求人 NEW

波佐見焼商社の
3代目社長夫妻が描いた
夢のつづき

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

「自分たちは開拓者だと思って、この10年やってきて。十分耕したので、悔いはありません。何の種を植えても育つと思いますよ。みんなが喜ぶ花か実か、咲かせてほしいよね」

そう話すのは、有限会社松尾商店の3代目である松尾一郎さん。

松尾商店は、長崎県波佐見町で69年続く陶磁器の商社です。産地のつくり手とともに、色や柄、形など、さまざまなバリエーションの器をつくって販売してきました。

事業はとてもうまくいっていて、売り上げは10年前からおよそ10倍に。今後は海外展開にも力を入れて、より多くの人に波佐見の器を届ける体制をつくっていこうとしています。

さらなる拡大のために、昨年のM&Aを経て親会社となったのが増田石油株式会社。福岡を拠点に石油事業を展開する会社で、経営の多角化を進めるなかで松尾商店との縁が結ばれたそう。

今回は、松尾商店の新たな体制をともにつくっていく販売スタッフを募集します。経験を積むなかで、焼きものを1から企画するチャンスも得られるかもしれません。

何より大事なのは、波佐見焼をもっと広めたい!という想いです。

 

長崎・波佐見。

長崎空港から車で50分弱のところに位置する山間のまちだ。

県内で唯一海に面していない波佐見町では、古くから焼きものがつくられてきた。その歴史は400年以上。世界一の長さを誇る登り窯も、じつはこの波佐見町にある。

向かったのは、セレクトショップ「natural69」。松尾商店が運営する器のお店で、事務所や倉庫などが併設されている。

平日の昼間にもかかわらず、駐車場には7〜8台の車。

動物が描かれたプレートや、形が特徴的なお椀など、さまざまなバリエーションの器が並ぶ店内を、数組のお客さんがじっくりと見て回っていた。

向かいのアウトレット品が並ぶ倉庫にも、楽しそうに会話しながら買い物しているお客さんの姿があって、おだやかに賑わっている。

本社やお店をこの場所に移転したのは、3代目の松尾一郎さん。

69年前に一郎さんのおじいさんが創業した松尾商店。もともとは北陸の魚市場で、仕出し屋さん向けに業務用の食器を売っていたのがはじまりだそう。

妻で専務の愛子さんにも同席してもらって、話を聞く。

「父の代では、関東や関西へ営業に行って、陶器の専門店や百貨店に商品を卸すようになりました。自分は25歳のときに会社に入って、10年間は東海関東地区の営業を経験して」

「営業って、かばんにお茶碗を詰めて持ち歩くんですよ。でも、行ったところでさほど売れないし、体力的にきつい。…じゃあWebで売ればいいんじゃない?って考えたんです」

当時の売上はどん底。いつ廃業してもおかしくないような状態だった。

そこで愛子さんが中心となって、13年前にWebショップを開業。

商品紹介の写真も文章も、Webの構築も。まったくの素人から独学ではじめたそうだ。

「当初は会社の商品力がまったくなかったんですよ。どこにでもあるような商品を卸していたので。価格だったり、マンパワーだったりっていう部分での競争力では、うちはどうしても勝てなくて」

「相手よりたくさんとか、ほかより早く、安く、とか。そうじゃなくて、自分たちが戦えるものはなんぞや?って思ったときに、『営業よりデザインが得意だよね。だったら一般消費者に受け入れられるものを自分たちでつくっていこう』っていうふうに切り替えました」

会社を大きく前進させたのは、丸柄の長角皿。商品サンプルがあがってきたときに「これでビルが建つ」と思ったそう。

一郎さんの読み通り、この器は実際によく売れて、今でも人気商品のひとつになっている。

「ものが営業してくれるんですよ。だから注文が減っても、営業するより商品をつくる時間に充てようとしか思いません」

商品の認知が広まると、「うちで取り扱いたい」という声が寄せられるようになる。

足で稼ぐ営業と比べて経費がかからないので、利益率も上がり、商品開発の時間もできて、たくさんの商品を仕入れられる好循環に。

以前の立地では倉庫が手狭になったことから、6年前に現在の場所へ移転。ショップや倉庫も大幅にリニューアルした。

スタッフは現在、おふたりを除いて6名。全員女性だという。

「重たいカゴをなるべく持ち上げなくて済むように、棚をきっちりと整理したり、キャスターをつけたり。少人数でも効率よく働けるように、いろいろと工夫しています」

そんな会社の根幹を担っているのが、商品企画力。原点は、20代のときの経験にある。

当時の一郎さんは、会社を飛び出し、メーカーさんのところに入り浸っていたそうだ。つくり手の話を聞いたり、つくっている現場を見たりするのが好きだった。

「デザインの才能はないけど、何がどうなって商品ができているかは、かなりわかるようになって」

「窯元にもうちにも、デザイナーはいるんですよ。そのデザイナーが考えたものを、商品にするのが自分の仕事。どこに頼めば、クオリティも高く、安価につくれるか。その選択をしているんです」

