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みんな好きに動いてる
気づいたら
何かが見つかる田舎町

「香春町(かわらまち)って、なにか特別なものがあるわけでないんですよ」

「里山の小さなまちで、博多にも小倉にも出やすい便利な田舎町。何もないからこそ、なんでもできるというのが、来てくれる人にとっての魅力だと思います」

福岡県の東北部に位置する香春町。

たとえば、地域で活躍するおじさんたちをモデルに本格カードゲームをつくっている人がいたり、農業未経験の地元の若手が耕作放棄地を再生していたり。

仕事も暮らしも、自らつくりあげている人が多いです。

今回は、新しい人の流れをつくる地域おこし協力隊を募集します。

働く先は、一般社団法人カワラカケル。

2024年の4月に設立したばかりで、協力隊員OBのふたりが立ち上げました。移住・空き家にまつわる相談室の運営と、地域課題の解決に取り組んでいます。

新しく入る人は、イベントの企画実施にSNSでの情報発信、相談室の運営などを担当。卒業後はここで働き続けることもできるし、ほかのことに挑戦するのもOK。

3年後を見据え、自分のやりたいことを見つけて形にしていきます。

 

北九州空港からバスと電車を乗り継いで1時間30分ほど、採銅所(さいどうしょ)駅で降りる。

あたりは低い山に囲まれていて、のどかな雰囲気。新しく入る人は、駅舎のなかにある移住相談室を拠点に働くことになる。

「線路に沿って桜の木が植えられているので、春になると花見をしにさまざまな人が訪れるんですよ」

まずは香春町役場の山田さんに、まちのことを教えてもらう。

「駅の名前にもあるように、昔は銅の産地として栄えたまちなんですね。あちらこちらに間歩(まぶ)と呼ばれる坑道があって、質のいい銅が採れていたそうです」

北九州市までは車で50分。福岡市までは70分ほど。立地はわるくないし、暮らしやすそうな里山。ただ、ほかの地域と同様に人口減少が進んでいて、まちをあげてさまざまな課題に取り組んでいる。

そのひとつが、廃校の利活用。たとえば旧採銅所小学校は、現在コミュニティセンターとして活用していて、朝市や太極拳講座などのイベントを開いている。

「施設のなかに駄菓子ブースがあって。そこで販売している、採do男(サイドメン)というカードゲームが最近SNSでちょっと話題になったんです」

採do男…?

「地域で活躍するおじさんたちをモデルとしたカードゲームです。ルールも凝っていて、子どもたちに人気なんですよ」

香春町の集落支援員である宮原さんと西宇さんが始めたという取り組み。地域活動をしてくれているおじさん達を知ってもらうために、楽しみながらデザインしてつくっているそう。

このカードを機におじさんたちの知名度があがり、道端で子どもたちから声をかけられることも増えたのだとか。

「写真を撮られることに抵抗のあった方も、最近では『俺も登場してもいいよ』と声をかけてくれるそうです」

身近なおじさんをキャラクターとして登場させるって、ちょっと衝撃的です。

「面白いですよね(笑)。町長をはじめとして、香春町にはいろんなことを面白がる人が多いなと思います。この駅舎も、移住・交流の拠点となるような施設をつくろうということで、10年前にリノベーションしました」

大正時代から残る建物の雰囲気を活かし、新たにオープンしたのが “第二待合室”。

歴代の協力隊たちが日替わりで常駐し、移住相談のほか、情報発信や交流イベントの開催などを通して、関係人口を増やしてきた。

「派遣先はカワラカケルの方々がいる『香春町移住・空き家相談室』になりますが、僕ら行政も一緒になって移住の課題に取り組んでいきます」

 

移住促進の地域おこし協力隊として活動してきたのが、小野沢さん。

カワラカケルを立ち上げた一人で、香春町に暮らして7年目になる。

小野沢さんが募集を見つけたとき、「第二待合室の運営と移住者を増やす」というミッションはあったものの、自由度の高い募集と感じた。

「実際、着任してもそう感じて。それこそ本当に、1年目は遊んでていいんですよ」

「もちろん仕事はしますけど、大切なのは人脈づくり。何をするにも人脈がないとダメなので。とにかくまちに出て、みんなと友だちになって。面白いことしている人がいたら写真を撮って、香春町の暮らしが想像できるように、SNSで発信しました」

お友だちになったひとりが、かずら工芸作家のおばあちゃん。つくっているものは個性的で温かみのある作品だったけれど、あまり認知されていなかった。

そこで、かずら編みを習うイベントを開催。その情報は地域のメディアにも伝わり、やがておばあちゃんの密着取材が決まった。

ほかにも、地元の人から漆喰の知識や塗り方を学ぶイベントや、まちで採れた渋柿での柿渋づくり、原始時代の火おこし体験など。

小野沢さんのほか、協力隊のメンバーそれぞれが興味関心のある分野からイベントを企画し、積極的に形にしていった。

「ただ、任期後のことを考えたときに、シンプルにもったいないと感じたんですよね」

もったいない。

「それぞれの隊員がイベントのノウハウや人脈を持っていて。その人が卒業すると、第二待合室の機能としては振り出しに戻ることが続きました。だったら、移住促進にまつわるノウハウを蓄積する団体をつくったほうがいいと思って」

