コラム

最先端の島、挑戦の先の未来へ 

人口減少に、少子高齢化。にぎわいの喪失や産業の衰退。

多くの課題を抱える地方のなかで、みずから未来を切り拓いている場所があります。

日本海の沖合に浮かぶ、島根県の隠岐諸島。

海士町(あまちょう)、西ノ島町、知夫村(ちぶむら)の3つの島からなる島前(どうぜん)地域では、離島ではめずらしい、人口の社会増が起こっています。

そのきっかけとなったのは、島前地域唯一の高校、島根県立隠岐島前高校の教育魅力化プロジェクト。

高校と連携・協働しながら、子どもたちの自己実現を地域総がかりで支援する公立塾「隠岐國学習センター」の設立、島外から留学生を受け入れる島留学制度など。10年以上前からさまざまな取り組みを重ねてきました。

近年は高校にとどまらず、小中学校をふくめた島前地域全体の教育魅力化や、新たな事業も次々に始まっています。

そのひとつが、隠岐諸島で働きながら暮らす「大人の島留学」。島に若者を受け入れることで、島民自身も地域の魅力を再発見するような仕組みをつくろうとしています。

一見、教育魅力化とは毛色の異なる新たな事業。立ち上げのきっかけは、教育魅力化プロジェクトを推進するなかで見えてきた「高校の生徒数は増えたけれど、戻ってくる卒業生が少ない」という課題でした。

魅力化プロジェクトは全国に広がりつつあり、島前地域は今や「魅力化プロジェクト発祥の地」と呼ばれています。最先端をゆく地域だからこそ、ここでの新たな課題と向き合うことが、日本各地の魅力化プロジェクトの未来につながるはず。

今回は、そんな数々の事業を運営している一般財団法人島前ふるさと魅力化財団のスタッフと、大人の島留学の参加者を募集します。

それぞれの募集の詳細は、各記事を読んでみてください。

また、募集にあたって、島前地域のこれまでの歩みをよく知る方々に話を聞いてきました。

単体の記事ごとに読んでも、もちろん大丈夫なのですが、まずはこのあとに続くおふたりの話を読んでいただくと、全体像がよくわかると思います。

2022/10/14公開

2022/10/18公開

2022/10/19公開

米子空港から電車に乗り変え、境港へ。

そこから高速船に揺られること2時間で海士町に到着。5分ほど歩くと隠岐國学習センターが見えてくる。

扉を開けると土間があり、その奥には椅子や机が並ぶ学習スペースが広がっている。

案内してもらい奥の部屋へ行くと、迎えてくれたのは魅力化財団の教育魅力化事業部リーダーの宮野さん。

「さっきまでイベントの後片付けをしていて、あやうくドロドロな格好で来ちゃうところでした(笑)」と、場を和ませてくれる。

魅力化財団が推進する魅力化プロジェクトとは、生徒が通いたくなる、地域に愛着を持てる学びの場をつくることで、魅力的で持続可能な地域づくりを目指す取り組み。

人口流出、財政難などから一時は廃校の危機にあった隠岐島前高校。

高校生の自学自習をサポートしながら、生徒のキャリア設計も支援する公立塾「隠岐國学習センター」の設置や、地域を「生きた教材」として学びの場にする探究活動など。学校や地域と連携しながら、独自の取り組みを進めてきた。

いまでは国内外から生徒が集まるようになり、生徒数は倍増。地域内の進学率も高まり、教育やまちづくりの挑戦事例として全国から注目を集めている。

プロジェクト初期から魅力化財団に加わっていた宮野さん。

最初は隠岐國学習センターで勤務。高校と綿密にコミュニケーションをとり、プロジェクトが円滑に進むよう地盤づくりを続けてきた。

2年目に高校のある海士町から隣の知夫村に異動し、村の小・中学校での島留学を立ち上げることに。

「隠岐島前高校は、3町村の共通する財産。高校だけがよくなればいい、というものではなく、地域全体の教育が魅力的になってこそ進学したいと思う子どもも増えるし、暮らしたい地域になるはず、という思いがありました」

島留学生を受け入れるのは、知夫村では初の試み。

捌く前の生きた魚を初めて目にしたり、海苔の収穫から成型までを体験したり。

地元では当たり前の風景も、島外から来た子どもたちにとっては非日常。島暮らしを楽しむ様子に、地元の子どもたちも刺激を受けた。

「『意外とうちの島、いいじゃん』って。そんな子どもたちの様子を見て、島留学生がまだいない学年の保護者の方から『うちの子の学年にもぜひ連れてきてね』と声をかけられることもありました」

人口620人。各学年に子どもが数人しかいなかった村の小中学校に、楽しげな声が響き渡る。地域に活気をもたらす島留学は、はじまってから6年が経った今、知夫村に根づきつつある。

「ほかの地域だと、『島留学って何?』ってところから始めないといけない。島留学を知夫で受け入れてもらえたのは、隠岐島前高校の先行事例があったからだと思うんです」

「一歩先をゆく隠岐島前高校で取り組んでいることが、島前地域や全国の魅力化にもつながっていく。知夫村での経験を通して、心からそう思えるようになりました。2年前からは高校に軸足を置きつつ、プロジェクトをより良くするチャレンジをしています」

たとえば、高校生たちの進路選択に対して小中学生がインタビューしたり、小中学生の学習を高校生がサポートしたり。

高校と小中学校に限らず、さまざまなかかわり合いや学びの機会を増やすことで、この地域を「暮らしたい」と思える魅力的な場所にしようと、取り組みをアップデートし続けている。

 

