求人 NEW

採用試験は一緒にキャンプ
「ない」ことを
面白がる島

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0から1を生み出すには、さまざまなアイデアと活力が必要。

それを引っ張ってくれるアイデアマンの存在はとても貴重だけれど、そこで生まれた1を10や100に育てていくのも大切な役割。

どちらも魅力に感じるけれど、自分だったら1を育てていく方が得意かもしれない。

今回紹介するのは、そんな人に知ってほしい仕事です。

島根県・海士町(あまちょう)は、日本海に浮かぶ人口およそ2400人の島。

少子化や人口減少、高齢化など、社会が抱える課題にいち早く直面してきました。そのなかでも、社会の先陣を切るようなあり方をつくろうと、行政と民間が一体となってさまざまな取り組みをしています。

たとえば、廃校寸前だった隠岐島前高校に独自のカリキュラムを設け、過疎地域では異例の学級増に貢献した高校魅力化プロジェクトなど。

その先進的な取り組みと暮らしやすさに惹かれて、年々移住者が増えつつあります。

今回募集するのは、海士町役場で働く行政職員。

役場職員が地域で民間の仕事に積極的に取り組む「半官半X」という新たな働き方を実践し、地域と行政をつないで、町の暮らしをより良くしていく役割を担います。

ユニークなのは「半官半X」というあり方だけでなく、その選考方法も。SPI試験のほか、1泊2日、役場職員とともにキャンプを楽しむ「キャンプ採用」を実施しています。

どんな取り組みなのか、どんな人が働いているのか。島で話を聞いてきました。

 

東京から米子空港へ。海士町へは、境港からフェリーに乗船して向かう。

海を眺めてうとうとしているうちに3時間が経ち、海士町の玄関口、菱浦港に到着。

ターミナルは木造の建物で、屋外には木製のテーブルとベンチがいくつも並んでいる。船着場って殺風景な印象があったけれど、ここはなんだか柔らかく明るい感じがする。

車に乗り、10分ほどで役場に到着。

別館の応接室で迎えてくれたのは、海士町役場人づくり特命担当課長の濱中さん。ほかの職員の方と一緒に、車座になって話を聞く。

海士町では、役場職員が民間の地域活動に積極的にかかわる「半官半X」という働き方を推進している。

たとえば、一日の半分は役場の仕事をして、半分は農業をしたり、商品開発をしたり、イベントの企画運営に携わったり。

ここ数年、町の人口は増加しているものの、地域経済の担い手は確実に減少しつつある。役場職員が先陣を切って担い手となることで、暮らしを維持するほか、住民のニーズを細やかに拾って、仕事に活かしていくねらいがある。

「それまでは履歴書と試験、それと30分程度の面接が主な選考方法でした。ただ、それだけでは、目の前の人が地域のために一緒に汗をかいてくれるかどうか、なかなか量りきれない。それでいい採用方法はないだろうか?と考えた末に生まれたのが、キャンプ採用です」

キャンプ採用とは、応募者が希望する事業部のメンバーや課長とともに1泊2日キャンプをして過ごすというもの。テントの組み立てや食事の買い出し、調理などをともにするほか、火を囲みながら話す時間もある。

「自分たちでもやってみて。星空を見ながら、火を囲んで話をして。建前や立場抜きにして、ようやく腹を割って話せた感じがしたんですね。これだ! となりました」

最初は気を張ったり、格好つけたりしているけれど、一緒に過ごすうちにだんだんと素が出てくる。準備までの過程にも、率先して行動するタイプなのか、周りをみて役割を探すタイプなのか、人柄が現れるという。

「得意や不得意も見えてきます。働く前にわかっていればフォローもできるし、早くから得意を活かした仕事を任せることもできる。どのみち、一緒に働けばわかることなので、早いうちにお互い理解ができているといいですよね」

「なにを考えて仕事をしているのか、海士町役場は本当にいい組織なのか。こちらも毎回、問われているような感覚でいます」

 

今回募集するのは、海士町役場で働く職員。

応募する人は、観光の魅力化、地域産業の魅力化、DX推進、島のマルチ人材の4つの分野から興味あるものを選ぶ。入庁後は、基本的に希望した分野で働き続けられるとのこと。

異動がつきものの行政職で、自分の興味のある分野にじっくりと腰を据えて臨めるのは、キャリアを重ねていきたい人にとってもいい環境だと思う。

次に話を聞いた、観光促進課の小島さんはまさにそんな方。今年はじめのキャンプに参加、川崎から家族で移住し、5月から役場で働いている。

社会人として働くなかで観光に興味を持ち、添乗員などの現場での業務や、地方創生にかかわる事業のバックオフィス業務など、さまざまな仕事を経験しつつ、観光への学びを深めてきた。

「ただ、民間企業で働いていると、この場所にとってベストな取り組みがあっても、自社に利益がない限り取り組めないっていうむずかしさを感じていて」

「次のステップでは、地域にダイレクトに貢献できるような仕事をしたいと思って、行政の仕事に興味を持っていました」

同時に、子育てについても悩みを抱えていたという。

「都会の子育てって、息苦しいなと感じていて。習いごとの基準も、好きかどうかじゃなくて『みんなに遅れないように』という発想。なんだかそういう育て方に違和感があったんです」

どうしたら自分のことを自分で考えて、行動していける大人に育てられるだろう。漠然と悩んでいたときに知ったのが、高校魅力化プロジェクトだった。

「発祥の地が海士町だと知って、ここで子育てがしたいと。観光の仕事がないか調べているうちにキャンプ採用に辿り着きました」

現在は、町の観光事業全般の進捗・予算管理、観光のプロモーションや滞在コンテンツづくり、人材を雇用するための取り組みなど、これまでの経験を活かしながら幅広い仕事に関わっている。

移住してみて、いかがですか?

