求人 NEW

ピザじゃなくて“ピッツァ”
たしかな技術が支える
おいしい文化

ピザとピッツァ。それぞれ違うものと聞いて、ピンときますか?

デリバリーで馴染みがあるものは、アメリカから輸入されたピザ。厚めの生地にたくさんの具を乗せ、低温でじっくり火を通しています。

“ピッツァ”は、イタリアのナポリ発祥。長時間発酵させた生地を人の手で薄く伸ばし、シンプルな具を乗せて、高温の窯で焼き上げる。パリッとしたなかに、もちもちとした食感があるのが特徴。

増田煉瓦(れんが)株式会社は、ピッツァ用の窯の製造販売で、国内トップシェアを誇る会社です。

長年煉瓦の製造販売に取り組んでいたところから、ピッツァ窯の事業に参入して26年。

オーダーメイドの窯づくりと、イタリアなどから輸入した窯や道具の販売が事業の中心に。そこから派生し、ピッツァ製造の技術指導、生地の販売、地域でのイベント出展など、幅広く取り組むようになりました。

製造からメンテナンスまで、一貫した体制が評価され、多くの一流レストランに採用されています。

今回募集するのは、窯のガスや電気系統を担う技術職。イタリアやスウェーデンから輸入した窯の組立・出荷管理を担います。

ガスの燃焼や電気系統の基礎知識は必要ですが、何より大切なのは、ニッチなこの世界に興味を持ち、自分ごととして取り組めること。

ガスバーナーの取り付けや出荷前検査をしたり、外国産の窯を日本仕様のガスや電圧に調整したり、定期メンテナンスを担ったり。安全に長く窯を使い続けるために、欠かせない仕事です。

あわせて、物流管理と設計のスタッフも募集します。

増田煉瓦の仕事は、国内でも自分たちしかできない、代わりの効かないもの。競合他社も少ないので、技術向上に集中して取り組むことができる環境です。



増田煉瓦の拠点があるのは、群馬県前橋市。

高崎駅で新幹線から在来線に乗り換えると、車窓から見えるのは、畑のなかにある大きな工場や、一軒家が並ぶ住宅街。少し先には上毛三山や浅間山がそびえ立つ、関東平野の風景だ。

3駅先の新前橋駅で下車し、車で10分弱。増田煉瓦の事務所と工場は、群馬県庁の高いビルがよく見える場所にある。

「群馬県庁の昭和庁舎を建てるのに煉瓦が必要という理由で、この地で煉瓦工場を創業しました。昔はトラックで運ぶなんてできなかったから」

社屋を案内しながらそう教えてくれたのは、5代目代表の増田さん。

大正6年に、煉瓦の製造と工事請負業としてはじまった増田煉瓦。当時は、土木・建築・かまど・工業窯炉など、煉瓦の需要は大きかった。

「利根川沿いにはいくつも煉瓦工場があったんです。良質な粘土の地層に恵まれていて、それを原料に焼成し、煉瓦を焼いていたんですよ」

時代とともに需要は少なくなり、増田煉瓦は1988年に煉瓦製造窯の火を消すことに。以後、国内外のほかのメーカーから煉瓦を仕入れて施工に使うようになった。

家電メーカーの技術者だった増田さんが家業を継いだのは、1994年のこと。

「どうせなら、大手さんがやらないニッチな分野の仕事をしようと。付加価値が高くて、ある程度のシェアを取れて、自分の経験や技術が活かせる。そんな組み合わせで考えて、ピッツァ窯に参入することにしました」

既存商品よりも絶対にいいものができる、と感じていたという増田さん。

1号機は独自のアイデアで商品化。その後、本場イタリアの職人の知恵も借りながら、煉瓦ならではの蓄熱効果を活かした窯を形にしていった。

「ガス窯は、バーナーで温度を上げて、450℃の高温を維持する仕組みです。最初はピッツァ窯の構造を調べながら試行錯誤して、自分なりにつくってきたので、今の形が確立するまでに10年くらいかかりましたよ。今はピッツァだけでなく、パン窯や肉などの薪火料理用のグリル窯にも応用しながら製造しています」

