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取材先で見せてもらった一枚の写真。
ビルのバルコニーに溢れんばかりの緑が育っています。
「ここには、100種類ぐらいの植物があります。日本の緑ってすごく豊かで、5000種類以上もあって。高尾山だけでも1800種ぐらい確認されているんですけど、それってイギリス全土と同じくらいの数なんです」
教えてくれたのは、株式会社ゴバイミドリ代表の宮田さん。
「5×緑(ごばいみどり)」というオリジナルの緑化システムを使って、都市部にあるビルや住宅の緑化プロジェクトをおこなっています。
システムの特徴は大きく分けてふたつ。ひとつは、特殊な技法で建物の屋上や壁面にも植栽できること。もうひとつは、その土地本来の自然の姿に近づけるべく、日本の在来種を植えていること。
今回募集するのは、この緑化プロジェクト全体にかかわる人です。
現在は、宮田さんを含む10名のスタッフでプロジェクトに関わっているそう。
図面作成から施工管理、その後のメンテナンスまで、ひとつのプロジェクトの始まりから終わりまで担います。ときには草取りをすることも。
CADの実務経験が求められる仕事ですが、経験やスキルよりも、ゴバイミドリの想いに共感して、おなじ方向へ進んでいける人が合っていると思います。
ゴバイミドリのオフィスがあるのは、東京・曙橋駅から歩いて7分ほどの場所。
住宅街を歩いていると、意匠的な白い建物を見つけた。シンプルなつくりのように見えるけど、凹凸のメリハリが効いているのか、存在感がある。
建物を見ていると、1F左隅の部屋から緑があふれているのを発見した。たぶん、あそこがゴバイミドリのオフィス。
正面の入り口でインターフォンを押すと、スタッフの方が出迎えてくれて想像していた通り左隅の部屋へ。
少し待っていると、代表の宮田さんがやってきた。まずは晴れているうちにバルコニーで撮影させてもらうことに。
丁寧に話してくれる宮田さん。穏やかな口調や表情に、緊張もほどける。
「今日は小春びよりっていうんですかね。寒波のなかでもちょっと暖かいですし、植物に囲まれていると気持ちいいですね」
「5×緑」は、都市でも緑を増やせるようにと生まれた緑化システム。
金網でカゴをつくり、人工軽量土壌“アクアソイル”を入れ、その地域に合わせた在来植物を混植することで、コンクリートの上でも、高層ビルの壁面でも、緑を自在に再現できる画期的な方法。
バルコニーには、5×緑の名前の由来になったキューブが置かれている。今は冬なので植物の種類が少ないそう。四角いキューブに植えられている植物は、なんだか可愛らしい雰囲気。
システムの原型を開発したのは、日本の建築緑化の第一人者である、田瀬理夫(みちお)さん。
福岡にある複合施設「アクロス福岡」で、国内最大規模となる5,400㎡の緑化を設計したランドスケープ・デザイナーで、数々の緑化建築を手がけてきた方だ。
「実はここの緑化も田瀬さんが担当してくださったんですけど、何かデザインして植栽しているわけではなく、ただ図鑑の掲載順で並んでいるだけなんですね。というのも、田瀬さんは作為をきらうんです」
作為をきらう?
「ランドスケープというのは、風景をつくる仕事。つまり自然を扱ってまちをつくる仕事なので、そこに人の好ききらいとか、時代の流行り廃りを入れることをよしとなさらないんだと思います」
住宅やビルは、何十年もまちに存在するもの。
それに伴う緑も、出来るだけその土地の緑を使うほうが自然なのではないか、という田瀬さんの理念に共感して、ゴバイミドリで扱っているほとんどが日本の在来種。
「今の都会の植生は単純化しているので、その地域らしさや季節感が感じづらい。都市空間って地面も床もコンクリートとか均質なもので構成されてますよね。これって、人間の長い歴史から見るときっと不自然なんです」
「本来はいろんな種類の植物がいて、風や雨にあたることで揺らいだりする。もともと豊かな植物に囲まれて暮らしてきた日本人は、薄い緑や黄色っぽい緑とか、細かな変化に気づくことができるし、そこから季節の変化も感じられると思うんです」
人の営みはもちろん、その土地由来の植物がたくさん生えていれば、環境に合った虫や鳥が餌を食べにやってきて、生態系が育まれる。
バルコニーの植物も、すべて在来種。カマキリの赤ちゃんを見かけることもあるし、さまざまな鳥が実を食べにやってくるという。
本来の自然に近づければ、自ずと生態系が回っていき、その場所は多様性があるにぎわいの場になる。
それは、人が営む社会でも同じだと思う。
ゴバイミドリでは栃木県の「馬頭の森」を中心に、森を守る人々を支援し、里山の環境を守る取り組みもおこなっている。
その理由は、植物と一緒に日本人が培ってきた季節感や生活の楽しみ、暮らしのリズムなどを残していきたいという想いから。
森林管理のサポートをおこない、育った苗木を提供してもらう仕組みをつくることで、都市の緑が増えれば増えるほど、里山の植生を守ることにつながっていく。
また、2003年に活動を始めて以来、同じ金網メーカー、潅水メーカー、施工会社、メンテナンス業者とともに協働で事業を進めてきたゴバイミドリ。
