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どんなあなたらしさも
生きた教材になる町

京都大学を休学してやってきた、現役大学生。

ハウスメーカーに勤務したのち、ファイナンシャルプランナーの資格を取り、個人事業主として活動する方。

そして、大手出版社をリタイアした大ベテラン。

世代も、これまでのキャリアもまったく違う3人。

いま、どこで何をしているかというと?

栃木県の南東部に位置する茂木町(もてぎまち)で、高校生たちと学びを深めています。

彼らが赴任しているのは、町で唯一の高校、茂木高校のなかにある公営塾「ゆずも塾」。

人口減少が進むなかで、子どもたちが将来の選択肢を広げながら、この町で学ぶ面白さを感じられるように。そんな思いから、町と学校が連携して立ち上げたのが、この公営塾です。

今回募集するのは、ゆずも塾で働く新たなスタッフ。

地域おこし協力隊として採用され、学校内に派遣されます。高校での募集に加え、令和9年度に向けて中学校の公営塾スタッフもあわせて募集します。

経験や個性を生かしながら、生徒と等身大で向き合い、チャレンジを面白がる。教えるプロというよりは、人生の伴走者を探しています。

 

宇都宮駅からレンタカーを借りて駅前を出発すると、黄色い流線型の車両が道路をすべるように走っていくのが見えた。

これはLRTと呼ばれる新しい乗り物。宇都宮市が交通渋滞の解消などを目的に導入したもので、駅から工業団地方面へとつながっているらしい。

テクノロジーを駆使した最先端の風景を見れてうれしい。

東へ向かって車を走らせる。まちに入り、まずは道の駅に立ち寄る。

大きな果物や新鮮な野菜が直売所にずらりと並び、たくさんの人で賑わっている。

お昼ごはんは、特産品の柚子をふんだんに使ったゆず塩ラーメン。全国の道の駅グルメを競う大会で殿堂入りを果たしたという看板メニューで、さっぱりとした香りに箸が進む。

役場や高校の周辺を車でぐるりと走ってみると、スーパーやドラッグストア、図書館などが平坦なエリアにコンパクトにまとまっている。生活に必要な基盤がしっかり整っていて、原付や自転車でも身軽に動けそう。

役場に到着し、迎えてくれたのは教育委員会の堀江課長。

2021年の公営塾立ち上げから、このプロジェクトをずっと見守ってきた方だ。

町唯一の茂木高校をなんとか存続させたい。そんな思いからスタートした「ゆずも塾」は、高校の空き教室を利用して運営されている。

「県立高校の中に町営の塾を入れるわけですから、最初は現場の先生たちから反発もありました。でも、他県で先行して公営塾に取り組んでいる高校へ先生たちを案内して、実際の様子を見てもらったんです。そこから少しずつ理解を得ていきました」

今では高校のなかに、公営塾との連携を担う先生が配置されるまでに。学校側も、町がつくった塾と積極的に連携しようと体制を整え、受け入れてくれている。

堀江さんが求めているのは、教員でも親でもない「第三の大人」としての関わり。

キャリアも年齢も異なる大人が、それぞれの生き方や価値観をそのまま差し出す。それが、子どもたちの世界を広げることにつながっていく。

「今来てくれているスタッフもそうですが、みなさんそれぞれ違った視点を持っているんですよね。次にどんな人が来てくれるのか楽しみです」

「今の子どもたちって、真面目でおとなしい子が多い。だからこそ、子どもたちを良い意味ではっちゃけさせてくれるような、熱くて一生懸命な人に来てほしいですね。自分の経験を活かして、子どもたちの殻を破ってくれるような大人がいてくれたら嬉しいです」

 

役場をあとにして、歩いて数分の茂木高校へ向かう。

茂木町は、役場と高校が目と鼻の先にある。さらにすぐ近くの橋を渡れば中学校もあり、教育や行政の拠点が町の中心部にぎゅっと密集している。

物理的な距離が近いからこそ、町と学校が密に連携できているのだろうな。

この日はちょうど、夏休みの初日。

生徒たちと挨拶を交わしつつ校舎の一角にある「ゆずも塾」をのぞくと、スタッフの野口さんが生徒さんと席を並べて話していた。

京都大学を休学して、この春から茂木町にやってきた。プリントの解説が一段落したところで、話を聞かせてもらうことに。

「大学で児童福祉のボランティアなどを経験するうちに、教育や子どもと関わる仕事に興味を持ったんです。でも、いざ就職を考えたときに、自分が現場で何ができるのかわからなくて。だったら休学して、教育の最前線に飛び込んでみようと思いました」

地方の高校生が抱える課題のひとつに、身近なロールモデルが少ないことがある。実力があっても外の世界に興味を持てなかったり、挑戦する前に諦めてしまったり。

親でも先生でもない、少し年上の大学生。そんな斜めの関係で伴走できる自分だからこそ、生徒たちの役に立てることがあるんじゃないか。そう考えて、野口さんは茂木町へやってきた。