「海士町の夏は最高でしたね。どこにいっても景色がいいんですよ。自然があるから、仕事をしていてもあんまりストレスを感じないというか。実は採用試験がキャンプ初体験だったんですけど、今年の夏はアウトドア三昧で。ほとんど外にいた気がします」

「仕事面ではギャップはなかったんですけど… なんでしょう、最初のうちは、なんだか試されているって感覚がありました」

試されている?

「どういうことがしたくて、なにから手をつけるのか。誰と事業を動かしていくのか。観光っていう役割を与えられて、そこから先の描き方はすべて自分次第というか」

「もちろん、上司や課のメンバーも相談にのってくれるけれど、最初の一歩を踏み出すのは自分。町の現状や人間関係もまだ十分わかっていないなかで、どう動いていいかわからず、もどかしく感じることもありましたね」

自身が担当するイベントの運営を手伝ったり、地域行事に参加したりして、まちの人と顔馴染みになるなかで少しずつ動き方がわかってきた、と小島さん。

はじめての土地で、地域の人と関わりながら働いていくには、みずからコミュニケーションをとろうとする姿勢も大切になるんだと思う。

 

次に話を聞いたのは、小島さんと同期の五島さん。

三菱重工に12年ほど勤め、プラント建設にかかわる仕事をしてきた方。技術系のバックグラウンドを活かして、新庁舎への建て替えや、環境整備課の支援、DX の推進など、島のマルチ人材としてさまざまな仕事に取り組んでいる。

「こんなに自由にさせてもらっていいのかな、と思うくらい、裁量をもって仕事をさせてもらっていますね」

たとえば、と話してくれたのは新庁舎への建て替えの仕事。五島さんの着任時にはすでにだいたいの設計が決まっていて、そのまま進めることもできる状況だった。

「ただ、設計図を見たときに、このままじゃコンセプトの達成はむずかしいんじゃないかと感じて。『住民と職員が一体になって働ける空間』なのに、部屋の真ん中に柱があって、空間が分断されている印象があったんです」

「思い切ってつくり直してみませんか、と課長に相談したら『じゃあ、やってみたらいいよ』と言っていただいて」

もちろん、一つひとつの設計にはなんらかの意図があるはず。

これまでどういうことが話し合われ、どんな思いを込めて設計されたのか。つぶさに調べ、あらためて関係者にヒアリングするなど、これまでの過程を尊重したうえで、新しい設計プランを考えていった。

「ほかの仕事でもそうですけど、やりたいことがあるときに『やめときな』って言われたことがあまりないんです」

「不満があっても機会がなかったらもやもやするけれど、こうしたいって言ったら、ちゃんと機会を与えてくれる。フェアですよね。みずから動いていくエネルギーは必要だけれど、僕はそんなスタンスが心地いいなと思っています」

それは、日々の暮らしでも同じ。

「転職するときに一番不安だったのは、やっぱり給与条件でした」と、五島さん。

「前職とは大きく変わってしまったけれど、『お金が足りなきゃつくればいい』って発想ができるのも海士町ならではだと思っていて。半官半Xの半Xで補えばいい。機会はちゃんと与えられてるんですよね」

休みの時間を活用して、空き家など中古物件の住宅診断をおこなうホームインスペクションの資格を取得したという五島さん。

移住者が増えて、住宅事情も複雑化している海士町。ゆくゆくは、役場の仕事と兼業しながら、住環境の改善にかかわる仕事をつくれないかと考えている。

「ないものはないけど、なかったら自分でつくればいい。それは不便でもあるんですけど、いいところかなって。それをまちのあらゆる場面で感じられるのが、海士町のすごいところだなと思います」

五島さんは、どんな人に来てもらいたいですか?

「ないものを面白がれる人がいいのかなと思いますね。やりたいことはあるけれど、計画はこれからみたいな、余白が多いまちなので、それを楽しめる人が合うんじゃないかなと思いますね」

「やってみたい事業がある人もいいし、いまは受け身感覚の人が来てもいいと思います。自然と感化されて、自発的に動いていくようになると思うので。むしろ、変わっていきたいと思う人なら、いろんなチャンスに巡り合えるんじゃないかな」

 

五島さんと同じように、「まずは、挑戦してみたい気持ちを大事にしてほしい」と話すのは、海士町長の大江さん。

「もちろん定年まで元気に勤めてあげてくれたらうれしいけれど、途中で次のステージを目指す人も出てくるでしょう。私としては『次の現場でも頑張ってこいよ』と、背中を押したい」

「そうしていい関係性をもったまま去ることができたら、どこかのタイミングで『島で一緒に仕事しようよ』という話になることもあると思う。そういうつながりがどんどん増えていくと、地域にとっても非常にプラスになるからね」

ないもの探しじゃなくて、あるもの探しをしよう。目の前にある状況を、楽しもう。

そんな前向きな発想で生きていきたい。そう思う人を、優しく受け止め、背中を押してくれるまちだと思いました。

(2022/8/30取材 阿部夏海)




日本仕事百貨では、海士町をふくむ島前地域で推進されてきた教育魅力化プロジェクトのこれまでとこれからを、コラムでご紹介しています。

また、プロジェクトにかかわるスタッフや、島暮らしを体験する「大人の島留学」参加者も募集します。よろしければ、こちらもご覧ください。



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