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ローカル線まるごと
フィールドに
さとの営み伝えるホテル

東京西部、多摩。青梅駅からJR青梅線に乗り込むと、周囲の景色がガラッと変わる。

線路は山際を走り、車窓に触れそうなほど緑が近い。反対側はひらけていて、山々やその麓にある集落、谷間を流れる多摩川がよく見える。

「東京アドベンチャーライン」という別名にも納得の景色。

この青梅線沿線をフィールドに、地域活性化に取り組んでいるのが、沿線まるごと株式会社。

全69路線を運営するJR東日本と、日本各地でさまざまな事業をプロデュースしてきた株式会社さとゆめが、共同出資して立ち上げた会社です。

来年の一軒目オープンに向けて動いているのが、「沿線まるごとホテル」プロジェクト。

無人駅をホテルのフロントに見立てチェックイン。古民家を改修したホテルに泊まり、地域食材を活かした料理に、地域住民の案内で集落の営みに触れるアクティビティなど、地域をまるごと楽しむことができます。

今回は、奥多摩町に常駐しながら、沿線まるごとホテルのモデルを形にしていく、ホテルマネージャーを募集します。

将来的にはホテルの顔として運営・接客を担っていくものの、立ち上げ期の今、仕事内容は多岐に渡ります。とくに任せたいのは、地域資源を深掘りして、サービスやアクティビティに落とし込むことと、地域住民との関係性を築いていくこと。

自分のホテル業やサービス業の経験を、地域活性化に活かしてみたい。

そんな想いを抱いたことがある人、新たなチャレンジにワクワクする人なら、きっと楽しめる環境だと思います。

 

JR中央線で立川へ。そこから、青梅まで30分。青梅から奥多摩までは、さらに30分。

正直、ちょっと長いなあと思っていたけれど、青梅を出発してからはあっという間だった。

伐採された山肌に新たな木々が生えている様子、多摩川にかかる巨大な橋、その下で水遊びをする家族連れ。

みるみる変わる外の景色を眺めているうちに、終点となる奥多摩駅の2つ手前、鳩ノ巣駅に到着。ここに、沿線まるごと株式会社の拠点がある。

降り立つと、ディレクターの牧さんが待っていてくれた。

牧さんはJR東日本から出向している方で、新しく入る人と一緒に動く時間が長くなる。

電車の旅を楽しんで、降りたらすぐにホテルの入り口、という初めての体験。ここを訪れるゲストも同じ感覚になるんだろうな。

早速、駅から車で5分ほどの古民家を案内してもらう。

2024年にレストランとホテルのラウンジとしてオープンする予定のこの建物。

まだ着工前で、元の住民の生活感が残っている。雨戸を開けてもらうと、森と多摩川の清流が目の前に広がった。

2階部分がレストラン、1階が宿泊者専用のラウンジになる。4組が泊まれる宿泊棟は、広い敷地内に新築予定。

1階部分が面した中庭に降りると、コンクリートで囲まれたスペースを見つけた。

「ここは、もともと養魚場だったんです。地域の大切な営みのひとつなので、そのまま残して、清流を引いて、地域の風景を表現するビオトープなどをつくろうと思っています」

「滝も近くにあるので、ご案内します。オーナーさんの敷地を通らないと入れないので、ホテルのサービスとしてうまく活用できないかと考えています」

牧さんの後に続いて、建物の向かいの駐車場を抜けると、目の前に滝が現れる。

ひんやりとした空気と水の美しさに、わあ、と思わず声をあげてしまう。

ここでゆったりと時間を過ごせたら、最高だろうなあ。

 

すっかりゲスト気分を味わったあと、駅の事務室だった場所を改修してつくった「沿線まるごとラボ」へ。ここは、スタッフみなさんの仕事場として使われている。

オンラインで話を聞いたのが、さとゆめ代表の嶋田さん。今日はさとゆめの長野支社にいるそう。

JR東日本で青梅線沿線の活性化に取り組んでいた牧さんたちが、嶋田さんと出会い、立ち上がったのが沿線まるごとホテルプロジェクト。

さとゆめが山梨県小菅村で成果を上げてきた、「村まるごとホテル」がモデルになっている。

何度かの実証実験や共同出資での会社設立を経て、今は施設オープンに向けた動きが加速しているところ。10名ほどのチームメンバーで進めている。

「コンセプトや運営体制、建築まで、かなり時間をかけて議論してきて。当初の予定よりも開業が後ろ倒しになっているんですけど、この期間はまったく無駄ではなかったと思っています」

沿線の魅力あるスポットを点と点でつなぎ、“面”として奥多摩や青梅線の魅力を発信していくことを目指す、このプロジェクト。

この2年間、EVバイクと電動アシスト自転車で集落を巡るモニターツアーや、電車そのものを楽しんでもらうためのイベント「酒列車」などを実施。

ラボでは、地域の人たちにやりたいことを発表してもらい、ホテルとどんな連携ができるか話し合う場を設けてきた。

「まだ客室はないんですが、沿線まるごとホテルのムーブメントとしては、非常にいろんなチャレンジをしてきて。地域の方々の受け入れ体制が整ってきた感じがします」

青梅線をはじめ、全国で人口減少により公共交通機関や鉄道の利用者が減っているという。

その切り札のひとつが、この沿線まるごとホテル。将来的には、同様のモデルを多くの路線に持ち込む計画がある。

外から人を呼び込むことが目的なんでしょうか?