「実際に来てみたら、ゆずも塾に来る子はそもそも勉強したくて来ているので、みんな素直でやる気があるんです。毎日のように質問を持ってきて頼ってくれますよ」

茂木高校は、総合学科の高校。生徒の進路は就職から進学まで幅広く、大学受験においては推薦や総合型選抜で進路を決める生徒が9割を占める。

一方で、地元の宇都宮大学や茨城大学、さらには筑波大学といった国公立大学への進学を目指す生徒もいる。野口さんは日々の教科学習のつまずきを解消する役割を自然と担っている。

「僕は学習面で力になることができますが、この塾には自分とはまったく違う強みを持った、尖ったメンバーが集まっていて。心強いんですよ。生徒が相談に来たときも、『この話はあの人が得意だね』って、自然と出番が決まっていくんです」

 

「勉強については、野口さんに任せているんです」とつづけるのが、小峯さん。

ハウスメーカーに勤務したのち、ファイナンシャルプランナーの資格を取り、個人事業主としても活動しているパワフルな方。ご自身も高校生のお子さんを育てている、まさに親目線を持った人生の先輩だ。

「私は、日々の生徒のサポートや事務的な業務のほかに、先を見越した計画を立てるとか、生徒の興味関心を刺激して体験を促すための提案をする役目だと思っているんです」

その言葉を象徴するように、つい昨日のエピソードを教えてくれた。

ある高校3年生の生徒が、専門学校から大学へと進路を変えたいと悩んでいた。しかし、急な進路変更と学費の負担から、親御さんの理解を得るのが難しい状況だったという。

「『行きたい』という情熱だけじゃ、親はなかなか動かないよねって話をしたんです。感情論じゃなくて、今の奨学金制度を使えば学費がいくらになるのか、事実をちゃんと数字にして、プレゼン資料をつくってみなよって提案しました」

教科学習とはまた違う、生徒の人生に立ちはだかる壁を一緒に乗り越えようとする、小峯さんならではの伴走の形。

生徒の興味関心を活かしながら、探究活動のサポートを担うのも、ゆずも塾の大切な仕事になる。

たとえば、過去には「夜の町が暗くて寂しいから明るくしたい」という生徒の思いから始まったプロジェクトがあった。

生徒たちは地元の竹を切り出して竹灯籠をつくり、町にイルミネーションを灯した。その活動は後輩たちにも引き継がれ、地域の図書館と合同でイベントを行うなど、生徒が自発的に地域の人と関わるきっかけとして定着している。

ほかにも小峯さんは、教科の枠にとらわれず、中高生合同の体験活動を企画することもある。8月には「竹の流しそうめん」を企画・運営を予定していて、生徒への参加を募っているところだという。

「塾に来ても、これから何に挑戦しようか迷っている子もいるんですよね。そういう子には『何が好きなの?』と声をかけて、興味に合いそうなコンテストを一緒に探して提案してみたり。次の一歩を踏み出す環境をつくりたいんです」

生徒に働きかけ、きっかけをつくる。それが小峯さんの大切な役割になっている。

現在ゆずも塾に在籍しているのは、野口さんと小峯さん、そして今年度赴任した田畑さん。田畑さんは大手出版社での経験を生かし、入試問題をつくる側の視点を生徒に伝えるなど、三者三様、自然と役割分担ができているそうだ。

「我々教員も本当に頼りにしているんです」

うれしそうに話す茂木高校の大木先生と、常勤講師の米村さん。

「立ち上げの年に、野球部のキャプテンをしていた生徒がいて。彼は部活を引退したあと、毎日のようにゆずも塾に通い詰めて、最終的に静岡大学に推薦で合格したんです。彼が塾のなかで『みんなで一緒に頑張ろう』という雰囲気をつくってくれて、それが後輩たちにも引き継がれていきました」

「今では全校生徒の半数以上、220名ほどが塾に登録していて、日常的に20〜30人が自習や課題をこなすために集まってきています。ただ、もっと気軽に利用してもらえるように、これからは学校側としてもゆずも塾への入り口を広げるような働きかけをしていきたいですね」

そんな大木先生の言葉に、隣で深く頷く米村さん。

実は米村さん、2021年の公営塾立ち上げ時に最初のスタッフとして着任した方。任期を終えた現在は、茂木高校の常勤講師として教壇に立ち、ゆくゆくは正規の教員を目指して勉強を続けているそう。

同じ道を歩んできた先輩がすぐそばにいるのは、とても心強い。

「生徒たちが頼ってくれて、成長していく姿を間近で見られたことが本当にうれしくて。それがモチベーションになって、教員という道を目指すようになりました」

「生徒を応援したいという思いは同じです。僕もサポートするので、安心して飛び込んできてください」

 

ゼロイチの立ち上げ期を終え、強固な土台と多様なチームが出来上がっている。

教育や若者の支援に関心のある人だけでなく、教育に初めて関わる人でも安心して飛び込めるはずです。

教員や親でなく、第三の大人として。どんなあなたらしさも、生きた教材になる町です。

(2026/07/22 取材 田辺宏太)

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