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「決まった業務は、あいさつくらいかなぁ」
仕事内容について話を聞くと、こんな答えが返ってきて驚きました。
新潟県小千谷(おぢや)市で、今年9月28日にオープンするひと・まち・文化共創拠点「ホントカ。」。
中心市街地の賑わいづくりを目指し、図書館に加え、郷土資料館、市民の交流の場、子育ち支援スペースなど、さまざまな機能が融合した施設です。
今回は、ホントカ。を拠点に働く「ローカルエディター」、「エデュケーター」、「プレイリーダー」の3職種を募集します。地域おこし協力隊として採用されるため、任期は3年。
まちに暮らす人々の営みや知恵の記録と発信、メディア情報教育や探究学習、子育ち支援など。それぞれに大きなテーマはありますが、決められた業務はありません。
自分の興味や得意なことを軸に、仕事をつくっていける3年間。
3年後は、ここでの経験を活かして起業したり、つくってきた人脈をたどって就職したり。いつかは自分で事業をしてみたいけれど、いきなり起業するのはハードルが高いと感じている。そんな人にとっては、まちの人たちの声を聞きながら、「やってみたい」が仕事になるかを試せる期間だと思います。
自分の関心ごとを、この場所でどう活かすか。想像しながら読み進めてみてください。
新潟県小千谷市。
人口3.3万人ほどのまちで、泳ぐ宝石・錦鯉の発祥の地だそう。駅前には、錦鯉がペイントされた地下道がお出迎え。
さっそく車に乗って、市街地へ。
駅からすぐの商店街を通ると、この秋オープンするホントカ。の工事の真最中。まちにはオープンを知らせるポスターがいくつも貼ってある。
図書館に到着し、今回のプロジェクトを中心となって担当している市役所職員の土田さんに話を聞く。
案内されたのは、会議室。
ひ、広いですね。
30人は入りそうな会議室をたった2人で使わせてもらうなんて、贅沢だけど少し勿体無い気分。
「公共施設って、なかなか使ってもらえてないんですよ。だから今日も、こんな大きな会議室が空いてるんです」
「ホントカ。は、人が集まる公共施設にしたいと思っていて。図書館だけじゃなく、ものづくりや子育て、郷土資料の編集や展示など、多様な過ごし方ができる場所になる予定です」
新しい施設をつくっても、今まで通りの施設運営を続けるだけでは人は来ない。だからこそ、既存の考えにとらわれず、新しいことに挑戦できる施設にしたいと考えているそう。
「実は今度、今使っている図書館の閉館イベントを考えていて。市内で活動しているDJや、ラッパーを集めて図書館で演奏してもらう予定です。アルコールもオッケー、17時から23時半まで自由に音楽をかけて楽しめるようにしたいと思っています」
DJイベントですか。面白いけど、意外です。
「『自由に挑戦できる』って口だけで言っても、説得力はないし、なかなかみんなもイメージしづらい。だから、まずは市役所で働く自分たちが、こんな使い方もできるっていう例を見せていきたいなと思っていて」
施設をつくる際も、行政が考えるトップダウン的な方法ではなく、利用者に考えてもらいながら一緒につくっていった。
「大体2ヶ月に1回、小千谷リビングラボっていう場を開いていて。まちに住む人から、市外に住む人まで、興味のある人に自由に参加してもらって、この施設でどんな過ごし方をしたいか、話し合って考えてもらっているんです」
参加者は、小学校低学年の子どもから、80代の高齢者までさまざま。多いときは80人ほどが集まって対話をする。
自分の思いを伝えられる場がある。利用者自身が施設のあり方を考えていけるから、施設も市民のニーズに近いものができるし、利用者が施設に愛着を持つことにもつながる。
「施設が完成して終わりではなくって、完成後も一緒につくっていく。変わりつづけていけるものにしたいと思っています」
具体的にはどんな施設になるんだろう。
土田さんが、施設のイメージ図を見せてくれた。
細長い型をした建物には、「アンカー」と呼ばれる空間がところどころに散らばっている。
緑色に塗られているのが、「博」(はく)のアンカー。ここには、郷土資料が置かれるほか、利用者が自ら市内の情報を持ち寄って展示することができる。ほかにも、ものづくりができる「発」(はつ)のアンカーや、子どもが遊べる屋内広場など。
「それぞれのアンカーは、壁の一部をガラス張りにするなど、中の様子が外から見えるように工夫しています。そうすることで、互いに刺激を受けて新しい発見にもつながっていく」
たとえば、本を借りに来た人が、たまたま立ち寄ったものづくりのアンカーで小千谷の伝統技術に興味を持ったり。ダンスの練習をしに来た人が、展示されている郷土資料で伝統の踊りを知り、ダンスの振り付けに活かしてみたり。
施設内でのスペースを使って利用者がイベントやマルシェを企画することもできる。
本来なら交わらない人や知識が集まることで、予期せぬ出会いや発見が生まれるかもしれない。
「ホントカ。は、ただ用事を済ませるための場ではなくて、新しい発見があったり、日常が豊かになったりする場になってほしいと思っています」
今回は、そんなホントカ。で「ローカルエディター」「エデュケーター」「プレイリーダー」と3つの職種を募集する。
それぞれ、どんな仕事なんだろう。
小千谷市と一緒にホントカ。をつくっている、アカデミック・リソース・ガイド株式会社の李さんに話を聞く。
「ローカルエディターとか、エデュケーターとか、今回募集する職種って全部名前を聞いただけだと何をするかイメージしづらいですよね。実はこれ、わざとなんです」
わざとですか?
