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鬼も見守るまちで
高校生の未来を
地域と共に育む

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

愛媛県の西南部に位置する鬼北町。

古来より地域住民が山岳信仰の対象としてきた、鬼ヶ城山の北側に位置するまちで、町内の至るところで鬼が見守っています。

そんな鬼北町の中心部にあるまち唯一の高校、県立北宇和高校は、このまま生徒数の減少が続けば、将来近隣の高校と統合される可能性があると言われています。

人口減少が進むこのまちに欠かせない北宇和高校の生徒と、まちの人が一緒に取り組んでいるのが「高校魅力化プロジェクト」。

高校生の学習サポートを中心に行なう公営塾「お鬼楽(きらく)塾」に加えて、遠方から通う高校生を対象とした寮が来年の8月にオープンします。

寮が完成するまでの間は、古民家を改修した仮の寮で生活をスタートし、生徒とスタッフで共に新しい寮の準備をしていくとのこと。

今回は寮のハウスマスターと、公営塾のスタッフを募集します。

どちらも経験は問いません。高校生をサポートしながら、高校生と一緒に鬼北町の賑わいをつくっていく人を待っています。



松山空港から車に乗り、街中を抜け高速道路へ。

1時間ほど走って、三間インターチェンジを降りて東へ約15分進むと、鬼北町が今年の5月にオープンしたコワーキングスペース「warmth」に到着。

中へ入ると、趣ある木の柱や梁がモダンなインテリアと絶妙にマッチしている。

「ここはもともと、150年ほど前に酒蔵として建てられた建物なんですよ」

そう話すのは、鬼北町役場企画振興課の中川さん。生まれも育ちも鬼北町の方。

「ここ10年ほどはずっと空き家で。駅に続く道沿いにあって、人がよく通る場所なのに、もったいないなと思っていたんです」

warmthから100mほどのところには、JR予土線の近永(ちかなが)駅がある。

この一帯は、近永駅を中心に商店街や高校があり、まち全体がコンパクトにまとまっていて、かつては鬼北町の中心として賑わっていたという。

ところが、数十年前にバイパスが通ると、その道沿いにできた大型店舗に人々が足を運ぶように。だんだんと駅周辺の商店街から活気が消えていった。

加えて、まちの人口減少も進み、利用者が減ったことで予土線は存続の危機を迎えている。

「予土線を一番利用しているのは、北宇和高校に通う生徒で。予土線がなくなったら半数の高校生が通えなくなって、まちがさらに衰退する恐れがあるんです」

予土線と北宇和高校は、まちに不可欠な存在。

そこで2019年から始まったのが、「近永駅周辺賑わい創出プロジェクト」だった。

これは、地域住民と行政、北宇和高校の生徒で、駅周辺の賑わいを取り戻すアイデアを出すワークショップを行ない、そこで出たアイデアを実行していこうというもの。

そこで生まれたひとつが、「warmth」。

「鬼北町は宿泊施設もあまりなくて、観光に来た人は隣の宇和島に泊まることが多かったんです。でもこのwarmthなら駅にも近いので、ワーケーションや宿泊をするにはぴったりじゃないか、ということで話が進んでいきました」

今では宿泊予約が多く入り、地域のイベントもたくさん行われている。

そして、プロジェクトの鍵となる北宇和高校の生徒をさらに増やすべく同時に始まったのが「高校魅力化プロジェクト」。

中川さんとプロジェクトを推進している、鬼北町役場企画振興課の伊手さんにも話を聞くことに。

「今年度から始まったまちが運営するお鬼楽塾は、もともと私が小・中学生のときに通っていた民間の塾だった場所で。建物のオーナーさんに公営塾の相談をしたら、喜んでくれましたね」

公営塾が始まり、来年度は県内外から入学してくる高校生が暮らす寮が完成する。

「寮は駅から200mほどの商店街にある空き地に建てるんです。高校生の姿が増えることで、商店街の活気につながるのではないかと期待しています」

寮は、北宇和高校の学校林の木材を活用してつくられる。かつて、農業高校だった北宇和高校では町有地を学校林として借り受け、生徒が植林し、下刈りや枝打ちを行なってきた。

樹齢60年を超える木は、先輩たちが守り育ててきたもの。これらの木は、未来の後輩のために形を変えて活かされていく。

今回募集する寮のハウスマスターは、ここで生徒たちと過ごすことになる。

「寮には寮生以外も入れる多目的スペースもつくるので、そこで地域の人を巻き込むイベントも積極的に企画してほしい」とのこと。

親元を離れて生活する高校生たちの心と体の健康サポートはもちろん、鬼北町に来た高校生たちの生活や人生がより豊かになるよう、地域とつなぐ活動も大切なミッションのひとつ。



今回は寮に先駆けて始まっている、公営塾のスタッフも募集する。

warmthの目の前にある公営塾。入り口には「お鬼楽塾」という看板が立っている。

「塾の名前は高校生とアイデアを出して、一緒に決めました」

そう話すのは、スタッフの川井さん。今年の4月から着任して、主に数学の指導を担当している。

前職は通信制高校のサポート校で、高校生の学習指導や進路指導をしていた。

以前から興味があった公営塾の募集を探しているときに、初めて鬼北町を知ったそう。

「面接で対応してくれた人たちが全員いい人で、このまちなら心地よく暮らしながら働けそうだなと思ったんです。実際に生活してみたら、生活に不便もなくて、鬼北町にはいい印象しかないですね」