想いを共有しながら働くことは、働きやすさにもつながるし、長年プロジェクトを共にすることでノウハウも蓄積され、より自由自在なデザインや施工などを実現できるようになった。
素敵な取り組みである一方で、納期の早さや費用の安さが重視される建築の世界においては、緑の必要性が理解されないこともあるという。
現場では予定外のことが発生することも多く、問題が起きたときに、ひとりで抱え込み過ぎないことが大事、と宮田さん。
また、完成した後のメンテナンスも担っているのがゴバイミドリの特徴。協力会社にお願いすることが基本ではあるけれど、個人の家などであれば、自分たちで剪定などをすることもあるという。
さらに年に4〜5回、田瀬理夫さんが主宰する「選択除草」と呼ばれるワークショップに協力している。
「草っ原のなかから外来種の草だけを抜くんですけど、目の前の草をひたすら抜く。そうするとだんだん夢中になって、無心になるんです」
「全部抜き終わってばーっとまわりを見ると、最初と最後でぜんぜん景色が違う。それがまた気持ちがいいんですよね、達成感がすごい。だから、草取りひとつでも蔑ろにしないというか。コツコツと物事に向かうことができる人だといいかもしれないですね」
スキルとしては、CADを使えたり、図面を見て内容を理解できたりする人だと入りやすいと思う。
ただそれよりも、パートナー業者との関係性を大切にしたり、草取りひとつとっても、その意味を理解し熱心に取り組んだりできるような人だと、気持ちよく働くことができるはず。
また、会社として成長はしていきたいけれど、無理に売り上げを伸ばすといったことは考えていないそう。植物と同じように、無理せず、ゆっくりと。その上で着実に成長していくことを目指している。
それは会社の制度にも表れていて、年間休日数は140日以上。働く人も無理せず成長していってほしいという宮田さんの想いが込められている。
次に話を聞いたのは、前回の日本仕事百貨の記事を読んで入社した石原さん。
もともと積算担当として入社したものの、徐々にできることを増やして、今はプロジェクト全体の管理を担当するまでになった。
「前職は造園の設計事務所にいたのでCADは使えたんですけど、はじめは自分の仕事がどこにつながってるのか、まったく理解できなかったんです」
「5×緑っていうものはあるけれど、これがどういうふうに世の中に出ていくのかわからなくて。最初は見積もりだけを担当していたので、5×緑のある未来が想像できてなかったんですよね」
ここで働くまで仕事を離れていた期間が3年あったという石原さん。ゼネコンと仕事を進めていくスピード感にも圧倒されたそう。
「あ、こんなスピードは私には無理だって思ったりして。どうしようって揺れてる時期が半年くらいありました」
転機となったのは、ある個人のお客さんを担当したこと。杉並区の小さな家の緑化を設計から担当する仕事だった。
依頼の内容は、道路に面した2mほどの空間に緑をつくること。寝室から緑が見えて、秋には紅葉を見たいという施主の要望を聞きつつ、図面を作成していった。
「工事も立ち合わせていただいて。2日間くらいで終わる工事だったんですけど、完成したときにすごく喜んでくださったんです」
「植栽した木もまだまだ成長途中だったんですけど、将来は大きくなるんですねって、楽しみにしてくださって。喜ぶ顔を直接見ることができて、すごくうれしかったんです」
今でも毎年1回メンテナンスに通っているという石原さん。
「手入れの仕方もレクチャーさせてもらうんですけど、それを忠実にやってくださっていて、植物たちも本当にきれいに大きく育っているんです。そんなふうに今も関われていることも、うれしいなって思います」
一からプロジェクトに関わるのは大変なことも多いけれど、お客さんと直接やりとりをしながら自分の仕事の行く末を見守ることができるのは、働くモチベーションになると思う。
そのやりがいは、ゴバイミドリに関わるほかのスタッフも感じている。つい最近、平塚にある育苗場のスタッフと一緒に、慰安旅行も兼ねて施工を終えたリゾートホテルに泊まった。
「育苗場にいるスタッフは、施工が終わって植物が育った様子まで見ることができないんです。キューブに育つ植物を一つひとつ丁寧に育ててくれているんですけど、完成形は見たいじゃないですか」
「そのリゾートホテルで完成した姿を見ると、やっぱり感じるものがあるんですよね。自分たちが手がけたものが、こんな立派な緑になるんだってわかると、仕事への向かい方も変わってくる。だから、最初から最後までかかわって、完成形まで見ることができるというのは、すごく大事なことだと思うんです」
おふたりの話を聞いていると、まわりにあるたくさんの植物のように自然体で、自分たちの気持ちや考えを大切に働いている雰囲気が伝わってきました。
宮田さんは無理に規模を大きくすることはしないと言っていたけれど、想いに共感して依頼をもらうことが増えているという。以前は首都圏がほとんどだったものの、最近は九州など遠方からの案件も。
自然のことを考え続け、想いを大切に取り組み続けてきたからこそ、活動も植物のように成長しているように感じました。
(2023/1/31 取材 杉本丞)
※撮影時はマスクを外していただきました。