誰かを放っておけなくて、ついつい踏み込んでしまう。
ときに怒られたりもするけれど、やっぱりやめられない性分だと思っている。
まわりからも、よく世話焼きだねと言われる。
そんなおせっかいな人が、いま求められている場所があります。

長野県・大町市。北アルプスの麓に広がる2万5000人ほどのまちです。
信濃川の最上流にあることから名水のまちとして知られており、水道の蛇口をひねるとミネラルを含んだ湧水を飲むことができます。
スキーリゾートで有名な白馬のとなり、長野や松本まで車で1時間という好立地から、移住先としての人気が高まっています。
一方で、需要に対する住まいの供給が追いついておらず、移住したくてもできないという課題が。
こうした状況を変えるべく、新たなプロジェクトが立ち上がっています。

今回募集するのは、プロジェクトの担当者。まちの中心市街地にある空き家を掘り起こし、次の住まい手へとつなぐことがミッションです。
プロジェクトの期間は3年。長野県内の協力隊を支援する一般社団法人Local Innovation Initiativesによる仕事やキャリアの支援もあります。
人と深く関わり話を聞き、空き家と人をつないでいく。丁寧なコミュニケーションや、踏み込む勇気が可能性を広げていく仕事です。
新宿駅から特急あずさに乗ること2時間半。松本駅で大糸線に乗り換えて、さらに北へと進む。
50分ほどで信濃大町駅へ到着。迎えにきてもらい、北アルプスを一望できる場所へ。斜面にわずかに残った雪と、新緑の緑が映える山なみが美しい。

北アルプスの雪解け水が、自然のろ過を経て、まちの至るところで湧き水や地下水として流れている大町市。
かつては、新潟の糸魚川と松本をむすぶ「塩の道」の中継地として栄えた歴史を持つ。水だけでなく人や物の往来が、このまちを形づくってきた。
塩をつかったインスタレーション、落ち葉の発酵熱をいかした足湯など。こうした歴史文化や自然に光を当てるべく、北アルプス国際芸術祭も開催されている。
まちなかに流れている湧き水を実際に飲んでみると、まろやかな口当たりでおいしい。
水道の蛇口をひねると、どこでもミネラルウォーターを飲むことができるのは、なんとも贅沢だ。

散策を終えて、大町市役所へ。
2階の会議室で話を聞いたのは、まちづくり産業課の課長をつとめる百瀬さん。
柔らかい語り口で親しみやすい雰囲気。今回の空き家プロジェクトの発起人でもある。

「北アルプスが目の前にあって、1時間半で日本海にも行けて新鮮な魚が食べられる。白馬や長野、松本にも近くて、大町は移住先として穴場なんです。でも、住む場所がないことが課題で」
近年の調査で、まちには55件の空き家があることが明らかに。そのなかで活用に至っている物件は数軒ほど。
「これは田舎ならではの文化だと思いますが、親が亡くなってからすぐに家を手放すのは、バチ当たり的な感覚がまだ残ってるんです」
「自分たちが生まれ育った家には愛着もあるし、お世話になった近所の方もいる。律儀に守ろうとする人ほど、手放せなくて」
リゾート地として有名な白馬のとなりにある大町市。自分の家が民泊になり、夜中の騒音で近隣に迷惑がかかるのではといった懸念から、手放したくてもできない人も多いそう。
ほかにも、住んでいた両親が亡くなり、子どもたちはすでに市外に出ているなど。さまざまな理由から、流通していない空き家が増えている。

「私たちに相談がくるころには、家がほぼ朽ちていて、『これはもう壊すしかない。でも壊すのに数百万円、土地を売ってもマイナス』という状況で。そうなる前に一度相談にきてほしいんです」
空き家を流通させることはもちろん、家を手放しやすいように、まちの空気感ごと変えていきたい。
そんな思いから立ち上がったのが「空き家のアキコ、縁結びプロジェクト」。
空き家と縁結び、一体どんな関係があるんでしょうか。
「自分はここで育って50を超えていますけど、空き家も同じで。このまちで天候や雨風にさらされながら生きてきた大事なパートナーなんですよね。朽ちていく厄介者じゃなくて、一緒に育ってきたって感覚なんです」
「家だって、誰かに使ってもらうことが喜びだと思うんです。使われないままだと、独り身で寂しい思いをする。だから次の幸せを見つけてほしい。その思いがたかぶってしまって…(笑)、擬人化というか、比喩的にアキコという表現になりました」

プロジェクトの目的は大きく2つ。
まちの中心市街地にある空き家の登録数を増やすこと。そして、移住相談者に住まいの情報を提供し、ご縁を次につなぐこと。
空き家を発掘して、次の住み手を見つけるところまで、一貫して関わることになる。
家が空き家になったら、まずは市役所に相談する。空き家を売ることや譲ることはわるいことじゃない。そんな空気感を3年かけて育てていきたい。
「空き家の所有者さんから思い出を聞かせてもらう。お色直しをしたあとは、『こんな魅力がある子なんです』と次に住む方に自信を持って紹介する。そんなふうにご縁をつないでいってもらえたら」
「結果は急ぎません。まずは大町の暮らしに慣れてもらいつつ、長年住んでいた所有者さんの気持ちも大事にしながら、次の人にバトンタッチする。そんな人に来てもらえるとうれしいです」
続いて話を聞いたのが、まちづくり産業課の北澤さん。新しく入る人にとっては、一番身近な存在になると思う。