そんな教育事業部の取り組みを別角度から捉えてきたのが、魅力化財団で地域魅力化事業部のリーダーを務める青山さん。

海士町出身で、隠岐島前高校の卒業生。「魅力化の影響で生徒数は増えたけれど、卒業後、同世代で島に戻る人はほぼいなかった」という。

卒業した数百人にヒアリングするなかで聞こえてきたのは、「熱い思いがないと帰ってはいけない」「なにか返せるものができるまで、都会で修行しないと」といった声だった。

「スーパーマンにならないと戻っちゃダメ、みたいな。島で熱意をもった大人たちと出会ってきたことで、意図せぬところで強迫観念みたいなものを感じさせてしまっていたのかなと」

「あとは、学校生活を通してなんとなく地域を知った気になっていたけれど、この島でどう働いて暮らしていくかということまでは、想像できなかったんですね。だから就職を考えたときに、島前で働くということがそもそも選択肢に挙がらなくて」

その一方で、島に帰ってなにかしたいと思う人は「意外といた」と、青山さん。

「もう一度島で暮らしながら働く経験をすれば、戻ろうと決意できる人もいるはず。移住、とくにUターンって骨を埋めなきゃみたいな雰囲気があるけれど、もっと気軽に、島で働くことを知る機会をつくれないかと思いました」

そうして2020年に始まったのが、大人の島留学。隠岐島前高校の卒業生に限らず、3ヶ月〜最長で2年間、希望する地域で仕事と暮らしを体験できるプログラムだ。

「やってみて、いろんないいことがありました。年中、島に若者がいる。それだけで地域が活気づくんだなと思いましたし、卒業生たちも帰ってきやすくなったそうです」

教育事業部と卒業生の関わりも増え、魅力化プロジェクトを振り返るきっかけにもなっている。

受け入れている地域の人たちの反応は、どうですか。

「最初は、受け入れを渋る事業者さんも多かったです。10年働く覚悟があるやつじゃないとだめだ、みたいな。でも、今はひとつの会社に死ぬまでいる、みたいなことは少ない時代だし、まずはやってみましょうと」

「短い期間とはいえ、前途有望な若い世代が一緒に働いてくれる。これって、すごく励みになるんですよね。逆になかなか人の集まらない事業者さんは、どうしたら人が集まる魅力的な仕事になるだろう?って、相談してくれるようになって」

前向きな発想が連鎖することで、地域産業の活性化にもつながっていく。島留学生の受け入れをきっかけに、島のさまざまな事業所の採用支援や人材育成に魅力化財団が関わる構想もかたちになりつつある。

「島の住民にとって、これまでは魅力化を自分ごとにしづらい部分があって。高校を残したいのは分かるし応援するけど、教育が自分たちの仕事や暮らしにどんな影響があるかって、ピンとこないじゃないですか」

「魅力化があったからこそ、大人の島留学が生まれて、仕事を通して若者と一緒に地域の未来を考えられるようになった。そんな実感を持ってもらえたら、さらに応援してもらえると思うんです」

今後は、大人の島留学生の受け入れを増やすだけでなく、島の子どもたちと大人の島留学生との関わりもつくりたいと思っている。ちょっと歳上のロールモデルが身近にたくさんいることは、子どもたちにとって刺激になるはず。

「学歴が大事だ!って主張する人もいれば、隣で高学歴の人が『学歴なんて関係ないよ』って話すこともあるかもしれない(笑)」

「何が当たり前なのかはよくわからないけど、世の中にはたくさんの選択肢があって、結局自分で決めていくしかない。それって教育魅力化で伝えたいことと、きっとつながるんじゃないかなって」

隣で宮野さんも「うんうん」と頷く。

隠岐島前高校では、この春から地域共創科が新設された。

この学科では探究活動だけでなく、農作業や水産業などの仕事を実際に経験することで、より現場に近い目線で産業のあり方を考えていく。

教育事業部もその運営に関わっている。高校生たちのメンターとして、先に現場で働く大人の島留学生と関わりを持てないかと思案しているところだそう。大人の島留学で積み重ねてきたノウハウやつながりは、そのまま地域共創科での学びにも活かせそうな気がする。

ふたりの話を聞いていると、教育事業部と地域事業部と、それぞれの取り組みがいい影響を与えながら、事業を磨きあっているように感じる。

魅力化プロジェクトは、地域にとってどんな意味があったのか。子どもにとっても、地域にとっても持続的で、より良い教育とは、なんなのか。

過去と現在をつなぎ、島々をつなぎ、未来を紡いでいく。これまでの取り組みに真摯に向き合ってきたからこそ、未来が拓けてきたのだと思います。

島のことをもっと知りたいと思った人は、まずは大人の島留学に参加してみてください。来年春から1年間、島暮らしにチャレンジする人を募集しています。

もっと深く関わりたいと思う人は、魅力化財団で働くこともできます。

今回募集するのは、島前地域の教育魅力化プロジェクトをともに推進する隠岐島前高校の魅力化コーディネーターと、島外からの留学生を受け入れる女子寮のハウスマスター。

そして、大人の島留学事業を推進するコーディネーターや採用・企画広報、総務・経理を担当するスタッフです。

すでに教育や地域に関わっている人でもいいし、異なる分野から飛び込む人も歓迎とのこと。それぞれの募集の詳細は、各記事をご覧ください。

みずから学び、動いていくことで、いまの島前地域でチャレンジするからこそ得られる経験があると思います。

(2022/9/11取材 阿部夏海)
※取材時はマスクを外していただきました。

2022/10/14公開

2022/10/18公開

2022/10/19公開


日本仕事百貨では、同じく島前地域の海士町役場で職員も募集しています。よろしければ、あわせてご覧ください。

「採用試験は一緒にキプ ないことを 面白がる島」

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