「定義をしっかり決めてしまうと、それ以外の仕事はできなくなってしまう。自分たちで考えてつくっていってほしいという思いがあるから、職種と業務内容が単純には結びつかない名前にしているんです」
今回加わる人は、それぞれの職種のテーマに沿って、土田さんや李さんたちに相談しながら自ら業務を考えていくことになる。
まずは、ローカルエディターについて。
「ローカルエディターは、ホントカ。の中にある図書館や『博』と呼ばれるアンカーを拠点に働くことになります」
「歴史だけでなく、小千谷市の人々の『今』の営みを、集めて、発信する役割を担ってほしいと思っていて。歴史はもちろん大事ですが、リアルタイムの情報にも同じくらいの価値がある。それらの情報を発信することで、利用者の生活が豊かになればいいなと思っています」
たとえば、積雪の多い小千谷市ならではの遊び方や、まちに生きる市民の生活の知恵や人生の記録など。
これまでの図書館や郷土資料館では取り扱われていなかった、まちの「今」を探して編集するのが主な役割になる。
まちに出て取材をしてもいいし、まちの人たちから情報を集めるためにSNSを活用したプロジェクトを企画してもいいかもしれない。
集めた情報の発信の仕方もアイディア次第。文章や写真を使って雑誌をつくったり、ラジオのように音声で発信したり。できた資料はホントカ。の施設内で展示もできるし、地域の学校教育に活用してもらってもいい。
人の話を聞くのが好きな人、人の営みに興味がある人は楽しめそう。実際にアウトプットする場があって、利用者の反応を見られるのもいいな。
つづいて、エデュケーターについて。
「ホントカ。の環境を活かした、学校ではできない学びを一緒に考えて、実践してもらいたいと思っています。先生みたいに知識を教えるよりも、働く人自身も学びながら実践していってもらえるといいですね」
学校で行われている探究学習プログラムの開発も、取り組んでもらいたいことの一つ。
「小千谷市内の高校って、市外から来る生徒が半数くらいいて。この地域のことを知る機会をつくろうということで、小中高生は地域のことを学ぶ時間があるんです。エデュケーターには、この授業の時間を使って、どういう学習ができるかを考えてみてほしい」
ローカルエディターと一緒に、まちの情報を集めるプログラムを考えることもできるし、ホントカ。の施設で何が起きているのか、観察する授業もいいかもしれない。
ほかにも、ホントカ。の図書館の機能を活かして、メディア情報リテラシー教育を考えるなど、学校側のアドバイスも参考にしながら活動していくことになる。
教育現場の生の声を聞くことができるから、そこでの課題やニーズをもとに、なにか新しい事業をつくっていくこともできそう。
プレイリーダーはどんな仕事なんでしょう。
「プレイリーダーには、子育ち支援に携わってほしいと思っています」
「子育て」ではなくて「子育ち」なんですね。
「子どもたちが主体的に育っていくことをサポートしたいと思っていて。子どもたちが、相互依存性や主体性を学び、育んでいくためには、遊びがすごく大切だと考えています」
活動の中心は、ホントカ。の中にある屋内広場や、こどもとしょかんになる。
ホントカ。の屋内広場は、天井からネット遊具が吊るされていたり、滑り台やクライミングウォールがあったりと、工夫次第でいろんな遊び方ができそうな空間。
プレイリーダーは、ここでの遊び方を考えて提案したり、子どもたちや親の声を聞いてこの空間の活用方法を考えたりしてほしい。
「たとえば市内には、不登校のお子さんを持つ親御さんたちでつくったネットワークがあって。学校以外の居場所づくりができたらいいねと話しているものの、なかなか形にできていないんです」
「新しく来てくれる人が居場所づくりに興味があるなら、協力してくれる親御さんも多いと思います」
ほかにも、ダンスに関心がある人ならダンスを使った遊びを考えてみてもいいし、英語に関心がある人は、英語と身体を使ったワークショップを企画してみるのもいい。
子どもや遊びにまつわることなら、自分の関心に合わせていろんな切り口の取り組みができそう。
「遊びっていう観点で言えば、まち全体がフィールドになる。だから、新しく来てくれる人の視点でいろんなことにチャレンジしてもらいたいです」
やりたいことが定まっていない人にとっては、できることが多すぎて何から手をつけていいか迷ってしまうかもしれない。一方で、やってみたいことがある人にとっては、自分の興味を仕事に活かせる面白さが詰まった環境。
「今回募集している仕事って、どれも1人だけで完結するものではないと思っていて。まちの人や、市役所の職員、私みたいな外部の関係者みんなでつくっていくものだと思うんです。だから個性があっていいし、尖っていていい」
「それぞれのいい部分を活かして、互いに補完しあいながら、ホントカ。を一緒につくっていきたいと思っています」
ローカルエディター、エデュケーター、プレイリーダー。
どれもテーマは異なるけれど、共通するのは多くの人と関わりながら、自分の興味や特技を活かして仕事をつくっていくということ。
3年間で、やりたいことに挑戦して、試して、また挑戦する。決まった業務がない分、自分で道を切り開いていかなきゃいけない大変さはあるけれど、そんな試行錯誤の先に、自分にしかできない仕事が見つかるかもしれません。
(2024/2/9 取材 高井瞳)