そこで、もうひとりの協力隊OBとともに、2024年4月にカワラカケルを立ち上げた。

第二待合室を窓口として、移住・空き家にまつわる業務を行政から受託して事業を展開している。

移住の相談件数も伸びていて、立ち上げから8ヶ月間で70件もの相談が届くように。カワラカケルが受託する前は年間で40件ほどだったため、2倍以上も増えたことになる。

「定期的にイベントを実施したり、情報発信に力を入れたり。これまでの取り組みが芽を出して、興味を持ってくれる人が増えてきました」

関係人口を増やす取り組みも行いつつ、現在は「住まい」の環境を整えるべく、空き家の活用に注力しているところ。

空き家を売りたい、貸したい人の話を聞いて、現地調査に行き、図面や必要な書類をそろえ、役場の承認を得て空き家バンクのWebサイトに掲載する。最近では、物件が少しずつ増えてきたため、空き家紹介ツアーも始めた。

新しく入る地域おこし協力隊は、まずは小野沢さんと同じように人脈づくりから。

日常業務としては、移住・空き家相談室での対応のほか、ブログやSNSでの情報発信と、イベントの企画運営など、一つずつ覚えていってほしい。

「ほんとは移住者へのインタビュー記事もつくりたいし、空き家や移住にまつわる補助金の制度も、より使いやすいように役場と動きたい。並行して、地域に出て物件も探さないといけない」

「課題は常に変わっていくので、自分で考えてゼロイチでつくっていける人だと楽しいと思います。次の課題も見えてきて、移住者向けの仕事紹介に取り組もうと考えています。ただそこに捉われず、自分の興味関心で挑戦してほしいかな」

小野沢さん自身、カワラカケルとは別に、好きだった写真で現在はカメラマンの仕事もしているという。

飄々とした雰囲気のある方だけど、熱い想いをもって常に考え、行動している人だと感じる。

 

そんな小野沢さんと共にカワラカケルを立ち上げたのが福羽(ふくば)さん。2023年度に協力隊を卒業したばかりだ。

「小野沢さんには極力、アイデアを出してもらったり、地域の人を巻き込んでイベントを開いてもらったり。最前線で自由にやってほしいんですね」

「だから法人化するときも、面倒くさい契約や事務関係は僕が担当してサポートしようって気持ちで進めてきました」

長年、大手の自転車販売会社で働き、多数の販売店をマネジメントする立場にいた福羽さん。北九州市に長く住んでいたけれど、もっと自然と近い場所で暮らしたいと思い、香春町に移住した。

「地域おこし協力隊って、まずはいかに地域に馴染むかっていうのが大変だし、大事なんかなと思います」

福羽さんが着任したときは、コロナ禍の影響もあり、思うように外出することが難しい時期。そのなかでも何ができるか考え、町内のコミュニティを紹介する冊子を編集した。

「小野沢さんが写真、一緒に協力隊として活動していた方がデザイン、僕が文章を担当しました。観光客向けではなくて、移住希望者向け。地域に住んでる人の顔が見えることによって、安心感も生まれると思ったんです」

グラウンドゴルフを楽しむご年配の方々や、子ども食堂を運営している人たちなど、取材を通していろんな人と仲良くなり、今では一緒に旅行する友だちもできた。

「冊子用に撮らせてもらった写真を『遺影にする』と言ってくれたおじいちゃんや、集合写真を気に入って境内に飾っている神社もあって。思い出深い企画ですね」

香春町の暮らしはどうですか。

「このまちのいいところは、自由なところ。庭でジョロキアとハバネロを育てたり、車が好きで友だちと旧車のオフ会をしたり。都会だとイヤなふうに思われたりするけれど、ここは人が少ないのもあって気兼ねなく集まれるというか」

「あとはみんな本当に応援してくれます。ここでゴミステーションが必要になったときも、地元の人が材料費だけでつくってくれました。その分野なら俺にまかせろ!みたいな人が多くて心強いです」

 

最後に話を聞いた加藤さんは、不動産の仕事をしていて、アドバイザーのような立ち位置でカワラカケルに関わっている方。

香春町の生まれで、現在は福岡市に暮らしている。ちょっと外側から見える香春町は、いかがですか?

「地元を離れている期間が長く少し不安もありましたが、地域でいろんな活動をしている方や多世代の方と知り合えて、とても楽しく過ごしています。カワラカケルや山田さんに地域の人を紹介してもらったり、仕事のことでも相談できたり。地域をよく知る人がいると、暮らしも、仕事も安心できますよね」

「『役場やカワラカケルの対応が心地いいから、安心して移住を決めました』とか。移住者さんからそういう話を聞くと、すごくうれしいですね。やっぱり移住の決め手は人なんだって。新しく入る人も安心して来てほしいし、この感じを未来につなげていってほしいです」

 

香春町の人も、カワラカケルのふたりも、まずやってみる。

それぞれがやりたいことや課題を見つけて取り組んでいるイメージがある。

率直に感想を伝えてみると、小野沢さんが思い出すように話してくれた。

「そうっすね。でもどこかで誰かの刺激を受けていて」

「たとえば、まちに暮らす友だちのヤスくん。『ずっと放置されている畑を見ていられないから』と言って、畑を全部借りて一人で耕して再生させたんですよ」

すごいですね。

「みんな好きにやりたいことやってるから、自分もなんかやりたいことないかなと考えるようになるし、きっとできるんじゃないかって。僕は今度、狩猟イベントをやるんですよ」

もともとの性格もあると思うけれど、小野沢さんが挑戦できているのは、安心感もあるんじゃないかと思う。

身のまわりに応援してくれる人がいたり、一歩先で道をつくっている人がいたり。

お互いが影響しあって、いい循環につながっているのだと感じました。

(2024/12/20 取材 杉本丞)

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