求人 NEW

なんでもフラットにするより
隙と好きで満たしたい
心動くカフェレストラン

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

食事をしていると、隣の席に座っていたおばさまに声をかけられる。

「ここに足跡があるでしょ? 床が固まる前に猫ちゃんが入っちゃったんですって。お店の方が教えてくれたの」

本当だ、猫の足跡。

ささやかなやりとりに、気持ちがほっこりする。

その方のうれしそうな笑顔を見て、いい店って“語りたくなる店”かもしれない、と思う。お客さんも、働く人も、好きなところを自然と誰かに話したくなってしまうお店。

ここは長崎県波佐見町にあるmonne legui mooks(モンネ・ルギ・ムック)。創業17年のカフェレストランです。

地域の人たちには「ムック」の愛称で親しまれてきました。

昭和初期の建物を改装した店内には、楽しげなBGMが流れ、アンティークの家具や遊び心の光る小物がずらり。ランチタイムはたくさんの人で賑わいます。

何より、テキパキ働くスタッフのみなさんの姿が印象的。とても忙しそうだけど、無理なく体がよく動いている、という感じ。

今回はこのお店を一緒に切り盛りしていく人を募集します。調理の経験者をとくに求めているものの、未経験でも大丈夫です。

知り合いのつながりから、ライブやイベントの話もよく舞い込んでくるムック。

音楽や文化、まちづくりなど、幅広く関心を持って楽しめる人に合うお店だと思います。

 

波佐見町は400年以上にわたって焼きものをつくってきた産地。

そのなかで、かつて1、2を争う規模を誇ったメーカー・福幸製陶所の跡地を活かした観光拠点が「西の原」だ。

広い敷地内には、雑貨店や器のお店、おにぎり屋さんや氷菓店、コーヒーショップ、ボルダリング場など、さまざまなお店が集まっている。

その入り口にムックはある。

平日にもかかわらず、店内は大賑わい。取材前にランチをいただこうと思ったけれど、入れるかな?

「こんにちは! 窓側のお席が空いてるので、どうぞ」

店主の岡田さんが明るく迎えてくれた。

鶏肉と野菜のココナツミルクカレーを頼んで、座席から店内を見守る。

スタッフのみなさん、1.5倍速くらいで動いているんじゃないか。たまにお客さんと会話も交わしながら、テキパキと料理をつくり、運んでいく。

波が落ち着いたのは14時ごろ。ひと息ついてから話を聞かせてもらうことに。

「いやー、今日はすごかったですね。スタッフもきっと『今日なんなんだろう?』って思ってますよ(笑)」

と岡田さん。

おつかれだと思うけれど、やっぱり明るい。話すだけでこちらまで元気をもらえる方。

みんなからは、旧姓の「鬼塚」にちなんで「オニさん」と呼ばれている。

ムックを立ち上げたのは、パートナーの岡田浩典さん。全国を旅するなかで、この建物と出会い、佇まいに惚れ込んだという。

「岡田の旅つながりの自由な人たちや、キャラの濃い人、周辺でシュッとしたお店をされてる方たち。このお店は来る人がすごくバラバラで、それがおもしろくて」

「同じ空間にいても、何もしなければただ食事して終わりじゃないですか。あいだに人が入ることで、つながっていく。そういう『結』の文化をすごく大事にしてきました」

そういえばオニさん、ランチのお会計のときも、その場にいた福岡・糸島の作家さんや南九州のデザイン&クラフトイベントの運営メンバーのみなさんを紹介してくれた。

人と関わることを心から楽しんでいるんだろうな。

ムックが大事にしてきた「結」の文化。

それは決して新しいものじゃない。地域に昔からあったもの。

波佐見はもともと分業制で焼きものをつくってきたまちだからか、お祭りでもイベントでも、一緒に何かつくっていく機会がよくあるそう。

取材時はちょうど、音楽家・服飾家・照明作家による現代サーカス「仕立て屋のサーカス」の公演準備がはじまったところ。ムックは昨年から長崎公演をサポートしていて、マルシェ空間の企画運営を中心に関わっている。

前回は、巨大なパエリアをつくったり、長〜いロールケーキを好きな大きさでカットして買えるようにしたり。

九州各地の料理人やパティシエに声をかけて、食でもサーカスの雰囲気を表現した。

「40代半ばまでくると、うわ! って思うことってどんどん減ってくるじゃないですか。子どものときの、キュンとする感じとか。大人になってもそういう気持ちを忘れないでいたいなって」

お店づくりでもイベントの企画でも、小さな置きものひとつだって、心が動くことを大事にしたい。

そんな姿勢は料理にも通じている。

「たとえばメニューも、写真を載せていません。ただわかりやすくするんじゃなくて、これなんだろう? ってお客さんが思ったら、コミュニケーションのきっかけができる。そこでちゃんと接客の手を差し伸べられるような、そういうお店でありたいんです」

建物内の段差も、安全性を考えたらなくしたほうがいい。

でもそれは、昔の景色を思い出させるものでもあるし、そこで一言「ちょっと気をつけてくださいね」と声かけができたり、ほかのスタッフの心遣いを知れたり。

それがあることで、気持ちに動きが生まれる。

「もしお客さんが怪我することがあれば、絶対的にナシだと思うんですよ。だけど、そうじゃない限りは残したい。ルールも空間も、なんでもフラットにしてしまわずに、不便さをどう解釈するか。お店から教えてもらっているなと思います」