現在、公営塾に通う北宇和高校の生徒は23人で、全校生徒の約1/10。

3年生は主に受験勉強を、1・2年生は定期テストの対策や日常の宿題を一緒に取り組むことが多い。

「勉強が苦手、と話す子が多いんですが、みんな前向きに頑張っていますね」

とはいえ、お鬼楽塾もできてからまだ半年と少し。学習面での効果は、新しく入る人の力も加えながら、じわじわと上がっていくことを期待している。

学ぶことを好きになってもらえたらと、手始めにいろいろな本を紹介するも、いまいち手応えがなかったそう。

「大人が良かれと思っても、伝わらないことがあるのでむずかしいですね。まずは、信頼関係を築くことが大切かもしれないと思って、今は仲良くなるためのイベントをたくさん行なっています」

オンラインで外国人と話す国際交流の時間を設けたり、warmthのキッチンを借りてハロウィンパーティー用のお菓子をつくったり。

イベントなどは、スタッフのアイデア次第でいろんなことができる環境だと思う。



「今日は、来月のクリスマスイベントで高校生と一緒に音楽ライブをしてくれるゲストが練習に来るんですよ」

そう話すのは、主に英語を担当している藤波さん。今年の6月から着任した。

以前は、テーマパークで造園の仕事をしていたそう。

転職を考えたとき、目の前にいる誰か一人のために力を注ぐ仕事をしたいと思っていたところ、日本仕事百貨の公営塾の記事を見つけた。

「私は地方出身で、高校生のときにもっといろいろな大人と話して、世界を広げたいと思っていたんです」

そんな気持ちが高じて、高校時代は一年休学してスウェーデンに留学したという。公営塾なら、当時の自分のような高校生に何かできるかもしれないと感じ、転職を決意した。

スタッフとなって4ヶ月。印象に残っていることはありますか?

「大学で地方創生を学びたい、という子がいて。試験科目に面接があるということで、一緒に練習をしたんです」

話を聞いてみると、生まれ育った鬼北町が好きだけど、人口がどんどん減っている。まちをもっと盛り上げる必要があるんじゃないかと、その子は感じていた。

「たとえば、特産品のゆずを使ったポン酢とかゼリーとか、美味しいのに売れていないのは発信力がないからだと思う、と彼は話していて。鬼北町の経済がどうしたらもっと良くなるかを学びたい、という強い思いを感じましたね」

そんな高校生が増えていったら、鬼北町の未来もきっと変わっていく。

「今は学習指導に加えてイベントを多く取り入れることで、お鬼楽塾なら何でもできるよって種を蒔いているんです。最終的に、高校生のほうからいろいろな企画を持ってきてくれたらうれしいですね」

すると、入り口から賑やかな声が聞こえてくる。学校終わりの女の子3人組が部屋に入ってきた。

「藤波先生の英語、わかりやすいんですよ。『fallって落ちるって意味やけど、falling loveで恋に落ちる、で覚えるといいよ』って言われてから、ずっと覚えられとる。しかもテストで出たんです!」



塾スタッフの二人は、全国の高校で今年から始まった「総合的な探究の時間」(以下、探究)の授業サポートとして、北宇和高校にも月に数回、足を運んでいる。

生徒たちはどんな学習をしているんだろう。実際に高校に行って話を聞くことに。

迎えてくれたのは、教務課長の上甲(じょうこう)先生。探究の担当として、地域の人や役場と関わりながら授業を進めている。

北宇和高校の探究の授業では、鬼北町の新たな魅力を発見することをテーマとして、生徒がまちの人に話を聞いたり、フィールドワークをしたりしながら、まちの魅力をパンフレットやポスターにまとめていく。

「たとえば、鬼北町で有名な雉(きじ)をテーマにした班があって。まずは、雉を捌いている工場に生徒がアポを取って、実際に見に行ったんです」

仕事内容を聞くなかで、工場長に雉はどんな人がつくっているのかと尋ねた。すると、町内にある5〜6軒の農家で、およそ3000羽ずつ飼育していることがわかった。

「工場長さんが農家さんへ話してくれて、飼われている雉を見に行けることになって。行ってみたら高校生も僕も、初めて見るものすごい数の雉に圧倒されましたね」

「そのあと、実際に雉料理も食べてみて。今はその過程をまとめて紹介するパンフレットをつくっているところです」

ほかの班では、町内のサイクリングコースを考えたり、観光名所の成川渓谷を紹介したり。高校生の視点から、新たなまちの魅力も見つかるかもしれない。

「うちみたいな小さい学校が、これからも生徒を確保していくのに何をアピールするのか。探究はどの高校もやっていくだろうけど、自慢できるぐらい本気でやって、高校とまちのことを胸を張ってアピールしたいんです」

まちに積極的に関わろうと、北宇和高校では2年前に「地域創生広報委員会」が立ち上がり、高校生たちが役場と直接やりとりをしながら、近永駅前の広場で行われる七夕まつりやイルミネーションの準備などを手伝っている。

プロジェクトを通して、まちへの愛着も自然と湧いていくのかもしれない。

「今、県外から北宇和高校を受検しようか考えている子が数名おって。ただ親元を離れるのは、やっぱり不安だと思うんです」

「もちろん僕もサポートするけど、ハウスマスターや塾スタッフにも高校生を支えてもらいながら、まちのイベントとかも一緒に楽しんでほしいですね」



取材の翌日、宿泊したwarmthを出ようとしたところ、公営塾の建物のオーナーさんが資料を手に、ニコニコと声をかけてくれた。

「これ、寮の完成予定図なんですよ。寮ができるのが楽しみでね」

そんな話を聞いて、寮も公営塾もまちの人が集まる面白い場になる予感がしました。

素直な高校生と温かいまちの人、そして鬼たちが待っています。

(2022/11/15 取材 小河彩菜)

※撮影時はマスクを外していただきました。

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