波佐見焼の特徴のひとつが、分業制。

焼きものの原料である土づくりから、整形、焼成まで。すべてを一社でまかなうメーカーは稀で、工程ごとに特化した職人たちが、バトンをつなぐようにして器をつくっていく。

技術的な得意・不得意やつくれる量、納期など、さまざまな要素を考慮したうえで発注をかけて、アイデアを形にしていくことこそ、一郎さんのもっとも大事な仕事だという。

メーカーさんとは、具体的にどんなやりとりをするんですか。

「たとえば、まっすぐ線を描くのってむずかしいんですよ。機械でつくるメーカーさんだと、パッド印刷といって、シリコンパッドでハンコを押すように絵付けするんですけど、器には曲面があるからどうしても歪みやすい。そこを微調整して、『もっとまっすぐにしてほしい』というやりとりを何ヶ月もかけて進める、とか」

釉薬を調整して白さを際立たせたり、土もののような雰囲気を持たせた磁器をつくったり。

色や柄だけでなく、形からオリジナルでつくることもある。

「うちにはCADがないので、口頭で伝えるんです。どんぶりなら、『中身が熱くても持ちやすいように、ここにちょっと厚みを持たせてほしい』とか、『洗って伏せたときに持ち上げやすいように、高台は少し反らせてほしい』とか、『ちょっと高さを出して、袋のラーメンに野菜を入れても大丈夫にしたい』とか」

「普段自分が器を使っていて、“こうだったらいいのに”って思ったことを溜めておくんです。そのアイデアや想いを伝えたら、ちゃんとものに仕上がっていく。楽しいですよ」

今回募集する販売スタッフの仕事は、店頭での接客や電話対応、販売事務など。店舗運営が中心だ。

経験を積むなかで、もしも関心があれば、焼きものの企画を考えて形にすることにも挑戦してほしいという。

「陶磁器が好きじゃなくても、興味を持ってもらえる方がいいですね」

“好き”と“興味”は、別ですか?

「好きになると、こだわりすぎるから。玄人好みのものばかりつくっても売れません。それに、“自分”の感覚と分けて考える必要があるんです」

松尾商店のメインターゲットは、30,40代の女性。その人たちの感覚でものを見て、アイデアを出していかないと、ずれが生じる。

「自分は好きじゃないけど、あの人好きだろうなって思えるかどうか。プレゼントを贈るときも、多少なりそういう要素ってあるじゃないですか。あの感覚が大事です」

なるほど。

でも、感覚的なことって引き継ぎにくいですよね。どうすれば身につくでしょうか。

「引き継ぎまであと1年半あります。その間にじゃんじゃんつくればいいんですよ。アイデアを出して、これどこで頼む?ってことを何回もこなせば、経験値はあっという間にたまるので。発売してどうだったかっていうところまで、何回も繰り返したほうがいい」

「その過程で問題が発生すれば、そのぶんだけ経験も積めるし、メーカーとのコミュニケーションのきっかけにもなる。ともに改善して、品質を上げて、ともに利益を上げていく。仕事を通じて関係性も養われていくと思います」

一郎さんや愛子さんがどのように商品をつくっているのか、はじめはなんでも聞いてみるといいと思う。おふたりとも、なぜそうしているのか、どこを見ているのか、言葉にして伝えてくれるので、どんどん聞いて吸収していけるといい。

商品の発想が生まれるのも、さまざまな仕事を経験してこそ。自分の役割だけにとらわれず、ほかの人の仕事まで視野を広げておくことも必要だという。

「うちは少人数なので、デザイナーも含めて、出荷や検品、接客に回ることもあります。そのなかでわたしたちが大事にしてきたのは、穴を埋めることですね」

穴を埋める?

「今日は出荷が足りてないから入ろうかなとか。スペシャリストにならなくていいから、全部ちょっとできるって状態にしてあげると、すごくスムーズに回る。そういう意味ではオールマイティさは求めたいですね」

取材中も、自然な流れで出荷・検品の作業に混ざっていたおふたり。普段からこうして穴を埋めて、現場の流れをスムーズにしているんだな、ということがうかがえる。

ところで、今回事業承継に至ったのはなぜなんだろう?

会社はうまく回っているように見えるし、おふたりも引退するにはまだ若い。

「ここ10年の業績って、ものすごくいいんです。でも、会社っていいときもあればわるいときもあるから、永遠には続かない。健康体の今、新しい力が加われば、事業を何倍にも拡大していけるんじゃないかと思ったんですよね」

5年以内のM&Aを想定していたものの、半年も経たずに資本業務提携に至ったのが増田石油株式会社。

福岡に本社を構える創業97年の老舗企業で、石油事業を中心に取り組んできた。近年は石油需要が落ち込んでいることもあり、事業の多角化を進めるなかで、松尾商店との縁が結ばれたそう。

増田石油では、若手向けの勉強会や「MBS(増田ビジネススクール)」など、経営やビジネスを学ぶための独自のプログラムが整備されている。

また、ECや海外への輸出などの各分野に専門の担当スタッフがいて、適宜サポートを受けられる体制があるとのこと。

「大きい成長を狙いたいです。うちの会社が続けられるのも、まわりの会社や得意先があってのことなので。みんなが満足して、潤って、みんなで規模を大きくしていきたいっていう夢はありますね」

最後に、おふたりはこんなふうに話していました。

「いろいろ話したけど、その人の感覚でやってもいいとわたしは思います」

「そうそう。自分の分身を募集するわけではないし、自分も誰かを真似したわけじゃなくて、やりたい放題やっただけなので(笑)。自分なりに吸収して、自由にやってもらえればいいんじゃないですかね」

おふたりが大切に耕してきた土壌。うまく活かして、産地の新しいモデルをつくっていってください。

(2023/3/16 取材 中川晃輔)

この企業の再募集通知を受ける

おすすめの記事