「もちろんそれもあります。利用者を増やして、観光や生活の足として重要なローカル線を守っていきながら、地域の事業者さんに経済効果をもたらしたい」

「ただ、もうひとつ重要なのは、地元の方々に、自分たちの地域に誇りを持ってもらうことです」

誇りを持ってもらう。

「わざわざ泊まりに来られた人たちに、湧水とか畑とか、自分にとって当たり前のものを案内して喜んでもらう。お客さんと接するなかで、自分たちの地域がすごくいいところなんだと感じてほしい」

「まずはこの青梅線を形にして、うまくいけばその後、全国に広がっていくプロジェクトです。このイメージを思い描いたときに、なんだかワクワクする、一緒にやってみたいと思う人が来てくれたらうれしいです」

 

ホテルのコンセプト設計やブランディング、ビジュアル制作を担当しているのが、クリエイティブディレクターの巽(たつみ)さん。都内のオフィスからオンラインで参加してくれた。

青梅線は多摩川と並行して走っている。

沿線まるごとホテルのコンセプトも、キーワードのひとつが、川。

「昔は、山で採った木材を川で流して出荷したりと、上流下流間につながりがありました。けれど、今は都会の人は上流の山間部についてよく知らないことがほとんどです」

「でも、上流の地域にある自然や、人と人とのつながりって、本質的に人間が必要なものだと思っていて。奥多摩にいると、強くそれを感じられるんです」

上流の人たちの営み、下流の人たちが受けている恩恵。

渓谷とわさび田を巡るツアーや集落清掃でのエコ体験など、地域事業者とコラボレーションしながら、地域のストーリーを感じられる体験コンテンツを宿泊プランに織り交ぜていく。

「都会にずっといると、どこか疲弊してしまうのが今の社会だと思うんです。ここでは、人や自然とのつながりを感じて、癒されたり元気をもらったりしてほしい」

「ふるさとのストーリーを伝えながら、新たな物語が生まれていくようなホテルになったらいいなと思っています」

ホテルのマネージャー自身も、ストーリーを伝える語り部のひとりになる。

単にパンフレットを読むのとは違う、血の通った言葉で地域の魅力を伝えることが、訪れるお客さんの感動につながっていく。

まずは自分の足で、純粋に地域のおもしろさを見つけること。それを持ち帰り、巽さんたちと相談しながら企画として形にしていけるといいと思う。

地元の人へのヒアリングを経て、コンセプトをつくっていった巽さん。

奥多摩の人たちはどんな印象でしたか?

「自然豊かな土地ではあるんですけど、江戸っ子気質というか、オープンな懐が垣間見えることが多いです。移住者も多くて。よそから来た若いのがおもしろいことやってるなって、寛大な懐で見ていてくれる感じ。みんなで一緒に地域を盛り上げていこう、っていう熱意をすごく感じますね」

 

「まちで声をかけてもらうことも多いです。急に飲み会に呼ばれたりとか、今日、川の清掃するけど来ない?とか、よく誘っていただきます。正直、仕事が忙しいときはやりくりがちょっと大変ですけど(笑)」

そう話すのは、再び牧さん。新しく入る人は、牧さんと一緒に、地域の人たちへの挨拶まわりから仕事がはじまると思う。

「ホテルは一泊4〜5万円になるので、そのクオリティのサービスを知っている方が来てくれたら理想的です。ただ、ホテルの運営だけが仕事ではない。自治会の集まりにも参加するし、勤務日以外も地域のみなさんとのコミュニケーションは発生してくる。それも含めて仕事だと思える方がいいなと思います」

実は、マネージャーには前回の日本仕事百貨の記事で入社した前任者がいて、地域といい関係を築いていたものの、すぐにでも現場での接客をやりたい気持ちが強く、立ち上げ期間中にプロジェクトを離れることになった。

今回入る人も、ホテルの運営がメインの業務になるのは少し先。

立ち上げ期間中は、サービスやオペレーションづくり、アクティビティの内容など、どんどん自分の意見を反映して形にしていってほしい。

来年冬ごろにレストランが先行オープンするので、しばらくはそこでの接客が中心。ホテルの完成後に、運営・接客が主な仕事になる。

ホテルの仕事に地域活性が付属している、というよりは、地域活性の手段としてホテルがあるイメージ。

ホテルの枠を超えて、必要なことに柔軟に対応していく必要がある。

「駅からホテルに行くとき、さっき車で通った道が一番近くて楽なんですけど、あの道を歩くだけだと少しつまらないよねってみんなで話したことがあって」

「実際に自分たちで歩いて、山に入って道なき道や獣道を通ってみたり。川の反対側にある、わさび田を見てからホテルまで行ったり。どうお客さんにホテルに行ってもらったら楽しいかなって考えて」

ホテルの庭も、みんなで一日中作業して石を動かしたり草を刈ったり。ビオトープに水を引くため、土に埋まっていた水路も掘り起こした。

ここでのどんな経験も、オープン後にお客さんに伝えられるストーリーのひとつになるはず。

「すべて含めて『沿線まるごとホテル』なんですよね。いろいろやるのが苦にならないっていうのは大切な素質だと思います」

 

オープンまでのあいだ、今はまだない動きが生まれる可能性もあります。想像していなかった仕事に取り組む機会もあるかもしれません。

それでも、「このホテルを成功させたい」「地域活性化の新たな形を見つけたい」という想いへの共感が根底にあれば、きっとやりがいを感じられるはず。

今、このプロジェクトの一員になるからこそ、見える景色があると思います。

(2023/7/7取材 増田早紀)

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