大々的に謳っているわけではないけれど、料理もデザートも1から手づくりしているそうだ。

「野菜にしっかり味が入ってるとか、お出汁の味が効いてるとか。一個一個手間と愛情をかけて、しっかりおいしく、安心して食べられるっていうことを当たり前にしたいんですよね」

コロナ禍をきっかけに、パッと出せてすぐ食べられるメニューに切り替えたものの、以前はコースを出していた時期もあった。

今回募集する人が加わったら、あらためてもう少し厚みのある料理も出していきたい。

テイクアウトのデザートもつくりたいそう。製造業の許可はすでにとっているのだとか。

ただ、経験がなくても大丈夫。

「それ以外でカバーできることっていっぱいあるので。本人がやりたいっていう気持ちのほうが、お店づくりをしていくうえでは大事だと思っています」

料理はもちろん、イベントやまちづくりのことも。関心を持って、自分ごととしてどんどん関わってくれるような人に来てもらいたい。

 

続いて話を聞いたのは、入社してまだ半年足らずの佐藤さん。

いずれ自分のお店を持ち、ゆくゆくは西の原のように、活気あるお店が並ぶエリアをつくるのが夢だという。

地元は同じ長崎県内の大村市で、高校を2年前に卒業。

コロナ禍の真っ只中に進路選択のタイミングがやってきた。

「飲食を志望したら、周りにすごい反対されたんです」

その声に押されて、一度は別の業界に就職。ただ、コロナ禍も落ち着き、もともと関心のあった飲食業にあらためて挑戦したい気持ちが湧いてきた。

そこでちょうどムックの求人を見つけたそう。

「高校生のときに一度来たことがあったんです。長居はできなかったんですが、夕方の日差しがきれいにお店のなかに入っていて、こんな光景見たことない、ほんとにここカフェなのかな? っていう感じで」

「古道具だったり、流れているBGMだったり、見渡す限り興味を惹くものしかなくて。カフェにいてこんなにワクワクしたことって、ほかになかったんです。そのときのことを思い出して、すぐに電話をかけて面接してもらいました」

今はホールを担当している佐藤さん。

半年ほど働いてみていかがですか?

「お客さんの話を聞くだけで勉強になりますね。一人でいくつもの仕事をしている方もよくいらっしゃるので」

仕事場であり、人生の先輩に出会える場にもなっているのかもしれない。

「厳しさも感じます。食器を下げるタイミングや、お客さんへの声のかけ方なども、細かく教えていただいて。叩き込んでいるところです」

接客の基礎をきちんとしてこそ、人をつなぐための余白も生まれるし、料理のおいしさも引き立つ。

心地よさって、基本のうえに成り立つものなんだなあ。

 

「自分がお客さんのとき、『またあのスタッフさんに会いたいから行こう』って思うことが多くて。ムックの魅力もそこにあるのかなと思います」

そう話すのは、調理補助やホールを担当している井上さん。

前回の日本仕事百貨での募集を通じて入社し、7年ほどになる。

長崎・島原の出身。

パティシエになりたくて、関西の専門学校を卒業後にお菓子屋さんに就職。ただ、しんどくなって辞めた経験がある。

そんなときに心の拠りどころとなったのがカフェだった。

地元に戻ってカフェで働きたい。調べるなかでムックの求人情報にいきついた。

「面接の日、ご飯を食べようと思って早めに来たんです。そしたらめっちゃ忙しそうで」

まさに今日みたいな日だったんですね。

「そうです、そうです。バタバタしてるけど、すごく活気があって。スタッフさんもきびきび動いていて、気持ちのいいお店だなっていうのが第一印象でした」

井上さんは今、調理補助やホール、ケーキの盛り付けなどさまざまな役割を担っている。

「前回の仕事百貨の記事を読んだときも、“なんでもできるカフェ”っていうふうに書いてあって。それもすごくいいなって思いましたね」

メインの持ち場はありつつ、お互いの領域を超えて助け合いながら働いている。

「ムックに入ってから、声がすごく大事だなって思うようになりました」

声?

「たとえば何かお願いするとき。声を大きく出すわけじゃなくて、ちゃんと伝わってるかな? って意識したり、大変そうなら大丈夫? って一声かけたり。ただ言うんじゃなくて、相手を思って届ける。それもここで教えてもらったことのひとつですね」

大変なことといえば、働く時間が長いこと。

井上さんはお米を炊く担当なので、朝9時には出勤してランチの準備を開始。そのまま営業時間に突入し、テキパキ働く。

お昼時を過ぎれば、お客さんの波もゆるやかになる日がほとんど。そのタイミングを見計らって賄いを食べたり、休憩したり。

夕方からまた仕込みをはじめ、早い日は20〜21時には退勤。土日祝の前日など、もう少し遅くまで仕込みが続く日もあるという。

そんな忙しい日々のなかでも、「心を動かすこと」がムックの真ん中にはある。

「入り口のあたりに小さい動物たちの置きものがいるんですけど、一度きれいに並べたことがあったんです。そしたら岡田さんに、『動物ってきれいに整列したりしないよね。ただ並べるんじゃなくて、そこに何か!がないとお客さんの心は動かないと思うよ』って言われて、なるほどなって」

「一つひとつのものにも意味がある。そう気づいてから、日々の仕事がまた一段とおもしろくなったんですよね」

スタッフも、お客さんも。

それぞれにこのムックというお店で重ねてきた思い出やエピソードがある。

心が動く瞬間は、日々のなかにあふれている。その一つひとつに気づき、拾い上げていくことで、お店も自分も成長していけるのかもしれません。

(2023/10/30 取材 中川晃輔)

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