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ものづくりの
隙間を提示する
Hender Schemeの店

デザイナーの柏崎亮さんが靴の世界に足を踏み入れたのは、19歳のころ。

大学在学中、浅草の靴工場でアルバイトを始めた。

職人さんから多くを学び、いつか自分のデザインで彼らに仕事を持って帰り、恩返しをしたいと考えるように。

また大学で学んでいた心理学から、「Gender Schema(ジェンダースキーマ)」という、社会的性差を意味する言葉に出会う。

男だから、女だからといった社会的な通念にとらわれず、自由にものづくりをしたい。

そんな思いから、Genderの頭文字「G」を、アルファベット順で一つ進めた「H」に変え、「Hender Scheme(エンダースキーマ)」と名付け、2010年にブランドをスタート。

それから16年。

革靴から始まったものづくりは、バッグや小物、さらにはギャラリーの運営や製品のリペアなど、ジャンルを超えて広がっています。

今回は、Hender Schemeの直営店「スキマ」で働く販売スタッフを募集します。

お店を運営するだけでなく、ブランドそのものを一緒につくり、育てていくような仕事です。

 

恵比寿駅から10分ほど広尾方面に歩いた場所に、スキマはある。

お店は2フロア。1階にはシューズや小物、2階はバッグがメインで並んでいる。

もともと自動車の部品工場だったという物件。壁や床には当時の油染み、配管やスイッチが残されている。

2階に上がると、スタッフの人たちが迎えてくれた。みんなそれぞれの個性がうかがえる服装で、足元はHender Schemeの靴で揃っている。

「雰囲気が被らないように、事前に連絡を取り合っていたんですよ」

パキッとピンクの靴が似合う高堂さんが笑うと、全身黒でまとめた中村さんがとなりで頷く。

「スタッフ同士仲いいんですか?ってよく聞かれます。少し冷たい印象を持たれがちなんですよね。でも、全然そんなことなくて」

生産管理や営業、プレスの社員も含めた全社での忘年会が毎年開かれていることも教えてくれた。

高堂さんは、ブランドが店舗を展開し始めた2016年に入社し、もうすぐ10年目。スキマ全体のマネジメントや人事を担っている。

その1ヶ月後に入社したのが、中村さん。複数店舗をまたがり現場を管理している直営店のセクションマネージャー。ふたりとも、恵比寿店にはよく立っているという。

ついつい、二人の後ろに並ぶプロダクトが気になる。上半分は鞄で、底の部分がシューズのソールをドッキングしたようなシューズバッグもある。

「これ、なんですか?」頭の中はいっぱい。ひとつずつ眺めていると、それを察した中村さんがこたえてくれる。

「Hender Schemeのものづくりは、世の中の当たり前を疑うことからはじまることが多いんです」

「たとえば、工業製品として大量生産されるものを、あえて手仕事でつくる。いろんなものづくりの隙間を、扱っているんですよね」

隙間。だから、スキマ。

その象徴ともいえるのが「manual industrial products」ライン。

工業製品を、手仕事でつくる。大量生産されるおなじみのスニーカーを、職人が革靴の製法でつくり直すということ。

中村さんがディスプレイから、ひとつ手に取る。スケーターカルチャーに根付く、あの名作スリッポンを彷彿とさせるフォルム。

最大の特徴は、素材に染色を施していないヌメ革を使用しているところ。履き込むほどに革の色が飴色へと変化し、足の形にやわらかく馴染んでいく。

つくる過程も、革の裁断やアッパーの縫製、つり込みなど、各分野の職人たちの手によって仕上げられている。

数千円で買えるスニーカーに対し、このモデルはおよそ6万円。数万円のあいだを、想像するのが面白い。

現代のものづくりに対する問いかけのように見えるし、批評的とも感じる。

「大量生産を否定しているわけでは決してありません。工業と工芸の間、大量生産と手仕事の間にある、白と黒とも言えないグレーな部分で、ものづくりをする。すると、それぞれを比較することができますよね。そんな姿勢が、ブランドの根っこにある」

「見覚えはあるけれど、なにかが違う。そこが、Hender Schemeの面白いところです」

大手セレクトショップを経てスキマに入った中村さんは、接客に対する視点も変わった。

「前までは、お客さまファーストな部分が多くて。もちろんそれは大切。だけど、ここに入って気づいたのは、僕らはそれぞれの解釈でブランドを表現するためにいるんだということ」

たとえば、ヌメ革を使うこともそのひとつ。

天然の革を手作業で加工してつくられているから、生きているときについた傷や血筋の跡が残っていることがあって、人によっては、不良品と捉えてしまうケースもある。

「ブランドとして、それを不良品とは捉えません。革の特性上あるものだということを、お客さまに理解してもらえるようお伝えするんです」

傷のない均一な状態を正解とするのは、大量生産される工業製品のルール。もしお客さんに合わせて商品を交換してしまえば、ブランド自らがそのルールに飲まれてしまう。

だから、当たり前を疑う。傷や血筋も、手仕事ならではの個性だと伝える。

靴や革を通して、世の中のふつうには当てはまらないものをそっと提示する。その積み重ねが、ブランドをつくることとたしかにつながっている。

現在スキマの店舗は恵比寿をはじめ、合羽橋、宮下公園、大阪、福岡、名古屋と6店舗にまで広がっている。それに合わせて、高堂さんや中村さんもさまざまなポジションを兼任し、役割を広げてきた。

