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やんばるを愛している

沖縄県の最北部にある国頭村(くにがみそん)。

東シナ海と太平洋に挟まれたこの村は、およそ90パーセントが森林に覆われ、亜熱帯ならではの自然が広がっています。

大宜味村(おおぎみそん)、東村(ひがしそん)とあわせて、やんばる3村と呼ばれるこのエリア。2021年、ユネスコ世界自然遺産に登録されました。

村を歩いているとヤンバルクイナの鳴き声が聞こえたり、潮風に混ざって腐葉土の匂いを感じたり。

雨が降ると植物がいきいきと動き出し、鳥たちがそれをついばむ。自然の恵みに人々は祈りを捧げる。

じめっとした空気も、ここでは神聖なものに感じる。

そんなやんばるの文化が、人口減少や高齢化により失われつつあります。

株式会社 Endemic Garden H(以下EGH)は、国頭村を拠点にやんばるの資源を活かした観光業でまちづくりをしている会社。

そのうちの一つ「やんばるホテル 南溟森室(なんめいしんしつ)」は、集落の空き家、空き地を再活用した一棟貸しの宿。2つの集落にそれぞれ2棟の宿があり、暮らしや文化を体験することができます。

今回は、その案内人となるシェルパを募集します。

お客さんと集落を歩いたり、住民の日々の困りごとを聞いたり。やんばるに生きる人や自然、外から訪れる人をつなぐ存在です。

沖縄に所縁があって、やんばるのささやかな日常に価値を感じている。そんな人へ届いてほしいです。

 

東京から那覇空港まで飛行機で2時間半。空港からは車で国道58号線を進み、国頭村を目指す。

下道を3時間ほど走りたどり着いたのは、国頭村の謝敷(じゃしき)集落。人口28人の小さなエリアだ。

ここに、南溟森室の事務所があり、宿のチェックインがおこなわれている。

国頭村には20ほどの集落があり、これまで集落間でも交流は少なかった。

そんな閉鎖的だったエリアの価値に気づき、明かりを灯したのがやんばるホテル 南溟森室。2022年のオープン後、ここを目掛けて国内外から人が訪れるようになった。

「生きた文化が残っているんです。たとえば、雨が山に落ちて水脈になったところに、祈りの場があって、海と一直線になっている。昔そのままに土地も伝統も生きているんですよね」

そう話すのは、EGH代表の仲本さん。国頭村出身で、以前は村役場で働いていた。

学生のころは海外へ行くことを目標にしていて、村に居続けたい気持ちはなかったという。

気持ちが変化したのは、役場の職員として村の人たちの困りごとに触れたこと。集落の福祉やインフラなど、育った地域の課題を目の当たりにするうちに、使命感が芽生えた。

その後、県庁に出向。再び戻ってきたときは、やんばる一帯が世界自然遺産の登録に向けて活動が活発になりはじめたころだった。

「4年くらい世界自然遺産の登録に関わる業務に携わって、観光でやんばるを盛り上げようと動いていました」

「広報活動をするうちに、観光客が増えた実感はありました。ただ、人は訪れるけど集落内はどんどん人口が減少して、ぽっかりと寂しくなっていくんですよね」

押し寄せる観光客の波に、地元の人が驚いてトラブルになったこともあったそう。人は訪れるようになったけど、ありのままの良さがなくなっていく。そう感じた仲本さん。

「やんばるを次の世代に残していきたい。でも、このままだと叶わないかもしれないって想いがずっとあって。そこには、地域と観光をつなぐ人が必要だと思ったんです」

そんな想いから役場を退職し、2019年にEGHを設立。3年後には、南溟森室がオープンした。

「宿はあくまで、やんばるの文化を知ってもらうための手段なんです」

滞在時間が増えることで、景色や料理など単体だけではなく、暮らし全体を知ることができる。そして、やんばる特有の時間の流れを体験することで、住んだことがない人もこの土地の価値に気づいていく。

集落ごとにも特徴が違っていて、馴染むよう建てられた宿はそれぞれにコンセプトがある。

土地の持ち主が大切にしていた赤瓦が置かれていたり、かまどがあったり。朝は地元のお母さんたちが下ごしらえした料理をシェルパと一緒につくる体験もできる。

「宿を開業するまでの3年間で感じたことは、合意形成に終わりはないということ。当時集落の人たちは、一棟貸しの宿はペンションだと思っている方も多くて。はしゃいで騒ぐ場所になるんじゃないかとか、見ず知らずの海外の方が集落に泊まることとか、不安に思う気持ちも感じていました」

「そのなかでも『あんたが言うんだったら』って土地を貸してくれるオーナーさんがいて。宿ができてからは、ご近所さんがふらっと事務所に来て、“ゆんたく”することもよくあって。おしゃべり中に、相談もしてくれるようになりました」

お客さんには、宿泊前にシェルパが必ず集落を案内。歴史など文化に加え、神事で使われる場所への立ち入りや写真撮影など、住民への配慮を呼びかけることで、集落全体の安心感につながっている。

守り続けるためなら任せたい。そんな声も広がり、来年にはさらに2棟の宿が増える予定だ。

今回加わってくれる人も、地域と観光のつなぎ役になってほしい。

 

そんなシェルパと宿泊客をつないでいるのが、支配人の金城さん。仲本さんと同じく国頭村出身で、以前は那覇の旅行会社や国頭村の観光協会に勤めていた。

南溟森室のオープン前からEGHで観光と自然保護を掛け合わせたコンテンツをつくったり、隣の村にある手配業者と連携したり。やんばるを周知しつつ、地域の受け入れ体制を整えていった。