増田煉瓦は、オーダーメイドの窯づくりのほかに、輸入品の販売もおこなっている。

ガス窯はイタリア、電気窯はスウェーデンから高品質なものを輸入。海外メーカーから材料を仕入れ、自社で設計を行う「BeBrick」ブランドも持っている。

お客さんの意向や施設の条件から、熱源のタイプや、国産品か輸入品かなど、自由に決めてもらうスタイル。

「窯の輸入をしている会社は複数あるけれど、事前打合せから納品後のメンテナンス、技術指導まで面倒を見られるのがうちの強み。全部自社でカバーできるように社員が頑張ってくれたおかげで、シェアが伸びていきました」

「輸入品は、海外のガスの成分・圧力・流量でつくられているので、日本仕様にアレンジし直す必要があります。電気も同じ。日本に届いてから、必ず工場でひと手間をかけないと商品として成り立たないんです」

その過程に携わるのが、今回募集する技術職。

現在はベテランの技術顧問の方が一人でその役割を担っている。彼が現役のうちに、次世代のエンジニアに技術を引き継いでいきたい。

出荷前の調整や検査のほか、定期メンテナンスを担う協力事業者への部品供給や技術的な指示・指導など。

技術を引き継いでいかないと、今一流レストランにある窯も使い続けることができなくなるかもしれない。

「私の代でしっかり人を育てておかないと。将来、日本のピッツァ窯からガス窯が消えてしまうことも考えられる。そうすると、今まで培われてきたピッツァの技能やエンターテイメント性が、窯を理由に発揮しづらくなることも想像できます」

日本の食文化の一端を担うとも言える仕事。

増田さんに仕事のおもしろさを聞いてみると、いかにも技術者らしい答えが返ってきた。

「石窯ってね、バーナーや薪で熱を滞留させるんです。そこにピッツァ生地を入れると、温度の高い熱源から低い温度の生地に熱が移動してきて、熱平衡によってふわっと生地が膨らむ。窯内全体の熱バランスがとれた結果、ピッツァの姿に焼き上がる。これは家電製品では絶対にかなわないことなんですよ」

「家電は便利ですが、あくまで薪火の調理機能を電子制御で可能にしたもの。本家本元、すべては薪火なんですよ。昔から、おいしいものは薪火で調理していたんです」

おいしいものづくりを支える。窯に求められてきた役割は、昔も今も変わらない。

「石窯の内部温度は一定ではなく、温度差や温度むらがあります。熱分布の変化を見て、どう調整したらお客さんが上手に焼けるのか考える。お店はたくさんピッツァを焼く必要があるから、熱を逃さないようにしなきゃいけない。自分で熱環境を創造するのは、なかなかおもしろいですよ」

増田煉瓦の技術職は、数字を合わせて終わりではない。おいしいものをつくり続けるために、自分の技術を活かしていく。

 

「ガスと電気の基礎知識さえあれば、それをどう窯に応用するか学んでいけばいい。技術面だけで仕事を選ぶなら、ほかにも会社はたくさんあります。そうではなくて、ここで働くなら、ピッツァ窯の世界に興味を持てるかどうかが大事だと思います」

そう話すのは、貿易事務やネットショップの管理などを担当するニコーラさん。イタリア北部のヴェローナ出身で、入社11年目。

九州の大学に留学し、言語学を専攻。増田煉瓦で働いていたイタリア人の先輩のあとを引き継ぐかたちで入社した。

イタリア人の社員はニコーラさんが4人目で、代々イタリアとの貿易の仕事や通訳などを担ってきた。

「最初は知識がなくて、展示会で質問をされても答えられないことが多かった。でも、もともとピッツァも好きだし、一流の職人さんに会う機会も多いから、勉強するチャンスを掴んで知識を身につけていきました。本当にニッチな分野なので、興味を持てないとむずかしいと思うんですよね」

