遊びって、終わりのない実験みたいなものかもしれません。
目の前の石をただ積んでみたり、砂浜に穴を掘ってみたりと、手を動かしてみる。
バランスを崩して倒れてしまったら別の積み方を試して、水が湧いてきたらさらに深く掘ってみる。
いろいろなことを繰り返していくなかに、遊びの楽しさがあるように思います。
兵庫県丹波篠山市の最北端、西紀北エリアにある施設「湯あみ里山公園 ぷかぷかコミューン」は、そんなふうに何度も何度も遊べる材料が転がっている場所です。

今回は、実験を重ねながら、地域と食をつないでいく仕事を紹介します。
ここで働く面白さは、カフェの運営を軸に、地域の農家さんや住民の人たちと一緒になって、新しい仕事や価値を生み出せること。
規格外の野菜を使ったお惣菜づくりや、特産品を活かした商品開発、食のイベントの企画など。夢中になって、試行錯誤できる人を探しています。
新大阪駅からJR福知山線に乗って、およそ1時間で篠山口駅に到着。
そこからバスで25分、草山温泉バス停の目の前にあるのが、ぷかぷかコミューン。
敷地の中央には、UFOのような丸い屋根の建物。土が敷かれた屋根は、自然に草花が育つようなつくりになっている。

1階には地元の特産品を扱う直売所やカフェ、シェアキッチンが入り、2階のデッキからは360度山々を見渡せて、谷を抜ける風がきもちよい。
そばにはビオトープも整備されていて、鳥も虫も人も、同じ空間をごく当たり前に分け合っているような、おだやかな空気が流れている。
「遠いところありがとうございます。実はとなりのキャンプ場、最近ちょっとした賞をもらったんですよ」
この場所を運営している、公益財団法人大谷教育文化振興財団の大谷晃平さんが迎えてくれる。
晃平さんは、コンサルタントやキャンプ場経営者としての顔も持ち、丹波篠山のイノベーターズスクールでも講師を務めるなど、地域内外さまざまな人との関わりを持つ方。

「兵庫県って西日本のなかでもキャンパーが多くて。ここ丹波篠山は、大阪や神戸から車で1時間半とアクセスも良いんです。地道に運営を続けてきて、予約サイト『なっぷ』のアクセス部門で西日本エリアの賞を受賞するまでになりました」
もともと草山温泉は、晃平さんの曽祖父が湯治に通っていた縁から大谷家が継業し、運営を続けてきた場所。晃平さんが4代目として引き継いだあと、温泉との相乗効果を生むためにキャンプ場をオープンし、2022年にぷかぷかコミューンを完成させた。
施設の根幹にあるのは、自然や地域とのつながり。そこには、自身の原体験が影響しているという。
「ここは、本当に僕の夏休みそのものみたいな場所なんです。昔はウナギや鮎なんかもいて、僕は子供ながらカワムツやシマドジョウ、ドンコなどを獲ってました。日が暮れるまで川で魚を捕っていましたね」
「でも、大学生になって久しぶりに訪れたら、川の底が苔で茶色くなっていて。昔はあんなに綺麗だったのにってショックでした。そのとき、人が入らなくなったことで荒れてしまう自然があることに気づいたんです」
人が訪れ、関わることで保たれる里山の風景がある。キャンプ場やカフェに人を呼び込むことは、この草山地域の自然や景観を守ることにつながっている。

観光客だけでなく、農家の営みも里山にとって欠かせないもの。けれど、この地域も例に漏れず人口減少の課題を抱えている。農家の多くは兼業で、農業だけで生計を立てるのは難しい現状から、辞めてしまう人も多いという。
「だからこそ、地域の食材を加工したり、販売したりする拠点をつくりたかったんです。一次産業に、二次産業、三次産業を掛け合わせて、新しい仕事や価値を生み出していく。それが、この里山を残していくためのひとつの方法だと思っています」
その言葉通り、ぷかぷかコミューンではカフェの運営にとどまらず、食を通じたさまざまなプロジェクトが動いている。
たとえば、規格外の黒豆と地域食材を使った「黒豆辣油」の商品化や、地元の小学生たちと一緒に復活させたご当地ドリンク「ビーンズサワー」。春には竹林整備を兼ねて収穫した幼竹を「里山メンマ」に加工し、直売所で余った野菜はスパイスカレーの具材としてカフェで提供している。

さらに、秋に開催される丹波篠山の味まつり「楽市楽座」では、駐車場が大きなイベント会場になる。
「この西紀北地区では『西紀汁』っていう猪汁が定番なんですけど、最近フレンチ出身の地域おこし協力隊の方が移住してきて。今度はうちのシェアキッチンを使って、鹿肉を使った新しいご当地グルメをつくれないかという話も進んでいるんですよ」
地域の農家さんだけでなく、地域おこし協力隊や、施設内で業務委託としてパン屋を営む人など、多様な人たちが交わりながらプロジェクトが次々と生まれている。
今回募集する人には、こうした食にまつわるプロジェクトを主体的に動かしていく役割を担ってほしい。晃平さんがこれまで築いてきた人脈や設備の土台を活かしながら、自ら地域に入り込んでいける人を求めている。
カフェの厨房を覗くと、ちょうど地元の農家である向井さんが採れたての野菜を抱えてやってきたところ。「里山のお母ちゃんの味を届けようプロジェクト」に使うらしい。