南溟森室がこの土地に建てられたのも、仲本さんや金城さんが集落の人たちと丁寧に関係を築いてきたからこそ。

ほかにも、ひと集落に1日で泊まれる人数をそれぞれ限定し、滞在スケジュールも金城さんが組み立てている。

滞在中に体験できるコンテンツは20以上。なかには、集落に住む人から寄せられた困りごとから生まれたものもある。

「たとえば、ここ一帯には、フクギ並木がたくさんあるんです。ただ、空き地や空き家では荒れてしまっていて。『若い人がいないから作業もできなくてね』と相談を受けたんです。じゃあ、宿泊してくれる方と一緒にやってみてもいいかもって」

「地元のおじいちゃん、おばあちゃんに協力してもらって。午前中に剪定をして、午後はその葉っぱを使って染め体験をする。自ずと会話も生まれるし、その体験が思い出になるんですよね」

宿泊と体験を組み合わせることで、人手が足りず困っていたことが解決される。人と人の関係性も生まれるから、また足を運びたくなるし、集落のことを理解してくれる人が増えていく。

「宿泊料金はお客さまのご要望に合わせますが、2泊が基本でだいたい9万円から。高く見えるけれど、それはちゃんと地域に還元していて。染め体験とか協力してもらった集落の人に日当をお渡ししているんです」

「村のほとんどが65歳以上の方々。退職後に仕事ができる場所も近隣には少ないので、この歳でまた働けることがうれしいと言ってくれるんです」

新しく加わる人も、シェルパとして体験に同行することになる。自分も体験に参加することで、この土地の魅力を知るきっかけになると思う。

「自分の住んでいる地域に愛着を持っていたり、やんばるの特有の文化や自然を守りたいっていう気持ちがあるとうれしいですね」

「上原は、国頭村外から来たんですけど、すごく集落の人から気に入られていて。『りさー!』って、用はないのによく声をかけられていますよ(笑)」

 

そんなシェルパの上原さんは入社2年目。集落を案内してもらいながら話を聞く。

シェルパは上原さんを含め計4人。宿がある謝敷集落と喜如嘉(きじょか)集落、それぞれに担当者は決まっているものの、宿の清掃などはスタッフみんなでおこなっている。

歩きはじめてすぐ、「あっ、三線の音がする」と上原さん。音がなるほうへ行ってみると、縁側で三線を弾いているおじいさんが。

お邪魔すると、9月にある豊年祭のときに弾く曲を練習しているみたい。せっかくだからと一曲、弾いてくれた。

「この曲は、集落に昔から伝わる『謝敷節』っていう曲で。歌は十数文字しかなくて、昔の言葉だから、意味も少しわからない部分もあるんです」とおじいさん。

上原さんが続ける。

「この方は、英語も話せるんですよ。何年も勉強しているみたいで、海外からのお客さんが来るとおしゃべりして、驚かれることもありますね。こんな小さな集落のおじいちゃんが英語を話せるの!って(笑)」

「集落の方たちもお客さんと交流することを楽しみにしていて。自分の知識とか経験が活きるから、まだまだ自分もできるって。すごい笑顔になってくれるんです」

住んでいる人のこと、伝統行事が行われる場所、道に生えた植物のこと、天気のこと…。1時間ほど案内してもらった後にあらためて景色を見ると、より色濃く感じる。

そんな上原さんは、那覇出身。同じ県内でも、やんばるに来ることは「沖縄旅行をする」と言うほど、別世界の感覚なんだとか。

今は、道ですれ違う集落の人から話しかけられたり、仕事終わりにご近所の方の家でご飯を食べたりするほど、溶け込んでいる。

「スタッフのほとんどが国頭村出身で。わたしだけ“外から来た”って感覚は未だにあるんです。でも、知らないことをご飯食べながら教えてくれたり、逆にお客さんからの質問で集落の魅力に気づいたり。毎日知識が増えていくことが楽しいですね」

ここに来たのはどんなきっかけだったんでしょう。

「幼いころ、やんばるの近くの海へ家族でよく来ていて。その自然が好きだったんです。でも大きなホテルが建って、ビーチに立ち入りできなくなって。小さいながらに悔しかったんですよね」

「リゾート地化するのがいいことなのかなって。沖縄にしかない人とか文化とか魅力があるのにって思いがあったんです」

大学では英米学科に進み海外へ留学したなかで、あらためて環境問題や自然保護に興味を持った。その後、イベントでEGHのことを知り、在学中のインターンを経て入社。

「1年目は知り合いがいなくて、正直ちょっと辛いなと感じていました。休みの日に村の共同売店を巡ったり、車で名護のほうに行ったり。そうしていくうちに、つながりも増えていきましたね」

「今はシェルパのほかに、写真を撮ることが好きなのでSNSでの広報も担当していて。この経験を活かしていつか海外に行きたいと思っています」

最近では、将来海外で働きたいという上原さんの経験になればと、北海道で開催された大きな国際イベントに参加させてもらえる機会もあったそう。

小さな会社だから、声をあげれば自分の想いも形になりやすい。それに、小さな集落だからこそ、自分がこの場所にいる価値を感じられる瞬間も多い。

「わたしがいるだけで、本当に喜んでくれるんです。集落の人たちの笑顔を見ると幸せだって感じますよ」

 

集落へ一歩入ると、車も通れない細い道が迷路のように続いている。

かつて荷馬車で通っていた道。

道もそのまま、大きな重機も使わずに南溟森室の宿は建てられました。

何百年と変わらないやんばるの原風景を、この先も残し続ける。そんな決意と、やんばるへの愛を全身で感じられる場所です。

(取材 大津恵理子)

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