ピッツァづくりの指導、会社のWebサイトやSNS、YouTubeでの発信など、興味がある分野で自ら仕事をつくり出してきたニコーラさん。

「展示会やイベントではピッツァ職人として、実際に焼きながらPRもします。うちの工房で、新規開業するお客さんにピッツァの技術指導をすることもありますね」

「イタリア人として、イタリアの本場の食文化や優れた製品を広めることができるのは、やりがいになります」

増田煉瓦のスタッフは10人弱。それぞれが専門性の高い仕事を担っている。

「みんなに専門があって、それに一番詳しいのは自分だと自信を持っている。だから、なにか指示をもらっても、そのままやるのではなく、自分なりに考えて工夫することが多いです。大人数の会社で与えられた仕事をやるのとは全然違う環境じゃないかな」

最初はむずかしいと思うけれど、新しく入る人もいずれは自分で考えて仕事を進めていく力が求められる。

 

「一つひとつ形もサイズも違う窯だし、設置場所によって調整方法も変わる。決まりきった仕事が少ないので、柔軟性があることは大事ですね」

ニコーラさんに続けてそう話すのが、入社13年目の住谷(すみや)さん。窯の設計のほか、見積もり作成やクライアント対応、工場の施工管理も担っている。

高校・大学と建築を学んでいた住谷さん。最初の数年間は工場で窯の製造に取り組み、基礎知識を身につけたところで設計へ。

当時確立されていなかった窯の図面の書き方を独学で研究しながら、自社工場での製造にも、現場での施工にも使いやすい製作図面を、現場の意向を取り入れながらつくり上げてきた。

新卒からずっと続けてこられたのはどうしてでしょう。

「厨房業界のなかでも、専門性に特化しきった分野なので、ブルーオーシャンなんですよ。たとえば冷蔵庫だったら競合他社がいっぱいいるけれど、うちには競合がいないから価格競争にならない。そういうストレスは少ない仕事だと思います」

働くなかで、トップシェフたちが頼ってくれることも増えてきた。

こんな商品がほしいと依頼を受け、ヒアリングをして設計。完成後はテストキッチンで食材を焼きながら綿密な調整を経て、納品する。

「使ってもらって『これじゃないとダメなんだよ』っていう言葉をもらえると、やりがいを感じます」

「デメリットとしては、舌が肥えちゃうこと(笑)。いろんなシェフがいろんな食材をテストするので、本当においしいものを食べられる。満足できるお店が少なくなってきちゃって、知らなかったほうが幸せだったかもって思いますよ」

最初は少しドライな印象だった住谷さん。けれど話を聞くにつれて、温度感が上がっていくのがわかる。

きっとこの仕事がおもしろいんだろうな。

「麻布台ヒルズの高層階から、周りに何もないような北海道のお店、個人の方の別荘まで、毎回窯の形も違うし現場も違う。それぞれの土地やの風土、人柄によって食に対する考え方も違っていて。日本って狭いけど広いんだなって、実感できるのもおもしろいところです」

「技術的な難易度が表に出てきちゃうとは思うんですけど、やっぱり根本はおもしろい世界なので。コアなんですけど、ちょっと入って来てみてください、と思います」

 

増田煉瓦のみなさんからは、自分たちの仕事がおいしい食文化を支えている、そんな誇りが感じられました。

もちろん、すぐに一人前になれる分野ではありません。だからこそピッツァや食への探究心が根底にあることが、続けるうえでは大切だと思います。

自分たちにしかできない仕事に、誇りを持って取り組みたい人に、ぜひ挑戦してほしいです。

(2024/3/29 取材 増田早紀)

問い合わせ・応募する

おすすめの記事