時代劇の戦国武将から、バレエに出てくるお姫さま。
ファンタジー映画に登場する魔法使いや、コント番組のド派手なキャラクターまで。
役者さんたちの頭に載せて使われる「かつら」は、作品の世界観をつくり上げる重要なアイテムです。
テレビ、映画、CM、舞台などでは、オーダーメイドでつくるケースも多め。
今回は制作スタッフとして、オーダーメイドのかつらをつくる人を募集します。

奥松かつらは、都内複数のテレビ局内に常駐し「かつら」やヘアメイクを担当している老舗企業です。
打ち合わせから、採寸、制作、装着、ヘアセットまで、一貫して行っています。
手掛ける作品は数知れず。
あの番組も、あの映画も、あの舞台も。
無意識に見ていた作品で、実はかつらが大活躍しています。
かつらづくりは、1から手作業で毛を植えていく、地道だけど奥深い仕事。
たとえば編み物や刺繍など、コツコツものづくりをするのが好きな人。
クオリティを上げるにはどうしたらいいんだろう?と地道に研究し、継続する忍耐力がある人。
そんな人には、きっとぴったり。
美容師免許などの資格は必要ありません。
手先の器用さを、一生の仕事に活かしてみませんか。
東京・四谷三丁目駅から歩いて少し。
静かな住宅街のなかに、奥松かつらはある。

迎えてくれたのは、半年ほど前に代表になったばかりの藤崎さん。
「先々代の社長はパワフルな女性で、80歳で亡くなるまで生涯現役でした。先々代のお父さまが創業した会社なんですよ」

藤崎さんは、美容学校を卒業した後すぐに入社し、14年ほど働いてから出産を機に退社。しばらく現場からは離れていたが、人手が足りないときに呼ばれて少し手伝うこともあり、お子さんが高校生になったタイミングで再入社した。
「最初に担当した作品が『真夏の夜の夢』というバレエだったんですけど、世界観がすっごく素敵で。かつらの仕事をずっと続けていこうって、そのとき心に決めました」
かつら制作のほかにも、植毛されたかつらの髪を結んだりして整えるスタイリング業務や、撮影現場でのヘアメイク業務も長年担当している。
「昔はよく地方ロケにも帯同していました。映画で役者さんにかつらを載せたり、2時間ドラマに出てくる芸者さんの髪を結ったりね」
今回募集するのは、かつらを制作するスタッフ。具体的にはどんな仕事内容になるのでしょう?
「網目状になっている生地に、通し針という器具で毛を結び付けていきます。人毛と化学繊維どちらも使っていて、希望の色に染める場合もあります。慣れるまでは大変ですが、やり続ければいつの間にか出来るようになりますよ」

毛束から数本引き出し、クルッと手際よく結び付けていく。
「つくりたいヘアスタイルによって毛色や毛質をミックスさせたり、毛流れに合わせて結び方を変えたりね」
「もともと編み物が好きだったので、作業自体には抵抗がなかったのですが、自然に見えるようにつくるのがまあ難しい。これはね、センスがいるんですよ。重要なポイントは生え際とか、襟足、髪の分け目。完成形を想像しながら、1本1本通していくのが大切です」
生え際は、本当にそこから髪が生えているように、1本ずつ植えて自然なまばらさを目指す。
密度を出したい部分は3〜4本ずつなど、1つの網目に通す毛の本数を多くして地肌が見えないようにする。
なるほど、場所によって本数が違うんですね。

「映画用と舞台用では、つくり方が変わります。映画ならシーンごとに止めて撮影できるけれど、舞台は早替えがあったりして。装着時に、メッシュを肌に貼り付けるかどうかも変わってくるんです」
「もとの髪の毛があった上に装着するので、かつらの毛量が多すぎるとブワッと膨らんで見えてしまいます。なるべく自然に見えるように、その役者さんや役柄に似合う形につくれると理想的ですね」
つくる前の採寸や、試着、装着時には役者さんたちと直接対面することになる。
「あまりにも熱狂的なファンだと仕事しづらいかな。役者さんはあくまでも一仕事相手。だけど、かつらの仕上がりやフィット感の感想をもらえたときは、やっぱりうれしいですよね」
「幅広くエンタメが好きで、色々な人や物、作品に興味があるのはとてもいいこと。それに人を知ることで頭サイズや仕上がりを予想しやすくなるので、準備段階にも役に立ちますよ」
手掛けた番組が放映されるときは、作業場にあるテレビをみんなで見ることもあるという。
「『お、なかなか上手くできたな!』とか、『ここはもう少しこうしたほうが良かったな』って、みんなで話しながらチェックします。自分がつくったかつらは、どれが一番か選べないくらい、どれもお気に入りですね」
入社11年目、かつら部のチーフとして働く細岡さんは、そんなかつら制作に魅せられた一人だ。

