるのだとか。

もう一部屋案内してもらったのが、表に面したスイートルーム。部屋に入ると、大きな窓の近くに真っ白な浴槽を見つけた。

「季節によって移り変わる外の景色を堪能してもらうため、ミリ単位でお風呂の角度を調整したんですよ」

香林坊の由来、歴史、文化を知り、香林居に散りばめられたそれらの要素を掬い上げていくような。

館内を案内してもらっていると、過去と現在、日常と非日常が入り混じる不思議な感覚を覚える。

「香林居の描いている世界をもっと色濃く表現していけるような人に来てもらえたらと思っていて。ご自身の想う香林居のあるべき姿に向かって、ほかのスタッフと連携して進めていってほしいです」

 

サービスから一つひとつのものにいたるまで、世界観をつくりあげてきた香林居。

実際にホテルで働く人たちは、どんなことを意識して働いているんだろう。

立ち上げから関わっている支配人の笠井さんに話を聞いた。

「ゲスト視点で、今の宿泊体験がベストなのかは常に考えていて。その上で香林居の世界観にどういうものを取り入れるべきか決めるようにしています」

オープン以降導入されたのが、ブックエンドに館内案内、バスローブ。今後は、プライベートサウナ&バスに体重計と姿見の設置も検討している。

「どんな方に対しても楽しんでいただけるホテルなので、それをいかにスタッフが理解して伝えられるのか、日々確認しています」

実際に、4ヶ月に1回のペースで、スタッフに無料で香林居に泊まってもらい、宿泊を体験することでサービスに反映している。スタッフによっては、香林坊という土地をゲスト視点で再認識するために、まちを散策しに行く人もいるのだとか。

代表の龍崎さんも、ホテルを「まちの一番の代弁者」と表現していた。

土地の空気を感じ、解釈し、香林居の世界観に落とし込んでいく。そんな姿勢が求められるのだと思う。

現在、施設の収支管理を笠井さんが行い、バックヤードの管理を副支配人、スタッフの育成やゲスト満足度向上への取り組みをサービスマネージャーが担っている。

「このポジションだからこの仕事って明確に決まってはいなくて。自分の得意な分野をみんなで分担して進めています」

「一階のショップを使って、陶器やアパレルのポップアップを企画したり、インスタレーション作品を展示したり。地域のプレイヤーと連携してイベントを開くこともできるので、興味の幅が広い人だったら、楽しいと思います」

笠井さんは、どんな人に入ってほしいですか。

「接客が好きで、ゲスト視点で施設を前に進められるような方。それと、とくにマネージャーになる人には、ビジネスマインドを持っていてほしいですね」

 

美しい世界観のなかで働くことは華やかに見えるけど、世界観をつくる側ということを忘れてはいけない。

そんな二面性について、サービスマネージャーの山野さんの捉え方が面白い。

「学生のころにミュージカルをやっていて、舞台に立つこともあれば、舞台裏で小道具を用意したり舞台監督の補佐をやったり。ホテルに入ったときに舞台と一緒だなって思って」

「パブリックスペースが舞台で、舞台裏はバックヤード。この制服も衣装じゃないですか。すごく似てるなってずっと思ってたんです」

以前は、大手のラグジュアリーホテルで4年半働いていた山野さん。

現場のことはわかってきたけれど、自分が一日どれくらい売り上げに貢献したのか、もっとゲストに対して面白い企画ができるのではないか、と疑問があった。

より大きな裁量でスピード感を持って働きたいと、水星に入社。現在は、宿泊体験の向上を目指して、スタッフの育成や研修業務を担っている。

「香林居は、宿泊体験を通して金沢の土地の魅力を伝えていくホテルだと思っています。館内を写真に撮ってSNSにあげてくださる方が多くて、すごく嬉しいんですね。だけどそこで終わりにしないで、その奥にあるもっと知って欲しいことを伝えていきたいなって」

「チェックインした後に、お部屋案内をするんです。この建物のこだわりとか、コップ一個に宿るエピソードとか。そこまでゲストに知ってほしいっていうのが一番強い想いです。だからこそ、興味を持ってもらえるような接客をするのが、私の仕事だと思ってます」

 

「もの一つひとつにエピソードがあったり、ゲストに体験してほしいことが明確にあったり。香林居のそういうところが良いなと思っていて」

今年の1月に入社したばかりの長崎さんも話を続けてくれる。

「たとえば、最初にお出しした桂花茶の器って、九谷焼なんです。このビルの前身である九谷焼のギャラリー『眞美堂』さんから受け継いだもので、130年ぐらい前のアンティーク品。現代には、そこまで細かく絵付できる人はいないから、現存しているものだけなんです」

「私の知らない建物の歴史を、この器は知っていて。今でもたくさんのゲストに使われていると思うと、すごく尊いことだと思うし、仕事で扱ってるものをこんなに好きになれるって、素敵だなって思うんです」

客室清掃やチェックイン・チェックアウト対応、ゲストへの館内案内を主に担っている長崎さん。印象に残っているお客さんの話をしてくれた。

「以前、香林居でプロポーズをしたいというお客さまがいたんですね。こんなお花を用意してほしいとか、シャンパンもお願いしますとか、事前にやりとりをして。できるお手伝いは少なかったんですけど、無事に成功しましたというご報告も直接もらえて」

「後日、その方が口コミを書いてくださったんです。『朝、ホテルのみなさんからお祝いしていただけたのがとてもうれしかった』って。それがほんとうにうれしくて。特別な旅として選んでくれてる人がいることを、あらためて実感できました」

東洋の美や精神世界を処方していく香林居の世界観。

働く一人ひとりが同じ方向を見つめて働いているからこそつくれるもの。

知って考え、実行に移す。向き合えば向き合うほど、深く深く潜り込んでいける宿だと思います。

(2022/07/07取材 杉本丞)

※撮影時はマスクを外していただきました。

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