「地元農家ならではの家庭料理を、カフェのお惣菜として提供するんです。今日はこれから、持ってきた野菜で揚げ浸しの試作をしていきます」
種類がさまざまで彩り豊かな野菜たち。これらはすべて規格外のロスフード。普段の揚げ浸しといえばナスとピーマンくらいだけれど、向井さんの手にかかると、トマトやカボチャ、シシトウ、パプリカ、さらにはゴーヤまで入るという。

「家では目分量やからね。でも、こうやってお店に出すならレシピ残さなあかんな」と笑う向井さんは、次々に新しいメニューを形にしていく。
試食用に渡してくれたのは、おかわかめ。ぬるっとしてるから、ちょっと茹でてお浸しにしたら美味しいのだとか。
晃平さんも試食しながらアイデアを返す。
「ほんとだ、つるむらさきよりクセがなくて食べやすいですね。これ、お店で出しましょうか」
少しずつ、ぷかぷかコミューン一帯がまるで大きな地域の遊び場のように見えてくる。子どものころに川遊びに夢中になったように、遊び心を忘れず、地域の人たちと事業づくりを楽しんでいるのだろうな。

ちなみに敷地はまだまだ広くて、畑や、焚き火ができるファイヤーピット、BBQスペース、さらにはコワーキングスペースやイベントに使える研修室まで、多様な機能が揃っている。
食を起点にしつつ、場所を最大限活用できるような取り組みができると面白そう。
入社してちょうど1年になるのが、秋田さん。前回の日本仕事百貨の記事を読んで応募した。
兵庫県出身。以前は地元の金融機関に勤めていて、地域と関わる仕事をしていた。

「地域密着の仕事ではあったんですけど、特定のお願い営業ばかりになってしまうことに少し違和感があって。もともと食やカフェに関心があったので、食を通じて地域を盛り上げるような関わり方がしたいなと思っていたんです」
「そんなときに、ぷかぷかコミューンの求人を見つけて。目の前には畑があり、イベントの企画もできる。大学時代に、農家と小学生をつなぐイベントをした経験もあったので、自分のやりたいことを試せる環境だと感じました」
入社当初から、得意だった大福をメニューに出してみたり、フードロスを減らすためにカレーの提供方法を見直してみたりと、いろいろな挑戦をしてきた。
ただ戸惑ったこともあった。
それは自然をフィールドにしているため、施設の状況が季節や天候に大きく左右されること。
「キャンプ場のお客さんがメインなので、雨が降ればぱったりと客足が途絶えるし、逆に連休や黒枝豆のシーズンなんかは、いつもの何倍も売り上げが立つほどの忙しさになります。それに、夏場なんて仕事の8割は草刈りや施設整備なんですよ。そこはギャップに思われないようにお伝えしておきたいですね」

ちなみに、前回の記事で紹介した虫博士こと和久井さんも健在だ。この日はシフトでお休みだけれど、夏場はライトトラップで昆虫を採集するイベントの開催や、地域のイノベーターズスクールに通って事業づくりを学ぶなど、関心領域を広げながらこの場所を盛り上げている。
秋田さんも今、自分の興味を活かした企画を形にしつつある。
それが、11月に開催予定の「さつまいもフェス」。
近隣に住む農家さんが育てた大量のさつまいもを活用して、施設横の芝生スペースやファイヤーピットを使い、農家さんと直接交流しながら焼き芋づくりを楽しむというもの。
「都会からキャンプに来る子どもたちに、自然に触れるだけでなく、このさつまいもがどうつくられたのか、農家さんの仕事の背景も知ってもらえたらと思って。ただ焼き芋を食べるだけじゃなく、クイズやミッションを取り入れながら学ぶ探検型の企画も考えています」
順調に自分のやりたいことを実現しているように見える秋田さん。けれど、実際にカフェの運営やイベントの企画を進めるなかで、自分の得意・不得意がはっきりと見えてきたという。
「ポップをつくったり、在庫を管理したり、指示を受けて裏方で仕組みを回したりするのはすごく得意なんです。でも、ゼロからお店の看板になるような本格的なメニューを開発したり、先頭に立って周りを巻き込んでいくのは、あまり向いていないなと気づいて」
和久井さんも同様に、昆虫や自然環境の知識は豊富だけれど、飲食業の経験はここがはじめて。だからこそ今のチームには、まさに大谷さんと二人三脚で、地域のハブとなって食のプロジェクトを回していくような存在が必要なんだと思う。

「私や和久井さんは、サポートに回るのは得意です。だから、料理が好きで、お客さんや地域の人とコミュニケーションを取りながら、自分のお店のように引っ張っていってくれる人が来てくれたらすごくありがたいですね」
現場の草刈りや日々の施設管理といった作業は、秋田さんたち既存のスタッフでしっかりとカバーできる体制がある。
新しく入る人は現場のヘルプに入りつつも、外に出て地域の人と関わり、新しいメニューやプロジェクトを生み出す業務に多くの時間を割いてほしい。どんなバランスで働くかは、大谷さんたちと話し合いながら柔軟に決めていけるはずだ。
実験に必要な材料は、ぷかぷかコミューンにはたくさん揃っています。
気になったら、生産者や加工業者にも会いに行ける。それでいて、お客さんの反応もわかる。
もっともっとメニューも商品も開発してみたい!と思う人にとって、いろいろ実験しがいのある環境だと思いました。
(2026/09/12 取材 田辺宏太)