「立川市役所との相互派遣があって、2年ほど東京に出向して今年の4月に戻ってきました。立川から大町へ派遣にきた方は、不思議とそのまま移住されることが多くて、住んで魅力がわかるまちなんだと感じています」
「いまは窓口に来てもらってはじめて、空き家を持っていることがわかる感じで。こちらから声をかけることは、なかなかできていないんです」
担当になって数ヶ月。家を手放したいと考えていても、周りの目を気にして相談できていない人が多いと感じている。
「このあいだ、免許の返納を考えていて、自分が動けるうちに家も手放したいと考えている方が相談にいらしたんです。でも、『売り物件です』ってホームページや情報誌に載って、みんなに見られるのがイヤだと結局そのときはお帰りになられて」
「一人ひとりの話を、もう少しじっくり聞けたらなと思っています。でも、自分たちの業務の範囲では、どうしても時間をかけることができなくて。新しい人に担ってもらえるとありがたいです」

着任後は、どのように進めていくんでしょうか。
「昨年からの空き家調査でアンケートに答えてくれた方々がいるので、そこから順にアプローチしていきます。まずは一人ひとりの家に訪問して、話を聞かせてもらう。関係性を築くところからはじめていきます」
関係を築くなかで、何気ない会話のなかから本音がこぼれることがある。ときには空き家を手放せない理由だけでなく、家族や人生の悩みなども。
寄り添って話を聞いたり、ときには一緒に解決を目指したり。そんなふうに人と関わることに喜びを見出せる人が合っていると思う。
「セミナーも効果的で。空き家流通促進連絡会という9つの不動産会社が協力してくれている会があります。昨年は連絡会の方を講師としてお招きして、空き家対策の講座を開催しました。32名が参加してくれて、そこから相談にもつながったので、今年も協力隊の方と一緒に開催したいですね」

中心市街地がメインではあるものの、市内であれば基本的にはどんな空き家も取り扱う。
なかには、野菜を干していたと思われる棚、囲炉裏、そば打ちの道具など、一軒ごとに間取りも残された家財も異なっている。
どんな人が暮らしていて、何を大切にしていたのか。
そんなふうに思いを馳せながら、空き家の魅力を一つずつ発見していってほしい。

「蔵と母屋がつながっている家や、まちを一望できる立派な家もあったりして。思いがけない物件との出会いが、空き家を扱う仕事の醍醐味なんですよね」
そう話すのは、一般社団法人Local Innovation Initiativesで常務理事をつとめる副島さん。
月に1度の面談や、県内で活動するほかの協力隊の紹介など、仕事の相談から移住にまつわることまで横断的にサポートしてくれる。

実は、副島さんも地域おこし協力隊で長野に来た一人。
「移住のきっかけは子育てでしたが、ここで暮らすことには、お金に換算できない価値があるなと感じています」
「ぼく自身、3年後にこれをやろうとは決めていなくて。どうなるかわからないけど、とにかく地域にどっぷり入って、自分自身が変わっていくことを面白がろうって思って来たんです」
移住支援の仕事からはじまり、子育てをする親子のごはん会の企画、職員研修のファシリテーションなど、ご縁から新たな仕事が生まれていった。
役場職員と手がけた映像作品では、ふるさとCM大賞も受賞した副島さん。
いまは地域おこし協力隊に関する行政への伴走支援やプロジェクト伴走など、長野県内の市町村を横断しながら日々活動している。
どんな人が合っていると思いますか。
「いい意味で、ちょっとおせっかいな人かな。特別な資格や技術はいらなくて、人の話を聞いたり、あれこれ考えたりするのが好きな人。つい踏み込みすぎて、ときに怒られるくらいがちょうどいいと思います(笑)」
「やっぱり同じ釜の飯を食べて、一緒に気持ちよく過ごせるかどうか。それって何をやるにしても大切だと思うし、そんな人であれば3年後もいろんな道が開けていくと思います」
取材を終えて、副島さんと商店街のお店で食事をすることに。

なかに入ると閉店の張り紙が。
「54年続いてきたお店で、事業を継いでくれる人を探している」とのこと。
ほかにも、和紙づくりができる工房、手打ちそばの食堂など。この先、引き継ぎが必要になりそうなお店が点在していました。
もし惚れ込むものに出会えたら、3年後は自分が継いでもいいし、引き継ぐ人を探しても良い。
一つひとつに魅力を見出して、次のご縁をつないでいく。
思わず動いてしまう人なら、いろんな可能性が広がるまちだと思います。
(2026/06/11 取材 櫻井上総)