 

恵比寿店のマネージャーの水島さんは、少し変わった経歴の持ち主。

前職は、靴の修理職人。持ち込まれた一足が、Hender Schemeとの出会いだった。

修理の仕事を続けるうち、出来上がったものを直すだけでなく、新しいものがゼロから生み出されていくプロセスに携わりたいと、スキマで働くことに。入社して2年半が経つ。

修理職人の視点から見ても、ここの靴づくりは常識破りだという。

隣にいるスタッフの木村さんが履いている「hammock」というモデルを指差す。

「本来であれば、この靴底のパーツは、アッパーの革の穴に隙間なくつなげるのが一般的な構造なんです」

あえてつながりをほどき、アッパーとソールの間を紐でつなぐことで、隙間を空けている。革が動いたり伸びたりする余裕が生まれ、足にフィットしていく。

「靴づくりのセオリーを知っているほど、この発想には一生たどり着かない。それをやっちゃうのが、おもしろい」

恵比寿店は14時オープン。朝11時半に出社して朝礼と清掃をし、ランチというのが毎日の流れ。

販売だけでなく、商品のレイアウトも自分たちで考えるし、バックヤードの棚のレイアウトも、スタッフで相談し合ってどんどん変えていく。

一人ひとりが自分たちでお店をつくっている。

さらに、製造と販売の距離も近い。

生産管理部からプロダクトの製法を学び、逆に店頭でお客さんから聞いた声を生産へフィードバックする。タンナーの見学や、シューズやバッグを製造する職人の工房を訪れ、実際につくられている過程を肌で感じる機会もある。

すぐ近くにはcirculation(サーキュレーション)と呼ばれる修理を受け付けるお店兼工房があって、水島さんもときどきミシンを使ってリペアを行う。使われたあとの声も、ダイレクトに届く。

いろいろな角度からブランドに関わりながら、水島さんもブランドをつくるひとりになっている。

「販売って小さな括りかもしれないけど、それをきっかけにいろんな物事が動いていくんです。ただ販売するだけじゃなくて、その先まで関わっていける。常に新鮮な環境だから、飽きるほうが難しいですね」

 

水島さんは店舗スタッフとの月1回の面談も担当している。それぞれの目標を聞き出し、アドバイスを送りながら、自分自身もインプットを得る。

水島さんが「社内で一番売り上げを取りたいという欲がある」と紹介してくれたのが、木村さん。入社して半年のスタッフだ。

北海道の美唄市出身。地元で服飾の専門学校に通っていた。

「金髪のマッシュヘアで、スカートを穿いたりして。自分が一番オシャレだと思っていたとき、よく通っていた古着屋の店員さんに、僕の知らないことを矢継ぎ早に言われて。見事に心をくじかれたんです。同時に、うわ、この人かっこいいなって思って」

そのお店で扱っていたのが、Hender Schemeだった。少しずつブランドにのめり込むように。

20歳で上京。古着屋、セレクトショップなど、約10年間、幅広いジャンルで接客の経験を積みながら、この10年で4回はスキマに履歴書を送った。

「半年前にようやく返事をもらえて、面接に進むことができて。連絡のスピード感が早く、メールの文章もフランクで。そうしたやり取りからも、働きたいという思いが強まりました」

スキマには日々、たくさんの履歴書が届く。けれど、採用に至る人はごくわずか。

知名度が上がるにつれ、憧れで応募してくる人も増えている。履歴書の志望動機や面接の受け答えは、自分の言葉で綴っているか。名札や制服のないスタイルだからこそ、混み合った店内でお客さんと同化してしまわないか。

並べるとチェックリストのようだけど、ブランドが求めているのは、そういう単純明快な基準ではないはず。もっと複合的で、言葉にしがたい佇まいや空気のようなもの。

木村さんの採用の決め手を中村さんと高堂さんに尋ねても、きれいな答えは出てこない。

諦めずにアタックし続けた木村さんには、ただの憧れにとどまらない熱量があったはず。

インタビューを通して感じたのは、ブランドが好きだけれど、寄りかかろうとしていないところ。

ブランドが今、世の中でどう見られていて、本当は何を伝えようとしているのか。 そして、これまでの経験をふまえて、自分には何ができるのか。

Hender Schemeと自分。その両方を冷静に俯瞰したうえで、当事者としてお店を運営し、ブランドを守り育てていく。そんな要素を自然に抱え込める人が、この空間にすっと馴染んでいくんだと思う。

木村さんも業務の合間に、製品のつくりや背景について、先輩だけでなく近くのリペアショップに駆け込み聞いている。

「一人でも多くのお客さんにお会いして、一つでも多くプロダクトを気に入ってもらう。それがお客さまの生活に入り込み、ブランドの認知がさらに広がっていくことが、いまのモチベーションです」

ロゴはシンプル、素材も潔く。

革のプロダクトはこの世に溢れているのに、どこかなにかが違う。

Hender Schemeの現在地は、スキマにあります。

(2026/04/10 取材 田辺宏太)

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