「美容師として働いていたんですけど、仕事に対する気持ちの変化があり、特殊造形の学校に進みました。そこで、特殊メイクや着ぐるみなど触れて『私って毛が好きだったんだ』と気付いたんです」
毛が好き、とは。一体どういうことでしょう?
「幼少期から毛量が多くて、思うような髪型にならないというコンプレックスがあって。毛についてはよく考えていたんです。特殊造形を学ぶうちに、髪を結うことより、かつら制作に興味が湧いてきて、チャレンジしてみることにしました」

いざ入社して、数々のかつらに対面した細岡さんは、そのすごさに圧倒される。
「最初に抱いた感想は『怖い』でした(笑)。なんかもう、触っちゃいけないくらい崇高なもののように感じたんですよね。日本髪のかつらとか、普段なかなか見ることがないので特に新鮮で」
倉庫には、先人たちが制作した昔のかつらも大切に保管されていて、それをじっくり観察するのが楽しいそう。
「今とやり方が違ったり、食品を素材に使っていたりして、それぞれの時代の最善の仕事が見えます。『なんでこうしたんだろう?』『同じ時期のかつらなのに、ここが違うってことは、つくった人のアレンジなのかな』って、考える時間が大好きなんですよね」
「あるとき、内側に『自分がつくったぞマーク』みたいな印が入っているかつらを発見したんです。それを見たとき、このかつらは残っていくんだなあって」
メンテナンスやアレンジを繰り返しながら、長いものでは30年ほど使われ続けるかつらもある。
「自分も後世に残る仕事がしたい、って思いました」

日本髪のかつらは、金属板を叩いて土台をつくり、そこに毛を貼っていくイメージ。メッシュ素材のみが土台となる洋髪のかつらとはつくり方が異なる。
「入社したら、まずはこの仕事の基本となる『毛植え』の練習です。その後は実践で洋髪かつらのお手伝いをしてもらいます。さまざまなスタイルがある中でも、最初の頃はミディアムヘアの毛を通す作業からがいいかな」
「ピンキリですが、私の場合は1つ完成するまで、早くてものべ30時間くらい。大変なものだとしばらくの期間かかり切りになることも。かつらと同じ要領で、付けヒゲや眉毛をつくってもらうこともあります」
洋髪のかつら制作技術を学ぶのは、きっと数年がかりとのこと。
日本髪のかつら制作はさらに難しい。
「土台となる金属板に穴を開ける作業があるのですが、最初やらせてもらったときは、うんともすんとも言わなくて。1つの穴を開けるのに、30分もかかってしまいました」
「でも2つくらい開けられたら、なんだかコツがつかめたんです。そこから一気にできるようになりました。ほかの作業も似ていて、できないなと思っていても、あるときからスッと上達する感覚があります」
技術向上には終わりがないけれど、楽しみながら日々研究し続けることが大切だ。
また、女性の職人が多い洋髪のかつらに対して、日本髪のかつらは、固い素材を扱うこともあり、男性の職人が多いという。
「女だからできないって、悔しいじゃないですか。性別は変えられないけど、男性が5年でできるなら、私は10年やればできるかもしれない。自分のなかの戦いとして、やってみたいな、っていう気持ちがあります」

入社以降は現場の補佐をしたり、先輩が制作しているかつらを部分的に担当することが修行になる。
少しずつ、少しずつ。働きながら覚えていけばいい。
最後に話を聞くのは、細岡さんの後輩スタッフ、森さん。
「中学校の校外学習で劇団四季を観たときに、すごく感動して。そこからヘアメイクの世界に興味を持ちました。福岡から上京して現在入社3年目。だんだん慣れてきたという感じです」

入ってみて、いかがでしたか?
「かつらが無事に完成したときは達成感がありますね。でもカメラを通して見ると、違った角度からの発見があるので、日々試行錯誤しています」
森さんは、長年愛されてきた人気の教育番組や、コント番組、歴史番組にも携わっている。
「かつら制作は、毛を通していく作業だけでなく、縫ったり、切ったり貼ったりと、工作的な作業もあるんですよ。これがなかなか難しいのですが、指示通りピッタリにできるとうれしいですね」

華やかな表舞台を支える、かつらの仕事。そこにはシビアな現実も待っているという。
「もしもキラキラした世界を想像しているなら、それはちょっと違うと思います。現場はなまものですし、ときには先輩から厳しく言われるシーンもあるので、そこはしっかり対応することが必要です」
「一つずつ全部聞いていると、落ち込んでばかりになってしまいますが、受け止められるかどうかで成長できるかどうか、変わってくると思うんです」
役者さんの頭の形に合わせて1本1本の毛を手作業で植え、あらゆる角度から美しく見えるように仕上げていく。
まったく知らない人からすると途方もない作業に思えるけれど、話してくれた3人それぞれはその奥深さにハマっているように感じました。

地道だけど、やりがいはきっと大きい。
日本のエンターテインメント業界を支える老舗企業で、今こそ挑戦してみませんか?
(2026/7/24 取材 今井夕華)